現在における民族主義研究の動向と課題

岩木 秀樹

特定非営利活動法人 地球宇宙平和研究所
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現在における民族主義研究の動向と課題

岩木 秀樹

はじめに

冷戦崩壊以後、いわゆる「民族問題」が噴出している。「民族問題」や「民族紛争」を低減化するためにも、民族とは何か、なぜ民族なのか、民族の歴史的発生要因や社会的機能などが問われなくてはならないだろう。

民族は近代のどのようなイデオロギーよりも比較的大きな政治的影響力をもっていた。しかし哲学的には貧困でリベラリズムやマルクシズム、フェミニズム等の他のイデオロギーと違って、偉大な思想家も生み出さなかったと言われている。このことは資本主義も同様であり、偉大な思想家を生み出さなかったけれども、社会的には大きな影響力をもったのであった。(1)また民族ほど、日常の実生活を直接に政治と結びつけるイデオロギーは存在しない。民族を支えるのは、抽象的な世界観ではなく、日常生活にまつわる言語や文化などの「伝統」の共有である。近代における自由主義や社会主義などを内面化するには相当の時間や教育が必要であるが、民族への共感や一体感は子どもにも可能であると言われている。(2)

このように大きな影響力をもち、しばしばエモーショナルに訴え、戦争の原因とも受け止められている民族を考察することは重要であろう。ここでは最近の日本における民族に関する議論を中心に、民族主義研究の動向と課題を概略的に論じるものである。

本稿ではまず最初に、民族が注目されている要因を述べた後、民族と他の概念との相違を見た上で、大まかな定義付けをしていく。次に民族研究における方法論を、原初主義=表出主義=本質主義と近代主義=道具主義=構築主義に立て分けて説明する。さらに第一次大戦後からの民族主義研究史を瞥見し、民族の発生を近代にみる近代主義者と非近代主義者の論を検討する。最後に、アイデンティティ論の観点で民族を見た上で、民族を超えるような視座の可能性を示唆する。

目次

  • 1. なぜいま民族なのか
  • 2. 民族の定義
  • 3. 民族の方法論
  • 4. 民族主義研究の歩み
  • 5. アイデンティティ論
  • 6. 民族を越えて
  • おわりに

(1) 大沢真幸「ナショナリズムという謎」大沢真幸他編『ナショナリズム論・入門』有斐閣、2009年、25ページ。
(2) 藤原帰一『新版 平和のリアリズム』岩波書店、2010年、90ページ。