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むすび : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

2020年のロシアは実際にはどのようになるのであろうか。それは大きくプーチンにかかっている。彼が2012年の選挙で大統領に当選し、2018年まで大統領職を務めるからである。

プーチンは1952年10月7日の生まれ、1999年8月9日に首相代行となり、同月16日に正式の首相となったときはまだ46歳、2000年3月26日に大統領に当選したときは47歳、ずいぶん若い大統領であると思ったが、その後、大統領を2期、8年間、首相を1期、4年間務め、2012年3月の選挙で3期目の大統領に返り咲いたときは59歳、いまでは間もなく60歳を迎える堂々たる大統領である。今回から大統領の任期は6年間となり、つぎの大統領選挙は2018年3月、65歳、再選は可能であるから、71歳まで大統領を続けることができる。しかし、今回の任期が彼にとっては正念場であろう。

プーチンも、メドヴェージェフも『2020年のロシア:未来のためのシナリオ』で指摘されたロシアの欠陥をよく認識している。これは先に紹介したプーチンの2008年2月8日の演説「2020年までのロシアの発展戦略」からも、メドヴェージェフの2008年2月15日の演説「2020年のロシア国の主要発展課題」からも読み取ることができる。さらに、プーチンは2012年6月28日の「2013―2015年の予算教書」で経済の原油依存やインフラストラクチュア・教育・科学技術の立ち後れの克服などを当面の重要課題としている。問題はこれをどのような方法で実現するのかである。

ロシアは帝政時代の19世紀後半のヴィッテ/ストルイピン以来、英国・フランスなどの西ヨーロッパの先進諸国より遅れて現代化の道に入った。現代化には工業化と民主化という二つの側面がある。この両者が車の両輪のごとく並行して進めば、現代化は比較的安定しておこなわれるが、多くの場合、この両者は並行しては進まず、工業化が先行する。

工業化には用地と建物、機械、原料、人材が必要である。それには多額の資金が必要である。先進国はそれらを大きく植民地からの収奪に求めることができたが、後進国はそれに全面的に依存できない。しかも、工業化には多年の歳月が必要である。後進国はそれを近隣諸国の植民地化と収奪とともに、自国民、とくに、農民からの収奪に求めざるを得なかった。当然、国の内外からも反抗が起こる。それを力で抑えつける。19世紀から20世紀にかけてのロシアの帝政とそれを引き継いだソヴェト政権、および、日本の明治維新以降の体制はそのような体制であった。

日本は明治維新以後にアイヌ人が先住民として住んでいた蝦夷地を北海道と改称し、サハリンとクリルをロシアと分け合って、クリルを日本領とし、千島とした。琉球を処分し、沖縄とした。さらに、日清戦争で清国から台湾をとり、日露戦争でサハリン(樺太)南部を獲得し、関東州を租借した。日本は朝鮮半島と中国東北に進出する足場を得た。その後、朝鮮を併合し、「満州国」をつくった。現在の千島・竹島・尖閣などの領土問題の淵源はここにある。

もともとこれらの土地には誰も住んでいなかった。それは誰のものでもなく、自然を含めてすべてのものの土地であった。それを人間の幸せのために平和的にどのように使うのか。

私は領土問題が起こっているところは、南極や宇宙空間と同じように、誰かの土地とか、いずれかの国の土地としないで、そこに住んでいる人や住みたいと思っている人、そこを利用している人や利用したいと思っている人などが共同で管理し、共同で利用すれば良いと考えている。地下資源の利用もその人々が中心になって考えれば良い。このような問題を考えるのがユニバーサル・ヒストリーである。

日本とロシアはともに近隣諸国に領土を拡大し、国内外の不満を抑圧した。その結果が、1945年、第二次大戦におけるソヴェトの勝利と日本の敗北であった。

ソヴェトの体制も、日本の体制も後進国の「現代化」のための体制であった。第二次大戦が終わったとき、その命脈はともに尽きていた。日本は敗戦によって天皇主権の体制から国民主権の体制に変わり、戦後復興に成功し、高度成長した。ソヴェトは勝利したが故に、体制の転換が根本的にできず、1991年12月に崩壊した。その後、ロシアは試行錯誤を繰り返しながら今日に至っている。

米国の現代化も同様である。それはヨーロッパをはじめとする世界各地からの多数の移民の努力とともに、先住民と近隣諸国からの土地の収奪と大量虐殺、アフリカからの多数の黒人奴隷の拉致と酷使など大きな犠牲をともなっておこなわれている。

