タイ国ウボン県の赤シャツ逮捕状

高橋 勝幸

バンコクの刑務所に収容されている赤シャツ指導部の釈放、保釈要求は声高に叫ばれるが、注目されないだけに、地方末端の赤シャツ収容者の状況は一層深刻である。前回のレポートに書いたように、裁判を傍聴して、証拠写真と逮捕状がいい加減であることがわかった。このアドレスに2010年12月25日にアクセスしたところ、ウボンラーチャターニー県警による県内364人分の非常事態勅令違反者手配ポスターが表示された。それぞれの容疑者の写真をクリックすると、逮捕状と証拠写真などを見ることができる。ここでは、3人の容疑者を取り上げたい。

ポスター番号19 この「男性」は氏名不詳となっているが、既に逮捕されている。僕はまだ誰だか確認していない。

ポスター番号19 逮捕状
<ポスター番号19> <逮捕状>

左上の写真を画面上でクリックすると、右上の逮捕状と左下の証拠写真が現れる。この逮捕状j.177/2553は2010年5月20日付けで、ウボンラーチャターニー県裁判所が発行している。刑事事件として、ウボンラーチャターニー市警が次の容疑で逮捕状を請求していることがわかる。すなわち、①公共建造物放火(県庁焼き討ち)、②10人以上が暴力を使って騒動を起こした集会に参加(10人以上の政治集会)、③不動産不法侵入(武器を所持して県庁敷地に立入り)、④公務執行妨害、⑤公共物破損である。逮捕状は同年5月19日から20年間有効とある。

証拠写真 民主党国会議員宅
<証拠写真> <民主党国会議員宅(筆者撮影)>

僕が撮影した右上の写真と比較すると、証拠写真が県庁ではなく、スタット・ガーンムーン民主党国会議員の邸宅前(5月19日午前、赤シャツがデモを行ない、タイヤを燃やした)で撮影されたことは明らかである。容疑者は右手で大きな容器を持っているが、警察と裁判所はこれを県庁放火の燃料と見たのだろう。頭に何かかぶり、サングラスをかけ、マスクをつけているが、逮捕に当たりどのように当人を識別したのだろうか。性別すらはっきりしない。証人の証言に基づくものなのだろうか。

ポスター番号25 この氏名不詳の女性に逮捕状j.232/2553が出された。左下写真の後方の女性であるが、既に逮捕され、県庁焼き討ち事件で現在、裁判所で審理が行なわれている。証拠写真からはっきり判別できるのだが、僕はこの女性とよく赤シャツの集会に参加していたので親しい。僕の教え子の伯母に当たり、12月15日の裁判には教え子の母親も傍聴に来ていた。本人は主婦。ウボンの赤シャツ・グループの1つ「ノーポーチョー・ウボン」のメンバーである。僕が以前に彼女と刑務所で面談したところ、5月19日は、サパシット病院に用事があり市内に出たところ、10時半頃、多数の兵士が出動するのを目撃した。そこで、県庁に行ってみた。夫が陸軍1等准尉なので、軍人の知り合いが多い。知り合いの陸軍大佐が県知事と一緒に庁舎前にいたので、「暴力を使わないでください」と掛け合った。銃撃が庁舎2階からあり、彼女は逃げ出した。県庁が燃え出す前に帰宅した。5月22日、郡警に逮捕状が出ている人の写真と名前を見に行って捕まった。刑務所の寝食の状態が悪く、睡眠薬がないと眠れない。娘が心配で恋しいが、囚人服姿で子供に会いたくないという。保釈は未だ認められない。

逮捕状は、1人目(ポスター番号19)と日付が5月24日で異なるが、内容は全く同じである。しかし、逮捕されたのがそれ以前なのが気になる。証拠写真には、「5月19日県庁焼き討ち、5月22日逮捕」と書かれている。写真が県庁舎前で撮影されたことは僕にも確認できる。しかし、これが県庁焼き討ちとどう関係があるのかわからない。

ポスター番号25の証拠写真 ポスター番号10
<ポスター番号25の証拠写真> <ポスター番号10>

ポスター番号10 指名手配のプラユット・ムーンサーンである。逮捕状j.213/2553。逮捕状の発行は5月22日。警察の請求理由は前記2人と同じだ。証拠写真はなく、国民証が指名手配に使われている。というのも、ウボンの赤シャツ・グループの1つ「タクシンを愛する人のグループ」の公然たるリーダーだからだろう。彼は末期の癌を抱えながら、ウボン県等の赤シャツを指導した。5月19日の事件後、森に隠れていたが、資金面と病状の悪化から自首することになった。新聞やテレビでも取り上げられ、全国的に有名になった。まだ逮捕を恐れて姿を隠している赤シャツは少なくない。

プラユットは県庁焼き討ちの容疑で逮捕されたが、社会活動家やプアタイ党(タクシン派)の支援で20万バーツの保釈金を払い、療養生活を送っている。癌の治療には月々1万バーツ以上かかる。7つか8つの容疑をかけられている。記者とのインタビューで、「県庁の焼き討ちは赤シャツだけの仕業ではない。県庁舎の2階から炎が見えた。誰かが放火し、赤シャツに罪を擦り付けている。ビジネスマンや役人の間に近代的な庁舎を望む声があったのは広く知られている」と彼は話している[注1]。

政府が赤シャツ問題を解決するために設置した真実和解委員会は11月15日、憲法の規定に基づき、容疑者を罪人として扱ってはならないと、政府に提案した。国家人権委員会は2010年12月初旬になって初めて、赤シャツ収容者の人権状況に関する6月の調査を公表した。赤シャツ収容者は適切な捜査や証拠もなく逮捕され、拷問を受け、虚偽自白を強制され、抗弁する機会なしに投獄されていることがわかった。全国で422人が勾留されていたという。その多くが「野次馬」であった。暴力活動に関与していない人々がいわれのない容疑をかけられ、不適切な扱いを受けている。親族や弁護士との面会も難しく、保釈手続きも遅々として進まないのが現状だ[注2]。

[注1] Achara Ashayagachat, “Panel claims red shirt inmates tortured,” Bangkok Post, December 7, 2010.

[注2] Ibid.