月別アーカイブ: 2009年4月

理事会報告

岩木 秀樹

2009 年 4 月 19 日 (日) 午後 1 時から 3 時まで、横浜市青葉区区民活動支援センター会議室 1 で、第 4 期理事会第 10 回会議が開催されました。出席理事は書面評決者も含めて 12 名で、オブザーバーは 1 名でした。

まず 2008 年度事業報告案と収支報告案について説明があり、監査が無事終了したことが報告されました。会費未納率を減らすことや、研究所の財政の建て直しなどの意見が出ました。

次に、 2009 年度事業計画案と収支予算案について説明があり、赤字体質から脱却するため、事務局人件費を無くし、研究所の仕事を分担し、謝礼等も削減することになりました。できるだけ会費収入で事業を運営していき、短期借入金を返済していくことになりました。寄付金への依存や寄付金への対価の問題、所報への広告掲載なども話し合われました。また新たに講座「グローバル・アカデミー」を行うなど、より活発に研究・教育活動を行うことになりました。

第 5 期 (2009 年 7 月 1 日-2011 年 6 月 30 日) 役員選考委員会の選出について話し合われ、次の方が役員選考委員になりました。 (50 音順、敬称略)

委員長  中西治
委員  岩木秀樹、遠藤美純、王元、汪鴻祥、竹田邦彦、渡辺宏

今後、選考委員会より会員に対して役員への立候補を募り、役員を決めていくことになりました。

5 月 17 日の総会において「 20 世紀の再検討と 21 世紀の現在」とのテーマで総会記念シンポジウムを行うことになり、現在、会員を中心に報告者を募っております。

ホルブルックさんと緒方貞子さんの話を聴いて

中西 治

昨 4 月 17 日に私は日本国際問題研究所主催の講演会に参加しました。この会は東京でパキスタン支援国会合が開かれたのと関連して催されました。

ホルブルックさんは初めてですが、緒方さんは彼女が大学教員時代からよく知っています。個人的にもお世話になっています。お会いしたのは昨年 4 月以来 1 年ぶりです。

ホルブルックさんは、タリバンとアルカイダとの戦争は「終わりのない戦争だ」、ベトナム戦争との違いは「9・11」があるのか、ないのかであると言います。

戦争に勝つ国は戦争を始めるときに、それをどのようにして収めるのかを考えます。一か八かで展望なく戦争を始める国は日本のように負けます。物事にはすべて原因があります。「9・11」にも原因があります。

緒方さんはよく頑張っています。彼女は日本国憲法の精神をよく理解し、その努力を外交と開発に集中し、それが日本の安全保障にも役立つと主張しています。

緒方さんはアフガニスタンの治安は「ひどい」と言います。そこへ日本人専門家を50 人から 70 人ほど支援のために送り出しています。彼女はその身を日夜心配しています。私が理事長ならそのような危ないところへ絶対に人を送りません。

イラクを見ても、アフガンを見ても、戦争で破壊しながら、復興しています。無駄なことをしていると思います。壊して儲け、作って儲けている人がいるのでしょう。

民衆の貧困と政治の腐敗をなくし、生活を良くすることが最良の解決策です。本来、これはその地域の人々が自主的になすべきです。他の地域の人々はそれを助けるだけです。

今日はゼミナール卒業生の結婚披露宴に出席します。幸せは良いことです。

「国連安保理議長声明」に寄せて

中西 治

2009 年 4 月 5 日に朝鮮民主主義人民共和国は人工衛星を発射し、地球をまわる軌道に乗せたと発表しました。これに対して国際連合安全保障理事会は同月 13 日に議長声明を発表し、この発射が 2006 年 10 月 14 日の同理事会決議第 1718 号に「反する (contravention)」ものであるとしました。朝鮮としては安保理の正式の決議ではなく、何の拘束力もない議長声明ですから無視することもできたのですが、誇り高い朝鮮としては無視することができず、安保理が主権国家朝鮮の人工衛星打ち上げ問題を議題として審議したことに抗議し、安保理の主要構成国である米国・中国・ロシア・日本が参加する 6 か国協議はその存在意義を失ったとして今後これまでの合意に拘束されないと発表しました。

今回の出来事にはまだ二つの疑問が残っています。第一は、日本は朝鮮の発射を批判していますが、発射体が日本列島の上空を飛行したことについては非難していません。やはり飛行体は日本の領空ではなく、国際海峡である津軽海峡の上空を飛行したのでしょうか。第二は、朝鮮は人工衛星を軌道に乗せ、実験は成功したと発表していますが、その後については何も言っていません。日本と朝鮮の政府はこれらの点を明確にしなければなりません。

