月別アーカイブ: 2006年8月

外来と伝統

わたなべ ひろし

近代における欧米の所産である「民主主義」というものは、欧米社会自身が近代国家を建設する上で自分たちの理念としたというばかりではなく、外へ向けてのひとつの発信でもあった。そしてその発信に呼応して、非欧米地域を含め、世界中からの返信がなされてきた。例えば中国の革命がそうであろう、ヴェトナム戦争がそうであろう、旧植民地の独立がそうであろう。

その結果、欧米諸国は、自分たちが創り出し、自分たちのものであると考えていた「民主主義」というものが、ある意味非常に発展というか、成長した姿を目の当たりにすることになる。「なるほど。我々の民主主義というものは、このような潜在力、可能性を持っていたものであったのか」という具合に。そしてそのことをもって、欧米諸国自身もまた自分たちの「民主主義」というものを、改めて問い直すことになる。

ただその際、返信をする側も、外来のものである「民主主義」の理解を全くの真空状態から始めるわけではないだろう。「欧米のこの考えは、我々のことばでいうと何に当たるのだろうか?」という具合に、その外来物に対する自身の理解を固めていくはずである(と思う)。そしてそこから自分たちの歴史や伝統に対する再認識も生まれてこよう。ここに良い意味でも悪い意味でも「伝統」と「外来」の結びつく背景がある。

コミュニケーションというものの核心は、「自分が相手に向けたことばが、その相手を通して自分に投げ返されてくるとき、それはより深い新たな真実をはらんで返ってくるという点」(岡本夏木)にある。そして「民主主義」を介した世界的な発信と応答の歴史は、まさにこのコミュニケーションの核心を地でいったものであった。このように人類は相互に影響し合いながら、「民主主義」というものを共通の財産として発展させてきたのである。

そして日本の近・現代史もまた、欧米諸国の発したことばの束(=文明)に対する呼応のひとつであった。日本は近代化=欧米化を国家的指針とし、その観点から欧米のあらゆる文物を精査すべき対象として吟味してきた。後追いするものが先行者に倣おうとする場合、先行者の有する特徴・本質を純粋化、あるいは極端化することで効率的に理解なり、受容しようとするものであり、日本の場合はその典型であった。つまり日本に入って来る欧米の文物は、いかなるものも純粋化、極端化を通って認識されることになる。

小西豊治『憲法「押しつけ」論の幻』を読んで、僕は今述べてきたようなことを考えた。小西さんは、日本政治思想史・日本法制史、特に自由民権期の憲法構想研究の専門家であり、そんな著者が「現行憲法を見れば見るほど、自由民権期憲法構想の精髄が表現されているように思えてならないのだが、誰も言おうとしないのが、不思議でならなかった」として、6~7年かけて著したのが本書であるという。

この本の中に次のような場面が出てくる。

「ノルマン氏が総司令部の人たちから「日本に民主主義的な伝統があったのか。」と聞かれたので、「あつた、植木枝盛という人がいた。ミスター鈴木はそれを研究している。」ということを彼らにすでに教えていたわけです。」(pp. 106~107)

「ノルマン氏」というのは、カナダ人の日本研究者であるハーバート・ノーマン(1909~57年)のことである。彼は当時カナダ外務省から少佐待遇で総司令部に派遣されていて、マッカーサーの信任も厚かったという。また「ミスター鈴木」というのは、大日本帝国憲法の成立史、特に自由民権期の私義憲法案の研究者(つまり小西さんの専門と一緒ということになる)鈴木安蔵(1904~83)のことで、当時彼は民間の「憲法研究会」に参加し、憲法草案の作成に励んでいた。そして鈴木が草案作成に際して依拠していたのが、自由民権運動期の私議憲法、なかでも植木枝盛の「日本国国憲案」であった。植木の「国憲案」は非常にラディカルなもので、その特徴はフランスに学んだ主権在民と人権保障の徹底であり、革命権や国籍離脱の自由まであったという。

ここから分ることは、当時の占領軍は自分たちの民主主義を被占領国である日本に一方的に押しつけるのではなく、日本に民主主義的伝統が存在するのであれば、それに根ざしたものを作ろうとしていたということである。そしてそのような意志があったが故に、ノーマンを介して鈴木安蔵の憲法草案と植木枝盛と彼を生み出した自由民権運動という日本の「民主主義的伝統」に辿り着くことができたのである。

ところで小西さんが本書を書くに当たって、もうひとつ別の裏テーマ(?)があったような気がする。それは「イラク戦争」である。

小西さんによれば、ブッシュ米大統領がイラク戦争に踏み切った理由として「イラクへの武力制裁」と「イラクの民主化」の2つがあり、「イラクの民主化」実現の裏づけとして、「第二次大戦後、ファシズム日本がデモクラシー国に生まれ変わったという成功体験がある」のだという。そして同じ戦後占領でもイラクの民主化は上手くいかず、日本の民主化は成功するに到ったその理由を、日本の民主化の成功には日本の近現代史に通暁したノーマンの存在が大きく、現在のイラン占領軍の中にはノーマンのような存在がいないためであると著者は述べている。

