油井大三郎著『好戦の共和国アメリカ −戦争の記憶をたどる』上梓に寄せて

中西 治

私たちの友人、油井大三郎 (ゆい  だいざぶろう) さんが『好戦の共和国アメリカ −戦争の記憶をたどる』岩波新書 (岩波書店、2008 年 9 月 19 日) を上梓しました。油井さんは私たちの研究所の昨年の総会で「日米関係と戦争の記憶」と題する記念講演をしました。

この本は独立前の植民地時代から今日までのアメリカ合衆国の歴史を戦争を中心として描き、アメリカがなぜ好戦的であるのかを明らかにしています。本書はおよそ 400 年間のアメリカの通史であるだけでなく、アメリカをめぐる国際関係の通史でもあります。内外の最新の資料を使った、大変読みやすい、この分野の優れた研究入門書です。私は二日間でこの本を読み上げました。

油井さんはアメリカの戦争の歴史を五つの時期に分けています。

第一は、17 世紀初めから 18 世紀後半までの植民地時代です。この時期には、ヨーロッパの国々の植民地争奪戦争 (植民地戦争) とアメリカ大陸の先住民と新たな植民者との戦争 (対先住民戦争) 、との二つの種類の戦争がありました。前者は外交と軍事を結合した「限定戦争」でしたが、後者は「無限定戦争」でした。戦争に「二重基準」がありました。

第二は、1776 年の独立宣言から南北戦争を経て 19 世紀末までの新興独立国時代です。独立そのものが戦争によって実現し、領土の拡大が「対先住民戦争」の継続やメキシコとの戦争によって実現したこと、さらに、南北の統一が戦争によって維持されたことなどから、戦争を肯定的にとらえるのが主流でした。他方では、「啓蒙思想の子」といわれた独立革命の初期には「文民統制」のほか、戦争を「最後の手段」とみなす「戦争自制」論も形成され、「非戦論」の潮流が誕生していました。

第三は、19 世紀末のアメリカとスペインとの戦争から 20 世紀なかばの第二次大戦終結までの時代です。アメリカは「大国」化し、新しい世界秩序の構築をめざしました。アメリカはスペインとの戦争で海外領土を保有し、「帝国主義国」化しました。これに対して反植民地主義の伝統と市民平等の共和主義に反するとの批判が起こり、その結果、「門戸開放」という形で、主として海外市場への経済進出をめざす「非公式帝国」路線が主流となりました。

第四は、第二次大戦後の「パクス・アメリカーナ (アメリカの平和) 」の時代です。アメリカが経済や軍事面で圧倒的な優位に立ち、アメリカ中心の秩序を維持するために、ソ連を「封じ込め」、局地戦争に介入しました。そのさい、自由主義を絶対化し、朝鮮やベトナムの民族独立や統一問題の切実さを軽視することになりました。アメリカは史上初めてベトナムで「敗戦」を体験しました。

第五は、ソ連の崩壊後にアメリカが唯一の超大国となっている現在の時代です。ここでも、「ネオコン」グループのように、グローバルな単独介入を強行しようという潮流と冷戦終結による「平和の配当」を活かし、軍縮を進めるとともに、国際協調の下で紛争の平和解決を図ろうとする潮流があります。

油井さんは、アメリカにはそれぞれの時代に「好戦論」と「非戦論」が存在し、「非戦論」の批判を受けて「好戦論」の内容が変化していることを指摘しています。アメリカにはクエーカー (友の会) のように戦争を原理的に否定し、徴兵を拒否する「原理的反戦派」もいます。戦争の性格によって、「反戦派」になったり、「好戦派」になったりする「状況的非戦派」もいます。

油井さんは、最後に、「本年の大統領選挙でイラク戦争を批判し、「ハト派」として期待されているオバマ候補が、一方でアフガン戦争の完遂を主張しているのをみると、改めてアメリカにおける「好戦性」の根深さを感じさせられた。」と結んでいます。

私は油井さんの論に基本的に賛成です。

私の考えは次のようなものです。

第一は、アメリカは英国、メキシコ、スペイン、ドイツ、日本とのいずれの戦争においても、勝利して、領土や市場や影響圏を拡大してきたのであるから、いずれの戦争も良いではないか、先住民との戦争にしても結果的には先住民にとっても良かったのであるから良いではないかとの考えがあります。これがアメリカの主流の考えです。この考えは、朝鮮とベトナムでの失敗にもかかわらず、いまもなお変わらず、アフガニスタンとイラクで戦争を続けています。

第二は、アメリカは一度手に入れた領土や土地は簡単には手放しません。南北戦争では南の分離を認めませんでしたし、スペインとの戦争で獲得したキューバの軍事基地は 100 年以上経つのにいまも維持しています。日本の米軍基地も然りです。すでに 63 年経っています。例外は 1946 年に独立したフィリピンです。1992 年にフィリピンは米軍基地を完全に撤廃させました。それでもなおアメリカは基地を維持しようと折りに触れて努力しています。アメリカの支配から脱するためには長期にわたる不屈の努力が必要です。

第三は、アメリカ的生活様式が最良であり、アメリカ的民主主義が最善であり、アメリカが世界の中心であり、世界はアメリカを中心として動くべきであるとの考えがアメリカにあります。しかも、その考えを他国に押しつけようとします。アメリカは自己中心的です。

すべてのアメリカ人がこのように考えているわけではありません。アメリカ社会は多様です。私はアメリカが経済的にも、政治的にも、軍事的にも大きくなりすぎ、大きな失敗をし、挫折することによって、深く反省し、考え方、生き方を大きく変えるときがくると思っています。

マケインさんは典型的なこれまでのアメリカ人、オバマさんは「状況的非戦派」、転換期の政治家。アメリカ人は 2008 年 11 月にどちらを選ぶでしょうか。