靖国」タグアーカイブ

小泉首相の靖国参拝を厳しく批判する

中西 治

小泉首相は2006年8月15日午前7時41分に内外の厳しい批判を無視し、靖国神社に正式に参拝しました。

これは日本国政府が公式に明治以降第二次大戦までの一連の戦争で亡くなった「大日本帝国軍人」を神として崇め、讃えるものです。

しかも、そこには1931年9月18日以後の中国に対する侵略戦争をはじめとして、日本がアジア太平洋でおこなった戦争に直接責任を負うA級戦争犯罪人が祀られているのです。

小泉首相がいかに詭弁を弄そうと、彼の靖国参拝は単に中国や韓国だけではなく、米国をも含む日本と戦ったすべての国に対する挑戦です。

それは日本国内で首相の靖国参拝を批判している多くの主権者に対する挑戦です。

小泉首相と彼を支える人々の責任は重大です。

歴史はいずれ彼らの責任を問うことになるでしょう。

エッセイ 47 スターリン個人崇拝について

木村 英亮

1956年にフルシチョフがスターリン批判を始めたとき、あなたはその時どうしていたのか、と問われた。ソ連解体後、ゴルバチョフには決断が足りなかったと批判している旧幹部にも、同じ問いを発することができるであろう。個人崇拝の下では、最高指導者以外は、かれに個人的に意見を述べて決定に影響を与えることに満足し、自分でイニシアチブをとることはできなかった。このような意識と行動は、絶対君主の下での廷臣の立場に似ており、個人主義の確立した現代人のものではない。

ソ連解体後、多くの旧ソ連党幹部による回想録などが出され、日本語にも翻訳された。そのひとつに、1991年末まで大統領主席顧問であったアレクサンドル・ヤコブレフの『歴史の幻影』(月出交司訳、日本経済新聞社、1993)がある。ここでは、改革を妨害したKGB(国家保安委員会、ソ連の秘密情報機関)が繰り返して非難されている。しかし、かれは党中央委員会思想宣伝部長であったので、他を批判するだけでは不十分で、われわれとしては、彼が自分の仕事をどのように総括しているかが一番知りたいところである。

また、CIAをはじめとする外国の情報機関の活動や資金の流入の全体像などもぜひ明らかしてほしかった。かれはCIA論をかいているが、われわれが知りたいのは、ソ連解体過程におけるその活動についてである。

丸山真男は、戦時中の日本の指導者が極東軍事裁判で、自分の責任について少しも反省せず、成り行きによってそのようになったとか、どうすることもできなかったと言っていることを批判した。日本では天皇崇拝があったが、天皇自身も他の選択はとりえなかったと同じような感想を述べている。中国が問題にしている「靖国問題」は、本質的にはこのような戦争責任をだれも自分の問題としていないという「歴史問題」に対する日本人の対応を衝いているのではないであろうか。

いまロシアでも日本でも無責任体制は強く残っている。それは個人崇拝とセットをなしているものである。その意味では、個人崇拝は、ロシアでは依然として克服されておらず、日本においても他人事ではない。君が代の歌唱を強制するような個人の人格を認めない体質は、まさに個人崇拝と共通のもののように思われる。

中国での質疑応答

中西 治

今日は私の湖南大学での講義と復旦大学での報告に対する質疑応答を紹介します。

論議された第一の問題は小泉首相の評価についてです。

中国は小泉首相の靖国神社参拝を激しく非難していますが、「靖国神社」参拝反対という用語は適切ではなく、正しくは「A級戦犯がまつられているところ」に参拝するのに反対と言うべきであるとの意見が中国側から出されました。

つまり、靖国神社に参拝することが問題ではなく、A級戦犯がまつられているところに参拝することが問題なのです。A級戦犯がまつられていなければ靖国神社に行っても良いということです。

私は靖国神社への首相の参拝そのものが問題であると考えていますが、中国側のこの意見は問題を解決するための一つの論であるように思います。

「中国脅威論」について小泉首相が「中国は脅威ではない」と言っていることを中国側は好意的に受け止めています。

私は小泉さんには積極的な面と否定的な面があることを指摘しました。

積極的な面は朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化のための日朝平壌共同宣言であり、朝鮮への経済制裁の実施を求める声をおさえていることです。

