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ベトナム戦争を遠く離れて

わたなべ ひろし

先月行なわれた当研究所の総会記念講演で、東大の古田元夫教授のお話しを聞かせていただいた。古田さんの専門はベトナムとのこと。

古田さんのお話しによれば、2000年以降のベトナムの経済成長は著しいものがあるようで、平均成長率は8%に達するという。そしてベトナムの経済成長の特徴として、古田さんは外資の流入とIT化を上げていた。これが両輪となって、ベトナムを「貧困な発展途上国」から「現代的な工業国」へと押し上げているということであった。

僕などが特に面白かったのは、現在のベトナムは社会主義か否かという点についての古田さんのお話しであった。ベトナム自身は、自分たちの経済を「社会主義指向の市場経済」と規定しているそうだが、いかにも苦しい感じ。一方、古田さんもベトナムを社会主義国として定義づけておられるのだが、その理由はといえば、資本主義以外の選択肢が存在しない現在の世界において、「あえて」(このカギ括弧は古田さんのレジメより)社会主義の国号を名乗っているのであるから、それは社会主義とみなしてよいのではないかというものであった(と思う)。

古田さんのような良い方(スミマセン、そうお見受け致しましたもので)に、ベトナムはがんばって社会主義を名乗っているのだからそれを認めてあげようと言われても、当のベトナムの「社会主義者」の方々は、非常に複雑な思いを抱くのではないだろうか。

1960年代、ベトナム戦争と向き合うことで(古田さんなどもそのお一人であったのだろう)、日本の反戦平和の思想がどれほど「豊か」なものになったことか、僕はベトナムと聞くとまずこのことを考える。そのことで、いわゆる「アジア」というものが僕たち日本人の視野に入ってくるようになり、それまでの被害者意識に立った「戦争体験」に依拠していた日本人の反戦平和意識というものが、自分たちのかつてのアジア侵略に対する加害者責任を伴ったものへと転換していく重要な契機となったと思うからである。

そして、例えば米国の日本研究者であるトーマス・ヘイブンズの『海の向こうの火事―ベトナム戦争と日本1965-1975』などを読むと、当時の「ベ平連」などに代表される日本の反戦運動が、米国で展開されていたベトナム反戦運動からどれほど多くのことを学んでいたかということがよく分かる。戦後の日本の「平和」は、日本一国のみで成立したわけでは決してないのである。

2008年の現在から、ベトナム戦争に関連してある種の感慨を持って思い出すのは、1971年のニクソン米大統領による、いわゆる「ドル・ショック」である。

米国はベトナム戦争の戦費を賄うためドルを垂れ流し、その結果国際基軸通貨としての信用を失い、金との交換停止を宣言することで、為替が固定相場制から変動相場制へと移行する。そしてこの変動相場制による為替市場の出現と、その後のITの発達を背景として、90年代以降の金融市場至上主義のグローバリゼーションが出来することになった。

古田さんが言うように、現在のベトナムの経済成長を支えているのが外資の流入とIT化であるとすると、そもそもそれをもたらしたグローバリゼーションそのものを生み出す遠因を作り出したのがベトナム自身なのであるから、現在の彼等の経済成長もむべなるかなということなのかもしれない。

訪中のお知らせ

事務局

研究所では 2008 年 9 月 1 日 (月) から 9 月 8 日 (月) まで、北京および東北への中国訪問をいたします。

中国東北は研究所としても初めての訪問となります。また北京大学や東北部の大学研究機関との学術交流も予定いたしております。

なお旅行代金のほかに、おみやげやチップ代および企画・運営料として一人 1 万円を研究所に振り込んでいただきます。何とぞよろしくお願いいたします。

募集締め切りは 7 月 15 日といたします。希望者は事務局までご連絡ください。ぜひ多くの方のご参加をお待ちいたしております。