中国は19世紀後半の清朝末以後ヨーロッパ諸国と日本の植民地・半植民地となり、収奪の対象となった。中国がこのくびきから脱したのは1949年10月1日に中華人民共和国が成立してからである。それが本格的に現代化への道を進むようになったのは、ほんの30年ほど前の1978年12月の改革開放政策への転換以降である。その発展はめざましい。それは数千年にわたる中国文化の成果である。

今日、日本は全世界的な経済的大不況のなかで前途を模索している。現在の日本の政治的混迷はその反映である。

ロシアは2000年のプーチン大統領の登場とともに世界的な大国として蘇りつつある。問題は今後、ロシアのような領土も広く、人口も多い多民族国家をどのように統治し、発展させ、どのような国にするのかである。同じことは中国についても言える。

ロシアにしても、中国にしても、放っておけば、ばらばらな国になるであろう。一つの国としてまとまり、全ロシア、全中国で工業化を進めるとなると、相当強く中央から指導・推進をしないと、それは不可能である。「中央集権的・権威主義的」にならざるを得ない。

しかし、一定程度、工業化が進むと、社会が多様化する。私はソヴェト体制が崩壊した背景には、ソヴェト体制下での工業化の進展によって「ソヴェト社会が物言わぬ農民の社会から物言う市民の社会になった」ことがあると考えている。同じことが今後のロシアについても、中国についても言えると思っている。「工業化の発展は人間を変え、社会を変え、国家体制を変える」と。

『2020年のロシア:未来のためのシナリオ』は政治的カレンダーにもとづく上記の三つのシナリオの他に、つぎのような十のシナリオをあげている。

①世界的危機の第二の波と原料価格の下落。②プーチンなきロシア。③近隣諸国の不安定化。④軟い崩壊。⑤エリートの分裂。⑥モスクワの不安定化。⑦第三次カフカス戦争。⑧民族主義者のクーデター。⑨ヨーロッパ選択。⑩ブロガー革命。

私がこのなかでもっとも注目しているのは第三次カフカス戦争とそれに関連するロシア内外の不安定化である。2014年にソチで開催される冬季オリンピック大会を契機として大規模な社会的爆発が起こる危険があるという。そして、もし、これが2014年までに起こらなければ、オリンピック準備でふくれあがった連邦補助金の削減が不安定要素となり、オリンピック後に現在のだらだらと続いている国内戦争が反植民地戦争に転化する可能性があるともいわれている。そうなると、ロシアは大変である。発展の軌道が変化する。

さらに、2008年8月26日に当時の大統領メドヴェージェフは南オセチアとアブハジアのグルジアからの「独立」を承認した。グルジアは国の西部にあるアブハジアと中央部にある南オセチアを切り取られた。いずれもロシア連邦と国境を接する地域である。グルジアはこれらの独立を認めていない。しかし、ロシアのこの行為は両刃の刃である。将来、この南オセチアがロシア連邦に属する北オセチアと合併し、「オセチア共和国」となった場合、ロシアは承認せざるをえないであろう。同じことはチェチェンについても言える。となると、ロシアの南オセチアとアブハジアの「独立承認」は、この地域の問題の解決に独立という新しい道を示した「英断」とも言えるであろう。

カフカスの国内戦争が反植民地戦争に転化し、これがザカフカス(大カフカス山脈の南部)に飛び火し、ロシアとグルジアとの本格的な戦争に発展すれば、これまた、ロシアにとってはいっそう大変なことである。

カフカスはロシアの指導者にとってアキレス腱である。レーニンもカフカス問題、とくに、グルジア問題には大変気を遣っていた。ロシア人は長い歴史を持ち、知的水準の高いグルジア人に一目おいていた。

たとえば、1922年12月30日にソヴェト同盟が発足したとき国家元首である中央執行委員会議長にロシア人のカリーニンが就任したが、実質的な同委員会の責任者である書記にはグルジア人のエヌキッゼがなった。これはソヴェト内に多数存在するロシア人以外の諸民族をグルジア人が代表することを意味した。エヌキッゼは1935年5月3日までその職にあり、その後、ロシア人がその職を務めたが、第二次大戦後の1957年2月12日から1989年5月25日まで30年間以上、グルジア人のゲオルガッゼとメンテシャシュヴィリが二代にわたり、名称の変わった最高会議幹部会書記の職を占めた。メンテシャシュヴィリがその職を辞したのは最高会議幹部会が廃止され、代わって、国家元首職となった最高会議議長にゴルバチョフがなったからである。つまり、グルジア人はソヴェト同盟の発足時と解体直前時に国家元首に次ぐ地位に就いていたのである。