私は郵政民営化に反対ですが、日本国民のなかに公務員が民間人よりも優遇され、公務員の数が多すぎるという不満があります。小泉さんはこの不満をうまく利用して実際には郵政公社は税金を使わず独立採算で運営されているにもかかわらず「民でできることは民へ」「官から民へ」のスローガンを叫び続けました。有権者は小泉さんのこの気力に負け、去年の選挙で自民党を勝たせました。

小泉さんは強かなプロの政治家です。民主党の岡田さんは駆け出しのアマチュア政治家です。

否定的な面は小泉さんの言葉に重みがないことです。不誠実です。靖国神社参拝問題でこれだけ国の内外から批判の声があがっているのに聞く耳を持たないのです。謙虚さがありません。

小泉さんが首相のあいだ日中の国家関係の改善は望めません。こういう時にこそ人民レベルの交流を深めなければなりません。そう思って私は中国を訪ねました。

指導者の過ちは人民が正さなければなりません。

第二はポスト小泉の問題です。私はいま話題になっている人々が次の自民党総裁となり、日本国の首相となる可能性はそれほど大きくないと考えています。自民党にはもっと老練な政治家がいますし、日本国にはもっと思慮深い政治家がいます。

この点について日本側参加者のなかから世代間の争いや世代交代の問題が指摘されました。私も人の世には必ず世代交代があることを認識しています。

問題は若い世代の政治家が必ずしも進歩的でなく、むしろ保守的であり、視野が狭いことです。「中国脅威論」や「対朝鮮経済制裁論」が行き着く先を彼らは理解しているのでしょうか。

前原さんは民主党代表の地位を投げ出しました。前原さんは小泉さんの敵ではありません。小泉さんにとって前原さんは赤子の手をねじるようなものです。

私は中国で岡田さんや前原さんは政治的に未熟であると指摘しました。次は民主党も老練な政治家を出してくるでしょう。そうなると、自民党もますます老練な政治家を出さざるを得なくなるでしょう。

私は誰が次の首相になっても対中・対韓政策は変わり、日本と両国との関係は改善されると思っています。袋小路に入った日本外交の抜け出る道はそれ以外にないからです。

日本政治はいよいよ本格的な政界再編成の時期に入りました。

再編の核になるのは憲法9条への態度です。

第三は第二次大戦後に日本はどうしてあのように急速に復興し、経済大国になったのかです。私は日本人が天皇制の圧政から解放されたこと、憲法9条のもとで平和に徹したことであると答えました。

政策の良否、革命の良否を判断する基準は社会の生産力の発展と人民の生活水準の向上です。生産力が増え、生活が良くなる政策や革命は良い政策であり、良い革命です。その逆は悪い政策であり、悪い革命です。

第四は台湾で事が起こったときに日本はどう出るのかです。私はいまの憲法のもとでは日本は自衛隊を台湾に派遣することはできないし、派遣しないであろうと答えました。

しかし、日本のなかには憲法9条を改定して自衛隊を自衛軍として海外に派遣しようと目論んでいる人がいるし、米国のなかにも日本の軍隊を朝鮮半島と中国で戦わせたいと願っている人がいます。

私はこのような考えは実現しないと考えています。それは中国と南北朝鮮の人民も政府も戦争を望んでいないからです。

軍人は最悪の事態に備えて対処するのが仕事ですが、一般の人々が戦争を前提として考え始めたときに戦争はすぐそばまで来ています。私たちは戦争を前提として考えてはならず、平和に徹しなければなりません。

第五は朝鮮半島の統一問題です。日本側の参加者のなかから南北朝鮮の経済格差が大きいので統一は難しいのではないかという意見が出されました。同じような疑問は東西ドイツの統一のときにも出ました。しかし、いまでは統一ドイツの首相は東ドイツの女性です。

中国国内の格差もきわめて大です。だからといって、中国の統一が難しいとか、分裂するということにはなりません。

経済格差は統一を促進する要素になります。統一は格差の是正を促します。格差があるから統一が必要なのです。これは地球全体の統一=グローバリゼーション(地球一体化)についても言えます。

私は南北朝鮮の統一はすでに始まっていると考えています。南北朝鮮間の鉄道はすでにつながり、陸路は運用を開始しています。南との境に近い北のケソン(開城)ではすでに南北朝鮮の共同開発事業が進んでいます。交流の拡大は双方の発展を促し、社会を急速に変えています。

