安倍・トランプ会談に寄せて

中西 治

安倍晋三首相が急遽ニューヨークを訪れ、2016年11月17日夕方(日本時間18日朝)、
他の国の最高指導者に先んじてトランプ次期米国大統領と会いました。

テレビを見ていて、急に「関ヶ原の戦い」を思い出しました。

勝つだろうと思っていた石田三成が負け、負けるだろうと思っていた徳川家康が勝っ
たことを知った地方の小大名が急いで徳川家康のもとに馳せ参じ、お家安泰のために
忠誠を誓っている様子が思い浮かびました。「おお、愛(う)い奴じゃ」と家康が
言ったかどうか分かりません。

私は、いかにも安倍さんらしいな、と思いながら、同時に、トランプさんはこのよう
な人間をどのように評価しているのだろうか、と考えました。

安倍さんとトランプさんは「似た人間」です。ともに既成の秩序に反対しています。
私はこのような人物が出てきたとき、言葉ではなく、実際に民衆をどこへ連れて行こ
うとしているのかで判断します。

安倍さんは第二次大戦後70年間続いてきた日本の「平和憲法体制」に反対し、日本を
「戦争のできない国」から「戦争のできる国」にしました。奇しくも同じ18日に日本
の防衛大臣が南スーダンに派遣される陸上自衛隊の部隊に対し「駆けつけ警護」や
「宿営地の共同防護」のために「武力の行使」を認める命令を発しました。日本は
「戦争をする国」になりました。安倍さんは日本人を戦争へと導いています。

トランプさんはこれまでの民主党や共和党と違って「米国はもはや世界の警察の役割
を果たせない」と言い、これまでの体制を否定しています。私はこれは正しく、その
通りだと思っています。

トランプさんはまた「日本は米国軍の駐留費用を全額負担せよ」、「負担しないなら
米国軍を引き上げる」と言っています。トランプさんは日本に「日本は日本で守
れ」、「日本は核武装しろ」などと言っていますが、米国人に「戦え」と言っていま
せん。

私は、このさい、日本国内でも米国軍の駐留問題を検討すべきであると考えていま
す。講和条約が発効すると、外国軍はすべて他国から引き上げるのが常識です。若い
人は生まれた時から米国軍が日本に駐留しているから、駐留しているのが当たり前と
思っているようですが、それは当たり前ではなく、居ないのが当たり前なのです。私
は米国軍が全員、日本から引き上げれば良いと考えています。

北東アジアの最大の問題は「尖閣諸島問題」ではありません。「朝鮮戦争問題」で
す。

前者は日中両国が話し合いで解決すれば良いことです。、後者は韓国と朝鮮が話し
合って決めれば良いことです。中国、米国、日本はこれを助ければ良いのです。

「尖閣諸島問題」も、「朝鮮戦争問題」も、中国と米国が核ミサイル戦争を賭けるべ
き問題ではありません。両国の核心的利益にかかわる問題ではありません。

次は日ロ関係と領土問題について書きます。

2016年の米国大統領選挙を終えて

中西 治

2016年の米国大統領選挙最終結果が出ました。

Breaking: Final Election 2016 Numbers! | Alternative – Before It’s News によると、結果は次の通りです。

ドナルド・トランプさん  得票数62,972,226 選挙人数306人
ヒラリー・クリントンさん 得票数62,277,750 選挙人数232人

トランプさんが得票でも選挙人でも多数を占めました。いよいよ米国で「オバマ時代」が終わり、「トランプ時代」が始まります。

この機会に、これから米国・世界・地球・宇宙はどうなるのかについて考えてみたいと思います。順序を逆にし、宇宙と地球がどうなるのかから始めます。

クリスチャンとスピールの「宇宙の未来年表」やNewton別冊『大宇宙――完全版――』によると、宇宙はいずれなくなります。そのなくなる時期は「10の10乗の76乗年後」とか、「10の100乗年後」とか様々です。「10の10乗」が「100億年」、「10の14乗」が「100兆年」ですから、いずれにしても、21世紀に生きる私たちが宇宙の消滅を心配する必要はありません。地球を含む太陽系がなくなるのは50億年後から80億年後と言われています。これもせいぜい100年しか生きない私たちが心配することもないでしょう。