かつて毛沢東は 1946 年 8 月、第二次大戦が終わって 1 年後、延安の洞窟で米国の女性ジャーナリスト、アンナ・ルイス・ストロングと会見し、「原子爆弾はハリコの虎 (paper tiger) です」と述べました。その後、中国は米国やソビエトに対抗して、核兵器やロケット・人工衛星の保有をめざすようになりました。1963 年に陳毅外交部長は「中国はたとえズボンをはかなくても核兵器を作り出すだろう」と言いました。この言葉通り、中国は 1964 年 10 月に最初の核爆発実験をおこない、1970 年 4 月に最初の人工衛星・東天紅を打ち上げました。2009 年 4 月 13 日現在、78 の中国の人工衛星が地球のまわりの軌道を順調に機能しながら飛んでいます。

中華人民共和国も建国 60 年ともなると、その指導者の多くは革命後世代、国内でも国外でも体制派、革命は遠い昔のことになったようです。安保理決議を議長声明に格下げすることで朝鮮に対する義理を果たしたと中国は考えたのでしょうが、朝鮮戦争はまだ停戦状態であり、米国との戦争は完全に終わっておらず、国の内外に多くの反対者を持つ朝鮮としては、ソビエトなきあと唯一頼りにしてきた中国に裏切られたとのおもいでしょう。

米国も当初は日本の安保理決議採択を支持していたのですが、最後には中国の顔を立てて議長声明で妥協しました。米国としてはこれで日本への義理は十分に果たしたと考えているでしょう。日本には最後にどんでん返しをくい、裏切られたと思っている人もいるでしょう。

今回の議長声明は米中妥協の産物です。これが国際政治です。

朝鮮と米国は次に進み始めています。朝鮮は寧辺の核施設の無能力化作業を監視していた米政府当局者と国際原子力機構 (IAEA) 要員の国外退去を求めました。米国のクリントン国務長官は「いずれ朝鮮とも問題を協議する機会が得られることを望んでいる」と述べ、ボズワース朝鮮政策特別代表は「適当と考えれば米朝の直接協議に応じる」と語っています。

そう遠くない時期に米朝は直接対話し、しかるべき結論に到達するでしょう。それは米朝間の戦争状態の終結であり、米朝国交の正常化です。米朝関係は激しい戦争のあと緊張と緩和を繰り返しながら、徐々に正常化に向かっているのです。私は歴史の前途を楽観しています。

朝鮮による人工衛星の打ち上げが終わって

中西 治

朝鮮の人工衛星が 2009 年 4 月 5 日午前 11 時 30 分頃に打ち上げられ、 37 分頃に日本列島上空を通過して太平洋上に出ました。朝鮮は人工衛星が午前 11 時 20 分に発射され、 9 分 2 秒後に軌道に乗り、 104 分 12 秒の周期で地球の周りを回っており、金日成と金正日の歌を流していると言っています。米国の北米航空宇宙防衛司令部 (NORAD) と北部軍司令部は「テポドン 2 」は太平洋に落下し、何も衛星軌道に乗せられなかったと言っています。どちらが正しいのでしょうか。

1998 年 8 月 31 日に朝鮮が最初の人工衛星を打ち上げたときも同じでした。このときは朝鮮が予告無しに打ち上げたので国際社会の袋だたきにあいました。

1998 年 9 月 4 日の『朝鮮中央通信』と同月 28 日の「検証ー朝鮮民主主義人民共和国の人工衛星打ち上げ」によると、最初に弾道ミサイル「テポドン」発射の情報を出したのは在日米軍横田基地でした。9 月 4 日に朝鮮が正式に人工衛星の打ち上げ成功を発表したあと、ロシアの宇宙飛行追跡センターが、朝鮮の人工衛星が地球をまわる軌道に乗った、ことを確認しました。中国も朝鮮の人工衛星打ち上げ成功を報じました。米国の航空宇宙局 (NASA) も朝鮮の人工衛星が軌道に乗ったことを認めました。9 月 11 日には国務省もこのことをはっきりと認め、米朝高官会議の合意事項を明らかにしました。この合意によって米国の朝鮮への重油搬入、軽水炉建設の本格化、人道支援の継続が約束されました。