私は2010年を統一の目処にしています。

論議は尽きませんでした。続きは日本でしましょうと約して別れました。

早速、私たちの研究所の顧問である王邦佐先生をはじめとする湖南大学代表団が今日、4月2日に来日されます。私たちの研究所は4月5日(水)午後に一行を横浜にお迎えします。

日程が決まり次第、連絡します。

毛沢東の生まれ故郷、韶山の故居を訪ねました。

次回は彼について書きます。

グローバリゼーション再考

ねこくま

グローバリゼーションについて学生諸君と議論する機会があったのでそこで気がついた論点をメモ的にいくつか上げておきます。最大のポイントはグローバリゼーションは貧困を解決するのか、あるいは貧困を生み出すのか?これがグローバリゼーションを価値判断する上で最も重要な基準だと思います。

次のポイントはグローバル政体が存在するなら、われわれをいかなる主体がどうやって代表するのかという問題です。トインビーの「所属しているけれど、代表していない」プロレタリアートの状態が、現在の国民国家より優れた統治システムとはとても思えません。

こうなると「帝国システム」なる広域支配システムの中心が何処に存在するのかという問題か、国際関係研究者の間でこれほど関心を集めるようになった理由が理解できます。

最後にグローバリズムと「靖国参拝」の関係について私はこれを国際問題として捉えています。理由は、アメリカ主導のグローバル秩序に挑戦可能な東アジア共同体形成可能性を阻止するために「靖国」は極めて重要な問題だからです。

日本が靖国参拝を繰り返し、侵略戦争の歴史を肯定する主張を続けるかぎり、中国・韓国は言うまでもなく現在のASEAN各国はアジアは「共通の家」形成に踏み出すことは不可能でしょう。

日本をアジアから遊離させ、アメリカのグローバルな国益に全面的に組み込むために「靖国参拝」が要請されていると見た方が合理的なのです。

しかし現実の政策立案の上からは、アメリカのプレゼンスを排除した東アジア共同体形成という選択肢は現実的はありません。東アジア共同体をアメリカ主導のグローバルな世界秩序を牽制するための対抗手段として構想することを選択してはなりません。

アメリカとの共存共栄の枠組みの中で穏やかに変化していく必要があります。中国の韜晦(とうかい)戦略、爪を隠す戦略は短期的には正しいのでしょうが、相応の国力を得た後を考えると早めに成長の芽を摘むという対抗的な長期戦略を呼び寄せてしまう可能性があります。

私は最近、グローバリゼーションが生み出すマイナス局面を補完し、地域の人々に平等で豊かな生活を保障する地球規模の共同体構想を、正面から主張していくほうが王道なのかもしれないと考えるようになりました。

二酔人四方山問答(19)

岩木 秀樹

B:この前の靖国神社の話で、天皇の軍隊についた戦死者しか祀られないと言っていたよね。

A:そうだよ。靖国神社は日本の伝統的な神社と異なる国家神道だ。伝統的な神社では亡くなった人は皆等しく神様になるが、靖国はそうではない。敵はおろか民間の犠牲者も祀られないんだ。

B:ふーん。靖国神社は日本の伝統だと思っていたけど、そうじゃないんだ。

A:明治に作られ、陸軍省と海軍省が管理し、日本の国体と天皇制の象徴だ。だから伝統的神道の信者は、靖国神社は神道をゆがめる存在だと怒ってもいいと思う。

B:色々話を聞いていて、やはり天皇制の問題が避けて通れないと思ったんだ。でも日本では天皇制を直接論議することはタブーなんでしょ。天皇制批判をすると、右翼などから脅しや暴力を受けると聞いたことがあるよ。

A:確かにあるが、言論の自由が保障されている日本ではそんなことがあってはならない。相手の人権を侵害しなければ、どのような議論も自由にできなくては自由主義国家、法治国家と言えない。

B:今、女性天皇の論議が盛んだけど、どう思う。

A:今の皇室典範のまま行くと、あと数十年で天皇制が無くなることは誰の目にもわかる。だから皇室や宮内庁にとっても皇室典範を変えることは死活問題だという現実がある。その上で女性天皇の論議について考えると、僕は当然の流れだと思う。

