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最近の国際関係学の動向と論争 (3) ―最近の脱実証主義論争

岩木 秀樹

今までの国際関係学をめぐる論争は、第一の論争として1920年代から1950年代までの理想主義と現実主義の論争、第二の論争として1950年代から1970年代までの伝統主義と行動科学の論争、第三の論争として1980年代から現在に至る実証主義と脱実証主義の論争が存在する。(35)この章では主に第三の論争を中心に議論をしていく。

国際関係学における第三の論争は、言うまでもなく言語論的転回によって導入された認識論的枠組みの変革をその背景としているのである。つまり第三の論争とは、国際関係学へポストモダン理論などの概念を挿入することから発生した実証主義国際関係学への対抗であった。(36)

言語論的転回の意味は国際関係学のみならず学問全体に大きな影響を与えた。20世紀の思想的な発見の一つはこの言語の発見であった。言語が自然的なものではなく、人為的で恣意的な差異の体系であった。言語が言語外的な指示対象物を意味したり伝達する道具ではなく、言語の産出をつうじて現実を構成する当の実践そのものであった。言語が心理的・内在的なものではなく、社会的・外在的なものであったのである。科学一般において、言語論的転回以降、素朴実証主義や生物学的決定主義を解体しようとしてきた構築主義などの脱実証主義の考え方は、すでに学問的常識となっている。その考え方は本質主義や素朴な客観主義と対峙するものなのである。(37)

国際関係学研究においても、遅ればせながら脱実証主義の潮流が1980年代より押し寄せてきた。特に米国における主要な学派であった新現実主義や新自由主義制度学派に対する批判として台頭してきたのである。(38)最初に国際関係学で脱実証主義として、構築主義(constructivism)という用語を使用したのはオヌフである。(39)

なお本稿では、constructivismの訳語として構成主義ではなく構築主義を使用し、さらに構築主義、ポストモダン理論、批判理論、ジェンダー理論、オリエンタリズムなどを含んだ包括的概念として脱実証主義という用語を使用することにする。かなり広く概念規定することにより、議論が散漫になるが、既存の国際関係学を先鋭に批判でき、脱実証主義の有効性を確認できるであろう。

まず実証主義とはどのようなものか見ておくことにする。実証主義は客観主義、合理主義、科学主義、経験主義を重視するものである。客観主義とは、世界についての客観的知識は可能であり、この知識が主観的経験に基づいていなくてもよいということである。自然主義とは、人間や社会は単一の自然秩序に属しており、自然の神秘が単一の科学的方法に従うということである。経験主義とは、世界についての知識を獲得することが、最終的には経験によってのみ検証されるということである。行動主義とは、社会科学の目的のためには「生命すらも単なる手足の動きにすぎない」ということである。(40)

また牧野は実証主義の特徴として、次の点を挙げている。(41)世界は知識とは独立に存在する。社会科学も自然科学も同じ科学として扱えるとの方法的一元論に立っている。観察によって検証される仮説をつくることによって社会現象の間に法則性や規則的な関係を見出そうとする。超越論的実在論者と異なり観察できない深層の構造は存在しないと考える。経験的問題と規範的問題を区別すべきであると考えるのである。

このような実証主義は一定の有効性を有し、特に米国において行動科学的手法を用いて国際関係の事象に対して客観的研究が進んだのである。しかし過度な実証主義が進んだことにより、変化する国際情勢の動態を把握できなくなり、国家や権力を所与のものと見て、理念、規範やアイデンティティの側面を捉えることができなくなったのである。さらに客観・中立・科学・合理の名の下に、自己を省察することが少なくなり、権力と知の共犯関係を生み出したのである。国際関係学が「米国の・男性の・白人の・豊かな人間の・先進国の・人間中心の」学問であったことが脱実証主義により暴露されてきたのであった。

ポストモダン理論の思想家たちの国際関係学への影響として、近代が普遍ではないことの証明、「理性的選択の結果としての歴史」という考え方への懐疑、現実が社会的構築物であることの暴露、言葉が現実の反映なのではなく現実が言葉によってつくられているという考え方の採用、権力とアイデンティティ形成との関係の解明が挙げられる。(42)

