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ビッグ・ヒストリー初の語句集

のぶおパレットつじむら

「宙(そら)読む月日」第7回

円高の昨今、洋書を買うにはお得な時期が続いています。そんなわけで、今日は年末に我が家に届いた一冊デイヴィッド・クリスチャンほか編『バークシャー精選語句集 ビッグ・ヒストリー』を紹介します。これは『バークシャー世界史事典』第2版からビッグ・ヒストリーに関連した項目を集めた160ページほどの語句集です。(*17)

バークシャー出版社からはすでに同事典の初版からクリスチャンの単著『この儚き世界』がリリース(刊行)されています(*18)ので、今回の本はビッグ・ヒストリーがらみのスピンオフ(派生品)の第2弾となるわけです。

ユニヴァーサル・ヒストリーの復活
冒頭のクリスチャンによる「序論」は、『時間の地図』初版から第2版までの自分の研究をコンパクトにまとめた小論にもなっています。(*19) 一部を紹介します。

クリスチャンさんは、ユニヴァーサル・ヒストリーは古来の伝統だと言います。過去のほとんどの社会は、自分たちの住む宇宙と自分たちの共同体の存在と本質を明らかにすべく、利用可能な最善の情報を用いて、過去全体の一貫した統一的説明をつくりあげようとしてきたからです。

キリスト教世界では宇宙はおよそ5000から6000歳で、地球がその中心にあるとするキリスト教の宇宙論が、1500年間支配的でした。科学革命がキリスト教宇宙論の信用性を掘り崩した後ですら、歴史思想家たちはニュートン的な科学にもとづいてユニヴァーサル(普遍的)な時間と空間の地図をつくろうとしました。ヘーゲル Hegel とマルクス Marx が歴史を書いたのも、そのような伝統の中でのことでした。ランケ Ranke でさえ、晩年には自分でユニヴァーサルな歴史を書こうとしたのです。

けれど、ユニヴァーサル・ヒストリーの伝統は、19世紀末に突如決定的に消え入ります。ほどくなくして、H・G・ウェルズ Wells が『歴史のあらまし』(邦訳『世界文化史大系』)を著し、ユニヴァーサル・ヒストリーを試みました。この仕事はプロの歴史家には無視されましたが、それにはおそらく十分な理由がありました。ウェルズの叙述は時代を下れば下るほど、憶測にあふれ、確かな情報はほとんどなかったからです。ウェルズの時代にはやりたくてもやれなかったのだ、というのがクリスチャンさんの見解です。

60年前、自信をもって決定的な年代を言うことができたのは、書かれた記録が残っている場合だけでした。数千年以上前となると、信頼できる時系列はなにひとつ引けず、それ以前にいたっては年表のもやのようなものの中に姿を消していきました。ところが、1950年代にウィラード・リビー Willard Libby が炭素14の規則的放射性崩壊にもとづいた放射性炭素年代測定の信頼できる技術を初めて確立します。この方法は改良され、広く応用されて、他の年代測定技術と合わさって宇宙の起源にまでさかのぼり、わたしたちは今や19世紀には考えられないほどの厳密さと精確さでユニヴァーサル・ヒストリーを研究できるようになりました。

クリスチャンさんはこれを「年代測定革命 chronometric revolution」と呼び、それが現代においてユニヴァーサル・ヒストリーがビッグ・ヒストリーという新たな形で復活した主因だと主張します。ここではユニヴァーサル・ヒストリーとビッグ・ヒストリーではユニヴァーサル・ヒストリーのほうが古く、ユニヴァーサル・ヒストリーの現代的形態がビッグ・ヒストリーであるという言い方をしています。

収録語句一覧
執筆者別の担当項目は以下の通りです。人名の後のカッコの中にはおおまかな専門と現在の所属機関が記してあります。

     デイヴィッド・クリスチャン David Christian (ビッグ・ヒストリー、豪 マッコーリー大学)
        「序論:ビッグ・ヒストリー」 Introduction: Big History
        「アニミズム」 Animism
        「人新世」 Anthropocene
        「創世神話」 Creation Myths
        「人口成長」 Population Growth
        「宇宙の起源」 Universe, Origins of

     マーク・ネイサン・コーヘン Mark Nathan Cohen (人類学、米 ニューヨーク州立ニューヨーク大学)
        「扶養限度」 Carrying Capacity

     ヴィルフリート・ヴァン・ダメ Wilfried van Damme (アート史、独 ライデン大学 、ベルギー ヘント大学)
        「旧石器時代のアート」 Art, Paleolithic

     D・ブルース・ディクソン D. Bruce Dickson (人類学・考古学、米 テキサスA&M大学)
        「飼育栽培、植物と動物」 Domestication, Plant and Animal
        「絶滅」 Extinction

     ドナルド・R・フランスシェティ Donald R. Franceschetti (物理学、米 メンフィス大学)
        「宇宙論」 Cosmology

     ヨハン・ハウツブロム Johan Goudsblom (社会学、蘭 アムステルダム大学名誉教授)
        「人類圏」 Anthroposphere

     ポール・ホーム Poul Holm (環境史、アイルランド ダブリン大学トリニティ・カレッジ)
        「大洋と海」 Oceans and Seas

     ジャック・D・アイヴス Jack D. Ives (地理学、カナダ カールトン大学)
        「山脈」 Mountains

     クリストファー・C・ジョイナー Christopher C. Joyner (国際法学・南極、米 ジョージタウン大学)
        「氷河期」 Ice Ages

