投稿者「中西 治」のアーカイブ

日本国憲法第九条の改悪に反対する

中西 治

日本国憲法第九条は次のように規定しています。

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

ところが安倍晋三さんの自由民主党は明10日に公示される衆議院議員選挙の「公約」として、憲法第九条の二つの項を維持したままで「自衛隊の存在を明記する」ことを掲げています。

これはきわめて重要な公約ですが、きわめて奇妙な公約です。

というのは日本国憲法第九条は上記のように「戦争を永久に放棄し」、「軍隊を保持せず」、「国の交戦権を認めていない」と宣言しています。

このあとにどのように書けば「自衛隊の存在」を認めることができるのでしょうか。自衛隊は「軍隊ではなく」、その行動は「戦争ではない」と言わなければならないのです。

実際これまで自衛隊は個別自衛権にもとづく「専守防衛」に徹した「自衛のための組織」であり、「軍隊」ではないとしてきました。だから、「軍隊」と言わず、「自衛隊」と言っているのです。

ところが、2015年に自衛隊が集団的自衛権にもとづき海外でも武力が行使できるようになりました。自衛隊はもはやれっきとした「軍隊」です。「専守防衛」論は通じなくなりました。

それでもなお自民党が今回の選挙で公約として第九条に「自衛隊の存在を明記する」としたのは、安倍晋三内閣が先に行なった集団的自衛権にもとづく自衛隊の海外派兵と戦争行為を憲法第九条のオブラートに包みながら合法化するためです。

自民党が選挙に勝てば、安倍晋三さんは日本国民が外国で戦争する軍隊を認めたと主張するでしょう。

最後に一言。

安倍晋三さんは朝鮮問題で「制裁一辺倒」ですが、その結果朝鮮半島で戦争が起こったとき、安倍晋三さんは本当に米国と一緒に朝鮮と戦うつもりなのでしょうか。そうなれば、朝鮮半島だけでなく、日本列島も戦場となります。それでも安倍晋三さんはいまの強硬路線を貫くのですか。

日本の主権者がどのような選択をするのか。最後は主権者が問われるのです。

総選挙の開始に寄せて

中西 治

2017年9月28日に衆議院が解散され、総選挙が始まりました。公示は10月10日、投開票は22日です。

「民進党」の前原誠司さんが小池百合子さんの「希望の党」との「合流」を希望しました。

小池さんはこれを断りました。小池さんの「選択的併合」となりました。

「民進党」はこれまで出した公認をすべて取り消しました。立候補希望者は「民進党」を脱党し、改めて「希望の党」に公認を申請することになりました。

小池さんはこれらの人々の申請を無条件に認めず、個別に、とくに、安全保障に対する考え方を考慮して決定すると言っています。

「民進党」は選挙が始まる前に候補者が一人もいなくなりました。総選挙が終わると、参議院議員もいなくなります。「民進党」はなくなります。

「自由民主党・公明党」と「民進党・共産党・自由党・社会民主党」との闘いが「自民党・公明党」、「希望の党」、「共産党・社民党」の三者の闘いとなりました。

自民党は競争相手が二つに割れたことにほっとしているでしょう。

「自民党」も「希望の党」も「保守と改憲」です。どちらが勝っても本質的に変わりません。

今回の出来事の「黒幕」はほくそ笑んでいるでしょう。

安倍さんは長くなりました。それに強引すぎます。

小池さんも東京都知事に当選したときや東京都議会議員選挙に勝利したときと比べて輝きを失っています。

有権者は変化を求めています。どのような選択をするのでしょうか。

朝鮮半島とトランプ・金正恩・プーチン

中西 治

現在、世界でもっとも緊張しているのは朝鮮半島です。この朝鮮半島をめぐって米国のトランプ大統領と朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が罵り合っています。子供の喧嘩のようですが、二人とも感情的な人ですから、何を仕出かすか分かりません。

他方、ロシアのプーチン大統領はヨーロッパからユーラシア大陸を横断し、朝鮮半島を縦断して韓国の釜山(プサン)に至る鉄道の開設を呼びかけています。プーチンさんが「時の氏神」になるのか否か。朝鮮半島はどこへ行くのでしょうか。それをここ
で検討します。

今回、口火を切ったのはトランプさんです。彼は2017年9月19日に国際連合総会で演説し、次のように述べました。

「米国は偉大な力と忍耐力を持っている。しかし、米国自身とその諸同盟の防衛を余儀なくされた場合、われわれは北朝鮮を全体的に破壊するより他に選択はないであろう。ロケット・マンは彼自身と彼の体制のために自殺的な役割を果たしている。」

Remarks by President Trump to the 72nd Session of the United Nations General Assembly

これに対して金正恩さんがいきり立ち、同月21日に次のような声明を発表しました。

「トランプが世界の前面で私と国家の存在自体を否定し、侮辱し、わが共和国をなくすという歴代で最も暴悪な宣戦布告をした以上、われわれもそれに相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するであろう。ものを聞き分ける能力もなく、自分の言いたいことだけを言う老いぼれには行動によって示すのが最善である。」

朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長声明

2017年9月25日の『朝日新聞』によると、朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外務大臣は同月23日に国連総会で演説し、「最終目標は米国との力の均衡をとることだ」と述べました。

プーチンさんはすでに2017年6月2日にロシアのペテルブルグで開かれた国際経済フォーラム全体会議で次のように述べていました。

「私たちは国際法の諸基準と基本的諸原則を皆が同じように理解することについて合意し、これらの原則を守ろうではないか。国際法についての合意ができ、それが守られるまで私たちがいま北朝鮮で見ているような問題が生じるであろう。小さい国々は核兵器の所有以外に、自国の独立、安全、主権を守る他の方法を有していない。」

http://kremlin.ru/events/president/news/54667

また同年9月5日にプーチンさんは中国で開催されたBRIKS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)首脳会議後のロシア人記者との会見で次のように述べていました。

「イラクでは大量破壊兵器があると言ってサダム・フセインとその家族を子供や孫まで殺した。北朝鮮の人々はイラクで、その後リビアで行なわれたことを忘れていない。昨日も言ったが、北朝鮮の人々は安全を感じない間は草を食べてもその計画を放棄しないであろう。何が安全を保障するのか。国際法の復活である。すべての関係者の間の対話である。北朝鮮を含むすべての参加者が全滅されると恐れないようにしなければならない。逆に紛争のすべての当事者が協力の道に進まなければならない。戦争ヒステリーの焚き付けは地球的惑星的大惨事と多数の人的犠牲をもたらすであろう。北朝鮮の核問題は平和的外交的に解決する以外に道はない。」

http://kremlin.ru/events/president/news/55535

さらにプーチンさんは同月7日にロシアのウラジヴォストークで開催された東方経済フォーラム全体会議で北朝鮮も参加する次のような計画を明らかにしました。

「北朝鮮を徐々に地域協力に引き込まなければならない。ロシアにはすでにすべての人が知っている具体的提案がある。ロシアのシベリア横断鉄道と韓国の鉄道を北朝鮮経由で結びつけ、ロシア・朝鮮・韓国の共同鉄道をつくるとともに、パイプライン輸送をおこない、北朝鮮の港湾を開発すること等である。この他にサハリン(樺太)に橋を架け、サハリンと北海道を結ぶ計画もある。」

http://kremlin.ru/events/president/news/55552

以上の発言をまとめると、プーチンさんの考えは次のようなものです。

イラクとリビアで起こったように米国は気に食わぬ国の政権を転覆し、最高指導者とその家族を殺すから、朝鮮のような国は核兵器とミサイルで自国を守らざるを得なくなる。これを力で押しつぶそうとすると核ミサイル戦争になるから「話し合い」で解決するとともに、当該国を国際社会へ復帰させなければならない。

私はこの考えに賛成です。朝鮮半島を対立の場としてだけでなく、協力の場としても見ることが必要です。シベリア横断鉄道を朝鮮経由で韓国の釜山まで延長する計画は前にもありましたが、それが無くならないで再登場したことを私は大変喜んでいます。北海道がサハリン経由でユーラシア大陸と繋がる。素晴らしい「夢」です。

