タイの赤シャツ裁判傍聴:ウボンラーチャターニー県庁焼き討ち事件

高橋 勝幸

ウボンラーチャターニー大学教養学部東洋言語文学科講師

2010年12月15日(水)、ウボンラーチャターニー地方裁判所でウボンラーチャターニー県庁焼き討ち事件(2010年5月19日発生)の裁判を傍聴した。そこで感じたのは、もはや赤シャツうんぬんという問題ではないということである。これは人権、人道的問題だ。これが公正を期す裁判かと疑った。コメディを見ているようだった。証拠写真のいい加減さに被告弁護士が笑ってしまう。被告、傍聴者の嘲笑。裁判長もつられて失笑する。ついには証人台に立った警察官も苦笑を抑えることはできなかった。流石の警察官も取り調べの杜撰さを再確認した思いだろう。県庁焼き討ち事件の犯人に仕立て上げることができれば、赤シャツなら誰でもよかったのだ。唯一笑わなかったのは原告弁護士だけである。

ウボンラーチャターニー地方裁判所 県庁焼け跡
<ウボンラーチャターニー地方裁判所> <県庁焼け跡>

僕は収容されている赤シャツのお見舞いのために、その日、15食分の豚と鶏のバジル炒めを持って刑務所を訪ねた。食料を係りに預け、職員にお見舞いの許可を求めると、朝から裁判所に出頭しているという。人数も多い時に48人いたが、保釈などで21人に減った[注1]。そこで、裁判所へ向かった。13時を過ぎていた。午後の裁判は13時半に始まる。法廷を探していると、足錠の鎖が擦れる音が聞こえてきた。赤シャツの被告が昼食から戻ってきたのだ。60歳以下の男性は足錠をかけられていた。

刑事事件1496/53。原告はウボンラーチャターニー県検察庁。被告はピチェート・ターブッダーをはじめ21人。うち女性は3人。容疑は県庁焼き討ちだ。ウボンの赤シャツの最も重い容疑である。裁判は50回予定されている。2011年5月に結審する予定で、今回は2回目だ。複数の罪状の容疑(非常事態下の10人以上の政治集会参加、騒擾、公務執行妨害、武器所持と使用、不法侵入など)をかけられているため、県庁焼き討ちは最後になった格好だ。それにしても無罪だったら、何と長い拘束であろうか。人権侵害も甚だしい。逮捕されて7ヶ月が経過している。審理が始まる前に、女性の被告と話した。「憲法は人権を保障していないのか。こんな国が他にあるのか。出獄したら、自分の体験、人権状況を大学で講演したい」と彼女は熱く語っていた。

13時40分に午後の裁判が開廷した。法廷には裁判官2人、書記官1人。原告弁護士1人、被告弁護士3人、被告弁護士の助手1人。証人は原告側から取調べに当たったノッパドン・チュアイブン警察中佐である。被告21人は傍聴席に座っていた。僕は被告の隣に座った。家族と支援者が約15人来ていた。証人席に警察中佐が着くと、僕の隣の女性被告は、「嘘つき。信用ならない」とつぶやいた。原告弁護士とのやりとりは声が小さくて聞き取れなかった。被告弁護士は流石、声が大きい。証人の警察官の声は相変わらず小さい。被告弁護士は、被告一人ずつの逮捕の経緯を追及した。今回は証拠写真の追及に終始したといってよいが、傍聴席からは写真がはっきり見えなかった。

被告弁護士1:証拠写真はどのように入手したのか。
証人:記者や役人から入手し、分析した。
被告弁護士1:写真はどこで撮ったものか。
証人:県庁敷地の内外だ。
被告弁護士1:油を撒き、点火している写真はあったのか[注2]。
証人:(僕は聞き取れなかった)
被告弁護士1:覆面をしている人もいた。どのように写真から被疑者を割り出したのか。
証人:証人が写真中の知っている人の名を提供した。それから逮捕状を請求した。
被告弁護士1:トヨタのピックアップを運転している被告の写真がある。これが証拠写真になるのか。(笑い)