     ミュレイ・J・リーフ Murray J. Leaf (社会人類学、米 テキサス大学)
        「農耕社会」 Agricultural Societies

     ジェイムズ・ライド James Lide (ヨーロッパ史、米 ヒストリー・アソシエーツ有限会社)
        「古代のオセアニア」 Oceania, Ancient

     ジェイムズ・ラヴロック James Lovelock (地球科学、英 独立した研究者)
        「ガイア理論」 Gaia Theory

     アダム・M・マッキーオン Adam M. McKeown (グローバル・ヒストリー、米 コロンビア大学)
        「移民」 Migration

     J・R・マクニール J. R. McNiell (環境史、米 ジョージタウン大学)
        「生物の行き交い」 Biological Exchanges
        「人口と環境」 Population and the Environment

     ウィリアム・H・マクニール Willam H. McNeill (世界史、米 シカゴ大学名誉教授)
        「疫病」 Diseases
        「熱帯園芸」 Tropical Gardening

     ジョン・ミアーズ John Mears (世界史、米 サザン・メソディスト大学)
        「人類の進化」 Human Evolution

     アンソニー・N・ペナ Anthony N. Penna (環境史、米 ノース・イースターン大学名誉教授)
        「気候変動」 Climate Change

     オリヴァー・ラカム Oliver Rackham (植物学、英 ケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・カレッジ)
        「樹木」 Trees

これらは元来世界史の事典項目として書かれたため、これらを通読すればビッグ・ヒストリー研究の概要がわかるというものではありませんが、一瞥して、ビッグ・ヒストリー、すなわち人間の歴史を宇宙の歴史からとらえ返すにはエコロジーの視座が必要だと感じさせる布置です。ecologyはふつう「生態」と訳されます。平たく言えば生物と環境の相互関係のことです。だから、必ずしも生態と訳さなくてはいけないということはなく、たとえば「生環相関」と訳してみたり、ecological なんたらと続くときは「生環」なんたらと訳すのもありかなあとここ何年か思っているところです。

さてこの本、全編英語なのにもかかわらず、表紙と裏表紙と扉に『宝庫山精選:大歴史』と中国語(簡体字)で書名が記されています。こんなところから市場の開拓先として中国を意識しているのが感じられます。

「人口と環境」の項目をのぞいてみると、1900年時点の地球の人口は16億2500万人ほどという推計値がのっています。今の中国と日本の人口を足すと、大ざっぱには同じくらい。つまり人口規模で言えば、21世紀初頭の日中平和は20世紀初頭の世界平和に匹敵します。今は16億余の民が戦争なしでやっていけているのです。その意味でも、過日の設立10周年記念総会で真に友好的な日中関係を約し合ったことは地球の平和に大きな意味を持っています。

ビッグ・ヒストリーも本年大きな節目を刻み、質量ともに新たな段階に入りました。国際ビッグ・ヒストリー学会(IBHA)の会員数は11月時点で141名に達し、日本からはわたしと中西治さんが創設会員として参加しました。ビッグ・ヒストリーのネットワークに日本が加わったことを、同学の人びとはたいへん喜んでくださっています。

明年1月16日にはビッグ・ヒストリーで博士論文を執筆予定の大学院生がマッコーリー大学に会し、初の院生カンファレンスを開きます。テーマは「大学院でビッグ・ヒストリーの何を、なぜ、どのように研究するか」です。コメンテーターはクリスチャンさんとサリヴァンさんで、カンファレンスの様子は後日IBHAに報告されます。新年にはこのコラムもパワーアップさせていきます。


(*17) David Christian et al. eds., Berkshire Essentials: Big History (Great Barrington, Mass.: Berkshire, 2011) distilled from William H. McNeill, senior editor, Jerry Bentley et al. eds., Berkshire Encyclopedia of World History, 6vols, 2nd edition (Great Barrington, Mass.: Berkshire, 2010).

(*18) Christian, This Fleeting World (2007) (See note 8) from William H. McNeill, senior editor, Jerry Bentley et al. eds., Berkshire Encyclopedia of World History, 5vols, 1st edition (2005).

(*19) David Christian, “Introduction: Big History,” in Christian et al. eds., Berkshire Essentials; Christian, Maps of Time, 2nd edition [1st edition] (2011 [2004]) (See note 5).