宇宙と地球の誕生・消滅は直接トランプさんと関係ありません。にもかかわず、私がこのことから論じ始めるのは「万物」を「変化」するものとして捉え、「宇宙」の歴史の中に位置づけようとするからです。

次は世界と米国はどうなるのかです。

前記事の「トランプ米新政権の対外政策について」で指摘したように、現在は第二次大戦後の「米ソ中心時代」から「多中心時代」への移行期です。この「多中心時代」がどのような「多中心」になるのかです。

2050年と2100年に世界がどのようになるのかについてはすでに相当わかっています。

『国際連合経済社会局世界人口推計2015年版』によると、世界人口は2015年の73億人から2050年に97億人、2100年に112億人に増えます。

2015年の国別人口の第1位は中国13億7604万人、第2位はインド13億1105万人、第3位は米国3億2177万人、第4位はインドネシア2億5756万人、第5位はブラジル2億0784万人、以下、パキスタン、ナイジェリア、バングラデシュ、ロシア、メキシコでした。日本は1億2657万人、第11位でした。

これが35年後の2050年に、第1位はインド17億0500万人、第2位は中国13億4800万人、第3位はナイジェリア3億9900万人、第4位は米国3億8900万人、第5位はインドネシア3億2100万人、以下、パキスタン、ブラジル、バングラデシュ、コンゴ民主共和国、エチオピアとなります。日本は1億0700万人、第17位です。

85年後の2100年には、第1位はインド16億6000万人、第2位は中国10億0400万人、第3位はナイジェリア7億5200万人、第4位は米国4億5000万人、第5位はコンゴ民主共和国3億8900万人、以下、パキスタン、インドネシア、タンザニア連合共和国、エチオピア、ニジェールとなります。日本は8300万人、第30位です。

人口について、現在、中国が第1位、インドが第2位ですが、2050年と2100年には中国とインドが入れ替わり、インドが第1位になります。現在、米国は第3位ですが、2050年と2100年にはナイジェリアに抜かれて第4位になります。

次に2015年と2050年の主要国の国内総生産(GDP)を見ましょう。

2015年の名目GDP(米国ドル)は「世界GDPランキングベスト(20位)2015年最新版」と“World GDP Ranking 2015 | Data and Charts” によると、第1位は米国17兆9470億、第2位は中国10兆9828億、第3位は日本4兆1232億、第4位はドイツ3兆3576億、第5位は英国2兆8493億、第6位はフランス2兆4215億、第7位はインド2兆0907億、第8位はイタリア1兆8157億、第9位はブラジル1兆7725億、第10位はカナダ1兆5523億でした。

PwC調査レポート『2050年の世界』によると、2050年の主要国のGDPは購買力平価(PPP)を2014年ベースの米ドルに換算して、第1位は中国61兆0790億、第2位はインド42兆2050億、第3位は米国41兆3840億、第4位はインドネシア12兆2100億、第5位はブラジル9兆1640億、第6位はメキシコ8兆0140億、第7位は日本7兆9140億、第8位はロシア7兆5750億、第9位はナイジェリア7兆3450億、第10位はドイツ6兆3380億となります。

比較の基準が「名目」GDPと「購買力平価」GDPで異なりますので、単純に比較できませんが、それでも米国、日本、ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダなどの西側先進国が2050年に2015年の上位から下位に落ち、中国、インド、インドネシア、ブラジル、メキシコ、ナイジェリアなどのアジア・ラテンアメリカ・アフリカの新興国が上位に立つことがわかります。ロシアも12位から8位に上がります。

2100年のGDP予想値はまだ出ていませんが、人口増とGDP増はほぼ一致します。人間は消費者であると同時に生産者です。人間が知恵と知識と技術を身に着ければ、偉大な生産者になります。21世紀後半から22世紀にかけてインド、中国、パキスタン、インドネシアなどのアジア諸国、ナイジェリア、コンゴ、タンザニア、エチオピア、ニジェールなどのアフリカ諸国が歴史の前面に登場してきます。