脱実証主義の特徴として、政治・経済・社会・文化も人間の思考を離れて存在することは不可能であり、世界は人々の思想およびその実践によって構成されるのである。(43)また人間の忠誠心を形成し、直線的な歴史を構成し、社会的・政治的境界を押しつける「主権」が存在する。脱実証主義はその「主権」による解決に異議申し立てをするのである。(44)これまでの国際関係理論の主流は、軍事力や経済力などの物理的要因から事象の因果関係を説明しようとする傾向にあったが、脱実証主義はこれに異議を唱えるのである。国際関係は本質的に、理念や規範、アイデンティティなどの非物理的要因によって形成されるのである。この新しいアプローチは、冷戦終焉の予測に失敗した既存の国際関係理論に代わる新しい理論として注目を集めているのである。(45)

脱実証主義の主要な構成要素である構築主義をめぐって議論がなされている。構築主義の立場であるウェントは構築主義の研究者をモダン派とポストモダン派に分けて、自らを前者に位置づけた。その後に、構築主義の用語が国際関係学で普及したのはウェントによる構築主義の穏健化、急進的な構築主義と言えるポストモダン理論からの理論的差別化によるところが大きいのである。この背景には、ポストモダン理論のように「反科学的」と見なされれば、主流派からなかなか相手にされない米国学界の事情があるのである。(46)

このような状況の中で、合理主義(rationalism)に代表される実証主義と、省察主義(reflectivism)やポストモダン理論、フェミニズム、批判理論などの脱実証主義との間に構築主義が位置づけられると主張する研究者も存在する。(47)

さらに構築主義に関して厳しい見方も存在する。遠藤は、構築主義をいち早く取り入れたウェントの業績は新現実主義の理論に構築主義の観点から方法論的基礎を与えたものであるとしている。(48)南山は、構築主義を導入する国際関係理論の多くはむしろ実証主義に潜在する「権力の戦略」をより巧妙に隠蔽/強化する方向に機能している、と主張し、さらに、ウェントらの主流派の構築主義者には批判的な視座が欠如している、と述べている。(49)

確かにウェントの理論には現実主義的要素が強い。ウェントによれば、非国家主体は次第に重要になってきているかもしれないが、諸国家システムの理論がもはや必要ないというわけではないとしている。また国家が存在論的に諸国家間システムに先立っているとも主張しているのである。(50)前田によれば、ウェントは国家を実在する人格と見なし、国内社会/国際社会の二分法を維持したと主張しているのである。(51)

このようにウェントは構築主義者の中でもモダン派に属し、現実主義的傾向が強いのであるが、全ての構築主義がウェントの考えに還元できるわけではない。構築主義一つをとってもかなり多様性を有しているのである。構築主義のいわゆるポストモダン派は権力と知の関係に焦点を当て、国際関係学に潜むイデオロギー性を暴露しているのである。またこのような構築主義は批判理論とも強い親近性を有しているのである。(52)いずれにしても、構築主義は「構築主義的転回」と言われているほど国際関係学に大きな影響を与えているのである。(53)

既存の国際関係学は基本的に実証主義の流れに位置するものであり、脱実証主義とはそれへの対抗として生まれたものであり、きちんとした学派ではなく、いわば雑多なものの集合である。しかし旧来の国際関係学への強い批判ともなっており、新しい時代の新しい国際関係学への胎動にもつながっているのである。冷戦崩壊後、旧来の国際関係学への批判が強まり、実証主義と脱実証主義の論争が強まった。(54)批判理論は主権国家の安全保障追求から全てを見るような見方への疑問を投げかけ、構築主義は歴史的に形成・継承されている記憶・価値・規範などを重視し、ジェンダー理論は男性だけで作られてきたかのような国際関係学に対する根源的な疑問が強く提出されたのである。(55)