おわりに : ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(3)

中西 治

ビッグ・ヒストリーは生成期の新しい学問である。そこには歴史家、哲学者、文化人類学者、考古学者、経済学者、コンピューター専門家、数学者、地質学者、生化学者などの人文科学者、社会科学者、自然科学者など多種多様な学問の専門家が集っている。

それぞれの専門家はそれぞれの学問を究める努力をしながら、宇宙の始まりであるビッグ・バンに到達した。そして、いま、ビッグ・バンから再出発して、現代を見直している。これまで見えなかったものが見えてくるし、これまで見えていたものが別の新しいものとして見えてきている。

私は2012年2月のモスクワでの国際会議に招かれたが、私のいまの体調ではとても厳冬の2月のモスクワには耐えられない。そこで、これに文章で参加しようと思っている。

「地球の将来―2045年」はきわめて魅力的なテーマであり、知的関心を呼び起こす。

2045年は1945年に第二次大戦が終結してから100年である。この戦争の時代を幼いときに生きてきた者として、20世紀を振り返り、2045年の地球を予測し、さらに、その先を展望できることは大変幸せである。

私たちの研究所はその前身の国際地球宇宙平和研究所から数えて25年、特定非営利活動法人地球宇宙平和研究所の設立から10年、この新しい学問の最先端に立ってきた。

設立10周年にあたり、研究所は中華人民共和国から5人の賓客を迎えて2011年12月18日に横浜の神奈川県民ホールで記念行事を開催する。この催しと2011年9月の中国武漢大学での9.18(満州)事変80周年記念シンポジウムへの参加、および、2012年2月のモスクワでの国際会議への文書参加により、私たちは世界の同僚と本格的に合流する。

最初は一滴の水であったものが小さな川となり、大きな川となり、世界の海に注ぐ。これからも地球と宇宙の平和のため、新しい学問の創造のためにいっそう努力したい。私はこの機会に多年にわたり私たちの研究所を支えて下さった方々に深甚の謝意を表する。

3.国際会議と国際組織 : ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(3)

中西 治

2009年6月 ロシア科学アカデミー・ロシア国立人文大学第5回国際会議「文明史の中のヒエラルキーと権力」

21世紀に入り、ビッグ・ヒストリーへの関心が高まり、国際的な会議を開き、組織を作ろうという動きが出てきた。

最初の大きな国際会議は2009年6月23日から26日までモスクワで開かれた会議であった。この会議を主催したのは、ロシア科学アカデミーのアフリカ研究所、歴史・文化人類学センター、文明・地域研究センターと国立ロシア人文大学歴史・政治学・法律学部であった。この会議では29のパネルが組織された。

第14パネル「マクロ・エヴォリューション:ハイエラルキー、構造、法律、自主的組織(会議主催者:レオニード・E・グリーニン、アレクサンドル・V・マルコフ、アコプ・P・ナザレチャン、フレット・スピール)」でバリー・H・ロドリーグが「改定もしくは革命:マクロ・ヒストリーと人間の生き残り」、フレット・スピールが「ビッグ・ヒストリーと将来」、アレクサンドル・V・ボルダチェフ(ロシア)が「シネルゲチカ(相乗作用)と進化的パラダイム」、エスター・クワエダッカー(オランダ)が「長期的観点からの建設と展望」を報告している。

2010年8月 「国際ビッグ・ヒストリー学会(IBHA)」設立

2010年8月20日にイタリアの地質観測所のアルヴァレスがクリスチャン、スピール、ベンジャミン、ブラウン、ガスタフソン、ロドリーグなどを招いて開いた会合で「国際ビッグ・ヒストリー学会(International Big History Association=IBHA)」の設立が決定された。学会は2011年4月5日に米国ミシガン州の非営利活動法人として正式に認可された。

学会はインターネットを中心として活動し、会員向けのニューズレターを発行している。

その第1号(2011年4月)に掲載されたハシックの講義「石からシリコンまで:科学技術革新の簡潔な概観」を私はこの「ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門」(2)で紹介した。

第5号(2011年11月)には辻村伸雄さんの「日本からのユニバーサル(宇宙地球)ヒストリー」が掲載されている。

国際ビッグ・ヒストリー学会は2012年8月3日から5日に米国ミシガン州グランド・ラピズにあるミシガン州立グランド・ヴァレイ大学で第1回会議を開催する。

2011年5月 ロシア科学アカデミー東洋学研究所「ユーラシア・ビッグ・ヒストリー&システム予測センター(ECBSF)」設立

2011年5月25日にロシア科学アカデミー東洋学研究所の一部として「ユーラシア・ビッグ・ヒストリー&システム予測センター(Eurasian Center for Big History & System Forecasting= ECBSF)」が設立された。

センターのスタッフは所長ナザレチャン、副所長グリーニン、コロターエフ、クールピン、リュビーモフである。

センターは「宇宙、地球、生命、人間の、一つの統一された、学際的な歴史を発展させる」とともに、「地域レヴェルおよび地球レヴェルの社会的・政治的・人口的・人種的・文化的過程についてのシステム予測を発展させる」ことをめざしている。

センターは「Uchitel」出版社、国際ビッグ・ヒストリー学会、「教育」テレビ、ローザ・ルクセンブルグ基金、国際人間生き残り・発展基金、国立モスクワ大学グローバル・プロセス学部と協力する。

このセンターの発足と時を同じくして、ロシア・ヴォルゴグラードの「Uchitel」出版社からグリーニン/コロターエフ/ロドリーグ共編『進化:ビッグ・ヒストリーの展望(Evolution: A Big History Perspective 2011)』英語版、が出版された。

2012年2月 モスクワ国際会議「地球の将来−2045年」(モスクワ)