敗戦72年にあたって

中西 治

本日、2017年8月15日は、昭和天皇が1945(昭和20)年8月15日正午にラジオを通じてポツダム宣言受諾を発表し、米国、中国、英国、ソヴェトなど連合国に無条件降伏してから72年になります。

敗戦ではなく、終戦だと言う人がいます。それは誤魔化しです。あの戦争を知らない人です。あの戦争を正当化する人です。

あのとき私は12歳、母や弟、妹たちとともに疎開していた奈良県の県立五条中学校1年生でした。たまたま大阪から来ていた父とともに近くの隣組長さん宅で玉音放送を聞きました。放送は雑音ばかりで、私にはよくわかりませんでした。両親は分かったようです。帰宅後に母が父にひそひそ声で「3代目は国を滅ぼしましたね」と語っていました。

これが私の戦後の始まりでした。

日本国民の多くは戦後70年間、明治以降の日清戦争、日露戦争、第一次大戦、第二次大戦など戦争の歴史を深く反省し、日本国憲法のもと平和国家への道を歩んできました。

ところが安倍晋三内閣は戦後70年の2015年に集団的自衛権の名のもと自衛隊を海外に派遣し、日本を外国で戦争のできる国に変えました。

日本は再び戦争への道を歩み始めています。

このようなときに「グアム攻撃」とか「朝鮮半島攻撃」とかの声が聞かれます。核ミサイル攻撃についての「未熟な認識」も聞かれます。

広島に原子爆弾が投下されたあと急遽、中学校の校庭に全校生徒が集められ、先生が「今回広島に新型爆弾が投下された。これまで黒い服を着るように言ってきたが、今後は白い服を着るように」と指示されたことを思い出しています。

「新型爆弾」は黒い服を着ようが、白い服を着ようが、人間を殺したのです。

朝鮮と米国の戦争好きは戦争を煽っています。日本の一部もこれに呼応して「ミサイル防衛」などとはしゃいでいます。このような論議に乗ってはなりません。

前回、1950年6月に朝鮮戦争が起こったとき、日本はまだ米国をはじめとする連合国の占領下にあり、日本軍は武装を解除され、一兵もいませんでした。米国は急遽「警察予備隊」をつくり、再軍備を始めましたが、日本国内の「朝鮮戦争反対」の声は強く、米国は日本兵を朝鮮に連れて行くことはできませんでした。

しかし今は違います。日本は自衛隊を海外に派遣し、外国で戦争ができるようになっています。現に日本の自衛艦が米国の航空母艦と朝鮮半島周辺で合同訓練をしています。

朝鮮戦争が再発し、自衛隊が米軍と行動をともにすれば、朝鮮半島だけでなく、沖縄を含め日本列島全体が戦場となります。

それは第二次大戦や前回の朝鮮戦争以上の悲劇を朝鮮半島と日本列島にもたらすでしょう。

どこであれ戦争は絶対にしてはなりません。それは地獄です。

朝鮮半島の非核化と米朝国交正常化を! ―ティラーソン米国務長官の訪ロに寄せて―

中西 治

1950年6月25日に朝鮮戦争が起こってから間もなく67年になります。

1953年7月27日に板門店で国連軍首席代表ハリソン陸軍中将と朝鮮軍首席代表南日中将が停戦協定に調印し、直ちに国連軍司令官クラーク大将と金日成朝鮮人民軍最高司令官および彭徳懐中国人民志願軍司令員が停戦協定文書に署名して「停戦」が実現しました。それが63年余ずっと続いています。まだ「戦争」は完全に終わっていません。

なぜこういうことになったのでしょうか。

それは当時の李承晩韓国大統領があくまでも武力統一をめざし、この機会を逃すと統一が不可能になると考えて停戦に反対していたからです。これを米国が支持しました。

停戦交渉での韓国軍代表を任命したのは韓国大統領ではなく、国連軍司令官でした。李承晩大統領は米国が韓国と相互防衛条約を締結することを条件として停戦を妨害しないことを約束しました。この米韓相互防衛条約は「停戦」実現後の同年10月に締結されました。

それ以後、韓国は米国とともに朝鮮との戦争に備えて毎年合同軍事演習をし、朝鮮も韓国および米国との戦争に備えて今日に至りました。その間に韓国に金大中大統領が登場し、韓国と朝鮮が朝鮮半島の非核化と平和・統一に向けて歩み始めましたが、これも途中で挫折しました。。

この間の経緯については、拙著『ロシア革命・中国革命・9.11――宇宙地球史の中の20-21世紀――』南窓社、2011年、に掲載されている私の論文「中国革命と朝鮮戦争」を参照ください。

このような状況が今年トランプ米国大統領の登場とともに変わり始めました。

彼はオバマ前大統領の「話し合い路線」は「六者協議」に見られるように失敗したから、今後は「力の行使=戦争」をも含む方式を検討すると言い出しました。トランプさんは最初、米国はもう「世界の警察官の役割」は果たさないと言っていましたが、最近は「世界の軍隊の役割」を果たすようになっています。

たとえば、シリア問題です。

2017年4月4日午前6時半過ぎに何者かがシリアの反政権派が拠点としているシリア北西部のイドリブ県ハーン・シェイフンを爆撃しました。

トランプさんは即座にこれをアサド政権軍が化学兵器を使用した攻撃と断定し、4月6日から7日にかけての深夜に地中海上の米国軍艦からシリア政権軍の空港(The Shayrat Air Base in Syria)に向けてミサイルを発射しました。

丁度、中国の習近平国家主席が米国を訪問し、トランプ大統領と夕食をともにしていました。習近平国家主席はこの話をトランプ大統領から直接聞き、一応納得したようです。

このシリアの空港を使っているロシアの外務省は7日に声明を発表し、「米国がこのような無分別な態度をとるのは初めてではない。そもそも米国軍隊がシリア政府の同意がなく、国連安保理事会の決議もなしに、シリア領にいること自体が国際法の乱暴な明らかな侵犯である。今日米国がとっている行動はロ米関係をより一層破壊する」と述べました。

http://www.mid.ru/web/guest/maps/us/-/asset_publisher/unV… Заявлен ие МИД России в связи с вооруженной акцие й США в Сирии 7 апреля 2017 года

朝鮮半島でも緊張が高まりました。

米国太平洋軍のハリス司令官は8日にシンガポールを出港しオーストラリアに向かっていた原子力航空母艦カールビンソンをはじめとする攻撃艦隊を9日に朝鮮半島近海の西太平洋に向かわせることにしました。

https://www.defense.gov/News/Article/Article/1146225/carl-… Carl Vinson Strike Group Departs Singapore for Western Pacific

このような状況のもとで米国のティラーソン国務長官が11日から12日にかけてロシアを訪問し、プーチン大統領、ラヴロフ外相などと会談しました。12日に行なわれたティラーソン国務長官とラヴロフ外相の共同記者会見でラヴロフ外相は次のように語りました。