実は1922年4月10日にロシア共産党中央委員会書記長に就任して以来1953年3月5日に死去するまで30年間余、ソヴェトの最高指導者であったスターリンはグルジア人であった。私はこのことが当初、良く理解できなかったが、のちにロシアにとってのグルジアのもつ重要性を知って、スターリンの政治家としての資質もさることながら、彼がロシア人ではなく、グルジア人であったからこそ、ソヴェトがまとまり、その最高指導者の地位を死ぬまで維持できたのではないかと考えるようになった。

ソヴェト時代最後の国勢調査となった1989年の資料によると、この年のソヴェトの総人口は2億8千万人ほど、そのうちロシア人は1億4千万人ほど、人口の半分ほどは非ロシア人であった。この非ロシア人を味方にしなければ、ソヴェト同盟は成り立たなかったのである。

ソヴェト同盟が解体し、ロシア連邦だけになると、2002年の総人口は1億4500万人ほどに減り、そのうちロシア人は1億1500万人ほど、非ロシア人は3千万人ほどとなった。このうち一民族で100万人を超えるのはタタール人555万人、ウクライナ人294万人、バシキール人167万人、チュバシ人163万人、チェチェン人136万人、アルメニヤ人113万人などである。アゼルバイジャン人は62万人、イングーシ人は41万人、グルジア人は19万人ほどである。ロシア人はこれらロシア連邦内の多数の非ロシア人だけでなく、近隣諸国の非ロシア人とも仲良くしなければならない。

もし、第三次カフカス戦争が起こり、これが近隣諸国に拡大すればどのようなことになるのか。カフカス問題、グルジア問題はプーチンにとって思わぬ落とし穴になる可能性がある。

現代化は人類共通の歴史的大事業であり、それはさまざまな困難をともなう。その解決の仕方は人により、社会により、国家により、地球社会の各地域でさまざまである。どれが良いというのではない。それはそれぞれの人が、それぞれの社会が、それぞれの国家が試行錯誤のなかで決めることである。私たちはそれぞれの人、それぞれの社会、それぞれの国家の試みを歴史的な長い視野を持って温かい目で見る必要がある。

人間はそれぞれの人間の大きさに合わせて歴史をつくる。それ以上のものはつくれない。社会も、国も、地球社会もそうである。人間を大きくしなければならない。

5. ロシアと中国の権威主義的現代化 : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

ボボ・ロ/リリア・シェフツォーワ共著『21世紀の神話-ロシアと中国における権威主義的現代化』によると、ロシアと中国の権威主義的現代化はわれわれの時代の偉大な神話の一つである。中国は近年、権威主義的現代化、権威主義的資本主義、国家資本主義とさまざまに呼ばれている新しい経済「モデル」のためのポスター・チャイルド、イメージ・キャラクターである。

経済発展は賢明な家父長主義的国家によって「上から下」的にもっともうまく管理されるという考えがとくに流行しているのは、全地球的な財政危機のあとである。この危機は先進西側経済の弱さをさらけだしているだけではなく、民主的自由主義そのものの価値に疑念をいだかせている。西側の失敗に対して、中国とロシアの経済的成功が続いていることは(ロシアの程度は中国より低いが)、発展のためのよりいっそう約束された道を示唆しているかのように見えている。

ボボ・ロとリリア・シェフツォーワはこのような考え方に反対し、権威主義的現代化の考えは実際にはセルフサービス的な幻想であるという。

ロシアでは権威主義は顕著に増大しているが、現代化はきわめて少ない。他方、中国はめざましい転換を経験しており、それは経済的自由主義化と「下から上」的改革に導かれている。

民主的自由主義への現実の脅威は世評の「中国モデル」のごとき民主的自由主義と競っている価値体系から来ているのではなく、民主的自由主義の中から来ているのである。政治的・経済的停滞、精神的自己満足、さまざまな価値に対する選択的態度が西側自由主義を現在の危機に導き、権威主義的現代化の神話をつくりだすのを助けている。

この書は「神話」を勝手につくりだし、それを否定している感なきにしもあらずだが、西側自由主義の自己認識を理解し、ロシアと中国の現代化を比較・検討するのには参考になる。

4. 「2020年のシナリオ」とプーチン/メドヴェージェフの「2020年のロシア」 : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