2012年2月17日から20日までモスクワで国際会議「地球の将来―2045年:世界的規模の動態をモデル化し、予測する:人間とユニバーサル・ヒストリーの展望」が開催される。会議の組織団体は「ロシア2045年」とロシア科学アカデミー東洋学研究所の後援をうけている「ユーラシア・ビッグ・ヒストリー&システム予測センター」である。組織委員会の主要メンバーはロドリーグ、ラナ・ラヴァンディ=ファダイ(東洋学研究所上級研究員)、コロターエフ、チムール・シチョウキン、ナザレチャンである。討論の予備的トピックスは以下の通りである。

  1. 予見できる未来における技術進歩。
  2. 予測モデルをつくる道具としてのユニバーサル・ヒストリー。
  3. 起こりうる未来シナリオ。楽観的シナリオと地球的危機・大悲劇シナリオ。
  4. 惑星的文明の安定性についての心理学的予想。
  5. 戦略「2045年」。第三の千年紀における人間進化の新しいヴェクトル。

2. バリー・ロドリーグ : 人と業績 : ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(3)

中西 治

10代前の先祖はポルトガル・リスボンの人

ロドリーク家の系図によると、バリー・ロドリーグの10代前の先祖ジーン・ロドリーク(Jean Rodrique)はポルトガル・リスボンの人であった。

9代前のジーン・ロドリーク2世から6代前のジョセフ・ロドリーグ(Joseph Rodrigue)までの4人はいずれもカナダのケベックで結婚している。それぞれの結婚年は9代前のジーン・ロドリーク2世が1671年、8代前のレネ・ロデリーグ(Rene Roderige)が1703年、7代前のジーン・ロドリーグ3世が1759年、6代前のジョセフ・ロドリーグ(Joseph Rodrigue)が1779年である。

5代前のフランソア・ロドリーグ(Francois Rodrigue dit Roderick)はカナダのケベックで1791年に生まれ、1827年に結婚し、1878年に米国メイン州ベントンで亡くなっている。

4代前のオリヴィエ・ロドリーグ(Olivier (Meseve) Rodrigue dit Roderick)はカナダのケベックで1831年に生まれ、米国メイン州で1855年に結婚し、1914年に亡くなっている。

3代前のローレンス・ロデリーク(Lawrence Roderick)は米国メイン州で1858年に生まれ、1884年に結婚し、1948年に亡くなっている。

2代前のヘンリー・ロデリーク(Henry Roderick,Sr)は米国メイン州で1884年に生まれ、1916年に結婚し、1937年に亡くなっている。

1代前のヘンリー・ロデリーク2世(Henry Roderick,Jr)は米国メイン州オーガスタで1916年に生まれ、英国イングランドのセント・アルバンスで1943年に結婚し、米国メイン州マンチェスターで1976年に亡くなっている。

当代のバリー・ロドリーグ(Barry Rodrigue、生まれたときはバリー・ロデリーク/ロドリークBarry Roderick/Rodrique)は米国メイン州で生まれ、米国マサチュセッツ州プリマウス・ハーバーで1976年にスーザン・ブレーワ(Suzanne Brewer)と結婚し、子息ケナイ・ロドリーク(Kenai Rodrique)がいる。

記録に残っているロドリーク家はヨーロッパのポルトガルで始まり、17世紀にカナダに移住し、19世紀にさらに米国のメイン州に転居し、今日に至っている。

多才な行動する研究者・教育者

バリー・ロドリーグの経歴によると、彼は1999年にカナダ・ケベック市のラバル大学から一つ目の地理学の博士号を取得し、2000年に米国メイン州オロノにあるメイン大学から二つ目の考古学と歴史の博士号を得ている。

彼は南メイン大学ルイストン=アーバン・カレッジ芸術&人文学部で文化実地調査、人種・種族研究、労働と産業史、民族学、国際研究、歴史考古学、北アメリカ史、人文地理学およびその他の関連問題のコースを教えている。

彼は1859年から1941年までのフランス系アメリカ人企業家の活動を紹介した「トム・プラント(Tom Plant)」を1994年に出版している。2002年には彼がアラスカから入手したフォーク音楽やオーラル・ヒストリーの資料がスミソニアン研究所からリリースされている。

彼はまたメインとケベックの国境地帯を調査し、1790年から1860年までの「カナダ・ロード・フロンティア」についての本を近く出版する予定である。

カナダ、フランス、ロシアなどの国際会議にも積極的に参加し、ロシアのチェチェン問題をはじめとする人権問題についても発言し、行動している。

バリー・ロドリーグはきわめて多才な行動する研究者であり、教育者である。

「文明、ビッグ・ヒストリー、人間の生き残り」

バリー・ロドリーグの最近の主要論文は「文明、ビッグ・ヒストリー、人間の生き残り」『Thought & Action』Fall 2010、である。彼はこの書の冒頭で次のように述べている。

「米国の歴史の教員たちが直面している問題は、今日の多くの地球的な諸結果に対応する適当な基準点が欠けていることである。この問題の根源には時代遅れの骨董品化した社会のモデルがある。私たちの大学では、100年前に存在していた社会を大きく反映していることを、今もなお、教えている。

私は南メイン大学(USM)で教授として働いている地理学者であり、考古学者である。大学で北アメリカと世界研究を教えている。最近10年間、私はこの問題に対応するために格闘している。私がいくらかの成功を収めたのはごく最近のことである。主として、それはビッグ・ヒストリーと呼ばれる新しい研究コースの導入を通じてである。」

