なぜいま民族なのか ―現在における民族主義研究の動向と課題

岩木 秀樹

なぜ今、民族が注目されているのだろうか。従来、社会が近代化すると価値志向が属性主義、特殊主義、地域主義、部族主義、伝統主義から機能主義、業績主義、合理主義、普遍主義へと変化するので、人種・エスニシティ(エスニック集団)・民族などへのこだわりはなくなると言われていた。(3)しかし、なぜいま民族が注目され、様々の「民族問題」が噴出してきているのか。その要因は色々あるが、以下のようなことが考えられよう。

そもそも上のような問題の立て方がおかしいとも考えられよう。業績主義的努力が属性化する結果も見られる。もしくは一見業績主義と見られていたものが実は属性主義によって決定されていたということがある。学力が親の収入と相関関係があるということはそのよい例であろう。近代化、産業化によって属性主義から業績主義へと単線的に移行するわけではないのである。また「民族対立」が属性的なものをめぐる対立であるとともに、経済格差や業績発揮の機会をめぐる業績的対立でもあるのである。

他の民族台頭要因として、国民国家を建設するため、一民族、一言語、一文化を過度に重視し、異文化者の同化が前提にあったので、それへの反発が出ているとも考えられよう。姜によれば、資本主義世界経済の発展と矛盾が生み出す「反システム運動」であり、普遍主義的な文化的同化の強制に対する「痛切な叫び」である。(4)また国民国家を相対化する動きも多く見られている。例えば移民、難民、留学、海外勤務などは既存の枠組みを超える動きであろう。

民族台頭要因として、社会主義陣営の崩壊後の新しい統合原理として民族が利用されているということもあろう。冷戦崩壊後に、いわゆる「民族紛争」が生じている。今まで抑圧・隠蔽されてきたものが噴出しているとも考えられよう。

このように様々の要因によって、現在、民族が台頭し、それに対する議論が盛んになっているのである。


(3) 梶田孝道編『国際社会学-国家を超える現象をどうとらえるか-』第2版、名古屋大学出版会、1996年、30-31ページ。
(4) 姜尚中「世界システムのなかの民族とエスニシティ」『グローバル・ネットワーク 岩波講座社会科学の方法』11巻、1994年、188ページ。

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