つまり、前述の「多中心時代」の中でBRICS (ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)・EU(ドイツをはじめとするヨーロッパ連合)・USA(アメリカ合衆国)などが林立するようになります。もはや「米ソ中心時代」ではないのです。ましてや「米国中心時代」ではないのです。

米国人のこれに対する焦燥感と貧富の格差増大に対する怒りがトランプさんを米国大統領にしました。トランプさんは米国人の雇用と生活を守るためにムスリム(イスラーム教徒)の入国拒否とか、追い出しとか、メキシコとの間に壁をつくるとか言っていますが、実際にこれをおこなえば、米国はいっそう困難な状況になるでしょう。

米国は建国以来「移民」の国です。そのおかげで発展してきました。いまのところ2015年の人口3億2200万人は2050年に3億8900万人、2100年に4億5000万人に増えていくと予想されています。しかし、トランプさんが移民の阻止とか、追い出しをすれば、人口はどうなるでしょうか。2050年に購買力平価GDPで中国とインドについで第3位を維持できるでしょうか。

ついでながら、英国の人口は2015年の6471万人から2050年に7536万人、2100年に8237万人に増え、フランスも6439万人から7113万人、7599万人に増えます。他方、ドイツは2015年の8068万人から2050年に7451万人、2100年に6324万人に減り、ロシアも1億4300万人から1億2900万人、1億1700万人に減ります。

日本の人口も1億2700万人から1億0700万人、8300万人に減ります。日本の人口減は深刻です。日本のこと、日本と米国との関係については別に書きます。

トランプ米新政権の対外政策について

中西 治

米国でトランプ新政権が来年2017年1月から正式に発足します。選挙運動中にトランプさんは日本との関係についてもいろいろとしゃべりました。これから世界はどうなるのでしょうか。この問題について簡単に書いておきます。

まず、第二次大戦終結から今日までの国際情勢の変化を振り返ります。

第二次大戦の結果、米国とソヴェトが世界的大国となりました。アメリカとロシアが世界史の前面に登場したのはこれが初めてです。「米ソ中心時代」が始まりました。

この「米ソ中心体制」は「朝鮮戦争・ヴェトナム戦争・アフガニスタン戦争」によって揺らぎました。1991年12月にソヴェトは解体しました。米国の国際的威信と影響力も低下しました。私は第二次大戦後の米ソを中心とした「国際秩序」を崩壊させたこれら一連の戦争を一括して「第三次大戦」と規定しています。

ソヴェト解体から四半世紀経ち世界は変わりました。現在、世界にはドイツ・フランスを中心とする「ヨーロッパ連合(EU)」、ロシアを中心とする「ユーラシア経済連合」、中国を中心とする「上海協力機構」、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカなど5か国の「BRICS」などが存在します。「多中心時代」の到来です。

米国は「ソヴェト解体」に幻惑され、「米国中心時代」が到来したかのごとき「錯覚」をいだいたようです。

米国は2001年の9.11事件に対してアフガニスタンとイラクへの出兵で応え、失敗しました。にもかかわず、米国はいまもシリアをはじめとする中東で「世界の警察官」の役割を果たそうとしています。

これに対してトランプさんは米国はもはや「世界の警察官の役割を果たせない」と言いました。私も「その通り」だと思います。しかし、オバマさんも、ヒラリー・クリントンさんもこれは言えません。彼らはこれを言い、実行してきたからです。

トランプさんがこれを言えたのは、彼が安全保障問題の「素人」だからです。

「戦争」と「平和」の問題では「素人」の言葉に「真理」があります。「屁理屈」をこねないからです。戦場で死ぬ多くは「素人」の「兵隊」です。「戦争ごっこ好き」の「玄人」は実際に戦争が起こったときには戦場から遠く離れた机の上で「戦争ごっこ」をしています。「本当に戦争の恐ろしさ、悲惨さを知っている」「玄人」は戦争に「反対」です。

