星野昭吉著『世界政治の弁証法』紹介

中西 治

私たちの研究所の同僚、獨協大学法学部教授星野昭吉(ほしの あきよし)さんが、また新著『世界政治の弁証法』(亜細亜大学購買部、2009年3月16日)を出版しました。星野さんはこれまでにも多数の日本語と英語の著作を上梓しています。今回の著書はこれらの業績を踏まえて、世界政治を現状維持志向勢力と現状変革志向勢力の弁証法的ダイナミクスとして描いています。

星野さんは、いま流行りのグローバリゼーションとは何かについて「それは国民国家を超える社会関係の地球的規模の広がり」とする一般的な規定を引用しています。そして、この広がりが、好ましい秩序的・協調的・統合的関係網だけでなく、それ以上に悪しき無秩序的・対立的・分裂的な関係網からも成っており、後者が世界政治システムを支配し、人類的危機を構成・展開・強化している、と指摘しています。

星野さんは2008年の前著『世界政治と地球公共財』で、前者が地球公共財を作り出し、後者が地球公共悪を生み出している、と主張しています。地球公共財とは平和・安全保障、世界人権保障、地球環境、知識体系など、地球公共悪とはテロや地域紛争、核兵器をはじめとする大量破壊兵器、貧困・飢餓、環境破壊、人権抑圧、社会的不正義などです。

新著で星野さんは、グローバル政治の現実と理論を相互に連動・浸透する相互構成関係として把握し、理論は単に現実を説明するだけでなく、現実を変容させ、変革させる、と考えています。星野さんは「理論や知、規範、思想などによって、世界政治の現実を構成したり、現実世界を変容させたり、変革したり、また、現実世界に大きな影響を及ぼしたり、規定することができる」と述べ、理論が果たす役割を重視しています。

この現実と理論との関係は、現状維持志向的現実と現状変革志向的現実および現状維持志向的理論と現状変革志向的理論のそれぞれの関係についても言えます。実際の現実は現状維持志向的現実と現状変革志向的現実の弁証法的展開過程の産物であり、実際の理論は現状維持志向的理論と現状変革志向的理論の弁証法的展開過程の産物なのです。

星野さんはこのような観点からグローバリゼーション、世界政治、世界経済、権力、知識体系、制度勢力、倫理、勢力などの諸問題を論じています。現在の世界の金融・経済危機と関連して私がとくに関心をもったのは、世界経済の問題を扱った第3章、および、コミュニタリアニズムとコスモポリタニズムを倫理の問題として取り上げた第7章です。

星野さんは最後に「地球的規模の問題群や紛争群を統治し、また、解決し、人類の誰もが便益を享受できるためには、地球公共財の供給を理解し、方向づけることが必要となる。そのことが、グローバル政治において、脱現状維持志向勢力、つまり、現状変革志向勢力が支配的地位を占めることを意味する」と結んでいます。星野さんは現状変革志向勢力の側に立っています。

星野さんの考え方を簡単に要約すると、次のようになります。まず現状があり、それについて現状を守ろうとする人とそれを変えようとする人がせめぎ合います。その過程で現状は弁証法的に変わっていきます。そのさいに現状を変えようとする人の理念が重要な役割を果たします。

現在、世界では、オバマさんが「変革」を掲げて米国大統領に当選したように、現状変革志向勢力が台頭しています。他方ではこれに対して現状維持志向勢力が必死に抵抗しています。そのなかでオバマさんの内外政策は揺れ動いています。試されているのはオバマさんの理念です。問われているのは私たちの理念でもあるのです。

星野さんは学のある人です。星野さんは欧米諸国のたくさんの資料を渉猟しながら、「本に読まれる」ことなく、「本を読み」、独自の論を展開している数少ない日本の優れた研究者です。いまのようなときにこそ星野さんの本は読まれるべきです。