これらの批判理論、構築主義、ジェンダー理論、ポストモダン理論、オリエンタリズムなどはいずれも既存の理論への批判、イデオロギー性の暴露、権力と知の関係の解明などの点で、親近性を有しており、脱実証主義という言葉である程度くくることが出来るであろう。(56)脱実証主義は、理論が常に特定の誰かのために、特別なある目的のために存在していると見ているのである。(57)また現在の覇権体制の中で知識特に国際関係学が果たしてきた機能がどのようなものであるのか、換言すれば国際関係学それ自身と覇権との共犯関係に、脱実証主義は焦点を合わせるのである。(58)このように脱実証主義は伝統的学問の正統性に対して根本的に変容を迫るものなのである。(59)

既存の実証主義的国際関係学が注目したのは物理的な「力」であり、変容する現実を認識できなかったり、軽視・無視する傾向であった。(60)今後の脱実証主義的国際関係学は伝統的学問の正統性の打破、学問上の境界の脱構築、今まで異端として扱われてきた事柄の容認を進めるであろう。(61)


(35) なお第二の論争と第三の論争の間に、新現実主義/新自由主義と新マルクス主義の論争を入れて四つの論争とすることもあるが、ここでは三つの論争とする。Jackson, op. cit., p. 30.
(36) 大賀哲「国際関係論と歴史社会学-ポスト国際関係史を求めて-」『社会科学研究』第57巻3/4号、東京大学社会科学研究所、2006年、42ページ。
(37) 上野千鶴子編『構築主義とは何か』勁草書房、2001年、i-iiiページ。樫村愛子「現代社会における構築主義の困難-精神分析理論からの再構築可能性-」『社会学評論』第55巻3号、日本社会学会、2004年、190ページ。高田、前掲書、37ページ。
(38) Baylis et al., op. cit., p. 161.
(39) Nicholas G. Onuf, World of Our Making: Rules and Rule in Social Theory and International Relations, University of South Carolina Press, 1989. 宮岡、前掲論文、77ページ。
(40) Martin Hollis, “The last post ?,” Steve Smith, Ken Booth & Marysia Zalewski eds., International theory: positivism & beyond, Cambridge University Press, 1996, p. 304.
(41) 牧野裕『現代世界認識の方法  国際関係理論の基礎』日本経済評論社、2008年、16ページ。
(42) John A. Vasquez,  The Power of Power Politics: From Classical Realism to Neotraditionalism, Cambridge University Press, 1998, pp. 214-220. (未見)押村、前掲書、14ページ(序章注3)。
(43) 清水、前掲『暴力と文化の国際政治経済学  グローバル権力とホモソーシャリティ』6ページ。
(44) アンドルー・リンクレイター「国際関係論の次段階の問題-批判理論からの見方」猪口、前掲『国際関係リーディングズ』101ページ。
(45) 吉川直人「国際関係理論序説」吉川、前掲書、23-24ページ。
(46) Alexander Wendt,  ” Anarchy Is What State Make of It: The Social Construction of Power Politics,” International Organization, 46-2 (Spring), 1992, p. 394.(未見)Wendt, Social Theory of International Politics, p. 1.宮岡、前掲論文、80-81、85ページ。
(47) 佐藤敦子「コンストラクティビズム」吉川、前掲書、246ページ。
(48) 遠藤誠治「国際政治における規範の機能と構造変動  自由主義の隘路」藤原帰一他編『講座国際政治4  国際秩序の変動』東京大学出版会、2004年、94ページ。
(49) 南山、前掲書、100,103ページ。
(50) Wendt, Social Theory of International Politics, pp. 18, 198.
(51) 前田幸男「国際関係論におけるコンストラクティビズムの再構築に向けて-アレクサンダー・ウェントの批判的検討を中心として-」『社会科学ジャーナル』57 COE特別号、国際基督教大学、2006年、157ページ。
(52) リチャード・プライス、クリスチャン・ルース=スミット「批判的国際関係論と構成主義は危険な関係か」猪口、前掲『国際関係リーディングズ』201、204、209ページ。
(53) Remgger and White, op. cit., p. 4.
(54) Jackson and Sorensen, op. cit., p. 279
(55) 猪口孝「編者あとがき」猪口、前掲『国際関係リーディングズ』464ページ。
(56) スミスは脱実証主義の中に、批判理論、ジェンダー理論、ポストモダン理論などを含めている。ジャクソンらも批判理論、ポストモダン理論、規範理論を同じく含めている。ジャービスも第三の論争において、ジェンダー的観点を国際関係学に注入したとしている。さらに重政は省察主義と脱実証主義の親近性も指摘している。Steve Smith, “Positivism and beyond,” Steve Smith, Ken Booth & Marysia Zalewski eds., op. cit., p. 25. ” Methodological Debates, ” Robert Jackson and George Sorensen, op. cit., p. 286.Jarvis, op. cit. , 23.重政公一「批判的国際理論」吉川、前掲書、312ページ。
(57) 星野、前掲『世界政治の弁証法』7ページ。
(58) 清水、前掲『暴力と文化の国際政治経済学』65ページ。
(59) リンクレイター、前掲「国際関係論の次段階の問題-批判理論からの見方」87ページ。
(60) 清水、前掲『暴力と文化の国際政治経済学』viiiページ。星野、前掲『世界政治の弁証法』55ページ。
(61) リンクレイター、前掲「国際関係論の次段階の問題-批判理論からの見方」88ページ。

