脳梗塞についての山本勇夫先生のご意見

中西 治

横浜市立脳血管医療センター長 山本勇夫先生から拙稿「脳梗塞にならないために、脳梗塞を再発しないために」に関連して2通のメールを頂戴しました。第一信は(1)をお読み頂いたあと、第二信は(2)(3)をお読み頂いたあとのものです。先生のお許しをいただいて転送させていただきます。

山本勇夫先生、ありがとうございます。厚く御礼申し上げます。

中西 治


第一信

退院後もリハビリ、執筆活動などご多忙のことと存じます。早速「脳梗塞にならないために、脳梗塞を再発しないために」を読ませていただきました。実は先生が2年前にも今回の発作と類似した麻痺があったことを初めて知りました。おそらく今回の脳梗塞の前兆としての一過性脳虚血発作 (TIA: Transient Ischemic Attack) が既に2年前から存在していたものと思われます。

最近TIAは脳梗塞患者の多くが脳梗塞発症前にTIAを発症していること、かつ発症直後に脳梗塞を発症するリスクが最も高いことが確認され、2009年小生も参画して作成した脳卒中治療ガイドラインで、「TIAを疑えば、可及的速やかに発症機序を確定し、脳梗塞発症予防のための治療をただちに開始しなければならない」とさせていただきました。TIA診断の困難さは軽微なものは最新のMRIなどの診断機器を用いて異常所見を捕えられないケースがあることです。したがって詳細な病歴聴取が極めて重要なことです。最近の医療はややもするとハイテク機器に頼りがちですが、やはり原点である患者さんからの病歴聴取の重要性を思い知らされます。

また、アルコールの摂取方法ですが、脳梗塞、中でも動脈硬化による血栓形成や血流低下による、アテローム血栓性脳梗塞は血流量が低下したり、血圧が比較的下がる夜間に発症しやすいので、少量のアルコールなら結構ですが、量が増えますと、循環を良くするよりも、利尿効果により脱水傾向となり、むしろ血液粘度が高くなることも脳梗塞発症の引き金になる可能性があります。

少しでも参考になれば幸いです。次回の「脳梗塞にならないために――」を楽しみにしています。

横浜市立脳血管医療センター
山本勇夫


第二信

早速「脳梗塞にならないために、脳梗塞を再発しないために (2)、(3)」を読ませていただきました。

脳梗塞にならないために重要なことは、“TIAを見逃さない”ことです。前回も書かせていただきましたが、実際脳梗塞の再発よりも、TIAが脳梗塞へ移行する頻度の方が高いことは明らかになっています。しかし、現実には軽傷のTIA、たとえば神経症状が10秒以内に改善する様な症例(特に最初の発作)では、患者さんが専門医を受診することが比較的まれであるのが現状です。

また、2007年英国で行われたEXPRESS研究では、TIAが疑われた患者を直ちに専門医へ送るという方針で、脳梗塞の発症率が大幅に減少したという報告があり、米国のCincinnatiでは「FAST」というテレビコマーシャルを行い、一般の方々へのキャンペーンを行って効果を上げており、わが国も脳卒中協会が中心となり、この普及運動を行っているところです。

すなわち、「F=Face」は顔のゆがみ(顔面神経麻痺)、「A=Arm」は腕、手足のまひにより、手足の脱力、「S=Speech」は言語障害(呂律がまわらず、うまく喋れない) の3つのうち1つでもあれば、70%の確率で脳卒中が疑われるということです。「T=Time」は時間が重要ということで、治療は早ければ早いほど、神経細胞が壊死に陥る可能性が低く、特に血栓溶解療法はその開始を3時間以内にしなければ効果がないという時間の縛りがあることです。以前小渕首相が記者会見の場で突然喋らなくなり、10秒程で回復しましたが、その日の夜間脳梗塞となり、血栓溶解療法を行いましたが、結局脳梗塞が命取りとなりました。したがって、TIAを見逃すな、仮に一過性でも「FAST」の症状があれば一刻も早く専門医を受診することを、われわれがもっと啓蒙する必要があると感じています。

また、先生の(3)に「壊死を阻止するのが点滴である」との記載がありますが、これはt-PAという血栓溶解療法で、3時間以内といっても早ければ早いほど神経細胞が壊死に陥っている範囲が狭いため、神経細胞を回復させ、機能予後もよくなるわけです。実際現在行っているリハビリは、壊死に陥った神経細胞を活性化するのではなく、壊死した細胞の周りにある、脳梗塞の直前までは休止していた神経細胞を活性化することです。したがって脳梗塞になったらすぐに専門医のところで治療(リハビリも含めて)することが重要である点について述べてみました。

こんな拙文でよろしければ、ご自由にお使いください。

横浜市立脳血管医療センター
山本勇夫