小西さんの言うように、確かにノーマンの不在ということは大きいと思う。しかしそれはイラク占領が上手くいかない原因なのではなく、現在のような占領政策からくる当然の結果なのだ。それは、はなからノーマンの存在など必要としてはいない。

僕は現在のイラクにも鈴木安蔵や植木枝盛はいると思うし、「民主主義的伝統」(それは形は違うかもしれないが)は存在していると思う。問題なのは、「イラクに民主主義的な伝統があったのか。」と真摯に問う人間が、占領軍(つまり僕たち)の側にいないということなのである。そしてそれは、自分たちの「自由主義」や「民主主義」は絶対に正しいものとして、一方的にイラクに「押しつけ」ようとしている、今の占領軍(つまり僕たち)の閉じられた思考に原因している。そこでは自分で発している言葉に対する自省というものが決定的に欠落しているのである。

自分たちが呼号している「自由」や「平和」や「民主主義」ということばそのものを見つめ直してみることが、今必要なときなのである。そうすればイラクの人たちの声も聞こえてくるようになるのだろう。

家族と平和

宮川 真一

今日世界的に家族の崩壊が叫ばれている。日本においても1970年代に入ると、近代家族=核家族を疑問視させるような現象が発生してくる。第1に、子供に見られる病理現象の出現であり、非行の増加や登校拒否、家庭内暴力、自殺などが挙げられよう。第2に、1960年代に始まる離婚の増加傾向である。また、女性の解放・自立・地位向上を目指す運動は、共働き夫婦の増加とともに、「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割を再検討させている。第3に、高齢社会を迎えるにあたり、夫婦家族制は老親にとって老後生活の不安の根源になっている。

近代家族は家族にとって家庭こそ心やすらぐ場であり、家庭外の世界がもたらすストレスを癒す場であるとのイデオロギーを伴っている。しかし、今日的な問題として、児童虐待、帰宅拒否症、アダルト・チルドレン、キッチンドリンカーなど、家庭そのものが家族メンバーのストレスの源泉となっている場合も少なくない。近年、受験競争の低年齢化、低成長期における企業社会の動揺など、家族をゆさぶる社会的変化が生じている。家族形態にしても、共働き家庭や単身家庭、単身赴任、離婚、再婚、事実婚、シングル化、子供をもたない夫婦、婚外子、養子、同性のカップル、血縁とは関係なく家族として暮らしている場合など、さらに新しい家族のあり方が多く存在している。実際には厳密な意味での核家族の方が少なくなりつつあるといわれる。

日本における家族の今後の動向として、次の3点が指摘されている。1、他の社会機関との相互依存が強まり、多様化する。2、家族を支える絆としての情緒的結合の意義はさらに大きくなる。3、個人化が深まる。女性については、男性に並ぶ高学歴化が、自分の意思で人生を選ぶ能力と選択の幅を拡大し、自主選択・自立を求めることの可能な女性の増加を暗示している。青少年については、住宅条件の改善に伴う個室の確保、パーソナル製品の普及などが彼らの個人化と自立を進めた。

現代日本の家族は近代家族から、多様化・個人化・愛情機能中心化する現代家族へと変化しつつある。それは必ずしも家族の崩壊を意味するものではない。むしろ、家族の第1次集団としての意義は高まっている。家族は、現代社会において他の多くの集団が非人格化していくなかで、数少ない「人間的」集団である。今日、大衆社会状況のもとで人間の自己疎外の現象が発生し多くの社会病理現象が頻発しているが、こうした条件のもと家族の果たすパーソナリティ安定化の機能はいよいよ無視できない。

(石川 実編『現代家族の社会学―脱制度化時代のファミリー・スタディーズ』有斐閣、1997年;森岡清美・望月 嵩『新しい家族社会学』(四訂版)培風館、1997年;望月 嵩・本村 汎編『現代家族の危機―新しいライフスタイルの設計』有斐閣、1980年。)

ニューズレターNo.11より転載(編集部)

訪中・訪朝の当分保留について

中西 治

地球宇宙平和研究所の皆様

残暑お見舞い申し上げます

私たちの研究所は8月末から9月初めにかけて訪中・訪朝を計画していましたが、このほど朝鮮観光総局から今回の訪朝を「当分保留」として欲しい旨の連絡をうけました。したがって、研究所としては今回の訪中・訪朝は「当分保留」とします。

私は個人的に昨年に続いて二度目の中国東北の旅を楽しもうと思っています。今度は赤い月が見られますか。

残り少ない夏の日々を健やかに!