最近の国際関係学の動向と論争 (2) ―米国、英国、日本の国際関係学の特徴

岩木 秀樹

国際関係学の研究者は、地域という存在拘束性を帯びているのである。(21)地域により、歴史、社会、言語、文化、世界的影響力などが異なるので、当然のことながら国際関係学の特徴もかなり違ってきているのである。

まず米国の国際関係学の特徴について概説する。米国において、国際関係学は社会科学の一分野、特に政治学の一分野とされ、地域研究は比較政治学の枠組みにされたのである。また実証主義が現実主義と政策科学に結合しているのである。(22)米国以外の研究者では、主要な国際関係学のアプローチとして現実主義をとる傾向はそれほど高くはないが、米国では現実主義、実証主義の流れが強いのである。(23)さらに帝国主義、国民国家、従属論、あるいは資本主義世界体制に通じたマルクス主義者を抱えた大学は少ないというのも特徴である。(24)

このような米国の特徴の要因として、科学的手法の問題解決能力に対する米国社会の信頼やヨーロッパからの知識人の流入などの社会科学の隆盛、知的羅針盤への需要などの大国としての地位、学術研究と現実政治の近接性、財団からの積極的助成などの研究環境などが挙げられよう。(25)

米国が世界の国際関係学研究を牽引してきたのは事実であり、これからも主導的役割を果たすであろうが、それを超えることが必要であろう。米国の国際関係学における政治との密接な関係、現実主義志向、自らの視座を根本的に批判する機会の少なさ、建国の理念と例外国家としての過度な自信、そして現実の国際政治における覇権的地位が権威主義的研究となっている可能性がある。

次に英国の国際関係学の特徴について簡単に説明する。米国では政治学の一部として教授されていたが、英国ではそれとは一線を画すものとして扱われている。(26)また英国では歴史、法、哲学などを重視した古典的手法が多く見られるのである。(27)

猪口によれば、英国の国際関係学は米国の国際関係学と違うことを誇張し、米国の国際関係学の過度な単純主義、過度な実証主義、過度な分析主義などを批判することで存在価値を示している。英国の国際関係学は伝統を強く引きずりながらも、多様性を包容している。歴史と哲学を重視し、記述の正確さと抑制のきいた判断などがその長所として広く認められていると言えよう。(28)

英国で活躍する国際関係学の研究者の緩やかな一団を英国学派と総称され、マニング、ワイト、ブル、ジェームズ、ヴィンセントらが中心人物である。(29)

英国の国際関係学は、主権国家内は秩序が保たれているが国際社会は弱肉強食の無秩序な世界であるとの議論に批判の目を向け、一定の規範や制度により国際社会も成立しうることを主張した点で、評価されよう。

このような英国の国際社会論が米国でも改めて見直される一方、規範やアイデンティティ、理念といった主観的・文脈的要素の重視を提唱するいわゆる構築主義が一大潮流となり、古典的な国際関係学の再検討も進められることになった。(30)

