宙(そら)読む月日 (3) プロジェクト・チーム紹介 前篇 ゲイツ

のぶおパレットつじむら

ビッグ・ヒストリー・プロジェクトは、2008年のゲイツさんとクリスチャンさんの出会いから始まりました。
2010年にはプロジェクト・チームが結成され、カリキュラムが練られ始めます。
2011年9月には、アメリカ(米国)の6つの高校で、ビッグ・ヒストリーの実験的導入が始まります。
2012年には、実験的導入をオーストラリアに広げ、米豪あわせて50校でビッグ・ヒストリー教育が実施される予定です。現在、実施希望校を募集しています。
2013年には、カリキュラムが公開され、コース(教育課程)は学習者すべてにネットで無料で提供されることになっています。

このプロジェクトは100%慈善事業で、教材はすべて無料です。このような大がかりな事業は、ゲイツさんの支援なしにはなしえなかったことでしょう。

プロジェクト・チームは、共同創始者のゲイツさんとクリスチャンさんと、4名の学術顧問からなっています。ここで1人1人紹介していきましょう。

ビル・ゲイツさんは、1955年、アメリカのシアトルで生まれました。本名はウィリアム・ヘンリー・ゲイツ3世 William Henry Gates III といいます。父のゲイツ2世 Gates II (またはゲイツ・シニア Gates Sr.)さんは弁護士でした。後妻で母のメアリー Mary さんは中学校教師で、退職後はワシントン大学 University of Washington 理事や慈善団体ユナイテッド・ウェー United Way の役員をつとめています。

ゲイツ(3世)さんは、SFドラマ「スター・トレック」STAR TREK が大好きな少年で、子どもの頃からSFはじめ小説、科学者の伝記など、ジャンルを問わない読書家でした。また、大の数学好きでもありました。

1968年、ゲイツさんが中学生のとき、通っていた中高一貫校にコンピュータ教育が導入されます。運命の出会いです。当時コンピュータはとても高価で、学校でコンピュータそのものを買うことはできませんでした。そこでGE社が所有するコンピュータ「マークII」と学校のテレタイプを電話回線でつなぎ、使うときだけ使用権を借りることになりました。当時は1時間あたり40ドルが相場だったそうです。
ゲイツさんはたちまちプログラム作りにのめりこみ、ポール・アレン Paul Allen さんら同じ学校の仲間たちと、早くもビジネスを始めました。シアトル市の交通量調査をグラフ化できるプログラムを開発したり、あるコンピュータ会社の給与計算プログラムをつくったり、自分たちの通う学校にクラス編成のプログラムを納品したり、というのが最初の仕事でした。日本だったら、生徒が自分の通う学校(とくに小中高)を相手にビジネスするなんて認められないのではないでしょうか。

こうしてプログラマーとしての実力をつけたゲイツさんは、1973年ハーヴァード大学 Harvard University に進学します。
ところが、同年にインテル Intel 社が、大型コンピューターと同等の情報処理能力をもつ、マイクロプロセッサ「8080」を発表します。
翌1974年には、これを搭載した世界初の個人向け・組立式コンピュータ「アルテア8800」が、MITS社から発売されました。アルテア Altair という名前は「スター・トレック」に出てくる、アルタイル6号星 Altair VI (日本語吹替ではアルター6号)から来ています。

ゲイツさんとアレンさんは、かねてから、コンピュータが一家に一台、オフィスの机に一台ずつ乗る時代が必ず来ること、それを動かすためのプログラム(ソフトウェア)に大きな需要が生まれることを見抜いていました。2人は1975年、アルテアを動かすためのプログラム「BASIC」を開発します。そして共同でマイクロソフト社を創業し、MITS社とライセンス契約を結ぶことに成功しました。この後、ゲイツさんはビジネスに専念すべく、大学を離れます。

こうして高性能のマイクロプロセッサ、それを搭載した小型コンピュータ、これを動かすソフトウェアの3つが揃い、パーソナル(個人向け)コンピュータの時代が幕を開けました。

ゲイツさんは2008年にマイクロソフト社の常勤を退きます。現在も同社の会長ではありますが、活動の中心は妻のメリンダ Melinda さんと創設したビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団を通じた社会奉仕へ移しています。これは「事業で収益を得たら、地域や社会に貢献を」という両親の教えにならったものです。(*7)

こうして見ると、ゲイツさんはスター・トレックと縁がありますね。ビッグ・ヒストリーとも遠からぬ縁を感じます。また、ゲイツさんはマイクロソフトしかり、ゲイツ財団しかり、ビッグ・ヒストリー・プロジェクトしかり、何かを始めるときは、だれかと共同で始めています。協力者を巻き込む力、これも彼の長所かもしれませんね。

注記
(*7) Microsoft Corporation HP, Bill Gates, Biography, updated on Jan. 26, 2010, viewed on May 23, 2011.http://www.microsoft.com/presspass/exec/billg/?tab=biography ;小出重幸『夢は必ずかなう:物語 素顔のビル・ゲイツ』(中央公論新社、2005年) ;「Altair 8800」の中の「Altairの命名者」ウィキペディア、2011.5.27参照。http://ja.wikipedia.org/wiki/Altair_8800