(1) 2020年のシナリオ

2020年に予想されているロシアのシナリオはつぎの三つである。

1 穏健に現代化されたロシア。『早く来すぎたプーチン、プーチンは改革者』

現在の路線の延長線上にあり、進化したもの。現行政治システムの基本的諸要素は維持され、「統一ロシア」が新しい権力党(与党)に変わることも含めて、諸政党の役割と自立性が強化される。これは現在よりも大きな権力分立と政治的競争の強化を求める。競争の強化は再政治化と政治参加の積極化の可能性を増大する。

かくして、2002-2003年の状況への回帰が、もちろん、若干の修正をともなって、新しい螺旋型の環において起こる。地方首長の直接選挙と上院(連邦会議)の真の地方代表機関化を含む、連邦主義の諸要素が復活する。経済では経済活動に対する国家の介入が弱まり、市場的性格がいっそう深まる。社会部門では保健・教育分野での質の低下が続き、もっとも積極的で教育をうけた起業家たちの海外流出が続いており、悪化が長引いている。イデオロギーの面では折衷的要素が強まっている。対外政策の面では力の諸中心間の均衡が続いている。

「穏健」は危機の可能性をまったく排除しない。その原因は変革の動きがさまざまであり、一様でなく、その間の矛盾、とくに、水平的・垂直的権力の分割と関連した矛盾が増大するからである。「穏健な現代化」のシナリオ内のシステムの諸要素が修正されたり、「現代化+」、もしくは、「権威主義化」のシナリオに移行しうるからである。

2 急進的に現代化されつつあるロシア。『ペレストロイカ=2、ネオ・ゴルバチョフ』

「穏健な現代化」、すなわち、諸政党に対する「上から」の統制は完全な二党制もしくは多党制のシステムをつくることを排除する。このためには権力の実際の分割と政治制度の強化をも前提とする「急進的現代化」が必要である。これは軍隊・警察などの実力機関に対する統制を含む、政府の活動に対する実際の統制を実行する完全な代表機関に議会を徐々に変えることをとくに意味する。おそらく、議会制統治制度がこの機能により良く適合するであろう。

権力と影響力のある市町村・地方レベルを有する完全な連邦主義も確立されるが、これらの地方自治体は独自の租税基盤によって保障された広範な一連の機能を実行する。

実業は権力から分離され、市場経済が強化される。国家は主として調整機能を果たし、現実の部門における国家の存在は最小化される。社会はさらに躍動性をおび、市民の社会的・地域的流動性は高まる。国内の住民の移動は増大し、外国への移住は激減する。対外政策ではヨーロッパ統合主義的傾向が強まる。

「急進的現代化」の道には発展の不均等と関連した水中の石が他の場合よりも多く、危機の可能性も高い。危機の一部はシステムを強化するが、一部は発展の軌道を権威主義化へと向かわせる。

3 権威主義化へ向かいつつあるロシア。『スターリン・ライト』

政治システムにおいて個人的要素が強まり、選挙が完全に骨抜きとなり、最終的に忠誠心を示す儀式となり、偽物の政党により構成される一党半システムになりはてる。この種の例となりうるのは、ベラルーシ、カザフスタン、および、一部のその他のポスト・ソヴェト体制である。

権威主義的モデルの枠内で実行されるのは、統治をしやすくするために諸地域を拡大すること、または、8連邦管区を完全な「一つの階」の権力組織とすることである。いずれの場合も中央集権的・一元的傾向が強まる。

垂直的な各段階の権力組織の活動をいっそう厳格に調整し、それらの権力組織を拡大し、諸主要派閥の利益を調停するために「ポリトビューロー(政治局)」をつくることも求められる。軍隊・警察などの実力機関の役割を強化し、政治的競争が存在しないのを補う粛清機関を導入することも避けられない。

経済では権力エリートに完全に従属している「国家コーポレーション」と「仲間による個人ビジネス」の領域が拡大する。中央集権的政府によりいっそう厳格に調整される賃貸料の再分配をともなう「賃貸料追求モデル」が強まる。

国家と社会との関係では「家父長主義的モデル」が強まり、「包囲された要塞」の感情が広く行き渡る。このような路線はこれに賛成しない人々の大量出国をもたらし、同時に、民族主義的傾向を増大させる。これは一部の民族地域の非統合、事実上の分離に至る民族間紛争の脅威をはらんでいる。外の世界との関係でも紛争の諸要素が強まる。

権威主義化のシナリオのもとでの紛争と危機はつぎのことによって起こりうる。エリート派閥とコーポレーションが内部で競争すること、ロシアのような大きな国を中央集権的に統治することが本質的に不可能なことに加えて不均等に発展すること、統治の効率がいっそう低下すること、外からの挑戦に適切に対応できないことなどである。