最後に、日本における国際関係学の動向を見ておくことにする。国際関係学は米国では政治学の一分野であるのに対して、日本においては伝統的に理論研究、歴史研究、地域研究が三位一体の形で進められてきた。(31)

猪口によれば、政治学が極めて重要な専門分野的枠組みを提供する米国の国際関係学とは違い、日本の国際関係学は、外交史、国際法、国際経済、地域研究、政治理論といった多様な専門分野の伝統を受け入れるのである。また西洋によって植民地化された経験がないため、言語も含めて西洋的国際関係学がそれほど浸透しなかったのである。特に米国の国際関係論の影響は、インド、パキスタン、マレーシア、フィリピンなどは言うまでもなく、韓国、台湾、中国と比べてみても、日本は小さいのである。日本の研究者が米国の国際関係学の概念や手法に従うことはもちろん、それに触れる度合いもこれらのアジア地域に比べはるかに低いのである。学生の教育、教授の採用、研究成果の評価に関する日本の制度は、アジア地域の中でも最も米国のシステムと折り合いが悪いのである。(32)このような日本の閉鎖的環境は改善し、正しい意味のグローバル・スタンダードに近づける努力は必要であろうが、何も米国の下請け的国際関係学を目指す必要もない。むしろ日本独自な米国的でない国際関係学構築を目指すべきであろう。

日本において、行動科学論争、ネオリアリズム対ネオリベラリズムの論争、さらに構築主義を中心とする論争は、米国に比べそれほど起こらなかったと言われている。ただこの三番目の構築主義について、日本には元来フランス現代思想の影響が強く、すでに構築主義的意識は存在しており、とりわけ新鮮であるようには思われなかった背景がある。(33)確かに、論文数などを調査してみても、日本においては米国と対照的に、合理主義的研究より構築主義的研究の方が優勢であり、米国で構築主義が台頭する以前から、構築主義と親和性のある研究が存在したのである。構築主義は自然科学のような一般化はそれほど求めず、時や場所の特定の状況、立場、視座を強く考慮に入れるという点で、日本で盛んな歴史研究や地域研究と共通点を有するのである。(34)この構築主義の議論についてはこの次の章で詳しく扱うことにする。


(21) Crawford, op. cit., p. 2.
(22) 猪口孝『国際関係論の系譜』東京大学出版会、2007年、7-8、213ページ。
(23) Vendulka Kubalkova, “A ‘Turn to Religion’ in International Relations ,”Perspectives, Vol. 17, No. 2, 2009, p. 18. Crawford, op. cit., p. 373. ただ米国における国際関係学の多様性にも注目しなければならない。強い平和主義も米国には存在し、ノーム・チョムスキー、エドワード・サイード、アンドレ・グンター・フランク、イマヌエル・ウォーラステインなどは全て米国人である。猪口、前掲『国際関係論の系譜』8-9ページ。
(24) H. R. アルカーJr.、トマス・ビアステイカー「世界秩序の弁証法-国際問題を研究する未来の発掘学者たちへの覚え書き-」猪口、前掲『国際関係リーディングズ』64ページ。
(25) 石田淳「国際関係論はいかなる意味においてアメリカの社会科学か-S・ホフマンの問い(1977年)再考-」日本国際政治学会編『国際政治  国際政治研究の先端7』160号、2010年。Stanley Hoffmann,”An American Social Science: International Relations,” Daedalus: American Academy of Arts and Sciences, Vol. 106, No. 3, 1977, pp. 41-60.
(26) Brown, op. cit., p. 6.
(27) Nicholas Remgger and Ben Thirkell- White,”Still critical after all these years ? The past, present and future of Critical Theory in International Relations,”Review of International Studies, 33, British International Studies Associations, 2007, p. 3.
(28) 猪口、前掲『国際関係論の系譜』10ページ。
(29) H・スガナミ「英国学派とヘドリー・ブル」日本国際政治学会編『国際政治  冷戦の終焉と60年代性』126号、2001年、200ページ。
(30) 中西寛「国際政治理論  -近代以後の歴史的展開」日本国際政治学会編『日本の国際政治学1  学としての国際政治』有斐閣、2009年、37ページ。
(31) 大芝、前掲書、5ページ。
(32) 猪口、前掲『国際関係論の系譜』182-183、210ページ。
(33) 田中明彦「日本の国際政治学-『棲み分け』を超えて」前掲『日本の国際政治学1  学としての国際政治』10-12ページ。
(34) 富岡勲「コンストラクティビズム-実証研究の方法論的課題」同上書、82-82、92ページ。