B:どうして。伝統的に男が天皇になるもんでしょ。

A:いや、明治以前までに10代8人の女性天皇がいたんだ。だから男系男子のみが天皇というわけではなかったんだ。ただ女性天皇を認める理 由としてもっと重要なのは、憲法第14条に男女の平等が書かれているからだ。これは当然、皇室典範より上位に位置するもので、皇室典範第1条「皇位は、皇 統に属する男系の男子が、これを継承する」は憲法違反だ。

B:なるほどね。

A:男系男子天皇制は家父長制の近代家制度のもとで作られ、戦後、皇室典範もかなり修正されたが、男系男子規定はそのまま維持された。ただ女性天皇が認められれば、天皇制に何の問題が無いというわけではない。

B:他にどんな問題があるの。

A:これは女性史研究者の加納実紀代さんが言っているんだけど、民族・階級・ジェンダーの三つの観点から、たとえ女性が天皇になっても問題があるとしている

B:へー。おもしろそうだね。

A:第一の民族の観点では、天皇は日本国民の統合の象徴とされており、逆に言えば、非日本国民の排除という排外主義をはらんでいる。第二の 階級の観点では、天皇制は生まれながらの貴賎や階層秩序を生み出す根源であり、人間平等の理念に反する。第三のジェンダーの観点では、天皇制は世襲であ り、血統に権威の根拠を置いていて、そうである限り皇室の女性は子供を産むことが強制される。

B:そりゃそうだ。色々根本的な問題が山積しているね。これじゃあ、天皇制存続についての議論が起こるのも無理ないね。

A:そうなんだ。憲法第2条の「皇位は世襲」との規定と、14条の「国民は人種、信条、性別、社会的身分又は門地により差別されない」との規定が大きく矛盾するんだ。14条にはさらに、「華族その他の貴族の制度は認めない」ともあるんだけどね。

B:これを矛盾ではないとするためには、天皇や皇室は国民でもなく、華族でもない、特別の存在とするしかないね。

A:そう。実は天皇制は皇室の人々から見てもかわいそうな制度だと思う。職業選択、学問、居住、結婚、信教その他の自由はほとんどない。もちろん僕らのような戸籍もなければ、選挙権も被選挙権もない。つまり人権が認められていないということだ。

B:人として認められていないということか。パン屋になりたいとか、歌手になりたいとか、思ってもだめだろうな。

A:学問の自由もないよ。古代日本史や近代天皇制研究、マルクス主義や東アジア研究などは危なくてやらせてもらえないだろう。自分たちの出 自や一族同士の骨肉の争い、軍国主義下での天皇制の果たした役割などが明らかになったら、自分たちの存在そのものに懐疑的になってしまうよ。だから当たり 障りのない、ナマズや鳥や植物の研究がせいぜいだ。

B:イスラーム教徒になりたいとか創価学会に入りたいとか論外だろうな。結婚相手も相当限定されるだろう。外国人や同性などは想定の範囲外だ。

A:本当は京都かどこかでひっそり暮らしたいんだけどな、と思っていてもだめだろう。

B:うーん。かわいそうな人々。僕、天皇家に生まれなくてよかったよ。

A:でももっとかわいそうなのが、天皇家やそれを支える制度に大量の税金をつぎ込んでいる僕らかもよ。この続きはまた今度しよう。

二酔人四方山問答(18)

岩木 秀樹

B:小泉首相が靖国神社に行っちゃったね。

A:そうだね。非常に残念だし、怒りを覚えるよ。この前、朝鮮や中国で会った人たちや先生方がどのように思うかを考えるだけで気が重くなる。

B:でも保守の論者たちが「外圧に屈するな!」などと言っているよね。

A:その論は二重におかしいと思う。まず第一は、外圧ではなく、日本国憲法に違反しているということが大事だ。9月30日の大阪高裁の判決は、訴訟内容とは直接関係のない実質的傍論という形ではあるが、首相の靖国参拝は違憲という見解を出した。

B:そうだよね。「国が靖国神社を特別に支援している印象を与え、特定宗教を助長している」と述べていた。

A:第二におかしい点は、外圧だろうがなんだろうが、他人の意見には耳を傾ける、ましてや正論はそれを受け容れるということが大事だ。

B:そりゃそうだ。誰が言うのかよりも、言っている内容が大事だよね。

A:外国人が言っているからだめで、日本人ならOKというのは通らないと思う。それなら極論をすれば、外国人の生み出した学問・芸術などの 文化は受け入れないということなのか。そもそも、外交問題のあらゆる案件は、駆け引きや圧力などを駆使して行われる。靖国問題だけ外圧だと言うのはために する論議だと思う。