日本は戦後一貫して「連合国軍の占領下」、「米国軍の駐留下」にありました。戦後71年、そろそろ「外国軍の駐留をやめさせるべきとき」です。トランプさんは良いきっかけをつくってくれました。大いに「素人談義」をしましょう。「素人談義」も主権者の半分をこえれば、大きな力をもつのです。

米国大統領選挙で「総得票」で勝っても「選挙人」で負ける場合があるのは、アメリカ合衆国(United States of America)が各独立国家「State(国)」の「United(結合した)」「国家連合」、「国家同盟」であるからです。各独立国家(州)に選挙人の選出権があります。各州が独自の州兵を持っています。

トランプ劇場開幕中

中西 治

トランプ劇場は今回の米国大統領選挙運動開始とともに始まっていました。私はそれに気づいていませんでした。

本日、2016年11月9日早暁(日本時間夕方)に共和党大統領候補トランプさんが民主党大統領候補ヒラリー・クリントンさんからの祝いの電話をうけ、米国大統領当選演説をしました。このとき、はっと気づきました。その「演説」がこれまでの「まともでない演説」と比べて、あまりにもよくできた「まともな演説」であったからです。これは良く準備された「劇」だ、「トランプ劇場」だと思いました。

8年前の大統領選挙で米国の有権者は民主党のオバマさんを大統領にし、4年前の選挙で再選しました。この8年間のオバマ大統領の政治は選挙民にとって「満足」すべきものではありませんでした。

トランプさんは選挙民のこの「不満」を敏感に捉え、「貧困」と「格差」を厳しく批判しました。外交問題でも「思い切った」ことを言いました。これが有権者の「心」をつかまえました。米国の有権者は「何をするのか分からない」トランプさんに「賭け」ました。これが「成功」しました。

トランプさんは当選と同時に「まともな演説」をする「大統領」に変わりました。トランプさんは「豹変」し、「序幕」は終わりました。「第一幕」ではどのように演じるでしょうか。トランプさんが「名優」か「大根役者」かは今後の「舞台」によって決まります。

私はかつてヒラリー・クリントンさんが米国史上最初の女性大統領になるだろうと思っていました。2002年9月11日にニューヨークの9.11事件の跡地近くでヒラリー・クリントン上院議員と会い、挨拶しました。

ヒラリー・クリントンさんの今回の敗因は彼女の性格と行動にもあります。旧来の民主党の支持者がヒラリー・クリントンさんから離れました。これが致命傷です。トランプさんの勝因は「敵失」にもあります。

「人の世」は時として今回のような重要な「舞台」を生み出します。これが歴史的な転換をもたらす「大場面」になるかも知れません。「出番」がきたら私たちも「舞台」に上がりましょう。楽しみながら、世の中を変えましょう。

日本国憲法公布70年に寄せて

中西 治

今日は日本国憲法公布70年です。

1946(昭和21)年11月3日、戦争が終わって1年余、憲法が公布されたとき、私は13歳。疎開先の奈良県から大阪市に戻っていました。食べるのが大変、生きるのが大変な時期でした。

憲法第9条「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に放棄する。② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」は日本だけでなく、世界の人々に平和への希望をもたらしました。

18世紀のドイツの哲学者カントは1795年に『永遠平和のために』を著わし、恒久平和のためには「常備軍の廃止」が必要であると説きました。

それ以降150年間、人類は19世紀の一連の戦争と20世紀の第一次大戦および第二次大戦を体験し、カントのこの論が正しいことを理解しました。その結果が日本国憲法第9条です。

これは日本と米国を含む全人類の共同の産物であり、共通の財産です。現代の人類が未来の人類に託す貴重な財産です。

9.11事件15年にあたって

中西 治

本日は2001年に9.11事件が起こってから15年です。

この事件のあと戦争の性質と形態が複雑になり、大規模となりました。

例えばシリア戦争です。

この戦争はアサド政権に対する反政府派の内戦として始まりました。ロシアが政権側を支持し、米国が反政府派を支持しました。そこへ「イスラム国」が加わりました。戦争は三つ巴となりました。