  1. 今晩は。長い一日でした。私たちはティラーソン国務長官と話し合った。いましがた2時間以上にわたったプーチン大統領との会見がおこなわれた。話し合いは詳細に、率直におこなわれ、両国関係と国際問題での相互行動にとってカギとなる諸問題全般に及んだ。
  2. 私たちの関係と国際情勢の現段階が大いに安定しているものではないことに留意した。問題がたくさんある。その中には前オバマ政権の緩慢な行動によって残された“地雷”のような問題もある。私たちは現実主義者である。このような障害を除去するのには多大の努力が必要なことを理解している。本日、プーチン大統領は私たちの一貫した路線を確認した。
  3. 私たちは私たちの協力を阻害し、紛争を先鋭化させようとする試みを見ている。これは先見性のない態度である。モスクワとワシントンが協力したとき、私たち両国民だけでなく、全世界が利益を得ていることを歴史は示している。
  4. 国際テロリズムとの妥協のない闘いをめざす私たちの共通の目標を確認した。このテーマは米ロ両国の大統領が数度の電話による会話で論議したものである。
  5. 4月4日のイドリブ事件と7日の飛行場攻撃事件を審議した。本日、私たちはこの事件を徹底的に究明しなければならないと主張した。ロシアはシリア政府が国連とハーグの「ОЗХО(化学兵器禁止機関)英語OPCW」に書簡を送り、検査官をイドリブと飛行場に派遣するよう要請したことに留意するよう主張した。私たちはアメリカの同僚がこのような調査を支持する用意のあることを知った。
  6. ロシアの空軍・宇宙軍と米国を中心とする同盟国との間にかつて存在した「シリアでの事件防止と航空安全確保についての覚え書」はロシア側の都合でその効力が停止されていた。本12日にプーチン大統領がこの覚書の効力を復活させる用意があることを明らかにした。
  7. ロシアと米国はシリアをはじめとする国々の内政に干渉する意図を有しないことをかつて公然と声明した。この声明は依然として有効である。イラク、リビアなどの例は内政干渉の試みが繰り返されることに対する良き警告となる。
  8. 「ИГИЛ(イラクとレバントのイスラム国家、レバントとはシリアとレバノンなどの複数の国・地域を含む歴史的地域名)英語ISIL」とその他のテロリストたちの完全な破壊と壊滅を達成しようとする私たちの共通の決意は有効であり、それを本日完全に確認した。
  9. アフガニスタンのようなテーマもある。4月14日にモスクワでアフガニスタンとその隣国も参加した会合『モスクワ・フォーマット』が開催される。米国の代表も招かれている。
  10. ウクライナにおける危機に触れた。私たちの共通の立場は「2015年のミンスク合意が達成されなければならない」である。
  11. 朝鮮半島情勢についても語った。両国はこの問題について採択された国連安保理決議は順守されなければならないと主張している。政治的・外交的努力によって朝鮮半島の非核化の問題を解決するための条件をつくりだす方向に向かわせなければならない。

http://www.mid.ru/ru/foreign_policy/news/-/asset_publisher/… Выступ ление и ответы на вопросы СМИ Министра ин остранных дел России С. В. Лавлова…

これに対しティラーソン国務長官は次のように語りました。

  1. 今晩は。私たちはプーチン大統領との約2時間の実り多い会見から帰ってきたばかりである。私たちは米ロ関係の現状を率直に論議した。私は米ロ関係の現状が低い点にあり、両国間の信頼が低い水準であるという見解を表明した。世界の二大核保有国がそれにふさわしい関係を持つことができていない。私たちは私たちのコミュニケーション・チャンネルを増大させる方策を論議した。
  2. ラヴロフ外相と私は即座に考えなければならない問題と長期にわたって考えなければならない問題について長い間話し合った。私たちは長期間の関係の改善が意見の異なる問題を前進させるのに役立つことを理解した。
  3.  私たちはシリアについて広範囲に話し合った。いくつかの領域では私たちは共通の考えを持っている。とくに私たちは統合した安定したシリアをともに信じている。私たちは私たちの両国を攻撃しようと望んでいるテロリストたちにとっての「安全な天国」を否定する点で一致している。
  4.  私たちはシリア問題の小さいことを処理し、関係を安定させる方向で前進させるために作業部会をつくることで一致した。ラヴロフ外相と私はシリアを前進させるための提案を検討することで一致した。
  5. 私たちは北朝鮮が非核化されるべきであるという点で一致している。私たちは私たち両国の外交レベルと軍事レベルの両方を含めて、シニア・レベルのコミュニケーションが必要なことで一致した。私たちはまた北朝鮮の体制がもたらす現実の脅威―この体制が進めている核プログラムの発展、この北朝鮮の体制に対し路線を変更するように促すうえでロシアが果たす建設的役割についても論議した。そのことによって私たちは未来について話し合う状況をつくりだすことができる。
  6. 私たちはミンスク合意の重要性を考慮した。ロシアは暴力を段階的に減らし、分離派軍隊と重兵器の撤退を進めることによって合意の履行を前進させることができる。

<https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/04/270136.htm> https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/04/270136.htm Remarks With Russian Foreign Minister Sergey Lavrov at a Press Availability

ここではプーチン大統領の考えはほとんど紹介されていません。プーチン大統領は4月11日におこなったイタリアのマッタレッラ大統領との会見後の記者会見で次のように語っています。

  1. 私は2003年の事件を思い出している。このとき米国の代表者が国連安保理においてイラクで発見された化学兵器のようなものを示した。このあとイラクでの軍事カンパニーが始まった。国が破壊され、テロリストの脅威が高まり、「イラクとレバントのイスラム国家」が国際舞台に現れた。
  2. どうしてこのようなことがいま起こっているのか。米国の前政権のおかげで多くのヨーロッパ諸国が米国大統領選挙運動中に反トランプの立場をとった。いま、すべてが西側共同体内の関係の回復を願っている。団結のための大変良いプラットフォームがある。シリア、ロシア、共通の敵である、素晴らしい。私たちはこれが相互活動を良い方向に向かわせることを望むだけである。
  3. 新しい攻撃があるのだろうか、ないのだろうか。このような挑発がダマスカスの南部近郊を含むシリアの他の地域でも準備されている。その使用の責任をシリアの正式政権に負わせようとしているとの情報がある。私たちはこのような行為を徹底的に究明し、ハーグのしかるべき国連機関に提訴するつもりである。

http://kremlin.ru/events/president/news/54267 Заявление для п рессы по итогам встречи с Президентом Ита лии Серджо Маттареллой

2017年4月11日にトランプ大統領はFOXビジネスネットワークのインタビュー収録で、朝鮮の核実験やミサイル開発を念頭に、金正恩朝鮮労働党委員長を「大きな過ちを犯している」と批判しました。

12日(日本時間13日早朝)に国連安保理事会は化学兵器問題についての米英仏の決議案をロシアの拒否権によって廃案としました。中国は棄権しました。

13日に米軍はアフガニスタンで「IS(イスラム国)」の地下施設を破壊するために大規模爆風爆弾「モアブ」を使用したと発表しました。

15日に米国のペンス副大統領がアジア太平洋地域を訪問し、韓国のソウル、日本の東京、インドネシアのジャカルタ、オーストラリアのシドニーなどを歴訪することになりました。

<https://www.defense.gov/News/Article/Article/1152026/penc> https://www.defense.gov/News/Article/Article/1152026/penc…Pence to Discuss North Korean Aggressiovn on Asia-Pacific Trip

16日午前6時過ぎに朝鮮が中距離弾道ミサイルの発射実験をおこないましたが、失敗しました。

17日午前にペンス米副大統領が朝鮮半島の非武装地帯を訪問し、午後に韓国の黄教安首相(大統領権限代行)と会談しました。会談後の共同記者会見でペンスさんは「朝鮮はトランプ大統領の決意やこの地域の米軍の力を試すようなことはしない方が良い」と述べました。

18日午後にペンス副大統領は訪日し、安倍首相、麻生副首相兼財務相などと会談しました。

19日午前にペンス副大統領は米海軍横須賀基地に停泊中の原子力空母ロナルド・レーガンを訪問した後、次の訪問地ジャカルタに向かいました。

同じ19日にティラーソン国務長官は国務省での記者会見で北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを検討していると述べました。

20日にペンス副大統領はインドネシアでトランプ大統領が2017年11月に日本を含めて初めてアジアを訪問する可能性のあることを明らかにしました。

同じ20日に国連安保理事会は朝鮮による16日のミサイル発射を強く非難する報道声明を発表しました。

21日午前に日本国内閣官房長官記者会見のホームページが「弾道ミサイル落下時の行動についてのホームページ」を「内閣官房国民保護ポータルサイト」に掲載すると発表しました。このサイトは「北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に落下する可能性がある場合」、「近くのできるだけ頑丈な建物や地下街などに避難する」、「できれば窓のない部屋に移動する」などの注意喚起をおこなっています。

http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201704/21_a.html

同じ21日に日本の防衛省は海上自衛隊の護衛艦2隻を海上自衛隊佐世保基地(長崎県)から出港させました。この2隻は間もなく朝鮮半島周辺に到着する米国のカールビンソンなどと合流し、共同訓練を実施する予定です。

以上の事実の多くは『朝日新聞』の報道によります。

現在の世界情勢が徐々に明らかになってきました。

第一に米ロ関係は良くありません。モスクワにある米国のカーネギセンターは現在の米ロ関係を「新しい冷戦」と特徴づけています。4月12日のプーチン・ティラーソン会見は4月21日までロシア大統領府のホームページに会見があった事実も、会見の内容も掲載されていません。余程重要な内容か、余程発表したくない内容なのか、でしょう。

