最近の国際関係学の動向と論争 (1) ―21世紀の国際関係学の動向

岩木 秀樹

まず日本で刊行された最近の国際関係学の動向を概観することにする。

21世紀に入り、まとまったシリーズものがいくつか刊行された。(2)特に日本国際政治学会編『日本の国際政治学』は、理論、地域、歴史、非国家主体の観点から、日本における国際関係学の現段階が示されている。

次に国際関係学のテキストであるが、多くの書籍が刊行されており、非常に多様性に満ちている。(3)特にユニークなものとして、日本発の平和学と国際関係論で、日本の問題や日本がもたらした影響などがわかりやすく書かれていて、後者は漢字にルビをふり、日本で学ぶ留学生にも配慮した試みをしている。(4)他に、内外の著名な研究者の論文を集めたリーディングズ(5)や歴史学と政治学の架橋を試みたもの(6)ガイドブックとして有用なもの(7)などがある。

今まで日本においては国際関係理論はあまり重視されなかったが、最近になって理論関係の業績が多く出版されるようになってきた。国際関係学の権力と知について考察したもの(8)帝国の観点から国際システムとアメリカを見たもの(9)国際関係学の様々な理論を分析したもの(10)権力や暴力を扱った清水の一連の業績(11)などがある。また9・11事件以後、正義や戦争に関する思想的問題を絡めた国際関係学の書籍も出てきている。(12)イデオロギーの可視化が国際関係学にも影響を与えており、ジェンダー的観点からの国際関係学も多くなっている。(13)さらに近代日本と国際関係学のあり方や秩序・認識を論じたものも刊行されている。(14)

星野は現状変革志向の強い平和を重視する国際関係学を目指し、21世紀に入ってからでも多数の書籍を出版している。(15)土佐は批判的国際関係学の視点から安全保障や暴力の問題を扱った一連の業績を発表している。(16)最近、欧米、特に英国学派の書籍の翻訳がかなり見受けられる。(17)弱肉強食の新自由主義や現実主義への批判、主権国家の枠組みの流動化、アメリカの攻撃的単独主義への懐疑などにより、英国学派が注目されているのだろう。

次に簡単に英米における国際関係学の成果を瞥見しておく。まず、テキストとして有用であり、様々な学派、ディシプリン、イッシューを扱ったものが数多く出版されている。(18)日本においてはそれほど多くはないが、英米において国際関係思想や理論に関する業績は相当出されている。(19)また脱実証主義や構築主義関連のものも出版され、理論やディシプリンに関する議論が相当進んでいる。(20)この点について、詳しくは次章以降で論ずる。