米国とロシアが「イスラム国」を攻撃し始めました。「イスラム国」に国境はありません。米国を支持するフランスが攻撃の対象となりました。攻撃の対象は世界の他の地域にも広がっています。世界中が戦場です。日本人も殺されるようになりました。

「一地域の戦争がただちに世界的な戦争になり、国家だけでなく、世界の民衆も直接巻き込む戦争となりました。」これが現代です。

もう一つ、緊張が高まっている地域があります。朝鮮半島です。

1950年6月に朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮と略称)と大韓民国(以下、韓国と略称)の間で戦争が起こりました。米国が韓国を支持し、中国が朝鮮を支持し、朝鮮半島全体が戦場となりました。

1953年7月に朝鮮・中国・米国の間で停戦協定が調印され、休戦となりました。韓国の李承晩大統領は「武力統一の機会が遠のく」と考えて調印を拒否しました。国際法的には朝鮮と韓国との間の戦争は終わっていません。

2000年6月15日に韓国の金大中大統領が平壌を訪問し、金正日国防委員長と会談しました。国の統一問題を同じ民族同士が自主的に解決することになりました。

2006年10月9日に朝鮮が「第1回地下核爆発実験」をおこないました。2016年9月9日に「核弾頭の威力を判定する第5回核爆発実験」を実施しました。両国の関係は再び悪化しました。

朝鮮半島での戦争を完全に終わらせ、朝鮮と米国との関係を正常化しなければなりません。

「今度の戦争は核戦争になる可能性があります。」

このようなシリアや朝鮮半島の状況に日本はどのように対処すればよいのでしょうか。

基本的には内政不干渉です。

それぞれの地域の問題を決めるのはそれぞれの地域に住む人民です。

日本はシリアと朝鮮半島での紛争を平和的に解決し、完全に平和を回復するのに協力するだけです。日本がこれらの紛争に軍事的にかかわれば、火に油を注ぎ、かえって戦争は拡大するでしょう。

現地の言葉も事情もよく分からない日本の自衛隊員がシリアに戦争に行って何ができるでしょうか。戦争に行くというのは「人を殺しに行く」ということです。実際は「殺し、殺される」ことになるでしょう。

1950年に朝鮮戦争が始まったとき、もし日本兵が朝鮮に来れば、韓国と朝鮮はすぐに戦争を止めて日本兵と戦うと言われていました。いまはどうでしょうか。韓国人は日本人が朝鮮人を殺すことを喜ぶでしょうか。平和的に統一をするか、否かを決めるのは朝鮮人と韓国人です。両国の最高指導者の資質が問われています。

英国のヨーロッパ連合離脱に寄せて

中西 治

2016年6月23日に英国が国民投票でヨーロッパ連合 (EU)からの離脱を決定しました。この結果、第二次大戦後ヨーロッパで比較的順調に発展してきた統合が大きな試練に直面しています。日本、アジア、ヨーロッパ、米国などの株式市場で株価が大暴落しました。これからヨーロッパはどのようになるのでしょうか。世界はどのようになるのでしょうか。

今度の出来事の背景には多年にわたるフランス、ドイツなどのヨーロッパ大陸諸国とブリティッシュ諸島の英国との複雑な関係があります。そもそも「ブリティッシュ諸島はヨーロッパなのか否か」、「英国(連合王国)はヨーロッパなのか否か」の問題があります。英国は大西洋やヨーロッパの小さな島国ではありません。19世紀には「日が没することのない大英帝国(British Empire)」でした。1945年に第二次大戦が終わるまでそうでした。いまもその意識は残っています。

1939年9月にヒトラー・ドイツがポーランドに進撃し、ヨーロッパで第二次大戦が勃発したとき英国はフランスとともにドイツと戦いました。ところが1940年6月にドイツがパリを占領し、フランスのペタン政権がドイツに降伏したため英国はドイツと単独で戦うことになりました。英国はドイツからロンドン大空襲などの激しい攻撃を受け、大きな被害を被りました。1945年5月に英国はソヴェトおよび米国など連合国の支援でやっとドイツに勝利しました。

