月別アーカイブ: 2009年5月

講演「21世紀の地球社会はどうなるのか」

中西 治

開港150年を迎える横浜のホテルで2009年5月6日午後に「中西治ゼミナールの会」が開催されました。参加者は57名でした。席上「21世紀の地球社会はどうなるのか」について講演しました。以下は当日の講演に若干の手直したものです。

最初にフランスの経済学者ジャック・アタリが5月5日にNHKテレビで語った21世紀に来るであろう「五つの波」を紹介しました。アタリはフランスのミッテラン大統領の補佐官を勤めたあとヨーロッパ復興開発銀行総裁となった人です。最近は旺盛な執筆活動の他に、アフリカで無担保による個人融資の活動をしています。

第一の波はアメリカの支配の崩壊です。米国は世界から撤退します。これは20年から30年かかります。第二は多極型秩序の形成です。すでにG20のような世界金融サミットが開かれていますが、このような試みはいずれ失敗するでしょう。それは国家はグローバルな市場より弱いからです。第三は「超帝国」のようなグローバルな統治の形成です。市場が支配し、すべてが民営化されます。これはすぐには実現しません。2040年に始まります。第四は「超紛争」です。市場は無秩序です。究極の紛争が起こります。第五は「超民主主義」です。紛争を克服するのは利他主義にもとづく他人の幸せへの奉仕です。真の賢さは博愛精神です。

私はアタリの「五つの波」を念頭に置きながら、21世紀について次のような考えを述べました。

第一は米国の支配の問題です。確かに米国はソビエトとともに第一次大戦後の20世紀前半に台頭し、第二次大戦後に米ソはともに世界の指導的大国となりました。しかし、米国は朝鮮戦争とベトナム戦争により、ソビエトはアフガニスタン戦争によって、ともに国力を疲弊させ、ソビエトは解体し、米国は指導的地位を失いました。今回の世界的経済恐慌はこのことを如実に物語っています。米国はすでに世界経済を主導する力を失っています。

代わって登場しているのが中国とインドなどの新興国です。2007年の予測によると、2050年のGDP (国内総生産) 予測は中国が70兆ドル、米国が38兆ドル、インドが37兆ドル、ブラジル11兆ドル、メキシコ9兆ドル、ロシア8兆ドル、インドネシア7兆ドル、日本6兆ドル、英国とドイツはそれぞれ5兆ドルです。2050年の人口は、2008年の予測によると、インド16億人、中国14億人、ヨーロッパ6億人(うち独7000万人、英仏各6000万人)、米国4億人、インドネシア2億9000万人。そのあとをパキスタン、ナイジェリア、ブラジル、バングラデシュ、コンゴ民主共和国、エチオピア、フィリピン、メキシコ、エジプト、ベトナム、ロシアが続き、日本は17位の1億250万人です。

地球全体の人口は2050年に91億人になると予測されていますが、このうち先進工業地域は12億人、発展途上地域は79億人です。地球全体の人口の90%ほどがアジア・アフリカ・ラテンアメリカに住むようになります。数は力です。数が知恵と知識と技術を身につけたとき、世の中は変わります。1492年のコロンブスのアメリカ大陸到達以来、ヨーロッパ主導で進んできたグローバリゼーション(地球一体化)の流れがアジア・アフリカ・ラテンアメリカ主導に変わりつつあります。

第二は科学技術の発展と社会体制の関係です。社会体制は人間の生活の仕方の変化とともに変わってきました。かつて採取と狩猟によって食べ物を得ていたとき、人間は互いに助け合わないと生きていけませんでした。人間は原始共同体のなかで暮らしていました。農耕と畜産をするようになり、貧富の格差が生ずると、奴隷制・封建制農業社会が生まれ、統治機構として国家が作り出されました。工業生産がおこなわれるようになると、資本制工業社会が生まれ、現代国家が形成されました。100年ほど前に運輸通信革命が始まり、自動車・飛行機・ラジオ・テレビ・ロケットなどが生み出されると、急速に先進知識情報技術社会となり、地球の一体化が進みました。時代とともに社会の質が変わってきました。