ロドリーグは2000年から南メイン大学で教えはじめ、最初、西洋文明を担当した。2年経ったとき彼は西洋文明講義を世界歴史と地理学の連続2コース講義に変えるよう大学当局に提案した。これがいまでは南メイン大学ルイストン=アーバン・カレッジ芸術&人文学部主専攻の必須科目になっている。しかし、これも人間中心と国家を基盤としたアプローチの故に時代の変化に対応できなくなっている。

このようなときにロドリーグは米国でよりいっそう人間的な生態学的なグローバリズムの運動を発見した。それはフランスの活動家がグローバリゼーションとは対照的な「全世界・宇宙化(mondialisation)」と特徴づけたものに似たものであった。教授たちは全地球を根本的基準点とする新しいコースを提起していた。加えて、新しいグローバル・ネットワークが作られ始めていた。

ロドリーグはこのようなときにスピール教授の論文に接した。ロドリーグがスピール教授と初めて会ったのは2004年6月にメイン州ブースベイ・ハーバーで開かれた第4回会議「歴史的社会:ヒエラルキー研究の現段階についての意見」であった。

ロドリーグによると、ビッグ・ヒストリーの基本的考えはソクラテス以前のギリシャから中国の周王朝に至る古代に遡るが、その現代版は学際的研究の勃興、宇宙競争、冷戦の終焉、グローバリゼーション、および、20世紀末のその他の収斂的出来事の結果である。

「コスミック・エヴォリューション」とか、「ユニバーサル・ヒストリー」とか、世界にはさまざまな用語で知られているが、「ビッグ・ヒストリー」という用語はデイヴィッド・クリスチャン教授が1991年に気まぐれに造りだし、それが固定化したものである。

ロドリーグはビッグ・ヒストリーを簡潔に定義すると次のようになるという。

「宇宙、地球、生命、人間の歴史を、一つの統一された、学際的な方法で、理解しようとする試みである。」

さらに、ロドリーグは、ビッグ・ヒストリーと他のマクロ研究との違いは次の点にあるという。

第一は、地球と全ユニバースを基準点として用いていること。

第二は、科学的過程を用いていること。

ロドリーグは最後に「このアプローチは国境、政治的・宗教的紛争、経済システムを超越していると信じている。」と述べている。

1. 同学の士 : ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(3)

中西 治

フレット・スピール

フレット・スピール(Fred Spier)はオランダのアムステルダム大学学際研究所上級講師で、1994年からアムステルダムでビッグ・ヒストリーの年間コースを組織し、遺伝子工学の研究経験をもつ生化学者として教育に当たった。

彼はその後、文化人類学を研究し、文化人類学と社会史で博士号を取得した。この間に彼はペルーにおける宗教と政治の1万年にわたる相互関係を研究し、2冊の本を出版した。

フレット・スピールは1996年にアムステルダム大学出版会から『ビッグ・ヒストリーの構造:ビッグ・バンから今日まで(The Structure of Big History:From the Big Bang until Today)』を出版、2009年からは新設されたアムステルダム大学カレッジでビッグ・ヒストリーのコースを教えている。ビッグ・ヒストリー研究・教育の草分けである。

彼は2005年に「アムステルダム大学におけるビッグ・ヒストリー・コースの小さな歴史」を『World History Connected』Vol.2 No.2に発表し、2010年に新著『ビッグ・ヒストリーと人間の将来(Big History and the Future of Humanity)』Oxford:Wiley-Blackwellを上梓した。

デイヴィッド・クリスチャン

デイヴィッド・クリスチャン(David Christian)はオーストラリアのマッコーリー大学現代史・政治・国際関係・安全保障学部教授であり、1989年からビッグ・ヒストリーに関するコースを発展させ、教えた。

彼はもともと現代ロシアとソヴェトについての歴史家であり、19世紀ロシアの社会史に関する研究書を出版している。

彼はこうしたビッグ・ヒストリーとロシア史というスケールの大変異なる二つの歴史の間のギャップをユーラシア大陸全体の歴史を完成させることによって橋渡ししようとしている。

主著は2004年にバークレイのカリフォルニア大学出版会から上梓した『時の地図:ビッグ・ヒストリー入門(Maps of Time:An Introduction to Big History)』である。この本は2011年に新しい序文を付けて第2版が出版されている。

デイヴィッド・フックス

デイヴィッド・フックス(David Hookes)は連合王国(以下、英国と略称)リヴァプール大学コンピューター科学部名誉上級研究員である。

彼は2007年に催された左翼フォーラム「急進派の政治的将来を設計する」に報告「二つの将来の歴史」を提出し、気候変動問題について論じている。

また、「マルクス主義政治経済学の“量子理論”と持続可能な発展」や「マルクス主義の実証主義者的否定としてのボリシェヴィズムからの諸教訓」などの論文を発表している。

彼は後者で「ロシア革命はとくにロシア人民にとって悲劇であっただけではなく、それは、また、人間の残りの部分にとってもそうであった。」と論じている。

彼はさらに「西洋左翼の私たちの多くにとって、とくに、トロツキスト的背景を持つ者にとって、ロシア革命が歴史的悲劇であったという事実を受け入れることは大変困難であるが、私たちはそれを受け入れなければならないというのが、私の意見である。」と述べている。