その英国のチャーチル首相が1945年2月にソヴェト・クリミア半島ヤルタでおこなわれたローズヴェルト米国大統領およびスターリン・ソヴェト首相との会談でド・ゴールのフランスのために大奮闘し、フランスを英国・米国・ソヴェト・中国と並ぶ世界の5大国の一つとしました。

第二次大戦後、英国の国際的地位と影響力は低下しました。ヨーロッパの統合は1952年のヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)の発足以来、フランスと西ドイツの主導で進められました。英国がヨーロッパ共同体(EC)に参加したのは1973年のことです。1993年に発足したヨーロッパ連合が1999年1月1日から使い始めた新しい通貨「ユーロ」を英国は今日まで使わず、英国独自の「ポンド」を使い続けました。誇り高い「大英帝国」の気位を示すものでした。

さらに近年ではEU諸国からの英国への移民が増え、英国民の生活が脅かされていると多くの英国人が感じるようになっていました。これがEU離脱の引き金となりました。英国のEU離脱は多くの英国人の積年の鬱憤をはらすものでした。

にもかかわらず、グローバリゼーション(地球の一体化)と地域の統合はこれからも続くでしょう。そのさい、その推進者は各地域の民衆がグローバリゼーションのなかで強く当該地域の自治を求めていることを理解し、それに適切に対応しなければなりません。

第二次大戦後70年、世界は大きく変わり始めています。ヨーロッパ中心の時代、米ソ中心の時代は終わりました。地球上の各地の国々、人々が声をあげ、行動するようになりました。

第一に中国が再び世界史の前面に躍り出ました。2015年の中国の名目国内総生産(GDP)は10兆9828億3000万USドル、米国の17兆9470億USドルについで世界第二位でした。日本は4兆1232億6000万USドル、第三位でした。

中国が主導するアジア・インフラ投資銀行(AIIB)は創設時の57か国から24か国増えて81か国になりました。さらに2016年中に100近くになると言われています。これは日米が主導するアジア開発銀行(ADB)の67か国・地域を大きく上回るものです。英国はAIIBの主要出資国であり、EU離脱後も引き続き重要な役割を果たすと言われています。

また中国を中心とする上海協力機構にはロシア、カザフ、キルギス、タジク、ウズベクの他、2017年にインドとパキスタンも参加します。さらにはイランも加盟すると言われています。

第二にロシアが再び国際的統合を積極的に進めています。

2014年7月15日から16日にかけてブラジルで開かれたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどBRICSの5か国首脳会議は資本金1000億ドルの「開発銀行」と運用資金1000億ドルの「外貨準備金プール」を設立しました。合わせて2000億ドルの資金は加盟国間のマクロ経済政策を調整する基礎となります。アルゼンチンがBRICSの6番目の加盟国になると言われています。

また2015年1月1日にロシア、カザフ、ベラルーシ、アルメニア、キルギスの5か国によるユーラシア経済連合が発足しました。プーチン大統領は大西洋に面するポルトガルのリスボンから日本海に面するロシア極東のウラジヴォストークに至る全ユーラシア大陸の統合を提唱しています。

第三に日本の安倍内閣は2015年に日本国を外国に自衛隊を派遣し、戦争をする国にしました。いかに美辞麗句をもって正当化しようとも、外国に軍隊を送るというのは外国に行って現地の人を殺すということです。

さらに重大なことはこの問題をめぐって日本の民衆の意見が分裂し、民衆の一部がこの政策を積極的に支持し、推進していることです。日本は1930年代以降に歩み、1945年に敗戦に至った道を再び歩み始めました。

2016年7月の参議院議員選挙をはじめとし、これからおこなわれる国政選挙はすべてきわめて重要です。戦争をする道を歩み続けるのか、平和の道に戻るのか、日本の主権者の見識が問われています。

次に出版する本『100年の回顧と100年の展望――ロシア10月革命100年に寄せて――(仮題)』の編集は順調に進んでいます。日本、中国、ロシア、米国などの同僚がすでに寄稿を快諾され、一部の原稿は届いています。私はこの本で平和な日本、平和な世界、平和な宇宙への道を提起します。

良き日々を!