(2) プーチンとメドヴェージェフの「2020年のロシア」

2008年2月8日、当時大統領であったプーチンはクレムリンの下院拡大会議で「2020年までのロシアの発展戦略」と題してつぎのように演説した。

ロシアの未来と私たちの成功がかかっているのは、人々の教育と健康、自己の習性と才能を自己完成し、利用しようとする人々の志向である。ロシアは人間が一生においてキャリアを増やし、社会的・物質的地位をいちじるしく高めるための可能性でもっと良くなければならない。私たちの経済の効率を急激に高める課題を解決するさいに、私たちはあらゆる方向に動けるように刺激と条件をつくりださなくてはならない。

提起されている目標を実現するためには、国家統治に対するまったく新しい要求が必要である。このような巨大な国家セクターが国家にとって手に負えなくなり、何の役にも立っていないことは明かである。多数の施設および組織は市場に合致しなければならないし、それが存在している事実に対してではなく、結果に対して支払いを受けなければならない。その指導者は統治の質に対して個人的責任を負わなければならない。

民主主義国家は市民社会の自己組織化の効果的道具とならなければならない。私たちの民族問題を解決するためには、国際関係の平和的な、肯定的な工程表が私たちに必要である。もっとも重要なのは、国の発展計画がロシア社会のすべての構成機関が参加する広範な審議を経ることである。このような審議は一つの話し合いでは終わらない。結果はロシア連邦政府による2020年までの国家の社会・経済発展の基本理念と上述のすべての方向にわたる具体的行動計画の採択である。

今日、私たちは、生活の質を変え、国と国の経済および社会領域の質を変える、きわめて野心的な課題を提起している。ロシアには勤勉な、教育ある人々がいる。ロシアには膨大な天然資源と豊かな科学的潜在力がある。提起されている目標の達成を許さない重大な理由など何一つもない。私たちの国が今後も、世界のリーダーの一つとしての地位を強化し、私たちの市民が満足に生活することを、絶対的に確信している。

2008年2月15日、当時  第一副首相であったメドヴェージェフも第5回クラスノヤールスク経済フォーラムで「2020年のロシア国の主要発展課題」と題して演説した。

彼はまず1週間前におこなわれた2020年までの国の主要発展方向についてのプーチン大統領の演説に触れ、次のように語った。

これは、良き生活基準を提起する社会、人々の才能と能力を自立的に実現するために平等な可能性を与える社会の建設である。これは、イノヴェーション型の経済発展と経済効率の顕著な向上である。最後に、これは広範な中産階級の形成である。このようなロシアは、市民が偉大な過去だけではなく、現在を誇りにしている国となるであろう。

私たちの国は現代世界の中で生活のための良き場所である。これらの方向は野心的であり、絶対に現実的である。その実現のためには責任ある一貫した政策が必要である。その政策の中心にあるのは、人々であり、数百万のロシア家族の未来である。

私たちの政策の基礎にある原則は、高い生活基準の達成をめざしている、すべての現代国家の活動においてもっとも重要と考えられているものである。それは、「自由は不自由よりは良い」という人間経験の精髄である。問題は個人の自由、経済的自由、さらには、自己表現の自由など自由が表れるすべての場における自由である。

私たちがこれからの4年間に集中すべきことは、基本的な方向とつぎの四つの独特な「I」に向けてである。Institute(教育研究機関)、Infrastructure(基本設備)、Innovation(技術革新)、Investment(投資)である。

プーチンとメドヴェージェフのこの演説はプーチンが8年間の大統領の任期を終え、代わってメドヴェージェフが大統領選挙に出馬し、当選し、大統領になる直前におこなったものである。これは二人の2008年大統領選挙に向けての選挙公約であった。その後、彼らはメドヴェージェフが大統領、プーチンが首相として4年間、「双頭」政治をおこない、今回、2012年にふたたびプーチンが大統領、メドヴェージェフが首相になった。2008年の彼らの「2020年のロシア」はいまも生きている。

3. 三つの分岐点と三つのシナリオ : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

(1)  2012年の分岐点

ロシアにとって時期的にもっともはやい「計画的」分岐点は2012年の大統領選挙である。このプロジェクトが始まった2010年秋に、私たちは、2012年の選挙の後もウラジーミル・プーチンがロシアの指導者であるだろうと予想していた。このさい、つぎの二つの場合が考えられた。

