総会記念講演 油井 大三郎 (東京女子大学教授)

事務局

日米関係と戦争の記憶

2007年5月6日 17時~
かながわ県民活動サポートセンター711号室

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対テロ戦争」と日米ギャップ

9.11 以降の「対テロ戦争」の支持に関して、日米の世論には大きなギャップがある。アフガン開戦支持はアメリカでは83%であったが日本では46%、イラク開戦支持はアメリカでは73%であったが日本では31%であった。

しかし、この日米ギャップの存在にも関わらず日本の対米軍事協力が進行している。その背景には、湾岸戦争の際、日本が財政支援のみだったがゆえに国際的「孤立」したという「湾岸戦争ショック」がある。このショックを払拭するために日本政府は数々の軍事関連立法を成立させた。カンボジア復興支援を目的とした国連PKO法案、アフガン戦争における自衛隊のインド洋補給活動のためのテロ対策特措法、内戦状況下での復興支援活動を可能にしたイラク特措法である。残るは自衛隊の戦闘参加のみである。現在の日本における集団的自衛権論や改憲論はこれを実現させるためのものに他ならない。

現時点での争点は、日本の国際貢献とはアメリカの軍事覇権への補強なのか、国連中心の平和維持活動なのか、にある。今まさに日本は転換期にある。今こそ、日本の安全や世界の平和のあり方について、世界史的な検討が必要とされているのである。

「戦争の記憶」をめぐる日米ギャップ

戦争に関する日米世論のギャップを考える上で、興味深い出来事がある。終戦50周年にあたる1994年から95年にかけて行なわれたスミソニアン航空宇宙博物館での原爆展示論争である。

この論争では記録文書を使用し学問と追悼の両立を目指した研究者や博物館員らと、「原爆のおかげで死なずにすんだ」とのやや歪んだ記憶に固執した元兵士らが対立した。その結果、展示では学術的・国際的な意図は後退し、エノラゲイ号の機体の一部などが展示されるに止まった。日本における従軍慰安婦問題とは逆に、記憶が記録に優先させられたのである。

この論争の背景には、愛国主義と多文化主義の対立構造が存在している。アメリカにとって第二次大戦は、政治的にはファシズムを打倒したという点で、経済的には大きな経済成長がもたらされたという点で、「よい戦争」だったというイメージが根強い。一方、1960年代以降のマイノリティ運動の高まりによって、多文化主義的傾向も強まってもいる。スミソニアン博物館での展示をめぐる騒動はこの対立構造の象徴的事例であるが、多文化主義が適用されるのはあくまでも国内問題に限られ、原爆投下に関するような国境を越える問題への適用は困難なことを示している。その意味では自民族中心主義の根強さを物語るものといえよう。

アメリカ人の戦争体験の歴史的特徴

アメリカの戦争体験の歴史的特徴として第一に、正戦論の根強さがあげられる。アメリカには文民統制によって戦争を抑止しようとする伝統がある一方、戦争による独立の実現や領土の拡大、民兵神話による武装自衛・正当防衛論の伝統、民主主義伝播の使命感などがアメリカに好戦的な傾向をもたらしてきた。加えて、アメリカの戦争体験のほとんどが連戦連勝であったことも、この傾向に大きく寄与している。

だが、例外もある。南北戦争とベトナム戦争である。前者はアメリカ人同士が戦ったという点で繰り返してはならない悲劇として記憶され、後者は戦争が泥沼化して米兵の犠牲が増大することを避ける心理をもたらした。ただし、この例外としての南北戦争とベトナム戦争の経験を踏まえた上でも、戦争における外国人の犠牲は問われることはなく、空爆による戦争の短期決着が可能ならば紛争解決の手段としての戦争の有効性は疑問視されにくい状況がある。

また、ベトナム戦争の記憶については、1980年代以降の保守化と「タカ派修正主義」の台頭によってその悲劇的な記憶が消し去られようとしている一方で、ベトナム・ヴェテランズ記念碑に絶えず人が立ち寄ることに象徴されるようにベトナム戦争の記憶は悲劇の記憶として語り継がれてもいる。ベトナム戦争の悲劇的な記憶は、イラク戦争の泥沼化によって復活してもいる。

結びにかえて

アメリカには戦争によって国益を追求しようとする正戦論が根強い一方、民主主義国家として軍隊を文民によって統制し、戦争はあくまでも最後の手段と考える二面性がある。日本はアメリカのネオコン的軍事覇権主義に追随することが国際貢献だと錯覚しているが、同じアメリカには国連中心の平和維持活動を重視するもう一つのアメリカがあることに注意を向ける必要がある。日本はどちらのアメリカと友好関係を深めていくのか、このことを考えていかなければならない。また、テロリズムの軍事的平定は困難である。「人間の安全保障」という観点から、貧困・差別といった社会的原因をなくすことによって根本的にテロリズムの基盤を崩していくことが必要なのである。

戦争以外の手段で紛争を解決するという観点からすれば、地域統合による信頼醸成と話し合いによる紛争解決の手法は注目すべきことである。ヨーロッパではEUが、東南アジアではASEANが一定の成果をあげている。北東アジアは冷戦の遺制を色濃く引きずっている地域であるが、そうであるからこそ戦争以外の手段で紛争を解決する方法が強く求められている。戦後日本の平和主義の世界史的意義もここにある。