第三は社会の変化とそこで果たす思想の役割です。1517年にルターが宗教改革を唱え、1541年にカルバンが宗教改革を実行しました。1618年にローマ・カトリック派 (旧教) とルター派 (新教) のあいだで戦争が始まりました。30年戦争です。この戦争を終結させたウェストファリア会議 (1643-1648年) は、この地上を支配するのは神や教会ではなく、世俗の権威であることを明らかにしました。中世との決別です。ヨーロッパを中心とする「近代国際政治体系」が出現しました。

1776年のアメリカ独立宣言と1789年のフランス人権宣言は重商主義と絶対主義に対する人民の抵抗であり、アメリカとフランスの革命の勝利は人民主権の思想が時代の精神であることを示すものでした。しかし、これらの宣言が掲げた理念がすべて即座に実現したわけではありません。

独立宣言の「すべての人は平等につくられる (all men are created equal)」の「すべての人」は当初、白人の男性だけであり、白人の女性もすべての黒人も含まれていませんでした。230年経ってやっと白人女性と黒人男性の子供が大統領になれるようになったのです。まだ、女性の大統領は出ていません。人権宣言にしても即座に王制が廃止されて、共和制が完全に確立したわけではありません。その後、王制と共和制を繰り返し、やっと、200年以上経った今日、もう王制がフランスで復活することはないだろうと言えるようになりました。それでもまだどうなるか分かりません。

1917年のロシアの「十月革命」は「戦争をなくすためには戦争の道具である常備軍をなくさなければならない」とのカントの「恒久平和のための提言」を実行しようとしました。ソビエト政権は発足後ただちに軍隊を廃止しましたが、国内の反対派と外国の軍隊の攻撃をうけ、最初は義勇軍を、その後すぐに徴兵制による軍隊を復活せざるを得なくなりました。

革命の理念を全世界で実現するためには幾世代にもわたる幾世紀もの不断の努力が必要です。アメリカ革命、フランス革命、ロシア革命の理念を実現する努力はいまも続いています。革命は続いています。

第四は地球の一体化は環境・経済・社会・政治などの一体化を進めるとともに、さまざまな新しい問題を引き起こしています。環境の面では二酸化炭素の増大による自然環境の悪化、台風と地震などの自然災害、伝染病の流行などへの対応、経済の面では米国発の金融恐慌が世界的規模の経済恐慌に拡大していることへの対応、社会の面ではヨーロッパ連合や東南アジア諸国連合などの地域共同体相互間の関係と地球共同体との関係などです。

現在とくに重要なのは個人やその集団が他の個人やその集団だけではなく、国家や国家の集団に対して実力行動によって直接異議申し立てをしていることです。「テロ」です。これに対処するためには個人やその集団が国家や国家の集団に対して平和的に直接異議申し立てをおこない、平和的に問題を解決できるようにすることです。

国家は依然として地球社会の重要な行為者ですが、国家だけが行為者であった「近代国際政治体系」の時代は終わりました。新しい「地球社会」の時代が始まっています。21世紀は地球上のすべての人と土地が光り輝く時代です。地球社会が直面する諸課題を解決するためには、国家だけではなく、地球上のすべての人とその集団の協力が必要です。国家の代表者だけでなく、個人とその集団を含む真の地球共同体の組織が必要です。

数世紀にわたる資本主義制度の経験と20世紀に登場した社会主義制度の経験に学びながら、人知を集めて21世紀にふさわしい新しい人道的な体制をつくりだすことが必要です。それは市場一辺倒でも国家一辺倒でもない、両者を組み合わせたものになるでしょう。

私は新しい時代にふさわしい新しい人道的な学問をつくり出し、新しい体制をつくりだすのに貢献したいと願っています。宇宙地球史とそれにもとづく地球宇宙平和学はそのための学問です。

この会を準備された方々と連休最終日の貴重な時間をお与え下さり、各地からお出でいただいた友人の皆さんに心から感謝します。ありがとうございます。

健康で楽しい良い日々を!