最近の国際関係学の動向と論争 (1) ―21世紀の国際関係学の動向

岩木 秀樹

まず日本で刊行された最近の国際関係学の動向を概観することにする。

21世紀に入り、まとまったシリーズものがいくつか刊行された。(2)特に日本国際政治学会編『日本の国際政治学』は、理論、地域、歴史、非国家主体の観点から、日本における国際関係学の現段階が示されている。

次に国際関係学のテキストであるが、多くの書籍が刊行されており、非常に多様性に満ちている。(3)特にユニークなものとして、日本発の平和学と国際関係論で、日本の問題や日本がもたらした影響などがわかりやすく書かれていて、後者は漢字にルビをふり、日本で学ぶ留学生にも配慮した試みをしている。(4)他に、内外の著名な研究者の論文を集めたリーディングズ(5)や歴史学と政治学の架橋を試みたもの(6)ガイドブックとして有用なもの(7)などがある。

今まで日本においては国際関係理論はあまり重視されなかったが、最近になって理論関係の業績が多く出版されるようになってきた。国際関係学の権力と知について考察したもの(8)帝国の観点から国際システムとアメリカを見たもの(9)国際関係学の様々な理論を分析したもの(10)権力や暴力を扱った清水の一連の業績(11)などがある。また9・11事件以後、正義や戦争に関する思想的問題を絡めた国際関係学の書籍も出てきている。(12)イデオロギーの可視化が国際関係学にも影響を与えており、ジェンダー的観点からの国際関係学も多くなっている。(13)さらに近代日本と国際関係学のあり方や秩序・認識を論じたものも刊行されている。(14)

星野は現状変革志向の強い平和を重視する国際関係学を目指し、21世紀に入ってからでも多数の書籍を出版している。(15)土佐は批判的国際関係学の視点から安全保障や暴力の問題を扱った一連の業績を発表している。(16)最近、欧米、特に英国学派の書籍の翻訳がかなり見受けられる。(17)弱肉強食の新自由主義や現実主義への批判、主権国家の枠組みの流動化、アメリカの攻撃的単独主義への懐疑などにより、英国学派が注目されているのだろう。

次に簡単に英米における国際関係学の成果を瞥見しておく。まず、テキストとして有用であり、様々な学派、ディシプリン、イッシューを扱ったものが数多く出版されている。(18)日本においてはそれほど多くはないが、英米において国際関係思想や理論に関する業績は相当出されている。(19)また脱実証主義や構築主義関連のものも出版され、理論やディシプリンに関する議論が相当進んでいる。(20)この点について、詳しくは次章以降で論ずる。


