「国連安保理議長声明」に寄せて

中西 治

2009 年 4 月 5 日に朝鮮民主主義人民共和国は人工衛星を発射し、地球をまわる軌道に乗せたと発表しました。これに対して国際連合安全保障理事会は同月 13 日に議長声明を発表し、この発射が 2006 年 10 月 14 日の同理事会決議第 1718 号に「反する (contravention)」ものであるとしました。朝鮮としては安保理の正式の決議ではなく、何の拘束力もない議長声明ですから無視することもできたのですが、誇り高い朝鮮としては無視することができず、安保理が主権国家朝鮮の人工衛星打ち上げ問題を議題として審議したことに抗議し、安保理の主要構成国である米国・中国・ロシア・日本が参加する 6 か国協議はその存在意義を失ったとして今後これまでの合意に拘束されないと発表しました。

今回の出来事にはまだ二つの疑問が残っています。第一は、日本は朝鮮の発射を批判していますが、発射体が日本列島の上空を飛行したことについては非難していません。やはり飛行体は日本の領空ではなく、国際海峡である津軽海峡の上空を飛行したのでしょうか。第二は、朝鮮は人工衛星を軌道に乗せ、実験は成功したと発表していますが、その後については何も言っていません。日本と朝鮮の政府はこれらの点を明確にしなければなりません。

かつて毛沢東は 1946 年 8 月、第二次大戦が終わって 1 年後、延安の洞窟で米国の女性ジャーナリスト、アンナ・ルイス・ストロングと会見し、「原子爆弾はハリコの虎 (paper tiger) です」と述べました。その後、中国は米国やソビエトに対抗して、核兵器やロケット・人工衛星の保有をめざすようになりました。1963 年に陳毅外交部長は「中国はたとえズボンをはかなくても核兵器を作り出すだろう」と言いました。この言葉通り、中国は 1964 年 10 月に最初の核爆発実験をおこない、1970 年 4 月に最初の人工衛星・東天紅を打ち上げました。2009 年 4 月 13 日現在、78 の中国の人工衛星が地球のまわりの軌道を順調に機能しながら飛んでいます。

中華人民共和国も建国 60 年ともなると、その指導者の多くは革命後世代、国内でも国外でも体制派、革命は遠い昔のことになったようです。安保理決議を議長声明に格下げすることで朝鮮に対する義理を果たしたと中国は考えたのでしょうが、朝鮮戦争はまだ停戦状態であり、米国との戦争は完全に終わっておらず、国の内外に多くの反対者を持つ朝鮮としては、ソビエトなきあと唯一頼りにしてきた中国に裏切られたとのおもいでしょう。

米国も当初は日本の安保理決議採択を支持していたのですが、最後には中国の顔を立てて議長声明で妥協しました。米国としてはこれで日本への義理は十分に果たしたと考えているでしょう。日本には最後にどんでん返しをくい、裏切られたと思っている人もいるでしょう。

今回の議長声明は米中妥協の産物です。これが国際政治です。

朝鮮と米国は次に進み始めています。朝鮮は寧辺の核施設の無能力化作業を監視していた米政府当局者と国際原子力機構 (IAEA) 要員の国外退去を求めました。米国のクリントン国務長官は「いずれ朝鮮とも問題を協議する機会が得られることを望んでいる」と述べ、ボズワース朝鮮政策特別代表は「適当と考えれば米朝の直接協議に応じる」と語っています。

そう遠くない時期に米朝は直接対話し、しかるべき結論に到達するでしょう。それは米朝間の戦争状態の終結であり、米朝国交の正常化です。米朝関係は激しい戦争のあと緊張と緩和を繰り返しながら、徐々に正常化に向かっているのです。私は歴史の前途を楽観しています。