アコプ・ナザレチャン

アコプ・ナザレチャン(Akop Nazaretyan)はロシア科学アカデミー東洋学研究所上級研究員としてクロス・カルチャーの研究に従事し、国立モスクワ大学教授でもある。彼はモスクワ郊外ドゥヴナにある国立国際大学社会学人文学部教授でもあった。専門は大災害と大衆心理の理論である。

彼は1996年に「世界文化発展における攻勢、道徳、危機」、2003年に「攻勢的群集、大衆パニック、風評。社会・政治的心理講義」、2005年に「社会的自主組織の1ファクターとしての死の恐怖」、「ビッグ・ヒストリーの西洋的伝統とロシア的伝統」、「暴力と忍耐:文化人類学的回想」、「ビッグ(ユニバーサル)ヒストリー・パラダイム:ヴァージョンとアプローチ」などの論文を執筆している。

ナザレチャンは2004年に『ユニバーサル・ヒストリーの文脈の中での文明危機。自主的組織、心理学、予測。(Civilization Crises within the Context of Universal History. Self-Organization,Psychology,and Forecasts)』、2008年に『自主的組織の暴力と文化の文化人類学:進化的歴史的心理学についてのエッセイ(Anthropology of violence and culture of self-organization:Essays on evolutionary historical psychology)』、2010年に『非暴力の進化。ビッグ・ヒストリー、自主的組織、歴史的心理学の研究(Evolution of non-violence.Studies in big history,self-organization and historical psychology.)』などの本を出版している。

ナザレチャンはビッグ・ヒストリー・コースの課題として、この学問のコンセプトと基礎を検討し、宇宙・地質・生物・社会進化のメガトレンドを明らかにすること、もしも、人間の歴史が、宇宙の進化と調和して、単一の、統合された過程を有するとするならば、歴史以前と知性の進化を考慮し、技術と人間行動の制御と持続性の間のバランスを研究し、長期的観点にもとづいて、21世紀のクロスロードとドラマを考えなければならないと主張している。

レオニード・グリーニン

レオニード・グリーニン(LeonidGrinin)は歴史哲学者、社会学者である。彼はヴォルゴグラード(旧スタリングラード)地方に生まれ、ヴォルゴグラード教育大学で1980年に博士候補(修士)号の学位を取得し、国立モスクワ大学で1996年に博士(Ph.D.)号を受けた。

彼はヴォルゴグラード社会調査センター所長・研究教授であり、歴史、現代化、哲学、社会などの雑誌の副編集長、雑誌『社会的進化&歴史』、および、『グローバリゼーション研究ジャーナル』、年鑑『歴史&数学』および年鑑『進化』の共同編集者である。

グリーニンの現在の研究関心はグローバリゼーション研究、経済サイクル、文化的進化の長期トレンド、テクノロジーの進化、歴史の時期区分、政治的文化人類学、政治システムの長期的発展、世界システム研究である。

時期区分について、彼は狩猟-採取、手工業-農業、工業、情報科学の四つの生産原則にもとづく時期を挙げ、その区切りとなった農業革命もしくは新石器革命、工業革命、情報技術革命の三つの生産革命の意義を指摘している。

政治システムの発展について、彼は早期国家(Early State)と成熟国家(Mature State)のマクロ国家の二段階説は十分ではないと主張し、早期国家―発展国家(Developed State)―成熟国家の三段階説を提起している。

アンドレイ・コロターエフ

アンドレイ・コロターエフ(Andrey Korotayev)は文化人類学者、経済史家、社会学者である。彼は世界システム論、クロス・カルチャー研究、中東史、社会・経済マクロ・ダイナミックスの数学的モデル化に貢献した。

彼は1961年にソヴェトの首都モスクワに生まれ、国立モスクワ大学から1984年に学士号、1989年に博士候補(修士)号を授与され、1993年に英国のマンチェスター大学から博士(Ph.D.)号、1998年にロシア科学アカデミーから科学博士の学位を受けた。

彼は2000年からモスクワにある国立ロシア人文科学大学東洋文化人類学センター教授・所長とロシア科学アカデミー東洋学研究所およびアフリカ研究所の上級研究教授となった。また、2001年から2003年までモスクワにある国立研究大学経済学高等スクールの「東洋文化人類学」プログラムを指導した。2003年から2004年にかけては米国プリンストン大学高等研究所客員研究員であった。

彼は年鑑『歴史&数学』、および、雑誌『社会的進化&歴史』、『グローバリゼーション研究ジャーナル』などの共同編集者である。

彼は2006年の「ロシア科学アカデミー・ベスト・エコノミスト」にノミネートされ、ロシア科学支援基金から賞を受けている。

コロターエフの主著は2006年の『社会的マクロ・ダイナミックス入門(Introduction to Social Macrodynamics)』である。

バリー・ロドリーグとダニエル・スタスコ

バリー・ロドリーグ(Barry Rodrigue)は米国メイン州ルイストンにある南メイン大学ルイストン=アーバン・カレッジ芸術&人文学部准教授で、地理学者・考古学者である。セント・ローレンス川とメイン湾の間にあるノルムベガ半島のビッグ・ヒストリーを研究し、北アメリカにおけるフランス人と先住民の相互作用に関心を持っている。