(2) 藤原帰一他編『国際政治講座』全4巻、東京大学出版会、2004年。猪口孝編『シリーズ国際関係論』全5巻、東京大学出版会、2007年。日本国際政治学会編『日本の国際政治学』全4巻、有斐閣、2009年。
(3) その中でも主要なものをここでは取りあげる。小林誠他編『グローバル・ポリティクス』有信堂、2000年。関下稔他編『クリティーク  国際関係学』東信堂、2001年。羽場久美子他編『21世紀国際社会への招待』有斐閣、2003年。百瀬宏『国際関係学原論』岩波書店、2003年。山田高敬他編『グローバル時代の国際関係論』有斐閣、2006年。高田和夫『新時代の国際関係論』法律文化社、2007年。藤原帰一『国際政治』放送大学教育振興会、2007年。大芝亮編『国際政治学入門』ミネルヴァ書房、2008年。村田晃嗣他著『国際政治学をつかむ』有斐閣、2009年。
(4) 安斎育郎他編『日本から発信する平和学』法律文化社、2007年。初瀬龍平他編『日本で学ぶ国際関係論』法律文化社、2007年。
(5) 猪口孝編『国際関係リーディングズ』東洋書林、2004年。
(6) Colin Elman and Miriam Fendius eds., Bridges and Boundaries : Historians, Political Scientists, and the Study of International Relations, The MIT Press, 2001, コリン・エルマン他編、渡辺昭夫監訳『国際関係研究へのアプローチ  歴史学と政治学の対話』東京大学出版会、2003年。
(7) 岩田一政他編『国際関係研究入門  増補版』東京大学出版会、2003年。
(8) 南山淳『国際安全保障の系譜学  現代国際関係理論の権力/知』国際書院、2004年。
(9) 山本吉宣『「帝国」の国際政治-冷戦後の国際システムとアメリカ』東信堂、2006年。
(10) 信夫隆司『国際政治理論の系譜-ウォルツ、コヘイン、ウェントを中心として』信山社、2004年。吉川直人他編『国際関係理論』勁草書房、2006年。
(11) 清水耕介『市民派のための国際政治経済学  多様性と緑の社会の可能性』社会評論社、2002年。清水耕介『暴力と文化の国際政治経済学  グローバル権力とホモソーシャリティ』御茶の水書房、2006年。
(12) 佐藤幸男他編『世界政治を思想する』全2巻、国際書院、2010年。押村高『国際政治思想』勁草書房、2010年。
(13) Cynthia Enloe, The Morning After, Sexual Politics at the End of the Cold War, The Regents of the University of California, 1993, シンシア・エンロー、池田悦子訳『戦争の翌朝  ポスト冷戦時代をジェンダーで読む』緑風出版、1999年。土佐弘之『グローバル/ジェンダー・ポリティクス』世界思想社、2000年。Sandra Whitworth, Feminism and International Relations: Towards a Political Economy on Gender in Interstate and Non-Governmental Institutions, Houndmills: Macmillan, 1997, サンドラ・ウィットワース、武者小路公秀他監訳『国際ジェンダー関係論』藤原書店、2000年。Ann Tickner, Gender in International Relations, Columbia University Press, 1992, アン・ティックナー、進藤榮一他訳『国際関係論とジェンダー  安全保障のフェミニズムの見方』岩波書店、2005年。Cynthia Enloe, Maneuvers, The International Politics of Militarizing Women’s Lives, Berkeley: The University of California, 2000, シンシア・エンロー、上野千鶴子監訳『策略  女性を軍事化する国際政治』岩波書店、2006年。土佐弘之他編『国際法・国際関係とジェンダー』東北大学出版会、2007年。
(14) 酒井哲哉『近代日本の国際秩序論』岩波書店、2007年。芝崎厚士『近代日本の国際関係認識  朝永三十郎と『カントの平和論』』創文社、2009年。
(15) 星野昭吉『世界政治の原理と変動-地球的規模の問題群と平和-』同文舘出版、2002年。星野昭吉『グローバル社会の平和学  「現状維持志向平和学」から「現状変革志向平和学」へ』同文舘出版、2005年。星野昭吉『世界政治の理論と現実-グローバル政治における理論と現実の相互構成性-』亜細亜大学購買部、2006年。星野昭吉『世界政治と地球公共財-地球的規模の問題群と現状変革志向地球公共財-』同文舘出版、2008年。星野昭吉『世界政治の弁証法-現状維持志向勢力と現状変革志向勢力の弁証法的ダイナミクス-』亜細亜大学購買部、2009年。星野昭吉『世界秩序の構造と弁証法-「コミュニタリアニズム中心的秩序勢力」と「コスモポリタニズム中心的秩序勢力」の相克-』テイハン、2010年。
(16) 土佐弘之『安全保障という逆説』青土社、2003年。土佐弘之『アナーキカル・ガヴァナンス-批判的国際関係論の新展開』御茶の水書房、2006年。
(17) Hedley Bull, The Anarchical Society: A Study of Order in World Politics, 2nd ed., Macmillan Press Ltd., 1995, ヘドリー・ブル、臼杵 英一訳 『国際社会論  アナーキカル・ソサイエティ』岩波書店、2000年。Martin Wight, International Theory: The Three Traditions, Leicester University Press, 1991, マーティン・ワイト、佐藤誠他訳『国際理論  三つの伝統』日本経済評論社、2007年。Ian Clark, Globalization and International Relations Theory, Oxford University Press, 1999, イアン・クラーク、滝田賢治訳『グローバリゼーションと国際関係理論  グレート・ディヴァイドを超えて』中央大学出版部、2010年。Kenneth Waltz, Theory of International Politics, McGraw- Hill, 1979,  ケネス・ウォルツ、河野勝他訳『国際政治の理論』勁草書房、2010年。
(18) その中でも主要なものをここでは取りあげる。Walter Carlsnaes eds., Handbook of International Relations, SAGE Publications, 2002. John Baylis, Steve Smith and Patricia Owens, The Globalization of World Politics: An Introduction to International Relations, 4th Edition, Oxford University Press, 2008. Mario Telo, International Relations: A European Perspective, Ashgate Publishing Limited, 2009. Robert Jackson and George Sorensen, Introduction to International Relations: Theories and Approaches, 4th Edition, 2010. Cynthia Weber, International RElations Theory : A Critical Introduction, Third Edition, Routledge, 2010. Tim Dunne eds., International Relations Theories: Discipline and Diversity, 2nd Edition, Oxford University Press, 2010.
(19) Kenneth W. Thompson, Schools of Thought in International Relations: Interpreters, Issues, and Morality, Louisiana State University Press, 1996. Torbjorn L. Knutsen, A History of International Relations Theory, 2nd Edition, Manchester University Press, 1997. Brian C. Schmidt, The Political Discourse of Anarchy: A Disciplinary History of International Relations, State University of New York Press, 1998. Barry Buzan and Richard Little, International Systems in World History, Oxford University Press, 2000. Robert M. A. Crawford, International Relations -Still an American Social Science ?: Toward Diversity in International Thought, State University of New York Press, 2001. Cynthia Weber, International Relations Theory: A Critical Introduction, Routledge, 2001. Mathias Albert eds., Identities, Borders, Orders: Rethinking International Relations Theory, University of Minnesota Press, 2001.
(20)Alexander Wendt, Social Theory of International Politics, Cambridge University Press, 1999. D. S. L. Jarvis, International Relations and the Challenge of Postmodernism: Defending the Discipline, University of South Carolina Press, 2000. Chris Brown, Practical Judgement in International Political Theory: Selected Essays, Routledge, 2010.