第二に米中関係も必ずしも良くありません。それでも米ロ関係よりはよろしい。

第三に中ロ関係はまあまあです。

第四に日米関係では相変わらず日本が米国の目下の同盟者の役割を果たしています。その典型的な例が沖縄の普天間基地の辺野古への移転です。沖縄県民の多数が反対し、知事も移転に反対しているのに日本政府は移転を強行しています。第二次大戦中も日本は沖縄にだけ地上戦を押し付け、多大な被害と負担を強いました。

第五は朝鮮半島情勢の緊張です。朝鮮半島は「戦争の瀬戸際」にあります。米国のカールビンソンなどが朝鮮半島に近づいています。日本の自衛艦もこれに合流し、共同演習に参加すると言われています。

現在の最大の課題は朝鮮半島の緊張を緩和し、朝鮮半島問題を平和的に解決することです。こういう時にこそ「冷静に慎重に」対応し、「平和への道」を探索しなければなりません。

人間はみんな「誇り高い」です。トランプさんも金正恩さんも同じです。

朝鮮はこれまで米国から下に見られ、「停戦」後ずっと対等な話し合いを拒否されてきました。

それならばと彼らは核兵器とミサイルをつくり始めたのです。

朝鮮が現に持つている核・ミサイルはたかが知れています。

米国は1945年にすでに原子爆弾を持ち、それを運ぶ長距離爆撃機B-29を持っていました。実際に広島と長崎に原子爆弾を投下しました。

米国は戦後70年余も原子爆弾・水素爆弾・爆撃機・ミサイルをつくり続けました。米国の持つ核ミサイル兵器は膨大です。朝鮮とは比較になりません。

米国と朝鮮が戦争を始めれば、最終的には米国が勝つでしょう。

それでも戦争が始まれば、朝鮮は死に物狂いで戦うでしょう。米国は手こずるでしょう。前の戦争で米国は体験済みです。

今回の戦争に中国とロシアは参加しないでしょう。

それでも戦場は朝鮮半島に止まらず、米軍基地のある沖縄をはじめとする日本各地にも戦火が及ぶでしょう。

今回もし自衛隊が朝鮮半島で本格的に戦うとなれば、事態は一転するでしょう。

戦争の性格が変わります。

「南北朝鮮民族の内戦で米国が南を支持する戦争」に「南北朝鮮民族の反日戦争」という性格が加わります。

事態は複雑になり、収拾のつかないものになります。いずれにしても、朝鮮半島は「生き地獄」となります。

日本も「生き地獄」となります。

私たちはこの「生き地獄」を避けるために最善の努力をする必要があります。

私は「トランプさんの出番」がきたと考えています。

トランプさんが習近平さんと一緒に金正恩さんと会い、「朝鮮半島の非核化」と「米朝国交正常化」を決めれば良いのです。

米朝を含めて平和を願う世界のすべての人が安堵の胸をなでおろし、大喝采を送るでしょう。

21世紀の人間はこれくらいのことができなければなりません。

米中首脳会談に寄せて

中西 治

米国のトランプ大統領が2017年4月6日(木)から7日(金)にかけて2日間、米国フロリダ州パームビーチの別荘「マール・ア・ラーゴ」に中国の習近平(シーチンピン)国家主席を招き、会談しました。

この会談中の6日午後9時40分(米国東部夏時間、日本時間7日午前10時40分)にトランプ大統領はシリアのアサド政権がシリア国民に対して恐るべき化学兵器を使用したとしてアサド政権下の空軍基地を攻撃する命令を発しました。

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/04/06/stat…  Statement by President Trump on Syria

米国のティラーソン国務長官が7日午後3時58分(日本時間8日午前4時58分)からの記者会見で語ったところによると、この攻撃の事実をトランプさんは6日夜の晩餐会の終わりころに習近平さんに直接伝えました。習さんはこの事実を伝えられたことに感謝し、人々が子供たちを殺すようなときには、このような対応が必要なことを理解すると述べたと言われています。

https://whitehouse.gov/the-press-office/2017/04/07/bri… Briefing by Secretary Tillerson, Secretary Mnuchin,and Secretary Ross on President Trump’s Meetings with President Xi of China

他方ロシア大統領報道部は7日午前9時(モスクワ時間、日本時間7日午後3時)に「ロシア大統領はシリアに対するアメリカの攻撃を国際法の基準を侵すものであり、主権国家への侵略とみなす。その際こじつけの口実が用いられている。シリア軍は化学兵器を保有していない。」とのコメントを発表しました。

http://kremlin.ru/events/president/news/54241

ティラーソン米国務長官はロシア大統領のこのコメントについて先の記者会見で次のように述べています。

「私はロシア人からのこのような反応に失望している。なぜなら、これはアサド政権に対する支持を今後も続けることを示すものであり、とくに、このような恐ろしい攻撃の仕方を自国民に対して実行する体制を今後も支持することを示すものである。」

今回の習近平さんの米国訪問の結果、現在の米国と中国の関係が明らかになってきました。

米国は中国を対等のパートナーとして見ていないようです。そうでないと、遠路はるばる中国から来た客人を前にして中国と親しいロシアが支持するシリアを攻撃するなどということはしないでしょう。トランプさんは習近平さんに「米国」をとるのか、「ロシア」をとるのかを試しました。

また、先のティラーソンさんの記者会見によると、トランプさんは朝鮮問題についても習近平さんに「中国が私たちと一緒にできない」のであるならば、「私たちは独自のコースを描く用意がある」と言っています。

習近平さんは客人としてトランプさんの顔を立て、事を荒立てず、決裂を避け、今後の「米中関係」の枠組みを作って帰国しました。

本来ならば、首脳会談後には両国首脳の共同記者会見があり、共同宣言や共同声明などが発表されます。ところが今回はそれらがありませんでした。

習近平さんとしては公開の席で米国のシリア攻撃に賛成したり、支持する声明を発表するわけにはいかなかったのでしょう。

習近平国家主席との会談終了後に発表されたトランプ大統領の所見は「米国と中国との関係にめざましい進歩が見られた。私たちは今後多くの進歩を追加して創り出すだろう」でした。

https://www.whitehouse.gov./the-press-office/2017/04/07/re… Remarks by President Trump After Meeting with President Xi of China

トランプさんは「したいようにする」人のようです。

シリア問題でも「したいように」しました。「イラク戦争の教訓」はありません。

朝鮮問題でも「したいように」するでしょう。「朝鮮戦争の教訓」はありません。

トランプさんは化学兵器で亡くなった人々を悼むのですが、そのことによって生ずる新たな戦争による死者に対する哀悼の気持ちはないようです。戦争の危険が高まりました。

これに対して私たちはどのように対応するのか、一人一人が考えるべきときのようです。

朝鮮半島問題の平和的解決を! ――ティラーソン米国務長官の日・韓・中訪問に寄せて――

中西 治

朝鮮半島情勢が注目を集めています。

2017年3月1日から恒例の米国軍と韓国軍の合同軍事演習が韓国内で始まっています。朝鮮はこれに強く反対しています。

同月6日に米国軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD=サード)の発射台などが韓国慶尚北道星州郡(キョンサンプクト・ソンジュ)にある韓国ロッテグループ系列のゴルフ場に輸送機で運び込まれました。THAADは6基の発射台と48発のミサイルなどで構成され、朝鮮の短距離、中距離弾道ミサイルを迎撃する役割を担っています。これには朝鮮だけでなく、中国も高性能レーダーの範囲が自国にも及ぶとして強く反対しています。

同6日朝、朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長立会いの下、同国西部の平安北道東倉里(トンチャンリ)から弾道ミサイル4発が発射されました。そのうち3発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下しました。

7日午前、安倍晋三首相は米国のトランプ大統領と電話で協議した後、「朝鮮の脅威は新たな段階になっていることを日米で確認した」と記者団に語りました。

同日、朝鮮中央通信は、この発射は有事の際に在日米軍基地への攻撃を担う朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の訓練だったと報じました。

この間に金正恩さんの異母兄金正男(キム・ジョンナム)さんがマレーシアで死亡したことが明らかになりました。

10日、韓国の憲法裁判所は朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する韓国国会の弾劾訴追を妥当と認めました。朴槿恵さんは韓国大統領職から罷免されました。次の大統領選挙は60日以内に実施されます。

