朝鮮による人工衛星の打ち上げが終わって

中西 治

朝鮮の人工衛星が 2009 年 4 月 5 日午前 11 時 30 分頃に打ち上げられ、 37 分頃に日本列島上空を通過して太平洋上に出ました。朝鮮は人工衛星が午前 11 時 20 分に発射され、 9 分 2 秒後に軌道に乗り、 104 分 12 秒の周期で地球の周りを回っており、金日成と金正日の歌を流していると言っています。米国の北米航空宇宙防衛司令部 (NORAD) と北部軍司令部は「テポドン 2 」は太平洋に落下し、何も衛星軌道に乗せられなかったと言っています。どちらが正しいのでしょうか。

1998 年 8 月 31 日に朝鮮が最初の人工衛星を打ち上げたときも同じでした。このときは朝鮮が予告無しに打ち上げたので国際社会の袋だたきにあいました。

1998 年 9 月 4 日の『朝鮮中央通信』と同月 28 日の「検証ー朝鮮民主主義人民共和国の人工衛星打ち上げ」によると、最初に弾道ミサイル「テポドン」発射の情報を出したのは在日米軍横田基地でした。9 月 4 日に朝鮮が正式に人工衛星の打ち上げ成功を発表したあと、ロシアの宇宙飛行追跡センターが、朝鮮の人工衛星が地球をまわる軌道に乗った、ことを確認しました。中国も朝鮮の人工衛星打ち上げ成功を報じました。米国の航空宇宙局 (NASA) も朝鮮の人工衛星が軌道に乗ったことを認めました。9 月 11 日には国務省もこのことをはっきりと認め、米朝高官会議の合意事項を明らかにしました。この合意によって米国の朝鮮への重油搬入、軽水炉建設の本格化、人道支援の継続が約束されました。

今回はどのようなことになるのでしょうか。今朝 (2009 年 4 月 6 日) の『朝日新聞』を見て、朝日がこのような新聞を出して良いのであろうか、これでは 1941 年 12 月 8 日の真珠湾攻撃のときと同じではないかと思いました。朝日はもっと冷静な理性的な新聞を出さなければなりません。再び日本を誤らせます。

このさい今回の出来事を少し振り返っておきます。

日本政府が「弾道ミサイル破壊措置命令」を発した 2009 年 3 月 27 日に 3335 であった地球の周りを飛ぶ人工衛星が一昨日、 4 月 4 日には 3337 になり、わずか 10 日ほどの間に 2 増えました。増えたのは米国とヨーロッパ衛星通信機構 (EUTE) のそれぞれ 1 です。

世界では人工衛星の打ち上げが日常的になっているのに、北東アジアではこれが大きな紛争の種になるというのは大変不幸なことです。

なぜ、このようになるのでしょうか。

第一は人工衛星を打ち上げる朝鮮のロケットが日本列島の上空を通過するからです。

上記の「検証」によると、 1998 年 8 月 31 日に朝鮮が最初の人工衛星を打ち上げたとき、朝鮮は国際法にもとづいて周辺国の自主権と安全を最大限に尊重し、日本の本州上空ではなく、本州と北海道のあいだの津軽海峡上空を越えたと言われています。津軽海峡は国際海峡であり、外国の船舶および飛行体も自由に航行・飛行できます。

最も理想的な宇宙ロケットの打ち上げ角度は方位 90 度で真東だが、それでは日本領土上空を横切り、第 2 段のブースターが日本領海近くに落下してしまう。そこで安全策をとって方位 86 度に修正し、朝鮮東海 (日本海) を横断して津軽海峡の上空を越え、太平洋の公海にいたるコースが設定されたと言われています。

また、 1998 年 9 月 17 日付『労働新聞』掲載の「インタビュー//人工衛星打ち上げの科学者たち」によると、 2 段階目が日本の領海近くに落下しないように衛星発射の高度を下げたとも言われています。

第一回は試験用衛星であったため太陽電池を搭載せず、バッテリーであったので、打ち上げ後 9 日で電源は切れました。当初から衛星本体の寿命は約 2 年と予想されていました。 2009 年 3 月 27 日現在、朝鮮の人工衛星は地球を回る軌道に存在しません。

今回は前回に懲りて、朝鮮は人工衛星の打ち上げを事前に通告しました。津軽海峡は国際海峡ですから、あらかじめ落下が予測されるものがなければ、予告する必要はないのですが、もし、今回も前回と同様に、津軽海峡上空を通過するのであるならば、それを事前に日本に通知していれば、日本人の反応も変わっていたことでしょう。今回の打ち上げ経路がどのようなものであったのか是非知りたいところです。

第二の理由は国連安保理の決議が朝鮮のミサイル実験を禁止していることです。

2006 年 10 月の安保理決議第 1718 号については先に発表した「朝鮮の人工衛星打ち上げ予告に寄せて」で書きました。ここでは 2006 年 7 月 15 日に安保理が採択した決議第 1695 号について書きます。この決議は 2006 年 7 月 5 日に朝鮮が弾道ミサイル (ballistic missiles) を複数回発射 (the multiple launches) したことを非難したも のです。

この決議でも、決議第 1718 号と同様に、朝鮮に対して「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動 (all activities related to its ballistic missile programme) を停止し、か つ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアム (a moratorium on missile launching) に係る既存の約束を再度確認することを要求」しています。また、すべての国連加盟国に対して「ミサイル並びにミサイルに関連する品目、資材、物品及び技術が朝鮮民主主義人民共和国のミサイルまたは大量破壊兵器計画に対して移転されること (missile and missile-related items,materials,goods and technology being transferred to DPRK’s missile or WMD programmes) 」を防止するよう要求しています。

このように、決議第 1695 号も、弾道ミサイルまたはミサイルを大量破壊兵器 (WMD=Weapon of mass destruction) と並ぶ兵器として扱っています。この点では決議第 1718 号の方がはっきりしています。いずれにしても、安保理決議第 1695 号と第 1718 号が禁止しているミサイルは兵器であって、人工衛星を打ち上げるためのロケットはこれに入らないと私は思っています。

そうでないと、ロシア、米国、中国などのロケットによる人工衛星打ち上げも不法となるでしょう。朝鮮のロケットによる人工衛星の打ち上げは悪いが、ロシア、米国、中国などのロケットによる人工衛星打ち上げは良いというのは理屈に合わないでしょう。

人工衛星の打ち上げは優れた人材と技術と貴重な資材と多額の資金が必要です。自力で人工衛星を打ち上げられるのはロシア、米国、フランス、日本、中国、英国、インド、イスラエル、ヨーロッパ宇宙機関 (ESA) 、イランなどです。その他の国や組織は高い料金を払って衛星を打ち上げてもらっています。本来ならば、隣国朝鮮が自力で人工衛星を打ち上げられるようになったことを日本は隣人として喜ぶべきです。それを非難する今日の状況は悲しむべきです。

日朝両国の関係を正常化し、ともに喜ぶ日が近く訪れることを期待しています。