月別アーカイブ: 2013年10月

『地球宇宙平和研究所所報 創刊号』PDF版の公開

事務局

所報創刊号印刷版の在庫が無くなったため、PDF版(地球宇宙平和研究所所報創刊号)を公開いたしました。

目次

中西  治 「創刊の辞」
中西  治 「宇宙地球史の展開」
岩木秀樹 「東アジアの平和のために」
植木竜司 「グローバリゼーションとネパール」
宮川真一 「公教育における宗教教育とナショナリズム」
王 元  「中国社会动乱的周期性与自律性」
林 亮  「東アジア安全保障レジームと日米安保再編」
高橋勝幸 「北朝鮮を訪ねて 2005年8月」
木村英亮 「人種から見たキューバの歴史」

「編集後記」

発展継続国、フィリピン・マニラを訪れて

遠藤 美純

IMG_4228今年2013年の8月4日から11日までの8日間、研究協力者となっているプロジェクトのIT関連産業の調査に同行し、初めてフィリピン・マニラを訪れた。東南アジアの訪問も初めてであった私には、見るものすべてが新鮮で刺激的であったが、最も印象的だったのは想像以上の豊かさと貧しさ、その格差であった。

短い訪問ではもちろんその実情は分からないが、その貧しさは、路上生活やいわゆるスラム街など目に見える形ではっきりしたものであった。いかほどのお金が稼げるのだろうか、衛生的とは言えない環境下で、自ら仕事を作って生きている人々がいた。そして、その貧しさには、目も眩むような豊かさが隣接していた。東京の丸の内のようなマカティ地区、青山や六本木のようなボニファシオ地区やイーストウッド地区など、先進国と同じかそれ以上の景観があった。そこに展開する巨大なショッピングモールは、日本の郊外型ショッピングモールの数倍の規模で、超高級ブランドから、電化製品、高級マンションの営業まで幅広い商品が備えられている。さらにそのようなモール群が、市内のあちこちに点在しているのである。その規模も質も日本人の平均的想像をはるかに越えていると思う。生活物資は安価なフィリピンでも、ブランド品は日本での価格とそこまで変わらない。にもかかわらず、夜遅くまでショッピングや食事を楽しむ多くの人々でにぎわっていた。この光景はマニラ郊外にも広がりつつある。

フィリピンでの大卒初任給は、日本円にするとおよそ2万円半ばから4万円程度だと聞いた。大規模な消費を支えることのできるような給料ではないだろう。その消費を支えている一つには、国民労働者の10分の1を占めるという海外出稼ぎ労働者からの送金がある。空港に専用の入口や窓口が用意されるほどのこの「基幹産業」がここ数年好調だと言う。また、今回の調査の対象となったIT関連産業の成長もある。ITおよび通信技術の発展によって、高い外貨獲得能力をもった労働者が直接海外に行くのに加え、細分化された業務が世界各国からフィリピンに外注されるようになっているのである。今回の限られた調査・インタビューの中でも、その成長をかいま見ることができた。

ソフトウェア産業やハードウェア産業では、下流工程にとどまらず、上流工程を担うフィリピン企業も少なくない。半導体集積回路の設計をする有力企業があるとも聞いた。2015年のASEAN経済統合を視野に入れた事業が展開され、その下流工程が外部発注される勢いである。さらに、大変活況なのがコンタクトセンター事業である。電話によるコールセンターに、メールやチャット、Facebookのような文章などのやりとりを加えたのが、コンタクトセンターである。英語に堪能で、サービス業に向いたフィリピンの労働者が、一定の技術的知識を獲得したとき、アメリカ合衆国はもちろん、世界中の短時間知的コンサルタントを一挙に担うというのである。2000年代半ばから倍増しているその雇用は、リーマン・ショックによってかえって拡大し、数年後には100万人規模のフルタイム雇用相当にまで達すると言う。フィリピンとアメリカ合衆国を直結する光ファイバーが引かれ、さらにフィリピン諸島間にも通信網が築かれている。マニラ以外の各地にも事業が展開され、有名な観光地セブ島には数万人規模のコンタクトセンター事業がある。そして、すでにフィリピンでの人件費は上昇し始め、その人件費のコストメリットは、ペソ高と相まって低下しつつさえあると言う。フィリピンでも労働の高度化が求められるようになっている。フィリピンでの産業は、知識情報型産業へと一気に展開しているかのようである。インタビューに応じてくれた企業や関連団体の人々の話には営業的側面もあったろうが、自信に満ち、仕事が楽しくてしょうがないといったその様子が印象的だった。

フィリピンは、日本では発展途上国と見なされている。先進国に追いつこうとするその途上にある国というわけだ。しかしフィリピンの現状はそう単純なものではないようである。国内の極端な貧富の格差は、同じ国に二つの世界があるかのようである。ゴミを拾う人もいれば、ゴミを捨てる人もいる。高級住宅街はその全体が高い塀に囲まれ、一般的な家屋でさえ高い塀と鉄条網を備えている。マニラには壁が多い。しかし、フィリピンの貧しい地域でさえ、ここ数年で環境はよくなりつつあると言う。マニラ市内ならば裏道も舗装され、ゴミの回収もある程度されているようだった。フィリピンは、急激な発展のさなかにあり、一部はいわゆる先進国を追い越してその先にさえ行こうとしている。

発展途上国を英語ではdeveloping countryというが、フィリピンは発展途上国というよりも、この言葉通りに現在進行形で発展し続けている発展継続国であるようだ。人も社会も若い、これからの国である。一方、先進国を英語ではdeveloped countryと言う。直訳すれば発展済みの国であるが、発展の伸び代のない国なのかもしれない。さらに、最近の日本では、貧富の格差の拡大や、それに伴うセキュリティや相対的剥奪に関わる不安が、将来の展望として語られることがよくある。その極端な未来像は、今のフィリピン・マニラにあるとさえ言えるのかもしれない。