伝染病とグローバリゼーション

中西 治

新型インフルエンザA (H1N1) が世を騒がしている。伝染病が世を震撼させるのは昨日今日に始まったことではない。

私はすでに『地球宇宙平和研究所所報』第3号 (2008年12月) で紹介しているが、ギリシアの歴史家トゥキュディデスはアテネとスパルタとのペロポネソス戦争の結果としての疫病に注目し、英国の歴史家ギボンはローマ帝国の興亡を論じたなかで「バーバリアン (異教徒・野蛮人)」がキリスト教徒に勝った理由として病気をあげている。

最近では米国の歴史家アルフレッド・クロスビーが1972年に出版した『コロンブスの交流:1492年の生物学的・文化的結果』でコロンブスのアメリカ大陸到達後にヨーロッパ人が天然痘、はしか、コレラなどの伝染病を持ち込んだためにカリブ海諸島とアメリカ大陸のたくさんの先住民が死亡したことを明らかにしている。また、1990年の『アメリカの忘れられた流行病:1918年のインフルエンザ (邦訳『史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック』)』で1918年にアメリカで発生し、流行したインフルエンザはヨーロッパからもたらされたものであり、1919年の病気の終息までに全世界で1億人が亡くなったと述べている。これは第一次大戦中に戦死した軍人の数、およそ860万人の10倍以上である。

さらに、米国の生物学者ジャレッド・ダイアモンドは1997年の『銃・病原菌・鉄:人間社会の運命 (邦訳『銃・病原菌・鉄:1万3000年にわたる人類史の謎』)』でユーラシア大陸を起源とする病原菌が世界各地の先住民の人口を大幅に減少させた例として次のような事実を挙げている。たとえば、1492年にコロンブスがやってきたときにおよそ800万人であったイスパニョ−ラ島(ハイチとドミニカ)の先住民の数は1535年にはゼロになっている。また、ハワイ島の人口はクック船長が到達した1779年に50万人であったが、クック船長とともに梅毒、淋病、結核、インフルエンザが上陸し、1804年に腸チフスが流行り、そのあともちょっとした伝染病が続いた結果、1853年には8万4000人に激減した。さらに天然痘が流行って1万人が亡くなった。

異なる社会の接触は相互に大きな影響を与えるが、言語、宗教、芸術様式、病気などが異なる社会では、それを受け入れる社会により大きな影響を与える。とくに疫病は免疫のある人が免疫のない人にうつした場合、免疫のない人と社会の歴史を変えるほどの大きな影響を与えることがある。たとえば、現在のメキシコにあったアステカ帝国は1520年にコルテス将軍率いるスペイン軍の最初の攻撃には耐えたが、そのあとに大流行した天然痘によって大打撃をうけ、皇帝クイトラワクも亡くなり、1521年に滅亡している。

それから500年。近年も鳥インフルエンザや豚インフルエンザが起こっている。人間は鳥や豚を恨んではならない。今回のインフルエンザは人インフルエンザと鳥インフルエンザと豚インフルエンザの混合であるという。人・鳥・豚はみな同じ動物である。人間は鳥や豚など他の動植物の恩恵をうけて生きている。

伝染病の流行はグローバリゼーション (地球一体化) 現象の一つである。人間は伝染病について多くのことを経験し、学び、この問題に冷静に科学的に対応できるようになっている。私は人間の英知を信じている。

駐日ネパール大使の講演を聞いて

植木 竜司

2009年4月18日,日本橋公会堂で行われた「=フォーラム= 王政から連邦民主共和国へ  ネパールの現在と未来への展望」というプログラムに行ってきました。このプログラムの主催者は「21世紀国際交流会 (IEA21)」で,IGCPの木村英亮元副理事長が代表理事を務められている団体です。木村さんは,当日の司会・進行をされていました。

大使の講演の前に,麻布大学獣医学部教授で,ネパール国立トリブヴァン大学の客員教授でもある小林好作さんより「私のネパール定点観測: 人々の仕事と暮らし」と題された講演がありました。この講演では,小林さんご自身が撮影された写真のスライド上映を中心に,ネパールの特に農村の人々の暮らし,農業,自然環境の説明がされました。