『ビッグ・ヒストリーの実用: 自然・戦争・平和』出版

事務局

BH実用

中西治・責任編集『ビッグ・ヒストリーの実用: 自然・戦争・平和』地球宇宙平和研究所、2016年3月、定価(本体、価格2,000円+税)。

3冊目の単行本『ビッグ・ヒストリーの実用 ―自然・戦争・平和』を出版いたしました。

  • 日本・中国・米国の共同研究開始
  • 日本語、中国語、英語の論文。書評収録
  • 中西治、胡徳坤、バリー・ロドリーグ他
  • ビッグ・ヒストリー(大歴史)実用化の模索
  • ビッグ・ヒストリー × 地球変革、王朝の興亡、日中関係、イスラーム、近現代の戦争と平和

1. 目次

『ビッグ・ヒストリーの実用:自然・戦争・平和』出版にあたって ―三つの戦争の平和的解決のために/中西 治

論文

  1. 実用的ビッグ・ヒストリー:社会的意義、社会的必要性/バリー・ロドリーグ(辻村 伸雄訳)
  2. 李四光800年周期説についての発展的な考察/王 元
  3. 大きな歴史と中日関係の過去、現在、未来/胡 徳坤(黄 祥雲訳)
  4. 大きな歴史の角度から見た日本の勃興/熊 沛彪(葛 茜訳)
  5. 21世紀日中関係の現状と趨勢 ―日中友好の原点を探る/汪 鴻祥
  6. イスラームとビッグ・ヒストリー ー平和・共存のための新しい創世神話/岩木 秀樹
  7. ビッグ・ヒストリーの実用:戦争ではなく平和のために―「宇宙学(Universal Studies)」の確立と普及をめざして/中西 治

書評

  1. デイビッド・クリスチャン著、渡辺政隆訳『ビッグ・ヒストリー入門』/桜井 薫
  2. Barry Rodrigue, Leonid Grinin and Andrey Korotayev eds., From Big Bang to Galactic Civilization: Big History Anthology. Volume I: Our Place in the Universe: An Introduction to Big History./辻村 伸雄

あとがき

筆者・訳者紹介

2. お支払の代金と方法

購入をご希望の方は、下記のお支払の代金と方法をご確認ください。 続きを読む

謹賀新年

中西 治

2016年の新春おめでとうございます。幸多かれとお祈り申し上げます。

日本は昨年、第二次大戦後70年にして「戦争をしない平和な国」から「戦争をする国」になりました。昨年は「戦争元年」、今年は「戦争二年」です。

戦争を前提として考え始めたとき、戦争はすでに始まっています。秘密保護法は「治安維持法」、一億総活躍は「国家総動員」です。

日米が参加する戦争は最初は小さいものでも、最後は「世界熱核戦争」になります。絶対に戦争を始めさせてはなりません。

それはまだできます。次の参議院議員選挙と衆議院議員選挙で「戦争勢力」を当選させなければ良いのです。主権者が問われています。責任重大です。

私は宇宙の始まりからの「ビッグ・ヒストリー(大きな歴史、大歴史)」の考えを、新しい学問「宇宙学」を世界に広めます。

今年3月に『ビッグ・ヒストリーの実用:アジアとイスラーム(仮題)』を出版します。日本・米国・中国の志を同じくする研究者の共同の成果です。

本年もよろしくお願いします。

ご健康とご活躍をお祈り申し上げます。

2016年元旦
中西 治

研究所のサーバー移転

事務局

サーバーのホスト会社の都合により、研究所のサーバーを移転しました。十分に注意して移行作業を行いましたが、ウェブサイトの表示やメールのやりとりに問題が発生する可能性もあります。お気づきの点がありましたら、恐縮ですが事務局までお知らせください。