宙(そら)読む月日 (1) ゲイツ、クリスチャンと出会う

のぶおパレットつじむら

連載に当たって

僕が初めてビッグ・ヒストリー big history (大きな歴史)を紹介してから4年が経ちました。その間、ビッグ・ヒストリーも大きな展開を見せています。そのことについて、初めは読み切りの形でご紹介しようと思っていたのですが、こうして下書きの準備をしてるだけでも、なにやら分量が増えてしまいます。

そこで、これを機に「宙(そら)読む月日」と題した連載を始めることにしました。予定としては、初めはビッグ・ヒストリーの近年の動きについて、次いで中西治さんの新著について、その後は広い意味で宇宙と人間の歴史にまつわる事柄について、筆を(キーを?)進めていくつもりです。ここでは、のぶおパレットつじむらを筆名として、伸び伸びと不定期でつづっていこうと思います。

宙読む月日
(1) ゲイツ、クリスチャンと出会う

物語はビル・ゲイツ Bill Gates さんとデイヴィッド・クリスチャン David Christian さんの出会いから始まります。

クリスチャンさんは、ビッグ・ヒストリーの講義を発案した歴史家です。彼の問題意識は、なぜわたしたちは断片となった歴史の物語ばかりを見、歴史の全体をつかもうとしないのか、ということでした。歴史の全体とは、わたしたち人間が知りうる全ての歴史、つまりビッグバンから現在の人間社会の歴史にいたるまでの歴史です。それを現代の科学にもとづき、ひとつにまとめてみる、というのが、彼が名づけたところのビッグ・ヒストリーなのでした。(*1)

ゲイツさんは1975年、マイクロソフト社 Microsoft を創業し、2008年に常勤を退いてからは、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団 Bill and Melinda Gates Foundation を通して、教育と地球規模の健康問題に取り組んでいました。そんな時、クリスチャンさんの講義を収録したDVDを見たのです。

これは『ビッグ・ヒストリー:ビッグバン、地球の生命、人間の興隆』という8枚組のDVDで、各30分の講義が48回分、つまり、やろうと思えば24時間で(!)137億年前から現在までの歴史を速習できる(笑)しろものとなっています。(*2)

僕も「受講」し始めたばかりですが、今まで解けずじまいだった疑問が解消されたりして、なかなか楽しいものです。日本で言えば、放送大学の講義をイメージしてもらうといいかもしれません。講義はもちろん英語で、英語話者向けの商品であるため日本語字幕もありませんが、生涯学習のための教材ということで、話は簡明で、発音も聞き取りやすいです。これにトランスクリプト(講義を文字起こししたもの)も併せて購入すれば、学習ははかどることでしょう。

これらの講義は、ゲイツさんの歴史への見方を変えました。ゲイツさんは、科学の多種多様な分野を理解するための背景となる、幅広いものの見方を得たと感じました。もし、すべての生徒がビッグ・ヒストリーを履修したとしたら、勉強はわくわく楽しいものとなり、理科のようなとっつきにくい教科を学ぶとっかかりができ、生徒の批判的思考力を伸ばすのではないか。そう考えた彼は、未だ見ぬクリスチャンさんと連絡をとり、面会を果たします。(*3)

こうして、ゲイツさんとクリスチャンさんが共同創始者となり、高校生にビッグ・ヒストリーを教えるビッグ・ヒストリー・プロジェクト Big History Project が始まるのです。(つづく)

のぶおパレットつじむら(辻村伸雄)


(*1) 辻村伸雄「大きな歴史:歴史研究のコスモナイゼーション」『地球宇宙平和研究所所報』第2号(2007年)。

(*2) David Christian, Big History: The Big Bang, Life on Earth, and the Rise of Humanity, 8DVDs (The Great Courses, The Teaching Company, 2008).

(*3) ビル・ゲイツ公式サイト THE GATES NOTE: Special Edition, viewed on Apr. 23, 2011.
サイト中の動画「ビル、ビッグ・ヒストリーにビッグな献身」(2分11秒)では、ゲイツがビッグ・ヒストリーとの出会いと、ビッグ・ヒストリー・プロジェクトへと至った思いを語っている。
“Bill: A Big Commitment to Big History” posted on Mar. 1, 2011.