このように最近の朝鮮半島情勢は「きわめて危険」です。「一触即発」の感があります。

朝鮮半島はこれからどうなるのでしょうか。この点で大きな役割を果たすのは米国のトランプ大統領です。ところが、彼はこの問題について多くを語っていません。

そこで私はトランプ政権で国務長官になったティラーソンさんに注目しました。彼は2017年3月15日から19日まで日本、韓国、中国の3国を歴訪しました。

私はこのティラーソンさんの3国での発言を検討し、トランプ大統領の対朝鮮半島政策を考えることにしました。

第一は3月16日の日本東京での演説です。ティラーソンさんは「北朝鮮を非核化しようとする過去20年にわたる外交的及びその他の努力が失敗であった」と述べました。https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/03/268476.htm

第二は同月17日の韓国ソウルでの演説です。ティラーソンさんは「戦略的忍耐政策は終わった。外交的、安全保障的、経済的な新しい方法を検討する。すべてのオプションがテーブルの上にある」と述べました。記者団から「6者協議が実り多くないとしたら、効果的な方法は何か」とか、「軍事的オプションを含むのか」との質問が出ました。彼はこれに対して「5者か6者」、「軍事的紛争までいくことを望んでいない」と答えました。https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/03/268501.htm

第三は同月18日の中国北京での演説です。ティラーソンさんは「中国の王毅外相と私は北東アジアとアジア太平洋地域の安定と安全を守ることの重要性について話し合った。私たちは過去20年以上にわたっておこなわれた努力が北朝鮮の不法な兵器プログラムによって引き起こされた脅威を抑制できなかったことに留意した。中国の公表された政策は朝鮮半島の非核化である。私たちは私たちの決定を新しくした。私たちは一緒に北朝鮮政府にその人民のためより良い道と異なる未来を選ぶように説得する努力をする。」と述べました。

米国のABCニュースの記者がトランプ大統領の17日のツイッター「北朝鮮は悪い、中国はほんの少ししかしていない(North Korea’s bad and China has done very, very little)」を紹介したのに対して、ティラーソンさんは「半島の緊張は極めて高い、事態はずいぶん危険なレベルに達している(…that tensions on the peninsula are quite high(inaudible=聞き取れない) and that things have reached a rather dangerous level.)」と答えました。https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/03/268518.htm

第四は19日の北京人民大会堂でのティラーソン国務長官と習近平国家主席との30分間の会談です。この会談で米中両国の国交樹立以来40年間の歩みについて話し合われ、両国にはより偉大な協力の機会があるという点で意見が一致しました。ティラーソンさんは近く行われるトランプ大統領の訪中について語り、そこでの論議は将来の米中関係への道を描くことになるであろう(…for discussions that will chart the course for future U.S.-China relations.)」と述べました。米国務省ホームぺジ“Secretary Tillerson’s Meeting With President Xi Jinping of the People’s Republic of China(P.R.C.)”。

私はこれら一連のティラーソンさん発言を読んでほっとしました。朝鮮半島で差しあたって「戦争はない」と思いました。

ところが、『朝日新聞』2017年3月21日朝刊によると、18日の『労働新聞』は「米国の(北朝鮮)体制転覆案は悪の帝国の終末案」と非難し、19日にトランプさんは金正恩さんについて「極めて悪い振る舞いをしている」と述べ、20日の朝鮮中央通信は「米国は最悪のならず者国家」と批判したと言われています。いずれにしても、米国はティラーソン国務長官の報告を受けた上で、新たな北朝鮮政策について詰めの協議をするとみられています。

私はトランプさんが金正恩さんと直接会って話し合えば良いと考えています。二人はともに「個性的な人間」です。年齢は相当離れていますが、案外気が合うかも知れません。トランプさんは子や孫と話し合うように、金正恩さんと語り合えば良いのです。教え、諭すのも年長者の役目です。

金正恩さんは今年(2017年)の元旦メッセージで珍しく次のように「自己批判」しました。http://kcyosaku.web.fc2.com/kju2017010100.html

「新しい一年が始まるこの場に立つと、私をかたく信じ、一心同体となって熱烈に支持してくれる、この世で一番素晴らしいわが人民を、どうすれば神聖に、より高くいただくことができるかという心配で心が重くなります。

いつも気持ちだけで、能力が追いつかないもどかしさと自責の念に駆られながら昨年を送りましたが、今年はいっそう奮発して全身全霊を打ち込み、人民のためにより多くの仕事をするつもりです。

私は、全人民が金日成(キム・イルソン)同志と金正日(キム・ジョンイル)同志を信頼し、前途を楽観して『われら幸せうたう』の歌をうたった時代を、過ぎ去った歴史のなかの瞬間ではなく、今日の現実にするために奮闘努力するつもりであり、一点のくもりもない清らかな心で人民に忠実に仕える人民の真の忠僕、忠実なしもべになることを、この元旦に厳かに盟約します。」

金正恩さんは2011年12月17日に金正日さんのあとを継いで5年余、権力を預かりました。「権力を預かる」というのは「全国民の命を預かる」ことです。その責任の重さが上記の「自己批判」を生みだしたのでしょう。

金正恩さんはまた「今年は、歴史的な7.4共同声明発表45周年と10.4宣言発表10周年に当たる年です。今年我々は、全民族が力を合わせて自主統一の大路を開かなければなりません。」と述べています。

「7.4共同声明」とは1972年7月4日に朝鮮の金日成国家主席が発表した声明です。「自主・平和・民族大団結による統一」の三原則を提起したものです。

「10.4宣言」とは2007年10月4日に韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領と朝鮮の金正日国防委員長が発表した「南北関係の発展と平和繁栄のための宣言」です。停戦状態にある朝鮮戦争を終わらせるために朝鮮・韓国・米国・中国のうちの三者または四者の最高首脳会議を朝鮮半島で開くことを決めたものです。

金正恩さんはこの機会にまず朝鮮戦争を完全に終わらせたいと考えているようです。

私はトランプさんはこれに応ずべきであると考えています。そうすればトランプさんは67年ぶりに朝鮮半島に完全に平和を回復した「偉大な大統領」として歴史に残るでしょう。

朝鮮で再び戦争を起こさせてはなりません。前回の戦争は朝鮮半島内にとどまりましたが、次に起こる戦争は半島内にとまりません。日本を含め諸外国にも及びます

現代の戦争は極めて悲惨です。朝鮮半島問題を平和的に解決しなければなりません。

トランプ大統領の施政方針演説について

中西 治

2017年2月28日に米国のトランプ大統領が米国議会上下両院の合同会議で大統領就任後初めての施政方針演説をしました。

Trump address to joint session of Congress 2

トランプさんは演説の冒頭で米国において毎年2月に催されている「黒人歴史月間」が終わるにあたり、「今夜、私たちはこれまでの公民権運動の歩みとまだ残されている課題を思い起こしています」と述べ、「拍手」を受けました。

続いてトランプさんは「アメリカのそれぞれの世代は真実、自由、正義のたいまつを今日まで受け継いできました。そのたいまつはいま私たちの手にあります。私たちはそれを世界を照らすために使います。私は今晩ここに団結と強さのメッセージを伝えるためにいます。それは私が心からの思いを込めて送るメッセージです。米国の偉大さの新しい章がいま始まっています。私たちが今日、目にしているのはアメリカ精神の再生です」と述べました。

さらにトランプさん次のように語りました。

「9年後の2026年にアメリカ合衆国は建国250年ー独立宣言250年を祝います。それは世界史における偉大な里程標の一つです。アメリカは250年を迎えるときどのようになっているのでしょうか。どのような国を私たちは子供たちに残すのでしょうか。」

