ネパール情勢 III:〈インタビュー〉ネパール制憲議会選挙の結果と今後の見通し

植木 竜司

前回「ネパール情勢 II:制憲議会選挙結果について」で書いたようにネパールでの制憲議会選挙の結果が出揃った。そこで、日本在住ネパール人、バララム・シュレスタさんに今回の選挙結果についてインタビューを行った。シュレスタさんは、ネパールで著名な弁護士で、ネパール政界にも幅広い人脈を持つ方である。マオイストの躍進の理由は何だったのかや、今後の新政府の課題などについて聞いた。

植木:4月10日にやっと制憲議会選挙が実施されました。小選挙区でも比例区でもネパール共産党マオイスト(以下、マオイスト)が一番議席を獲得した政党となりました。マオイストの躍進の原因は何であったと思われますか。

シュレスタ氏:第一に、ネパールでは8年間総選挙が行われませんでしたが、ネパールでは16歳から選挙権があり、その間も「新しい有権者」が増え続けた、ということがあると思います。この8年間ネパール・コングレス党(以下、コングレス)もネパール共産党マルクス・レーニン主義(以下、UML)も選挙活動をやってきませんでした。そのため特に、農村では「マオイストのことしかよく知らない」という状況の人が大変増えました。第二に、コングレスの候補者も、UMLの候補者も、国民にとっては「前と同じ顔」であった、ということがいえたと思います。もちろんコングレスにもUMLにも悪いことをした人もいれば、いいことをしたひともいるわけですが、結果として1990年以降彼らが政治をやった結果が現在の状況なのであり、そのことが「新しい人」「新しい党」に投票すること! につながったのだと思います。第三に、マオイストは選挙活動期間中に、「もし選挙に負けたらジャングルに戻りゲリラ活動を再開する」ということを言っていたことがあげられます。10年以上内戦が続いており、ネパール国民の中には、誰が政権をとってもいいから、平和になって欲しい、安定して欲しいという想いがあったのでしょう。

植木:マオイストはそのような「脅し」を含めて、全体としてコングレスやUMLより選挙活動がうまかったということが言えるのでしょうね。

シュレスタ氏:そうですね。特に農村や地方ではマオイストは草の根の組織を持っていますが、コングレスやUMLは村の奥の方までは行かなかったし、行けなかった。彼らはカトマンドゥだけで選挙活動をやっていたのも同然の状況でしたから。

植木:マオイストの躍進とは対照的に、前評判の高かったUMLは小選挙区で党首のM・K ネパール氏がマオイストの候補に敗れ辞任を表明するなど、議席を伸ばせていませんが、こちらの原因は何であったと思われますか。

シュレスタ氏:1990年以降のUMLを見ても、彼らが党として「わが党はこれをやる」と何かを決めたのを私は見たことがありません。またUML自身は、自己を「コミュニスト」と言っていますが、それは「新しいコミュニズム」であり「民主主義的なコミュニズム」であると定義しています。これらの態度が国民には非常に中途半端に見えたのだと思います。現在ネパール国民は「コミュニスト」と言えば「マオイスト」を連想し、UMLを連想する人はほとんどいません。だから共産主義支持の人々の票はほとんどマオイストに流れたのではないのでしょうか。それに加え、1990年以降議会政党としてUML がやってきたことからは、経済や社会、平和の希望がまったく見られなかったし、それらの発展を実現したことがなかったこともあげられると思います。

植木:新政権には様々課題が山積しているわけですが、私が注目しているのはマオイストの人民解放軍とネパール国軍をどうするのかという点です。人民戦争で交戦していた両武装組織ですが、マオイストは両者を統合することを以前から主張しています。私はこの提案は無理があると思いますが、シュレスタさんはこの問題についてどうすべきであると考えておられますか。

