ソマリア沖への 自衛艦の派遣について 追伸

中西 治

2009 年 3 月 14 日に公開した「ソマリア沖への自衛艦の派遣に思う」について友人からメールを頂戴し、意見の交換をしました。それにもとづいて「追伸」を送ります。

日本船主協会によると、世界全体での海賊行為は、この 5 年をとっても、2003 年に 445 件、2004 年に 329 件、2005 年に 276 件、2006 年に 239 件、2007 年に 263 件、2008 年に 293 件発生しています。 2008 年には 2007 年より若干増え、とくにアフリカ地域での海賊事件が 2007 年に比べて約 58%増の 189 件となり、発生件数全体の 64%を占めています。 2008 年のアフリカ地域での最多発地域は紅海・アデン湾 92 件、ソマリア 19 件、ナイジェリア 40 件、タンザニア 14 件などです。

世界全体で日本関係船舶が海賊に襲われた件数は、2003 年が 12 件、2004 年が 7 件、2005 年が 9 件、2006 年が 8 件、2007 年が 10 件、2008 年が 12 件です。しかし、1999 年には 39 件、2000 年には 31 件、2001 年には 10 件、2002 年には 16 件でしたから、近年は減っていると言えるでしょう。

2008 年の日本関係の被害船の船籍別内訳は、パナマ籍 7 隻、香港籍、アンティグア・バーブーダ籍、ドイツ籍が各 1 隻、日本籍が 2 隻です。被害船舶のうち、日本人が乗船していた船舶は 1 隻でした。被害発生海域を地域別に見ると、東南アジア周辺 5 件、インド周辺 2 件、アフリカ周辺 5 件 (うちアデン湾 3 件) です。アデン湾の 3 件は発砲、追跡などの被害ですが、いずれも回避操船などで海賊を振り切っています。その他の被害は窃盗が主であり、乗組員への被害はありませんでした。

海賊行為は船舶の運航にともなって常におこっています。これまでは船舶運航者の的確な処理によって対処してきました。憲法論議を起こしてまで自衛艦を派遣する必要はありません。日本の為政者は自衛隊の海外派遣の実績をつくり、憲法論議を起こして改憲を実現したいのでしょう。

ソマリア沖の海賊行為はソマリア人の問題であり、ソマリア人が解決すべきであるし、彼らしか解決できません。地理的にも遠く、歴史的にも深い関わりがない日本は、ソマリア問題の解決で主要な役割を果たせません。日本の役割はきわめて限定的です。

日本がなすべき第一は、ソマリアの内戦を止めさせるために外交的努力をすること、第二は、この地域の民生を安定させるために支援すること、第三は、ソマリア人の海賊行為を止めさせるためにソマリアの近隣諸国と協力し、沿岸警備に財政的・技術的援助を与えることなどです。

2009 年 3 月 16 日の『朝日新聞』朝刊に獨協大学の竹田いさみさんが「海賊対策  アジア型の民官協力モデルを」という一文を寄せています。竹田さんは自衛艦の派遣を「商船会社や船員たちは歓迎している」と述べています。その通りでしょう。竹田さんは、このなかで、かつて「海賊の巣」といわれたマラッカ海峡で日本財団などの民間団体が海上保安庁、外務省、国際協力機構 (JICA) などと協力し、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどの沿岸諸国とともに海賊対策に成功した経験を紹介しています。マラッカ海峡に自衛隊は派遣されていません。竹田さんは「民と官の連携、そして軍事力より警察力を重視することで、将来的に日本は海洋安全保障におけるイニシアチブを発揮することができる。」と指摘しています。

私は竹田さんの結論に賛成です。日本がソマリアにおいてなすべきことはこのことです。

現在の国連は常設の陸軍も海軍も空軍も持っていません。私は現在の状況下で国連がそのような軍隊を持てないし、持つ必要はないと考えています。もう軍隊の時代ではないのです。警察の時代です。国連が差し当たってできることは、ソマリアでの内戦を停止させるための活動です。安全保障理事会は現在そのための作業をしています。

私はかねてより「地球共同体の治安は地球警察が維持するようにし、軍隊はなくさなければならない。」 (『地球宇宙平和研究所所報』創刊号、31 ページ) と主張しています。この機会にこの主張を実現する一歩として「国際軍」ではなく、「国際警察」を提唱しました。国際司法裁判所や国際刑事裁判所に対応する「国際警察」や「地球警察」はいずれ実現するでしょう。

国際海事局 (IMB) によると、2009 年 1 月 1 日から同月 26 日までにソマリア沖で海賊行為が 14 件発生していると言われています。欧米諸国の軍艦が派遣されていて、これなのです。自衛艦を派遣しても問題の根本的な解決にはならないでしょう。

軍事力の派遣は対症療法です。実務家や政治家の判断は概して既成の枠内で短期的です。それが積み重なって日本が破滅したことを「落日燃ゆ」の主人公、広田弘毅の生涯は教えています。だから、私たちが「流れに抗して」発言し、行動することが必要なのです。今回のソマリア沖への自衛艦の派遣によって、日本は戦争のできる国から戦争をする国へ一歩進みました。

すでにインド洋には給油活動をおこなう自衛隊の補給艦と護衛艦が各 1 隻、およそ 340 人が行っています。そこへ今回の 400 人ほどが加わります。全員で 750 人ほどです。 1929 年の大恐慌の時がそうですが、不景気と軍隊の対外進出は密接に関連しています。警鐘を鳴らすのが私の役割であると考えています。