トランプさんは演説の開始と同時に聴衆の意識を1776年7月4日の独立宣言に戻し、自己をその思想の継承者として位置づけました。

トランプさんはこのあと米国の現状を次のように描きだしました。

  1. 多年にわたり米国の雇用や富が外国に流れ、国内の中間層が縮小しました。外国のプロジェクトには次々と融資し、建設してきましたが、米国のシカゴ、バルティモア、デトロイトなどの市の子供たちの運命は無視されてきました。他国の国境は守ってきましたが、自国の国境は開けたままでした。誰もが国境を越え、ドラッグ(薬物)が流れ込んできました。米国は中東だけでおよそ6兆ドルを使いましたが、米国内のインフラはぼろぼろでした。
  2.  労働人口に加わっていない米国人が9400万人います。4300万人を超える人々が貧しさのなかで暮らしています。そして4300万を超える米国人がフードスタンプ(食糧配給券)に頼っています。働き盛りの5人に1人が働いていません。
  3. 北アメリカ自由貿易協定(NAFTA)が承認されてから製造業の雇用の4分の1以上を失いました。中国が世界貿易機関(WTO)に加入してから6万以上の工場を失いました。2016年の米国の世界貿易赤字は8000億ドルに達しました。

トランプさんはこの現状に対し不満を持つ民衆を2016年の大統領選挙のときに自己の支持者に変えました。「地殻変動」が起こり、トランプさんが大統領となりました。

トランプさんは次のような施策を提起しました。

  1.  米国人の職を奪う「環太平洋経済連携協定(TPP)」からの撤退。
  2. 「暴力犯罪減少のためのタクスフォース」の創設。薬物の流入阻止、若者への汚染阻止。
  3. 「南側の国境沿いに大きな壁」を建設。
  4. 「過激なイスラムのテロリズム」から国を守るために強硬手段をとる。
  5. 「歴史的な税制改革」。大きな税率カット。企業への税率を減らし、中間層に対しても大型減税実施。
  6. 米国内のインフラに官民の資金で「1兆ドルを投資」し、数百万の新規雇用を生み出す。この取り組みの核となるのは「米国製品を買うこと」と「米国人を雇用すること」。
  7. 「オバマケア(オバマ前大統領の医療保険制度改革)」の廃止。新しい制度改革の実施。
  8. 数百万人ものアフリカ系米国人やラテン系米国人の子供たちを含む若者が「通学する学校をえらべるようにする資金」を提供。
  9. 警察官や保安官などの「法の執行者を支援」。
  10. 「犯罪被害者への支援」。
  11. 米国の安全を保持し、米軍に武器を提供するために「米国史上で最大級の国防費の増額」。

「大盤振る舞い」です。問題は「歴史的な税制改革」の中でこれらの施策が実現できるのか否かです。

トランプさんは対外政策について次のように述べました。

  1. 北大西洋条約機構(NATO)を強く支持します。しかし、私たちのパートナーは財政上の義務を負わなければなりません。
  2. NATOであれ、中東であれ、太平洋であれ、私たちのパートナーが戦略的、軍事的な作戦の中で直接的で意味ある役割を担い、そして応分の費用を負担することを期待します。
  3. 米国はすべての国が自国の未来図を描く権利を尊重します。私の仕事は世界を代表することではなく、アメリカ合衆国を代表することです。
  4. 私たちは過去の失敗から学ばなければなりません。戦争や破壊などの人道危機を解決する唯一の長期的方法は、自らの土地を追われた人々が再び安全に故郷に戻り、生活を再建する長い、長いプロセスを始められる状況をつくることです。
  5. 米国は利害関係を共有する新たな友人たちと出会い、新たな関係を築くことに前向きです。米国は過去の敵とも今は友人です。最も緊密な同盟国のいくつかとは、何十年も前、ひどい、ひどい戦争で敵国として戦いました。この歴史から私たちは、よりよい世界をつくれる可能性を信じることができるはずです。

最後にトランプさんは再び2026年の建国250年に戻り、次のように語りました。

建国100周年だった1876年に全土の市民がフィラデルフィアに集ったとき、アレキサンダー・グラハム・ベルが初めて電話を展示し、レミントンが最初のタイプライターを紹介し、トーマス・エジソンが自動電信と電気ペンを見せました。アメリカの250年に私たちの国はどのようにすばらしいものを知ることができるのでしょうか想像してください。

トランプさんは「もう一度、アメリカを信じて下さい」、「合衆国に神のご加護を!」との言葉で演説を終えました。

トランプさんはずいぶん「アメリカ合衆国大統領」らしくなりました。

ロシア、中国、朝鮮半島の問題については沈黙を守りました。

トランプさんの周りに知恵者がいることを感じました。

最大の問題は「米国史上最大級の国防費の増額」が実際にどのようになるのか、それが米国をどこへ導き、世界をどこへ導くのかです。

「国防費増額」は不況のときに考える政治家の「浅知恵」です。それが「戦争」へと導くのです。

真の政治家は「開戦・戦中・戦後」を考え、平和的に問題を解決することを考えるのです。

日本と米国は「同盟」ではない ―2017年2月10日の安倍・トランプ会談に寄せて

中西 治

2017年2月10日(日本時間11日未明)、日本の安倍晋三首相が米国の首都ワシントンでトランプ大統領と会談しました。

会談後の記者会見でトランプさんが「私たちの軍を受け入れてくれている日本国民に感謝したい」と語りました。

安倍さんは「強固な日米同盟がアジア太平洋地域の平和と繁栄と自由の礎である」と述べました。

1961年1月に制定された現行の「日米相互協力及び安全保障条約」第5条が尖閣諸島に適用されることが確認されました。

安倍さんは「日米同盟」、「日米同盟」と言いますが、本当に日本と米国の関係は「同盟」なのでしょうか。私はそう思いません。

このことを明らかにするためにここでは、幕末の「日米和親条約」の調印から今日までの日米関係を振り返り、現在を正確に把握し、将来を展望します。

第一に、私はこの期間を大きく次の3つの時期に分けます。

第1の時期は、1854年3月30 日(嘉永7年 (安政元年)3月3日)の「日本國米利堅合衆國和親條約」調印から明治維新、日清戦争、日露戦争を経て1911(明治44)年2月21日に「日米通商航海条約」が調印されるまでの57年間です。「不平等条約期」です。

第2の時期は、1911年2月から第一次大戦、ヴェルサイユ・ワシントン体制、世界経済恐慌、第二次大戦を経て1945年8月15日に日本がポツダム宣言受諾を発表するまでの34年間です。「帝国主義期」です。

第3の時期は、1945年8月15日から今日までの70年余です。私はこの時期をさらに次の4つに分けます。

① 1945年8月から1951年9月8日の「サンフランシスコ対日平和条約」と「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」調印までの6年余です。「米国をはじめとする連合国軍の占領期」です。

② 1951年9月から1961年1月の「日米相互協力・安保条約」締結までの10年弱です。「米国軍の駐留期」です。

③ 1961年1月から2015年9月19日に日本が集団的自衛権を行使するための一連の安全保障関連法を制定するまでの54年余です。「米国軍の駐留・日米相互協力期」です。

④ 2015年9月から今日までの1年余。「米国軍の駐留・日本の集団的自衛権行使期」です。

第二に、上記160年余の日米関係のうち最初の90年余(第1と第2の時期)は基本的に「対立関係」でした。

日本と米国はともに英国やフランスなどの先進国より遅れて近代化・工業化への道に入りました。日米両国が会いまみえた19世紀半ばに英国はすでに清国とのアヘン戦争に勝利し、中国の上海や南京などをはじめアジアの主要都市を支配していました。

19世紀後半から20世紀にかけて日本と米国が中国大陸に関心を持ったとき、残されていたのは中国東北から朝鮮半島にかけての地域でした。20世紀前半に日本はこれらの土地を奪取しました。最後は米国と戦い、人類史上最初の核戦争を体験しました。

第三に、上記160年余の後半70年余(第3の時期)は「米国が占領・駐留し、日本を軍事的に支配」しています。

2009年9月から2011年9月まで3年間続いた民主党政権が沖縄の米国軍普天間基地の辺野古への移転を阻止できなかったのは、その例です。鳩山由紀夫首相が沖縄に行き、県民に謝りましたが、日本国の最高指導者でさえ、その考えを実行できなかったのです。

2015年9月19日に一連の安全保障関連法が成立するまでは、「専守防衛」を掲げる日本の自衛隊は海外に行って武力行使することはありませんでした。

ところが、2016年3月29日に同関連法が施行されて以降、自衛隊が「集団的自衛権」を行使できるようになり、海外での武力行使や、米国軍など他国軍への後方支援が世界中で可能となりました。