  • 公式の指導者と実際の指導者が同じ人物である場合「V1.」。
  • 公式の指導者と実際の指導者が別の人物である場合(双頭支配) 「V2.」。

「V2.」は政治的領域でマヌーバー(策略)をおこなうことを困難にするか、もしくは、封じてしまうので、現実性は乏しかった。このさい、現状維持の選択は双頭政治の当初の形を維持することにはならない。というのは、ドミトリー・メドヴェージェフが二期目の大統領として残った場合には、彼の陣営の立場を本質的に強めるからである。公式指導者を変更することによって現状の維持を図ったのである。

「V1.」はプーチンの大統領職への復帰を含むさまざまな方法で実現することが可能であった。「グルジア流」では首相を公式の指導者に変えるという憲法の改定によってであり、「ソヴェト流」では「権力党(与党)」の書記長(プーチン)を実際の国家元首にすることによってである。大統領に選出された人が誰であるかによって、政治的現代化の早さ、深さ、性格そのものがさまざまになりうる。

(2)  2013―2014年の分岐点

このつぎの分岐点は2013年から2014年(もしくはそれよりも早く)になるであろう。そのときに権力は国家の経済的可能性に応じて支出を削減し、社会政策を建て直さなければならないであろう。その結果、権力と社会との関係も建て直されるであろう。

この段階でV1.はつぎの三つの方法で実現される。

  • 反動的現代化「V1.1.」。
  • 政治的現代化の要素を有するスタグネーション(停滞) 「V1.2.」。
  • 権威主義的傾向の強化(権威主義化) 「V1.3.」。

これら三つのいずれの場合でも、政治的競争が増大するのを実際上避けられない。このことは地域集団を含む主要利益集団の諸利益を調整する(現在は存在しない)機関を求める。

権威主義化「V1.3.」の場合、政治的競争は破壊的要素となり、個人支配的・一元的体制の基礎を浸食する。ショック療法を伴う急激なマヌーバーという選択や家父長主義的モデルへの回帰もありうるが、可能性は低い。

公式の権限と非公式の権限が別のままである場合「V2」、最低限必要な政治的現代化さえ

実施不可能である。危機とエリートの分裂を経て「V1.2.」もしくは、「V1.1.」にさえ至るが、その可能性は低い。

(3)  2016-2018年の分岐点

第三の「計画的」分岐点は2016-2018年の一連の選挙と結びついている。

反動的現代化「V1.1.」は支配的エリートの統制下にとどまって、続くであろう「V1.1.2」。もしくは、現代化+(ゴルバチョフ流)となる可能性もある。ここでは上からの統制より離脱する過程が始まる「V1.1.1」。

スタグネーション「V1.2」は経済的・政治的危機を経て、穏健な現代化「V1.1.2」か、もしくは、権威主義化「V1.2.2」に移行する。

最後の基本的シナリオとしてはつぎの三つがある。

  • 穏健な現代化「V1.1.2」-「V1.2.1」。
  • 現代化+「V1.1.1」。
  • 権威主義化「V1.2.2」。

以上を要約すると、つぎのようになる。

2012年の大統領選挙が終わった段階では、公式の指導者と実際の指導者が同じ人物である場合「V1.」と公式の指導者と実際の指導者が別の人物である場合(双頭支配) 「V2.」の二つのシナリオがあった。

それが2013―2014年の段階でV1.は、反動的現代化「V1.1.」、政治的現代化の要素を有するスタグネーション(停滞) 「V1.2.」、権威主義的傾向の強化(権威主義化) 「V1.3.」の三つの方法で実現されることになった。

さらに、それが2016-2018年の段階では、穏健な現代化「V1.1.2」-「V1.2.1」、現代化+「V1.1.1」、権威主義化「V1.2.2」の三つのシナリオとなった。

2. ロシア発展のシナリオと世界的枠組みおよび国内的要素 : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

本書の編者たちは、2020年までのロシア発展のシナリオを規定するものとして、現在の世界秩序とその中でのロシアの地位といった世界的枠組みとともに、ロシアの体制に転換を促すつぎの四つの国内的要素をあげている。

第一は体制転換の動因となるドライバー (drivers)、具体的には経済と統治である。

第二は体制転換の引き金となるトリガー (triggers)、具体的には統治の機能不全と国内の政治危機、および、システム内に蓄積されている内的緊張の噴出である。

第三は体制の危機を示すリスク(risks)、具体的にはロシア社会が内包する危険である。

第四は体制転換の分岐点となるクロスロード(crossroads)、具体的には大統領選挙や下院選挙である。

そこで、まず、これらの世界的枠組みやロシア国内の諸要素を検討しよう。

(1)  世界的枠組み

基本的な対外的枠組みとしてあげられているのは、全体的な世界政治経済秩序とそこでロシアが占める地位である。ロシアの経済と政治が大きく依拠しているのは、世界経済、なによりも、化学原料、とくに、石油、ガス、その他の炭化水素の価格動向である。化学原料の価格動向の影響は直線的でないだけでなく、一方向的でもない。