ダニエル・スタスコ(Daniel Stasko)はロドリーグと同じ南メイン大学ルイストン=アーバン・カレッジの自然&応用科学学部助教授で、合成化学者である。

ロドリーグとスタスコは2009年にモスクワで開催されたロシア科学アカデミー第5回国際会議「文明史におけるヒエラルキーと権力」の後、「ビッグ・ヒストリー人名録、2009年:入門」を『World History Connected』Vol.6 No.3に発表した。この人名録は2010年版も出ている。

二人はまた2010年9月に論文「予備的観察:今日のビッグ・ヒストリー」を『社会的進化&歴史』Vol.9 No.2に発表している。

このように、現在、世界の各地で活躍しているビッグ・ヒストリーの研究者・教育者はきわめて多才な専門家であるが、中でも際だっているロドリーグについてもう少し語ろう。

世界の研究教育状況 : ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(3)

中西 治

2011年12月2日に配信された2011年度第5号講義を複数回に分けて掲載いたします。―事務局

特定非営利活動法人 地球宇宙平和研究所
ユニバーサル・ユニバーシティ・インターネット
2011年度講義録第5号 (2011年11月20日)

ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(3)
――世界の研究教育状況――
中西 治

はじめに

私が宇宙に大きな関心を持ち始めたのは、1957年にソヴェトが人工衛星を打ち上げ、それに人間が乗り、大気圏外から地球を見るようになったときであった。人間は初めて地球が本当に宇宙に浮かぶ球状の天体であることを自身の目で確認した。当時、私はソヴェト関係専門の日本の通信社に勤めており、その取材とニュースの出稿にあたっていた。

私が地球の自然に関心を持ったのは1973年に初めてアメリカ合衆国(以下、米国と略称)を訪問したときであった。当時、私はすでに日本の大学で教え始めていた。グランド・キャニオンを訪れ、その自然の壮大さに圧倒された。そこで案内の人が次のような説明をした。

「グランド・キャニオンが出来て今日まですでに900万年から1000万年経っている。しかし、地球はもっと前に出来ている。地球が出来てから今日までを1日、24時間とすると、グランド・キャニオンが出来てから今日まではわずかに7分にしか当たらない。人間が地球上に現れたのは一日が終わる最後の47秒前であった。」

私はこのとき広大無辺な宇宙の中での地球の生命、人間の生命に深く思いを馳せた。

私が地球宇宙平和学の確立をめざしたのは、丁度25年前の1986年12月30日に「国際地球宇宙平和研究所」を設立したときであった。この研究所の活動成果の一つが1990年3月31日に上梓した『国際関係論――地球・宇宙平和学入門――』である。この書の最後で私は次のように書いた。

「宇宙空間にスペース・コロニーを作り、宇宙空間と他の天体に人間の居住区を広げ、宇宙の資源を開発することも既に考えられている。恐らく21世紀には20世紀の人間が考えも及ばないような物を次々に生み出すであろう。ただここで忘れてならないのは20世紀の広島、長崎、チェルノブイリの悲劇である。

これらの悲劇が起こるまで科学技術の発展は基本的には無条件に支持されるべきものであった。しかし、この悲劇を経験した後、人間は発展させるべき科学技術と発展させてはならない科学技術があることを知った。宇宙空間に本格的に人間が雄飛するに当たって人間は改めてこのことを自覚しなければならない。

宇宙は人間だけのものではない。宇宙は宇宙に存在する全てのもののものである。もしも人間が地球上の広島、長崎、チェルノブイリで犯したようなあやまちを宇宙で犯すようなことがあれば、宇宙は人間を許さないであろう。

宇宙空間を放射能や核廃棄物で汚染するようなことがあれば、宇宙は人間を許さないであろう。宇宙は専ら人間が平和的に研究・開発すべきであって、宇宙空間を戦場と化すような戦略防衛構想(SDI)とそれへの対抗措置を許してはならない。」

この考えはいまも変わっていない。私がその後この考えをどのように発展させ、今日に至ったのかについては次回に触れることにして、まず、世界各地の同学の士の研究教育状況を紹介しよう。

目次

はじめに
1. 同学の士
2. バリー・ロドリーグ : 人と業績
3. 国際会議と国際組織
おわりに

金正日総書記の死去発表に寄せて

中西 治

朝鮮中央テレビは2011年12月19日正午、金正日朝鮮労働党総書記が17日午前8時30分に移動中の列車内で心筋梗塞により死去したと発表した。享年69である。70という説もある。遺体は平壌市内の錦繍山記念宮殿に安置され、告別式は28日、中央追悼大会は29日におこなわれる。葬儀委員会名簿の筆頭は三男の金正恩さんである。

社会主義国の最高指導者である党書記長や第一書記が亡くなった場合、党内第二位の人が葬儀委員会委員長となり、この葬儀委員長が次の最高指導者になる。軍を優先する先軍政治の朝鮮では、金正恩さんが2010年9月28日に党中央軍事委員会副委員長に選出されているので、筆頭となったのであろう。