2016 年11 月18日、アフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されている陸上自衛隊に「駆けつけ警護」や「宿営地の共同警護」のために「武力の行使」を認める命令が防衛大臣から発せられました。

日本は「日本国憲法」に反して外国で戦争ができるようになりました。

第四に、現行の「日米相互協力・安保条約」は「同盟条約」であるのか、「否」かについてです。

この条約の第5条は次のように規定しています。

「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」

この条約は一見「相互防衛同盟条約」であるように見えますが、そうではありません。たとえば、本当の「相互防衛同盟条約」である「北大西洋条約」第5条は次のように規定しています。

「締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける締約国の一又は二以上に対する武力攻撃を、全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。従って、締約国は、右の武力攻撃が行われるときは、各締約国が、… 兵力の使用を含めてその必要と認める行動を、個別的に及び他の締約国と共同して、直ちに執ることによって、右の攻撃を受けた一以上の締約国を援助することに同意する。」

つまり、本当の「相互防衛同盟条約」は「他国に対する武力攻撃」を「自国に対する武力攻撃」とみなし、「直ちに兵力の使用を含めて必要と認める行動をとる」と規定しています。

ところが「日米相互協力・安保条約」で対象となるのは上記のように「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」だけです。「米国の施政の下にある領域」は対象外です。

なぜこのようになっているのでしょうか。それは1946年11月3日に公布され、1947年5月3日に施行された日本国憲法の第9条が「国権の発動たる戦争を永久に放棄し、国の交戦権を認めていない」からです。日本国憲法は締約国に対する攻撃を自国に対する攻撃とみなし、自動的に戦争に入るような「相互防衛同盟条約」の締結を認めていないからです。

第五に、「日米相互協力・安保条約」第5条が規定する「共通の危険に対処するように行動する」という「行動」とはいかなるものであるのかについてです。

同条約第5条が「尖閣諸島」に適用されることを最初に認めた米国大統領はオバマさんでした。彼は2014年4月24日に安倍首相との共同記者会見で次のように語りました。

「日本の安全保障に関する米国の条約上の義務に疑問の余地はなく、第5条は尖閣諸島を含む日本の施政下にあるすべての領域に適用されます。」

オバマさんはさらに日本の朝日新聞記者の質問に答え、「米国の立場は新しいものではなく、ヘーゲル国防長官とケリー国務長官が来日したときにも、米国の一貫した立場を示しました」と述べました。

また、米国のCNN記者の「大統領が言っているのは、中国が尖閣諸島に何らかの軍事侵攻を行った場合、米国が尖閣諸島を守るために軍事力の行使を考慮する、ということですか。」との質問にオバマさんは次のように答えました。

「私は安倍首相にも直接言いましたが、この問題をめぐって、日中間で対話と信頼構築ではなく、事態を悪化させる行為を続けることは、大きな誤りです。各国は国際法を遵守し、子供たちに向けて毒ガスを発射したり、他国の領土に侵入してはなりませんが、ある国がこうした規範に違反するたびに、米国は戦争に踏み切る、あるいは軍事的関与への準備を整えるべきであり、そうしないのは、米国が本気で規範を尊重していないということでしょうか。だとすれば、それは間違いです。」

オバマさんが言いたかったことは、「日米安保条約が締結されたのはオバマさんが生まれる前であり、第5条は日本の施政下にある領域を対象としてきた。だから私もそれを認めた。しかし、そこで起こる紛争に軍事的対応をするようなことはしない。私は問題を平和的に解決するために努力する。」ということでした。

オバマさんの「行動」は「軍事的対応」ではなく、「平和的解決の努力」なのです。

私は現実に尖閣諸島をめぐって何か事が起こったとき、米国は口では何か言うでしょうが、実際に事は起こさない、と考えています。それは米国がこの問題に武力介入すれば、中国との戦争、中国との核戦争になるからです。米国は日本の小さな島のために中国との核戦争を起こすほど愚かではありません。

それはトランプさんも同じです。トランプさんも安倍さんと同席した記者会見で中国との関係の重要性を強調していました。トランプさんも日本のために中国と戦争はしません。

オバマさんとトランプさんが恐れているのは、日本のために「中国との戦争」に巻き込まれることでしょう。

第六に、日本は今後どのような道を歩むのかについてです。

およそ160年間の日米関係を振り返ると、米国と付き合うのは「大変難しい」です。だから、「戦争」となったのです。

「戦争」は最初に仕掛けた方が悪いのです。米国人は「真珠湾奇襲攻撃」への「恨み」を忘れていません。日本人はその「罪」をいまも背負っています。

1951年の「日米安保条約」と1961年の「日米相互協力・安保条約」は、米国にとって「日本に米国に対する報復戦争をさせない条約」という側面もあるのです。

米国はいまも完全に日本を信頼していません。その証拠は米国が日本の国連安保理常任理事国入りを公然と支持しないことです。

戦争は悲惨です。人間と人間の殺し合いです。再び戦争をしてはなりません。

日本は韓国、朝鮮、中国、ロシア、米国など、すべての国と仲良くしなければなりません。

中国を仮想敵国とし、米国と組んで「抑止力」にしようと考えてはなりません。

他国との「同盟」に自国の運命を託すようなことをしてはなりません。

日本はかつて日独伊三国同盟にかけて米英オランダなどとの戦争を始めて失敗しました。

現行の「日米相互協力・安保条約」は最初の10年間の有効期間を1971年に終え、現在、日米いずれの締約国も、他方の締約国に対し、この条約を終了させる意思を通告すれば、1年後に終わります。

私はこの条約を廃棄し、新たに「日米平和・友好・協力条約」を結べば良いと考えています。

日本が世界に示すべき道は「軍事同盟」への道ではなく、すべての国との、すべての人との「平和・友好・協力」への道です。

ここまで書いて送信しようとしていたら、朝鮮の「ミサイル発射」のニュースが流れ、安倍さんとトランプさんが「日米同盟」を連呼しています。「胡散臭い」と思っています。

2016年の米国大統領選挙を振り返って

中西 治

2017年1月20日にドナルド・J.・トランプさんがアメリカ合衆国大統領に就任し、2016年の米国大統領選挙は終わりました。この機会に今回の選挙結果をまとめておきます。

第一は、トランプさんとヒラリーさんの得票数と選挙人 (Elector) 数です。

私は2016年11月8日におこなわれた有権者の投票による「米国大統領選挙最終結果」を同月15日に Breaking: Final Election 2016 Numbers! | Alternative に基づいて次のようにお知らせしました。

ドナルド・トランプさん 得票数62,972,226 選挙人数306人
ヒラリー・クリントンさん 得票数62,277,750 選挙人数232人

ところが、2016年12月19日に選挙人によっておこなわれた投票結果は 2016 Presidential General Election Results によると、次の通りでした。

ドナルド・トランプさん 得票数62,980,160 45.94% 選挙人数304人、56.5%
ヒラリー・クリントンさん 得票数65,845,063 48.03% 選挙人数227人、42.2%
誓約違反選挙人(Write-ins) 得票数 1,126,145 0.82% 選挙人数 7人、 1.3%

ヒラリーさんの得票が大幅に増え、トランプさんの得票を286万4903票もこえました。トランプさんの得票も少し増えていますが、ヒラリーさんも、トランプさんも、選挙人数を減らしています。どうしてこうなったのでしょうか。

それは2016年12月19日におこなわれ選挙人投票のさいに両者の選挙人から次のような誓約違反選挙人が出たからです。

トランプさん支持の共和党の2人の選挙人がトランプさんではなく、共和党のジョン・ケーシックさんとリバタリアン党のロン・ポールさんに投票しました。

ヒラリーさん支持の民主党の3人の選挙人がヒラリーさんではなく、共和党のコリン・パウエルさんに投票しました。同じく民主党の2人の選挙人がヒラリーさんではなく、無所属のフェイス・スポッテド・イーグルさんと民主党のバーニー・サンダースさんに投票しました。

この結果、トランプさんとヒラリーさんの得票数と得票率から誓約違反選挙人の得票数と得票率が減らされ、上記のように新たに誓約違反選挙人の得票数と得票率が記載されるようになりました。