今回はどのようなことになるのでしょうか。今朝 (2009 年 4 月 6 日) の『朝日新聞』を見て、朝日がこのような新聞を出して良いのであろうか、これでは 1941 年 12 月 8 日の真珠湾攻撃のときと同じではないかと思いました。朝日はもっと冷静な理性的な新聞を出さなければなりません。再び日本を誤らせます。

このさい今回の出来事を少し振り返っておきます。

日本政府が「弾道ミサイル破壊措置命令」を発した 2009 年 3 月 27 日に 3335 であった地球の周りを飛ぶ人工衛星が一昨日、 4 月 4 日には 3337 になり、わずか 10 日ほどの間に 2 増えました。増えたのは米国とヨーロッパ衛星通信機構 (EUTE) のそれぞれ 1 です。

世界では人工衛星の打ち上げが日常的になっているのに、北東アジアではこれが大きな紛争の種になるというのは大変不幸なことです。

なぜ、このようになるのでしょうか。

第一は人工衛星を打ち上げる朝鮮のロケットが日本列島の上空を通過するからです。

上記の「検証」によると、 1998 年 8 月 31 日に朝鮮が最初の人工衛星を打ち上げたとき、朝鮮は国際法にもとづいて周辺国の自主権と安全を最大限に尊重し、日本の本州上空ではなく、本州と北海道のあいだの津軽海峡上空を越えたと言われています。津軽海峡は国際海峡であり、外国の船舶および飛行体も自由に航行・飛行できます。

最も理想的な宇宙ロケットの打ち上げ角度は方位 90 度で真東だが、それでは日本領土上空を横切り、第 2 段のブースターが日本領海近くに落下してしまう。そこで安全策をとって方位 86 度に修正し、朝鮮東海 (日本海) を横断して津軽海峡の上空を越え、太平洋の公海にいたるコースが設定されたと言われています。

また、 1998 年 9 月 17 日付『労働新聞』掲載の「インタビュー//人工衛星打ち上げの科学者たち」によると、 2 段階目が日本の領海近くに落下しないように衛星発射の高度を下げたとも言われています。

第一回は試験用衛星であったため太陽電池を搭載せず、バッテリーであったので、打ち上げ後 9 日で電源は切れました。当初から衛星本体の寿命は約 2 年と予想されていました。 2009 年 3 月 27 日現在、朝鮮の人工衛星は地球を回る軌道に存在しません。

今回は前回に懲りて、朝鮮は人工衛星の打ち上げを事前に通告しました。津軽海峡は国際海峡ですから、あらかじめ落下が予測されるものがなければ、予告する必要はないのですが、もし、今回も前回と同様に、津軽海峡上空を通過するのであるならば、それを事前に日本に通知していれば、日本人の反応も変わっていたことでしょう。今回の打ち上げ経路がどのようなものであったのか是非知りたいところです。

第二の理由は国連安保理の決議が朝鮮のミサイル実験を禁止していることです。

2006 年 10 月の安保理決議第 1718 号については先に発表した「朝鮮の人工衛星打ち上げ予告に寄せて」で書きました。ここでは 2006 年 7 月 15 日に安保理が採択した決議第 1695 号について書きます。この決議は 2006 年 7 月 5 日に朝鮮が弾道ミサイル (ballistic missiles) を複数回発射 (the multiple launches) したことを非難したも のです。

この決議でも、決議第 1718 号と同様に、朝鮮に対して「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動 (all activities related to its ballistic missile programme) を停止し、か つ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアム (a moratorium on missile launching) に係る既存の約束を再度確認することを要求」しています。また、すべての国連加盟国に対して「ミサイル並びにミサイルに関連する品目、資材、物品及び技術が朝鮮民主主義人民共和国のミサイルまたは大量破壊兵器計画に対して移転されること (missile and missile-related items,materials,goods and technology being transferred to DPRK’s missile or WMD programmes) 」を防止するよう要求しています。

このように、決議第 1695 号も、弾道ミサイルまたはミサイルを大量破壊兵器 (WMD=Weapon of mass destruction) と並ぶ兵器として扱っています。この点では決議第 1718 号の方がはっきりしています。いずれにしても、安保理決議第 1695 号と第 1718 号が禁止しているミサイルは兵器であって、人工衛星を打ち上げるためのロケットはこれに入らないと私は思っています。

そうでないと、ロシア、米国、中国などのロケットによる人工衛星打ち上げも不法となるでしょう。朝鮮のロケットによる人工衛星の打ち上げは悪いが、ロシア、米国、中国などのロケットによる人工衛星打ち上げは良いというのは理屈に合わないでしょう。