B:今回のことをテレビなどで見ていて、靖国問題をもっと勉強しなくてはいけないと思ったよ。

A:いい本があるよ。高橋哲哉さんの書いた『靖国問題』(ちくま新書、2005年)がまとまっているし、僕の考え方にも近くて、非常に説得的だった。

B:へー、どんなことが書いてあったの。

A:靖国神社は、大日本帝国の軍国主義の支柱であり、悲しみや痛みの共有といった追悼施設ではなく、戦死を賞賛し美化し功績とし、後に続く 模範とする顕彰施設であったということだ。高橋さんは、多くの人がA級戦犯合祀を問題にしているのに対して、それのみでは問題の矮小化だとして、靖国神社 そのものの存在自体を問うているんだ。

B:なるほどね。でもA級戦犯が分祀されれば、多少ともアジアの人々の印象も変わり、問題が沈静化するんじゃないかな。

A:それは多少あると思う。A級戦犯を分祀し、そしてさらに靖国神社とは別に無宗教の追悼施設を作るということは問題解決の一つの方法だと 思う。ただ、分祀された靖国神社に堂々と首相や天皇まで参拝することになるかもしれないし、無宗教の追悼施設が第二の靖国になるかもしれないと高橋さんは 危惧している。A級戦犯に戦争責任を負わせ、スケープゴートにすることによって、昭和天皇の責任を免責するという構図だ。

B:それはありうるね。もっと日本の近代史や天皇制、靖国神社そのものの問題点を掘り下げなくちゃ、根本的な解決にはならないね。

A:靖国神社は1869年に作られた東京招魂社が前身で、普通の神社とは異なり、単なる死者ではなく特殊な戦死者のみを祀る施設なんだ。

B:特殊な戦死者って。

A:敵の戦死者は言うまでもなく、味方の民間人も対象外で、さらには日本人の軍人の戦死者でも官軍でなければだめなんだ。だから徳川方についた「賊軍」は祀られなかった。 つまり天皇の軍隊についた戦死者のみ祀られることになったんだ。

B:でも、A級戦犯は戦死者ではないよね。

A:そうだ。A級戦犯のうち、絞首刑になった東条英機らと公判中に病死した者ら合計14名が1978年に合祀された。彼らは戦死者でないのに合祀されているのはとても不自然だ。何か意図を感じるね。

B:それに合祀されたくない人も合祀されていると聞いたことがあるよ。

A:その通り。旧植民地出身の遺族やクリスチャンから合祀取り下げ要求が出ている。その回答がまたすごい。池田権宮司は「天皇の意志により戦死者の合祀は行われたのであり、遺族の意志にかかわりなく行われたのであるから抹消することはできない」と言ったそうだよ。

B:そもそも靖国神社が宣伝している歴史観がまたものすごいらしいね。

A:そうなんだ。『靖国神社忠魂史』にはアジア太平洋戦争などの戦争の歴史が「聖戦」の立場から記述されている。また靖国神社の展示施設である遊就館には、あの戦争を「自存自衛のための戦争」として過去を正当化している。

B:それって現在の話。戦前の話じゃないの。

A:今現在、靖国神社が言っていることだよ。

B:そんなこと、最近の保守の政治家でもあまり言わないよ。

A:そのような神社に行くということ自体、ましてや一国の首相が行くということがどんなに大きな問題であるかということだ。このまま行くと、日本とアジア諸国のナショナリズムが沸き立ち、どちらにもいる穏健派の言論が抹殺されかねない。

B:でもそれが目的だったりして。

A:大いにあり得る。しかし僕らは靖国や日本の近代史をきちんと見つめながら、顕彰施設でなく、敵も民間人も含めた追悼施設を作るとともに、日本国憲法に書かれた戦争放棄や軍事力の廃棄を目指すことがこの問題の解決になると思う。

蒸し暑い夜の妖怪話

ねこくま

唐突であるが「銀河英雄伝説」というSF小説をご存じであろうか。民主的選挙で選ばれた一国の首相をSF小説の悪役にたとえるのは何とも失礼な話であるが、今回は小泉首相とこの小説の登場人物ヨブ・トリューニヒト氏のお話である。(注1)