金正恩さんは1983年1月8日生まれ(1982年または1984年生まれとの説もある)といわれ、現在、27~29歳である。それが急に2010年9月27日に大将に任命され、翌28日に党中央委員に選出され、中央軍事委員会副委員長になり、さらに、今回、国の最高指導者になると予想されるのは、金正恩さんが金正日さんの息子というだけの理由である。

現代国家で3代も続いて父・息子・孫が国家の最高指導者の地位を血縁で継承するのはおかしい。とくに、社会主義国家では異常である。社会主義というのは生まれ落ちた星の下で人生を決めるのに反対する思想である。私は、朝鮮は社会主義国と称しているが、社会主義国ではない、と考えている。

私は2005年8月に朝鮮民主主義人民共和国を訪問し、帰国後に次のように書いた。

「朝鮮人民は生活水準のいっそうの向上と対外交流の拡大、物質的にも精神的にもより豊かな社会をつくることを望んでいる。朝鮮には多彩な人材が多数育っている。朝鮮をめぐる国際情勢はこのところ急速に改善されている。朝鮮と韓国との関係は友好的になり、2005年9月の朝鮮の非核武装化についての6者協議の共同声明はこの地域の緊張を著しく緩和した。朝鮮はいまこそ新たな政策を展開する時期にきている。」

現実にはこの過程はその後、停滞した。ジグザグの道を歩むのが歴史である。

いまこそ、再び、新たな政策を展開するチャンスである。朝鮮人民がすでに基礎の築かれている理性の道に戻ることを希望する。

2011年12月19日午後5時

おわりに: ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(2)

中西 治

「必要は発明の母である」という。その通りである。しかし、同じ状態におかれていても、必要と思う人もいれば、必要と思わない人もいる。必要と思わない人ばかりだと、発明は生まれない。必要と思う人がいたから、発明が生まれた。

地球上に存在するすべての生物、すべての動植物はそれぞれ自己の意志を持ち、状況に応じて自己保存に努め、子孫を残す努力をし、生を閉じている。それぞれの種の中では、また、幾つかの種の間では、さまざまな方法で意志の交流がおこなわれている。

この中で人類は、まず、話し言葉を持ち、それを文字で表し、土や、石や、金属板や、木や、竹や、布や、紙に書くようになった。人類はこれらの方法で自己の意志を表明した。

この言語のおかげで同じ志を持つ人々が協力し、同じ目標の実現に努め、それが今日までの科学技術革新をもたらした。

人間は偉大な動物である。知恵の人であり、学ぶ人であり、教える人である。

人間にとって何よりも重要なのは、まず、考えることであり、次に必要なのは、それを実現するために努力することである。

この「ユニバーサル・ヒストリー (宇宙地球史) 入門」は新著の発刊をめざして書き下ろしている連載である。新しい本のタイトルは『ビッグ・ヒストリーとは何か–ユニバーサル・ヒストリー入門』 (仮題) である。ユニバーサル・ヒストリーはあらゆるものを包含する。

それを研究する機関が 2001 年 12 月 15 日に設立された「特定非営利活動法人 (NPO) 地球宇宙平和研究所 (IGCP) 」であり、この学問を普及する教育機関が 2010 年 4 月 18 日にこの研究所に付置された「ユニバーサル・ユニバーシティ・インターネット (UUI) 」である。

21 世紀以降において新しい学問を創り出し、発展させるのにふさわしい名称であり、組織形態である。そこにあるのは豊富な人材である。ここにこの研究所と教育機関が発展していく無限の可能性がある。

26. #0 「志向的教育」: ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(2)

中西 治

「志向的教育 (intentional pedagogy) 」の考えは、ダーウインはこの用語を拒絶したが、「下等動物」から私たちを分かつ偉大な、長いリストの、おそらく、最後のものであろう。

これは、人間は文化を志向的に伝えることができ、知識を特定の例から教え得るものに一般化し、その知識を、時と空間をこえて、他の人に志向的に与える、というアイデアである。

あなたの子供たちに、火は熱く、それに触れてはならない、と語ることからインターネットそのものへ、志向的に導くことは、前代未聞の最重要な科学技術革新である。

「技能の学習と知識の習得を他人によって確実にする教育方法を体系的に利用することは、明らかに人間の種の特性である。」

「若い人に教える方法で人間は動物のあいだで刮目すべき存在である。」

S.A.バーネット (Barnett) は次のように示唆した。

ホモ・サピエンス (homo sapiens) 、「理解する人 (understanding man) 」は、私たちの種にとって、おそらく、正しい分類ではないであろう。私たちが名付けられなければならないのは、本当は、ホモ・ドセンス (homo docens) 、「教える人 (teaching man) 」である。

この「志向的教育」に「#0 」が付されているのは、数字は「 1 」から始まるのではなく、「 0 」から始まること、すべての出発点は教育にあるという考えにもとづいている。

25. #1 「話し言葉」: ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(2)

中西 治

「話し言葉 (spoken language) 」は真の意味論、統語論、音声学である。このアイデアは人間が世界についての情報をある人から他の人に伝達することを可能にした。これはすべての協力、経済、氏族関係の基礎をなしている。

「話し言葉」は私たちがかつて発見した、もっとも重要な科学技術革新である。