ヒラリーさんとトランプさんの得票数が増えているのは、有権者投票によって選挙人が確定した後に上積みされた票がそれぞれの得票に加えられたからでしょう。

第二は、トランプさんとヒラリーさん以外の大統領候補についてです。

日本ではほとんど話題になりませんでしたが、今回の大統領選挙には共和党のトランプさんと民主党のヒラリーさんの他に次の人々が立候補していました。その得票数と得票率は下記の通りです。

リバタリアン党のゲーリー・ジョンソンさん、得票数4,488,931、得票率3.27%。
緑の党のジル・スタインさん、得票数1,457,050、得票率1.06%。
無所属のエヴァン・マクマリンさん、得票数728,830、得票率0.53%。

この他に憲法党のダレル・キャッスルさんや社会主義・解放党のグロリア・ラリバさんなども立候補していました。彼らの得票数は合計453,694、得票率は0.33%でした。

第三は、ヒラリーさんとトランプさんの得票をどのように評価するのかです。

2015年の米国の人口は3億2177万人。大統領選挙の選挙権は18歳以上、被選挙権は35歳以上です。

今回2016年の米国大統領選挙の投票者は1億3707万9873人でした。得票数と選挙人数はヒラリーさんが6584万票と227人、トランプさんが6298万票と304人、合わせて1億2882万票と531人でした。

この結果を民主党のオバマさんが勝利した前回および前々回の選挙結果と比較します。

前回2012年の大統領選挙のときの得票数と選挙人数は民主党のオバマさんが6591万票と332人、共和党のロムニーさんが6093万票が206人、合わせて1億2684万票と538人でした。

前々回2008年の大統領選挙のときの得票数と選挙人数は民主党のオバマさんが6949万票と365人、共和党のマッケインさんが5995万票と173人、合わせて1億2944万票と538人でした。

2008年にオバマさんが大量得票しました。得票数と選挙人数でのマッケインさんとの差は954万票と192人でした。オバマさんの圧勝でした。

2012年にオバマさんの得票数が2008年より358万票減り、ロムニーさんとの差は498万になりました。選挙人数もオバマさんは2008年より33人減り、ロムニーさんとの差が126人になりました。それでも大勝でした。

今回2016年のヒラリーさんの得票は2012年のオバマさんの得票より7万票少なく、トランプさんの得票は2012年のロムニーさんの得票より205万票増えました。この差が大変大きな変化をもたらしました。

ヒラリーさんがフロリダ(選挙人29人、以下同様)、ペンシルベニア(20人)、オハイオ(18人)、ミシガン(16人)、ウィスコンシン(10人)、アイオア(6人)などで負け、選挙人99人を失いました。致命的でした。

第四は、得票数で負けながら、選挙人数で勝ち、大統領になった人々についてです。

米国では1776年に独立宣言が発せられ、1789年4月にジョージ・ワシントンが対立候補なしに初代大統領に就任してから今日までに得票数で負けたが、選挙人数で勝って、大統領になった人は、今回を含めて5人います。

最初の人は1824年のジョン・クインシー・アダムスさんです。彼は同じ民主共和党のアンドリュー・ジャクソンさんよりも得票が少なかったのですが、選挙人数で勝ち、当選しました。

二人目は1876年の共和党のラザフォード・ヘイズさんです。同じように民主党のサミュエル・ティルデンキさんに勝ちました。

三人目は1888年の共和党のベンジャミン・ハリソンさんです。民主党のグロバー・クリーブランドさんより得票は9万票ほど少なかったのですが、選挙人数で233対168と勝り、当選しました。

四人目は2000年の共和党のジョージ・W.・ブッシュさんです。得票数では民主党のアル・ゴアさんより54万ほど少なかったのですが、選挙人数で 271対266と勝り、当選しました。

五人目は今回のトランプさんです。

第五は、アメリカ合衆国とはいかなる国かという問題です。

アメリカ合衆国(The United States of America)は一つの国家=州 (State)ではなく、複数の国家から成る同盟(Union)です。合衆国は当初13の国家から成る同盟でしたが、現在は50の国家から成る同盟です。

このことを法的に規定しているのが、1787年9月17日に制定されたアメリカ合衆国憲法(The Constitution of the United States)です。この憲法の「前文」は「われら合衆国の人民は、より完全な同盟(Union)を形成するために…、このアメリカ合衆国憲法を制定し、確定する」と宣言しています。

この憲法によると、合衆国の立法機関である議会(Congress)は上院(Senate)と下院(House of Representatives)から成っています。両院はいずれも国家=州を基盤としています。

上院は州の大きさと人口の多少に関係なく各州から2名ずつ選出される上院議員によって構成されています。当初、上院議員は「各州の立法部によって」6年を任期として選出されていましたが、1913年成立の憲法「修正第17条」により、この「各州の立法部によって」が「各州の州民によって」と修正されました。合衆国の上院議員は各州の議会ではなく、各州の州民によって直接選出されるようになりました。現在の上院議員は100名です。上院議長は合衆国副大統領がなり、可否同数のときを除き、表決には加わりません。

上院はアメリカ合衆国が平等な国家の同盟であることを反映する組織です。

下院は最初から「各州の州民が2年ごとに選出する」議員で組織され、下院議員の定数は人口3万人に対して1人の割合を超えてはならないとされています。但し、各々の州は少なくとも1人の下院議員を選出します。現在の合衆国下院議員は435名です。

下院は各同盟構成国家の人口を反映して組織されます。

次に合衆国の執行機関である大統領(President)と 副大統領(Vice President)の選出方法についてです。大統領と副大統領の任期はいずれも4年です。

最初に各州は、その立法部が定める方法により、その州から連邦議会に選出することのできる上院議員および下院議員の総数と同数の選挙人を任命します。但し、上院議員、下院議員および合衆国から報酬または信任を受けて官職にある人を選挙人に選任することはできません。

1961年成立の「修正第23条」により首都ワシントンからも選挙人3名を選出できるようになりました。

これにより現在の選挙人は上院議員数100名+下院議員数435名+首都ワシントン選出3名=538名となりました。

2015年の推計で米国最大の人口3914万人を擁するカリフォルニアは選挙人定員が55名ですが、最小の人口58万人のワイオミングは3人です。選挙人1人当たりの人口はカリフォルニアが71万人強に対してワイオミングは19万人強です。577万人の人口を擁するウィスコンシンは選挙人10人を選出しますが、選挙人1人当たりの人口は57万人強です。州の人口が少なければ少ないほど少ない有権者で1人の選挙人を選出できるようにしています。

これは大きな国と小さな国が同盟を結び、維持・発展させていくための大きな国の小さな国に対する配慮です。これがときには得票数では勝ったが、選挙人数では負け、大統領になれなかったという事態を生み出すのです。この配慮がなければ、大国が常に勝ち、小国は常に負けることになるのです。それでは同盟は長期に維持できません。ときには負けることも必要なのです。

一般に「アメリカ合衆国大統領選挙」と言われている2016年11月8日におこなわれた有権者投票はこの538名の選挙人を選出するための選挙でした。

選挙人が確定した後に選挙人によって大統領選挙が実施されます。これが2016年12月19日におこなわれた選挙です。この選挙をどのようにおこなうのかは、1804年成立の「修正第12条」によって次のように定められています。

選挙人は、各々の州で集会して、無記名投票により、大統領および副大統領を選出するための投票をおこないます。そのうち少なくとも1名は、選挙人と同じ州の住民であってはなりません。選挙人は、一の投票用紙に大統領として投票する者の氏名を記し、他の投票用紙に副大統領として投票する者の氏名を記します。選挙人は、大統領として得票したすべての者および各々の得票数、ならびに副大統領として得票したすべての者および各々の得票数を記した一覧表を作成し、これに署名し、認証した上で、封印をほどこして上院議長に宛てて、合衆国政府の所在地に送付します。

これを受け取った上院議長は上院議員および下院議員の出席の下に、すべての認証書を開封したのち、投票を計算します。大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が大統領となります。

このように、アメリカ合衆国大統領の当選を決めるのは有権者の投票ではなくて、有権者の投票によって当選した選挙人の投票です。選挙人が誰に投票するのかは選挙人の権限に属します。

今回はここまでにしておきます。