歴代の首相経験者や衆議院議長はては日本遺族会会長までが、小泉首相の靖国公式参拝中止を求めている。もとよりいわゆる護憲派も、戦後民主主義の 受益者である大企業の大部分もアジア諸国民の感情を逆撫でして日本の対外経済活動を制約する靖国参拝に反対であろう。しかし小泉氏は四面楚歌にも似たこの 状況で「国会解散」を盾に頑迷に政治姿勢を変えようとしない。

ある研究会で韓国人研究者から問われた。靖国公式参拝に執着する姿勢は日本国首相の個人的資質なのか、あるいは何か目算があってのことなのか? 私にも小泉氏が中国や韓国とあえてことを荒立てる理由は理解不能だ。日中経済はすでに一体化しているからだ。(注2)

こんなおりEU憲法採択がフランスとオランダで否決された。政治統合推進で世界覇権確立を求めるEUエリートの独走に、生活の質の保障を求める一 般国民が反対を表明したというのだ。これを見て一定の国民が「靖国参拝」を支持する日本でも同じことが起こっていることに今更ながら気がついた。経済レベ ルにおけるアジア経済一体化はとうの昔に進行しており、日本の大企業は格安な労働力を求めてアジアに工場を移転し、日本人労働者は仕事を失ってきた。グ ローバリゼーションの名の下に大企業は中小企業と労働者を切り捨ててきた。

まして東アジア共同体など実現してしまったら大部分の日本人の生活はどうなるのか。不満と先行きの不安に突き動かされる負の庶民感情と小泉氏のか たくなな靖国詣でが結びついた場合、ナショナリズムという理解不能な次元で日本を突き動かす妖怪に化ける可能性に思いたる。わが日本国の小泉首相は「銀河 英雄伝説」の登場人物ヨブ・トリューニヒト氏に類似して、実にポピュリスト的直感に優れた人物である。小泉氏が土壇場の一発逆転を狙ってナショナリスト 「小泉純一郎」を演じている可能性に思い至ったのである。

ブッシュ大統領への無類の忠誠心を売り物に強引なグローバリゼーションを進めてきた小泉氏を、グローバリゼーションへの不満からナショナリズムを 高揚させる人々が支持するというのは何とも皮肉な話であるが。小泉氏の狙っているのが中国への生産移転で苦しみ、アジア経済の一体化に底知れぬ不安を感じ 取っている庶民の支持を狙っての「小泉靖国参拝」だとしたら、氏は大変な政治センスの持ち主だということになる。

日本の指導者諸氏は国民の平等と福利の保証に本気で取り組まないと、経済権益も財産も全部吹き飛んでしまうような事態がすぐそこまで 迫っていることを理解しなければならない。ナショナリズムには経済的合理性も倫理も正当性も通用しない。死に体だった小泉氏が再び復活などと言う事態が起 こるかもしれない。蒸し暑くなったので怪談話と冗談ではすまされぬ恐ろしい話である。

注1:広大な銀河系を舞台とした皇帝を頂く銀河帝国と民主主義を頂く自由惑星同盟の興亡を描くいわゆるスペース・オペラと呼ばれる小 説である。ここにヨブ・トリューニヒトという男が登場する。陰謀と策略で大衆を操るポピュリスト政治家で帝国騎士団という極右テロ集団を擁して大統領に登 り詰める大衆政治家である。軍事クーデターから銀河帝国による占領といった数々の危機を持ち前の悪運と鉄面被的な悪辣さで乗り切って、最終的には自分が大 統領を務める自由惑星同盟を滅亡に導く悪党の代表のような大変な登場人物である。

注2:戦後60年近い年月を経て、国民全体から見れば一定の割合に止まっているにしても、首相の靖国参拝を支持する日本国民がどのような理由でこれ を支持するのか私はずっと不思議に思っていた。アジアとの情報の一体化が進む国際化の時代に、明治以来の英霊への参拝という話も何とも時代錯誤的である。 私が靖国参拝に反対する理由は、靖国神社が日本と周辺諸地域を苦しめた国家神道の象徴であること、首相による公式参拝が日本国憲法の理念の一つである信教 の自由の否定を意味していること、アジアに限らず世界の人々が首相の靖国公式参拝を日本の軍国主義回帰と理解するだろうと考えるからだ。