人工衛星の打ち上げは優れた人材と技術と貴重な資材と多額の資金が必要です。自力で人工衛星を打ち上げられるのはロシア、米国、フランス、日本、中国、英国、インド、イスラエル、ヨーロッパ宇宙機関 (ESA) 、イランなどです。その他の国や組織は高い料金を払って衛星を打ち上げてもらっています。本来ならば、隣国朝鮮が自力で人工衛星を打ち上げられるようになったことを日本は隣人として喜ぶべきです。それを非難する今日の状況は悲しむべきです。

日朝両国の関係を正常化し、ともに喜ぶ日が近く訪れることを期待しています。

星野昭吉著『世界政治の弁証法』紹介

中西 治

私たちの研究所の同僚、獨協大学法学部教授星野昭吉(ほしの あきよし)さんが、また新著『世界政治の弁証法』(亜細亜大学購買部、2009年3月16日)を出版しました。星野さんはこれまでにも多数の日本語と英語の著作を上梓しています。今回の著書はこれらの業績を踏まえて、世界政治を現状維持志向勢力と現状変革志向勢力の弁証法的ダイナミクスとして描いています。

星野さんは、いま流行りのグローバリゼーションとは何かについて「それは国民国家を超える社会関係の地球的規模の広がり」とする一般的な規定を引用しています。そして、この広がりが、好ましい秩序的・協調的・統合的関係網だけでなく、それ以上に悪しき無秩序的・対立的・分裂的な関係網からも成っており、後者が世界政治システムを支配し、人類的危機を構成・展開・強化している、と指摘しています。

星野さんは2008年の前著『世界政治と地球公共財』で、前者が地球公共財を作り出し、後者が地球公共悪を生み出している、と主張しています。地球公共財とは平和・安全保障、世界人権保障、地球環境、知識体系など、地球公共悪とはテロや地域紛争、核兵器をはじめとする大量破壊兵器、貧困・飢餓、環境破壊、人権抑圧、社会的不正義などです。

新著で星野さんは、グローバル政治の現実と理論を相互に連動・浸透する相互構成関係として把握し、理論は単に現実を説明するだけでなく、現実を変容させ、変革させる、と考えています。星野さんは「理論や知、規範、思想などによって、世界政治の現実を構成したり、現実世界を変容させたり、変革したり、また、現実世界に大きな影響を及ぼしたり、規定することができる」と述べ、理論が果たす役割を重視しています。

この現実と理論との関係は、現状維持志向的現実と現状変革志向的現実および現状維持志向的理論と現状変革志向的理論のそれぞれの関係についても言えます。実際の現実は現状維持志向的現実と現状変革志向的現実の弁証法的展開過程の産物であり、実際の理論は現状維持志向的理論と現状変革志向的理論の弁証法的展開過程の産物なのです。

星野さんはこのような観点からグローバリゼーション、世界政治、世界経済、権力、知識体系、制度勢力、倫理、勢力などの諸問題を論じています。現在の世界の金融・経済危機と関連して私がとくに関心をもったのは、世界経済の問題を扱った第3章、および、コミュニタリアニズムとコスモポリタニズムを倫理の問題として取り上げた第7章です。

星野さんは最後に「地球的規模の問題群や紛争群を統治し、また、解決し、人類の誰もが便益を享受できるためには、地球公共財の供給を理解し、方向づけることが必要となる。そのことが、グローバル政治において、脱現状維持志向勢力、つまり、現状変革志向勢力が支配的地位を占めることを意味する」と結んでいます。星野さんは現状変革志向勢力の側に立っています。

星野さんの考え方を簡単に要約すると、次のようになります。まず現状があり、それについて現状を守ろうとする人とそれを変えようとする人がせめぎ合います。その過程で現状は弁証法的に変わっていきます。そのさいに現状を変えようとする人の理念が重要な役割を果たします。

現在、世界では、オバマさんが「変革」を掲げて米国大統領に当選したように、現状変革志向勢力が台頭しています。他方ではこれに対して現状維持志向勢力が必死に抵抗しています。そのなかでオバマさんの内外政策は揺れ動いています。試されているのはオバマさんの理念です。問われているのは私たちの理念でもあるのです。

星野さんは学のある人です。星野さんは欧米諸国のたくさんの資料を渉猟しながら、「本に読まれる」ことなく、「本を読み」、独自の論を展開している数少ない日本の優れた研究者です。いまのようなときにこそ星野さんの本は読まれるべきです。