被告弁護士2:被告Oは民主党国会議員事務所前の写真が証拠になっている[注3]。ここでは集会が行なわれ、タイヤが燃やされた。この写真はいつ撮られたものか。
証人:5月19日だ。
被告弁護士2:この写真は午前10時に撮影されたとの記録がある。スピーカーを積んだ車の前で演説している。これは県庁焼き討ち事件の前だ。(県庁が燃えたのは午後2時頃)事件の前の写真をもって、県庁焼き討ちの容疑の逮捕状を請求できるのか。(笑い)演説を見たのか。
証人:見ていない。
被告弁護士2:演説の内容も知らないで、逮捕したことになる。この写真はどこだ。民主党議員事務所の前だ。(笑い)県庁と関係のない写真。19日午前の写真。
証人:事件から遡って、証拠として有効だと思われる。
被告弁護士2:現場にビンを握っている人がいたというが、誰かもわからない、その中味が油かもわからない。その確認は警察の任務だ。
証人:わからないが、推定だ。物的証拠はない。(笑い)

被告弁護士3:証拠写真も逮捕状もない被告がいる。
証人:自首してきた。
被告弁護士3:被告が県庁の集会にいつ参加し、どこにいたかもわからない。呆れるばかりだ。証人はこのことをどう思うか。
証人:(本人、苦笑)

逮捕状の発行が人権侵害の防止になっていない。証拠写真のやり取りの中で、裁判長はときどき本人確認のために被告を起立させた。それは写真が不鮮明であるからだが、決まって、苦笑しながら識別できない旨述べた。16時25分、閉廷した。傍聴は被告を元気付ける。支援者は傍聴に参加し、裁判官、原告へ圧力をかけることも重要だ。首相にもこの滑稽な裁判をぜひ傍聴してもらいたいものだ。自分が加担している過ちがどれほど多くの無辜の人々に多大な苦難を与えているか気付くはずだ。

[注1]  収容者については拙稿「非常事態宣言と大量検挙:ウボンラーチャターニー中央刑務所の赤シャツ」『タイ国情報』44巻4号35-54頁参照。

[注2]  最重要証拠になるはずだが、警察は握っているというだけで公開していない。無い可能性もある。あるいは写っているのは赤シャツではないのかもしれない。

[注3]  筆者は2010年7月22日に被告Oに刑務所でインタビューした。それによれば、彼女は5月19日午前10時ごろ、ウィトゥーン・ナームブット民主党国会議員事務所前で演説した。「政府の統治はよくない。我々は政府のバンコクでの暴力行使に反対するために来た」と。次に県庁前の通りに行ったが、中には入っていない。敷地内の車を燃やした容疑を受けているが、外にいた。銃撃で倒れる人を見て、怖くなって逃げた。火災が起こる前に帰宅したという。


タイの赤シャツ裁判傍聴:ウボンラーチャターニー県庁焼き討ち事件」への1件のフィードバック

  1. ホシ

    本当に、タイの裁判は酷いです。日本に20年ほど暮らしている、私の知り合いの、タイ人も、今、裁判で苦しんでいます。

    その人の故郷は、スコータイの田舎で仕事もまともに無いような所です。ある日、タイの子供の頃からの友達だと思っていた人から連絡があり「今、二人は仕事が無くてこまっている。貴方と結婚して日本に連れて行ってほしい」と頼まれました。日本にもどり、二回ほどビザの申請をしましたが、許可がおりませんでした。そして、知らない間にタイで、騙されてお金を取られたと裁判で訴えられていました。ビザの申請の証拠、日本の弁護士をとうした申請証明、相手からきた日本に連れて行ってほしいと言う内容の手紙など裁判所に出したのですが、私の知り合いの人だけが、騙してお金を取ったと一方的に悪い判決がでました。

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