その後,ネパール特命全権大使 ガネシュ・ヨンザン・タマン (Ganesh Yonjan Tamang) さんの講演となりました。

私は大使と昨年一度食事をご一緒させていただいたことがあり,お会いするのは今回が二度目でした。大使は1959年生まれの50歳で,英国レディン大学大学院で地方社会開発を研究され,2000年には米国リンカーン大学より「社会開発および先住民知識システム」で博士号を授与されており,ネパールでは社会運動家として著名な方です。

大使は,第一にネパールは国名が「王国」から「連邦民主共和国」となったが「連邦」とは何かまだ不明確であり一番の論点となっていること,第二に異なるカースト/民族が存在するネパールでいかにそれらが調和をはかっていくかが一番の課題であること,この2つの問題意識を挙げられ,二部構成で講演をされました。

一部目は “State Restructuring: Indigenous Nationalities/Caste Group Population Composition” と題された,ネパールの民族/カースト的,文化的,言語的多様性についての講演でした。そこではネパールの統計調査をもとに,ネパールに100以上の民族,90以上の言語,13の文字が存在することが述べられ,地理的分布も説明されました。

二部目は “From Unitary and Centralized State to Federal Democratic Republic of Nepal -Present and future prospect-” と題された昨年起きた国家体制の転換と,現在のネパールの課題についての講演でした。一部に続きネパールの概要の説明の後,「政治的発展と現在のシナリオ」「国際関係」「新国家建設の努力」「開発の戦略と優先順位」「国際社会の役割」「まとめ」という順で説明がされました。

「政治的発展と現在のシナリオ」では,ネパールは「人民戦争 (People’s war)」で政治的に多くのことを得たが,払った犠牲(犠牲者約13,000人,行方不明者約21,000人,インフラ破壊,肉体的・精神的被害,軍事化など)も多かったことが述べられました。そして人民戦争の原因として,政府からの排除,社会的・経済的格差,所得・仕事の欠如,保守・革新の二極化を挙げられました。

「新国家建設の努力」では,ピース・プロセス下での団結の重要性,特に政党間協力を大使の考えでは少なくとも10年は続ける必要があること,政府軍(旧国王軍)とマオイストの人民解放軍の統合問題解決,連邦制度の確立,法秩序の強化・新憲法の起草と公布,資源活用と経済開発に焦点を当てる必要性,等について言及がありました。

「開発の戦略と優先順位」では,特にインフラ=交通網(道路・空路・鉄道)の開発に力を入れるべきであり,それらが産業開発のキーファクターとなり,外国直接投資を促進することになると述べられていました。

「国際社会の役割」では,ピース・プロセスのサポート,水力発電・インフラの開発促進,民主化促進の支援,個人の自由と公正実現のサポートが国際社会に期待されるとのお話でした。

印象に残ったのは「マオイストによる内戦でネパールはほぼ “failed state “になった」との言及,近年ネパールに政治的影響を及ぼしている国家・地域として「インド,米国,中国,EU」として米国が二番目に挙げられていたこと,国家開発戦略として「土地改革」が挙げられていたこと,そして水力発電のポテンシャルを非常に強調されていたことです。

大使の講演はネパールの複雑な情勢が非常に簡潔に説明されており,ネパールの政治について詳しく知らない聴講者にも非常にわかりやすいものになっていたと思います。

ネパールでは1990年頃から経済の自由化が進められ,それに伴って経済格差が顕著になり,貿易依存率60%前後が隣国インド一国に集中するようになりました。そんな中1996年より共産主義(毛沢東主義)の革命運動が起こり,昨年王制が打倒され,選挙によって共産党マオイストを中心とした制憲議会政府が発足しました。金融危機が世界中に大きな影を落としている中で,この政変はもっと注目されていいのではないかと考えております。その意味では,共産主義政党が第一党となった意義,マオイストが政権に就いたことによる「ネパール-中国」関係への影響などについて,もっと突っ込んだ話が聞きたかったと感じました。