シュレスタ氏:マオイストは、人民解放軍と国軍の統合を何としても実現したいと考えているでしょうね。確かにこのことは非常に難しいことだと思います。世界中にはライバル同士の軍隊が統合したケースなどほとんどないでしょう。しかし、これまでなかったからといって、これからも実現できないということでもない。私は、そのことによって国の内戦がなくなるのであれば、統一もいいと思っています。そもそも人民解放軍の兵士も、国軍の兵士も両者とも同じネパール人なのですから。

植木:しかし、もし統合が成功したとしたら、ある一つの政治政党(=マオイスト)が特別な影響力を持つ軍隊ができてしまうことになりますよね。

シュレスタ氏:そうですね。しかし私は、もしそのことをマオイストが政治の場で利用するようなことがあれば、国民が立ち上がり、抗議活動を行い、その悪用に歯止めをかけることになると思います。なぜならネパール国民は240年続いてきた国王の軍隊を打ち負かす力を持っていたのですから。マオイストがそのようなことをすれば、同じことになると思います。

植木:軍隊の問題とともに、最近大きく取り上げられているのが、マイノリティの問題、特にマデシの運動が活発化していることです。マオイストは1996年からの武装闘争の中で、地方のマイノリティの支持を得ながら勢力を拡大してきた面もありますが、今回中央政府に入ることで、「国家の側」に立って政治を運営していかねばならないわけで、これまでの為政者と同様マイノリティ問題には苦慮することが予想されます。この点についてはどのようにお考えになられますか。

シュレスタ氏:私は、今回の選挙を、「部族」や「民族」といった集団の台頭が非常に目立った選挙であったと感じています。マオイストも十数年前は彼らと同じ「マイノリティ=少数派」だったわけですが、もしマオイストの新政府が彼らの意見を取り入れることをしなければ、彼らは「第二、第三のマオイスト」となって、同様の反乱を起こす可能性が高いと思います。

植木:制憲議会が開かれれば240年続いてきた王制が廃止される予定です。今回、王制廃止を主張し人民戦争を行ってきたマオイストが大勝し、王制派政治家がことごとく議席を獲得できていない選挙結果を見ると、やはりネパール国民が王制廃止を支持していると見ることができると思いますが、シュレスタさん自身はどのような意見をお持ちですか。

シュレスタ氏:シャハ王朝は240年続いたわけですが、この240年間で彼らは国のため国民のために何をやってきたか。他の国々はこの240年間で非常に発展しましたが、ネパールでは他国に比べたらまったく開発が進みませんでした。240年の間に義務教育制度の実現さえできなかった。国民が選んだ政治家が240年間政治をやっていれば、もっと発展できたかもしれない。結果として、王制は240年間でなにできなかったわけであり、そのことから国民は、国王は国を守れないし、経済発展も実現することができないと判断したのだと思います。

植木:最後に、今後マオイストを中心とした政府が発足することがほぼ確実ですが、マオイストはどのように政権運営を行っていくべきであるとお考えですか。

シュレスタ氏:マオイストの議員たちは、選挙で国民に選ばれたのであり、彼らにはもちろん政府を作る権利があります。しかし現実的にはマオイストに反対する人々も非常に多いです。選挙結果を見ると、マオイストは第一党ではあるが過半数は取れませんでした。マオイスト以外の政党に投票された票を全部足せば、マオイストの得票数より多くなります。マオイストはこのことをよく理解する必要があります。マオイストは小さな政党の意見、つまり少数派の意見を大事にしていく必要があると思います。

プロフィール:
バララム・シュレスタ (Balaram Shrestha)
1972年ネパール生まれ。インターナショナル・ロー・ソサエティ・フォーラム (International Law Society Forum, Kathumandu) 所属の弁護士。1995年ネパール・ロー・カレッジ卒。1996年弁護士資格取得。1997年ネパール国立トリブバン大学大学院修士課程修了、修士(政治科学)。2003年に来日し、現在、在日ネパール人協会中国地方代表を務める。山口県在住。