エッセイ 51 ラ・ロシュフコーの箴言

木村 英亮

「真の雄弁は、言うべきことをすべて言い、かつ言うべきことしか言わないところにある」(二宮フサ訳『ラ・ロシュフコー箴言集』、岩波文庫、79ページ)。私のエッセイも50を迎え、「言うべきことしか、言わない」ことから外れ、余計な雑文を書き続けているのかも知れない。

ラ・ロシュフコーはまた、「老人たる術を心得ている人はめったにいない」(121ページ)、「年寄りを社会生活から引退させる自然な理由のすべてをここで取りあげたら、おそらくたいへんな長話をすることになってしまうだろう」(250ページ)とも書いている。かれは66歳で没した。すでに70歳となった私としては、よほど心しなくてはならない。一方ではこのように思いながら、他方ではまだまだ書き足りないような気持ちである。

ラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世(1613-80)はモラリストであり、その箴言集には、痛いことばや心にしみることばが沢山ある。「書物より人間を研究することがいっそう必要である」(187ページ)。「真の友こそは、あらゆる宝の中で最も大きな宝であり、しかも人がそれを得ようと心がけることの最も少ない宝である」(186ページ)。

ラ・ロシュフコーの訳者の解説によれば、文体上の特色として、「・・・に過ぎない」、「・・・にほかならない」等の矮小化する定義の多さ、「・・・より・・・ではない」式の比較や、否定の多さがあると指摘されている。真実は、おそるおそる語られなければならない、ということであろう。