たとえば、引き続く価格の高騰は経済の単純化、および、政治システムの単純化と関連した「ロシア病」の深化をもたらすだけではない。エネルギーの高値は、別の結果として、世界経済発展の鈍化と原料需要の低下をもたらす。そのことはまた原料モデルそのものの基盤を破壊する。

ロシアの近隣諸国を含む旧ソヴェト地域で起こっている過程もきわめて重要である。それは、ときにはロシアの力の追加的源泉(ロシアとの共通の労働・資本市場、消費市場)となれば、ときには弱化の源泉(西側の労働力と注意を引きつける競争)となる。

ソヴェトと違ってロシアは開かれたシステムである。いまではロシアは外国から財的資本と人的資本を導入するためだけではなく、自国の資本を保持するために厳しい競争をしなければならない。

(2) ドライバー(動因)

システムの変更を条件づける動因となりうるのは経済と統治である。経済はシステムの活動を維持するために、つねに財政資金の増大を保障しなければならない。システムの効率がつねに低下しているのであるから、統治は改善されなければならない。経済と統治の二つの要因は相互に関連している。

財政資金の増大がなく、統治の不効率が増大するのを償えないときには、システム内の緊張を増大させることになり、改革を促すことになる。このとき、経済と統治におけるそれほど大きくない停滞でさえ、重大なシステムの危機へと向かい、別の軌道への転換をもたらすことになりうる。

ロシアのエリートにも、市民にも、システムを発展させるための独自の、内的なエネルギ―がない現在、システムは反動的な発展モデルを求める。このようなエネルギーが現れても、それを建設的な方向に振り向けさせるメカニズムは存在しない。

(3) トリガー(引き金)

変革のメカニズムを稼働させる引き金となりうるのは、統治の機能不全と国内の政治危機、および、システム内に蓄積されている内的緊張の噴出である。カフカス(コーカサス)における制御不能となった民族間緊張の増大はこの内的緊張の噴出の例である。ねじ山の損傷だけでなく、ねじをきつくしめようとする試み、もしくは、逆にねじをゆるめようとする試みも引き金となりうる。

システムのさまざまな部分の変更と行動の不一致も発展の非慣性的シナリオへと導くシステムの機能不全を促進する。このような事態の進行が可能となるのは、2011年末の政治的危機の発展のときである場合や、来るべき2012年から2013年にかけての時期に、諸政党が未発達で、社会的緊張を放出するチャンネルが存在しない中で、よりいっそう厳しい社会政策へと移行する場合である。

1989年におこなわれた比較的自由な選挙も強い引き金となりうる。このさい、一つの強力な振動は必ずしも必要ない。システムを変革へと進ませる幾つかのより小さな要素があれば十分である。

(4) リスク(危険)

対外的危険は世界における経済的・政治的不安定と結びついている。経済危機、もしくは、原料需要と原料価格の低下は2008-2009年の諸事件が示したように、ロシア経済に大きな痛手を与える。もう一つの対外的危険はロシアの国境地帯の深刻な不安定、とくに、中央アジアの危険な不安定である。

このような危機は多くの国内的な危険をも引き起こす。そのうちのもっとも重要なものの一つは北カフカス(大カフカス山脈の北部)の絡み合った諸問題である(北カフカス諸共和国における緊張とテロ活動のいっそうのエスカレーション、民族間紛争の先鋭化、モスクワおよびその他の中心地での大規模なテロ行為)。北カフカスの挑戦は、多くの場合、統治制度の弱さ、汚職等々、全ロシア的問題である。

この他、危機の原因となっているのは、老朽化したインフラストラクチュアによる人為的事故であり、大惨事である。社会的インフラストラクチュアの低下、とくに、保健・教育における過去20年間の急激な悪化がつぎの10年間に急激な崩壊をもたらすであろう。財政機関も、統治機関も、ここで指摘した否定的な結果を防止することができず、縮小できない。好ましくない環境が重なりあって、それらはいっそう深刻になる可能性がある。これから先10年間現状を維持することは本質的に不可能である。