また、秋に。

ウェブサイトのリニューアル

遠藤 美純

このたび竹本さんに代り、遠藤がウェブサイトの管理者となりました。よろしくお願いいたします。

これを期にウェブサイトに新しいコンテンツ管理システムを導入しました。登録済みの会員のみなさまが、直接コラムなどの記事を投稿できるようになります。また RSS というサイト更新情報もご利用いただけるようになりました。

なお、しばらくは新システムベースのページと従来ベースのページとが混在しますが、ご了承ください。今後ともよろしくお願いします。

小泉首相の靖国参拝を厳しく批判する

中西 治

小泉首相は2006年8月15日午前7時41分に内外の厳しい批判を無視し、靖国神社に正式に参拝しました。

これは日本国政府が公式に明治以降第二次大戦までの一連の戦争で亡くなった「大日本帝国軍人」を神として崇め、讃えるものです。

しかも、そこには1931年9月18日以後の中国に対する侵略戦争をはじめとして、日本がアジア太平洋でおこなった戦争に直接責任を負うA級戦争犯罪人が祀られているのです。

小泉首相がいかに詭弁を弄そうと、彼の靖国参拝は単に中国や韓国だけではなく、米国をも含む日本と戦ったすべての国に対する挑戦です。

それは日本国内で首相の靖国参拝を批判している多くの主権者に対する挑戦です。

小泉首相と彼を支える人々の責任は重大です。

歴史はいずれ彼らの責任を問うことになるでしょう。

2006年8月15日に当たって(中西近況報告)

中西 治

地球宇宙平和研究所の皆様

おはようございます。 いかがお過ごしですか、お伺い申し上げます。 今年もまた8月15日が訪れました。 早いもので、あれから61年が過ぎました。 今回は近況報告をします。

私は本年、2006年3月31日に創価大学の専任教員を辞し、4月1日から特任教員となりました。 1956年からソビエト・ニュース社、1963年から日本放送協会、1974年から神奈川大学、1977年から創価大学に勤務、長い勤めが終わってほっとしています。

創価大学には私のゼミナール学生が学部・大学院ともにまだ多数いますので、この学生諸君を無事卒業・修了させなければなりませんが、さあ、これから私の自由な人生が始まるぞ、といった心境です。

私のこれからの仕事の第一は、地球宇宙平和学の確立です。すでに「宇宙地球史の展開 —地球宇宙平和学入門—」を書き上げ、推敲に入っています。これは研究所が今秋に発刊する研究所所報創刊号に掲載していただこうと思っています。ついで、 『地球宇宙平和学叢書』の刊行に具体的に取り組みます。

第二は、研究教育活動のよりいっそう積極的な展開です。本年9月から研究所の教育研究活動が定期的に実施されます。私もそこで講義と演習を担当します。さらに、この他に個人的に日本の内外で新しい研究教育活動を始めます。最新の知恵と知識を広く学び、教えます。

第三は、平和な地球社会をつくるための実践活動です。私はすでに地元の横浜で「洋光台九条の会」に参加しています。これからは活動の輪を横浜、神奈川、日本、世界へと地球全体に拡大していきます。

よろしくお願いします。

良い一日を!

ニューズレター No.11 特集「等身大の平和とは ―家庭・地域・社会―」

事務局

ニューズレター No.11 を発行しました。PDFファイルでご覧いただけます。

巻頭言
・朝鮮に平和を、東アジアに平和を、全地球に平和を! ―第5回総会を終えて― (中西 治)

特集 等身大の平和とは ―家庭・地域・社会―
・身近な平和と「遠く」の戦争 (岩木 秀樹)
・家族と平和 (宮川 真一)
・「子ども達の平和学習」―クイズつき― (近藤 泉)

講演会記録
最近のラテンアメリカ情勢をめぐって ―キューバ、ベネズエラを中心に― (加茂 雄三)

第5回総会報告
・2005年度事業報告
・2005年度収支報告
・2006年度事業計画
・2006年度収支予算

・教育研究活動 (講義・演習) 日程
・事務局からのお知らせ

2006年度後期 教育研究活動 (講義・演習)

事務局

9月10日より12月15日にかけての毎週日曜日に、本研究所では研究教育活動を講義並びに演習として行ないます。どなたでもご参加いただけます。受講料など参加に関する詳細についてはこのページの最後をご覧ください。多くの方のご参加をお待ちしています。

全日程

2006年度後期 (9〜12月) (敬称略)

1. 開講記念講義
中西治 (地球宇宙平和研究所理事長)
二つの教育研究活動の開始にあたって
2006年 9月10日(日)午後2時から4時
研究所事務所(横浜洋光台)

2. 講義
木村英亮 (横浜国立大学名誉教授)
統一テーマ「20世紀における民族と国家
第1回  ロシア革命と中央アジア諸民族 ウズベク人とカザフ人
9月17日(日)午後2時から4時 かながわ県民センター 708号室

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