(2) 藤原帰一他編『国際政治講座』全4巻、東京大学出版会、2004年。猪口孝編『シリーズ国際関係論』全5巻、東京大学出版会、2007年。日本国際政治学会編『日本の国際政治学』全4巻、有斐閣、2009年。
(3) その中でも主要なものをここでは取りあげる。小林誠他編『グローバル・ポリティクス』有信堂、2000年。関下稔他編『クリティーク  国際関係学』東信堂、2001年。羽場久美子他編『21世紀国際社会への招待』有斐閣、2003年。百瀬宏『国際関係学原論』岩波書店、2003年。山田高敬他編『グローバル時代の国際関係論』有斐閣、2006年。高田和夫『新時代の国際関係論』法律文化社、2007年。藤原帰一『国際政治』放送大学教育振興会、2007年。大芝亮編『国際政治学入門』ミネルヴァ書房、2008年。村田晃嗣他著『国際政治学をつかむ』有斐閣、2009年。
(4) 安斎育郎他編『日本から発信する平和学』法律文化社、2007年。初瀬龍平他編『日本で学ぶ国際関係論』法律文化社、2007年。
(5) 猪口孝編『国際関係リーディングズ』東洋書林、2004年。
(6) Colin Elman and Miriam Fendius eds., Bridges and Boundaries : Historians, Political Scientists, and the Study of International Relations, The MIT Press, 2001, コリン・エルマン他編、渡辺昭夫監訳『国際関係研究へのアプローチ  歴史学と政治学の対話』東京大学出版会、2003年。
(7) 岩田一政他編『国際関係研究入門  増補版』東京大学出版会、2003年。
(8) 南山淳『国際安全保障の系譜学  現代国際関係理論の権力/知』国際書院、2004年。
(9) 山本吉宣『「帝国」の国際政治-冷戦後の国際システムとアメリカ』東信堂、2006年。
(10) 信夫隆司『国際政治理論の系譜-ウォルツ、コヘイン、ウェントを中心として』信山社、2004年。吉川直人他編『国際関係理論』勁草書房、2006年。
(11) 清水耕介『市民派のための国際政治経済学  多様性と緑の社会の可能性』社会評論社、2002年。清水耕介『暴力と文化の国際政治経済学  グローバル権力とホモソーシャリティ』御茶の水書房、2006年。
(12) 佐藤幸男他編『世界政治を思想する』全2巻、国際書院、2010年。押村高『国際政治思想』勁草書房、2010年。
(13) Cynthia Enloe, The Morning After, Sexual Politics at the End of the Cold War, The Regents of the University of California, 1993, シンシア・エンロー、池田悦子訳『戦争の翌朝  ポスト冷戦時代をジェンダーで読む』緑風出版、1999年。土佐弘之『グローバル/ジェンダー・ポリティクス』世界思想社、2000年。Sandra Whitworth, Feminism and International Relations: Towards a Political Economy on Gender in Interstate and Non-Governmental Institutions, Houndmills: Macmillan, 1997, サンドラ・ウィットワース、武者小路公秀他監訳『国際ジェンダー関係論』藤原書店、2000年。Ann Tickner, Gender in International Relations, Columbia University Press, 1992, アン・ティックナー、進藤榮一他訳『国際関係論とジェンダー  安全保障のフェミニズムの見方』岩波書店、2005年。Cynthia Enloe, Maneuvers, The International Politics of Militarizing Women’s Lives, Berkeley: The University of California, 2000, シンシア・エンロー、上野千鶴子監訳『策略  女性を軍事化する国際政治』岩波書店、2006年。土佐弘之他編『国際法・国際関係とジェンダー』東北大学出版会、2007年。
(14) 酒井哲哉『近代日本の国際秩序論』岩波書店、2007年。芝崎厚士『近代日本の国際関係認識  朝永三十郎と『カントの平和論』』創文社、2009年。
(15) 星野昭吉『世界政治の原理と変動-地球的規模の問題群と平和-』同文舘出版、2002年。星野昭吉『グローバル社会の平和学  「現状維持志向平和学」から「現状変革志向平和学」へ』同文舘出版、2005年。星野昭吉『世界政治の理論と現実-グローバル政治における理論と現実の相互構成性-』亜細亜大学購買部、2006年。星野昭吉『世界政治と地球公共財-地球的規模の問題群と現状変革志向地球公共財-』同文舘出版、2008年。星野昭吉『世界政治の弁証法-現状維持志向勢力と現状変革志向勢力の弁証法的ダイナミクス-』亜細亜大学購買部、2009年。星野昭吉『世界秩序の構造と弁証法-「コミュニタリアニズム中心的秩序勢力」と「コスモポリタニズム中心的秩序勢力」の相克-』テイハン、2010年。
(16) 土佐弘之『安全保障という逆説』青土社、2003年。土佐弘之『アナーキカル・ガヴァナンス-批判的国際関係論の新展開』御茶の水書房、2006年。
(17) Hedley Bull, The Anarchical Society: A Study of Order in World Politics, 2nd ed., Macmillan Press Ltd., 1995, ヘドリー・ブル、臼杵 英一訳 『国際社会論  アナーキカル・ソサイエティ』岩波書店、2000年。Martin Wight, International Theory: The Three Traditions, Leicester University Press, 1991, マーティン・ワイト、佐藤誠他訳『国際理論  三つの伝統』日本経済評論社、2007年。Ian Clark, Globalization and International Relations Theory, Oxford University Press, 1999, イアン・クラーク、滝田賢治訳『グローバリゼーションと国際関係理論  グレート・ディヴァイドを超えて』中央大学出版部、2010年。Kenneth Waltz, Theory of International Politics, McGraw- Hill, 1979,  ケネス・ウォルツ、河野勝他訳『国際政治の理論』勁草書房、2010年。
(18) その中でも主要なものをここでは取りあげる。Walter Carlsnaes eds., Handbook of International Relations, SAGE Publications, 2002. John Baylis, Steve Smith and Patricia Owens, The Globalization of World Politics: An Introduction to International Relations, 4th Edition, Oxford University Press, 2008. Mario Telo, International Relations: A European Perspective, Ashgate Publishing Limited, 2009. Robert Jackson and George Sorensen, Introduction to International Relations: Theories and Approaches, 4th Edition, 2010. Cynthia Weber, International RElations Theory : A Critical Introduction, Third Edition, Routledge, 2010. Tim Dunne eds., International Relations Theories: Discipline and Diversity, 2nd Edition, Oxford University Press, 2010.
(19) Kenneth W. Thompson, Schools of Thought in International Relations: Interpreters, Issues, and Morality, Louisiana State University Press, 1996. Torbjorn L. Knutsen, A History of International Relations Theory, 2nd Edition, Manchester University Press, 1997. Brian C. Schmidt, The Political Discourse of Anarchy: A Disciplinary History of International Relations, State University of New York Press, 1998. Barry Buzan and Richard Little, International Systems in World History, Oxford University Press, 2000. Robert M. A. Crawford, International Relations -Still an American Social Science ?: Toward Diversity in International Thought, State University of New York Press, 2001. Cynthia Weber, International Relations Theory: A Critical Introduction, Routledge, 2001. Mathias Albert eds., Identities, Borders, Orders: Rethinking International Relations Theory, University of Minnesota Press, 2001.
(20)Alexander Wendt, Social Theory of International Politics, Cambridge University Press, 1999. D. S. L. Jarvis, International Relations and the Challenge of Postmodernism: Defending the Discipline, University of South Carolina Press, 2000. Chris Brown, Practical Judgement in International Political Theory: Selected Essays, Routledge, 2010.