200年前に作家ゴーゴリは「ロシアの主要問題は馬鹿と悪い道路である」と述べた。今流に言えば、「統治(官僚)とインフラストラクチュア」である。

なによりも全地球世界と結びついた新しい危険もある。それは住民のうちのもっとも地位が上昇した部分である起業家たちの大量出国と外国市場への従属である。

1. ロシア、プーチンの時代終わり、政治的発展の乱気流期に入ったか : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

「プーチンの時代は終わった。ウラジーミル・プーチンは最初に大統領になってから11年間ロシアの争う余地のない国家指導者にとどまり続けるだろう。加えて、2011年に彼はさらに12年間大統領職に就くべく登場している。しかし、21世紀の最初の10年間にプーチンの指導下でつくられた政治経済システムはほとんど使い尽くされている。それは急激に変化する諸条件に適応できていない。プーチンと彼のチームはこれから先の年月も権力の座にとどまり続けることを望むなら、多くの修正をおこなわなければならない。」

以上が英語版の「結論」の冒頭の言葉である。

これに対してロシア語版の「結論」の最初の言葉はつぎのようになっている。

「2011年秋にロシアは政治的発展の乱流期に入った。これはロシア下院(ドゥーマ=国家会議)選挙とロシア大統領選挙および権力の全体的配置の変更にともなって生じたものであった。このさい政治的動きはいちじるしく加速化し、複雑化した。2011年11月までに書かれたことは、この結論が書き終えられつつある同年12月末の今日、ところどころは、アナクロニズム(時代錯誤)として、一部は、洞察力として受け取られている。」

さらに、ロシア語版の「結論」はつぎのように述べている。

「プーチンの時代は終わった。このことからプーチン自身がただちに権力から去るということにはならない。しかし、2000年代にプーチンの指導下でつくられた政治経済システムの命運は尽きた。それは急激に変化する諸条件に適応できていない。権力を維持するためには本質的なペレストロイカ(建て直し)が求められており、その兆候はすでにあらわれている。かつては、原料価格の高騰によって、資金の流入は常に増大し、経済の急速な成長が保障された。権力は必要な物をすべていつでも買うことができた。国民の信頼を得、起こってくる諸問題を解決することができた。この結果、政治システムと統治システムは、きわめて単純であり、いちじるしく肥大化した。システムの転換が不可避になった。最初の危機は2011年末に始まった。」

プーチンはなおロシアの最高指導者として存在しているが、彼が2000年代の最初の10年間につくりだした体制はもはや死んでいる。新しいペレストロイカが必要である。それをしなければ、プーチンは2010年代の10年間、最高権力者の座を維持することができず、その座から放り出される。これが「結論」の考え方である。

プーチンがこれにどう対応するのか。2020年のロシアはどうなっているのであろうか。

2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

UU講義・研究資料を複数回に分けて掲載いたします。―事務局

ユニバーサル・ユニバーシティー (UU) 講義・研究資料 中西 治 2012年9月8日

2020年のロシアとロシア・中国の現代化

はじめに

米国のカーネギ国際平和基金 (The Carnegie Endowment for International Peace) はソヴェト体制崩壊後の1993年にロシアの首都モスクワにモスクワ・センターを開設し、調査・研究活動を開始した。

同センターは2012年8月に同センター編『2020年のロシア:未来のためのシナリオ』(英語版とロシア語版)とボボ・ロ(Bobo Lo)/リリア・シェフツォーワ(Lilia Shevtsova)共著『21世紀の神話-ロシアと中国における権威主義的現代化』(英語版)を発刊した。

前書の研究プロジェクトは2010年はじめに開始され、ロシアから15人、米国から10人、ヨーロッパから5人、計30人の研究者が参加した。このうち、29人が同書に研究論文を寄稿し、「世界の中のロシア」、「政治経済と経済学」、「政治システム」、「国家」、「地方」、「社会と市民社会」、「イデオロギーと文化」などの7部にわたって論じている。

「序文」と「結論」は同書の共編者である同センターのマリヤ・リップマンとニコライ・ペトロフが共同で執筆している。

後書のボボ・ロは独立した中国研究者であり、リリア・シェフツォーワは同センターのロシア国内政治研究者である。

前書『2020年のロシア:未来のためのシナリオ』のロシア語版は英語版の完全な厳密な翻訳ではない。英語版とロシア語版は文章の順序も内容も異なり、それぞれの読者にふさわしい解説的な文章が入っているところもある。

ここでは前書の英語版とロシア語版、後書英語版を参照しながら、両書の内容を簡単に紹介する。まず、前書の紹介から始める。