最近の国際関係学の動向と論争

岩木 秀樹

2011年3月11日に配信された講義を複数回に分けて掲載いたします。ー事務局

特定非営利活動法人 地球宇宙平和研究所
ユニバーサル・ユニバーシティ・インターネット

最近の国際関係学の動向と論争

岩木 秀樹

9・11事件以後、世界中で「テロ」や様々な紛争が続いている。悲惨や戦争から幸福や平和への転換が望まれている中で、戦争と平和の研究が主要テーマである国際関係学の役割が重要になってきている。

毎年世界中で、10万人を超える学生が国際関係学を学び、1万以上の国際関係学の学術論文や書籍が発行されていると言われている。(1)このような膨大な業績全てを考察する時間も能力もないので、本稿では主に21世紀に入ってからの英語と日本語による主要な国際関係学の成果を題材に、その動向と特徴さらに論争を分析していく。

第1章では、21世紀の国際関係学の動向を、シリーズもの、テキスト関係、理論書などに分類して紹介する。第2章では、国際関係学の特徴を米国、英国、日本に分けて、それぞれ分析する。第3章では、実証主義と脱実証主義をめぐる第三の論争について触れ、脱実証主義の意義を考察していく。

目次

  • 1. 21世紀の国際関係学の動向
  • 2. 米国、英国、日本の国際関係学の特徴
  • 3. 最近の脱実証主義論争
  • おわりに

(1) Paul Joseph, “International Relations,” Nigel J. Young eds., The Oxford international encyclopedia of peace, Vol. 2, Oxford University Press, 2010, p. 459.