キューバを訪ねて(3)「ペソと兌換ペソ」

中西 治

2008年2月27日(水)午後にハバナ大学経済研究センター(La Universidad de La Habana Centro de Estudios de la Economia Cubana = CEEC)を訪問しました。昨2007年にも私たちの研究所の第一次訪問団が訪ねています。ハバナ大学は1728年に創立され、今年、創立280年を迎えるラテンアメリカの名門大学の一つです。経済研究センターは1989年に設立されています。

元センター長のコルドビ(Dr. C.Juan Triana Cordovi)教授は私たちの質問にも答えながら、キューバ経済について次のよ うに語りました。

1991年12月のソヴェトの崩壊は私たちに自分の頭で考える機会を与えました。ソヴェトの改革は頭を使わない改革であり、歴史を否定し、システムを破壊しました。中国は歴史を肯定し、権力システムを維持しながら、改革・近代化を進めています。キューバでは14年前から変革の時期が始まり、 2007年の経済成長は7.25%、この3年間の平均成長率は9.3%です。

現在の主要な貿易相手国はベネズエラ、中国、カナダ、スペイン、オランダなどです。ベネズエラとの貿易は主として石油です。キューバの石油消費の 3分の2は輸入、3分の1はキューバ産です。キューバはかつてソヴェトに砂糖を国際価格以上で買ってもらい、その金で石油を国際価格で購入していました。日本との経済関係は債務問題が未処理のため低迷しています。米国の経済封鎖は国民の生活にとってそれほど大きな影響はありません。

2月28日(木)午前にハバナ市内の有機栽培農園を見学しました。第二次大戦後、日本でも焼け跡を耕して家庭菜園を作りましたが、それを数十軒分ほどまとめたような規模です。農園長は元陸軍大佐、売店に1人、農場に4-5人の人が働いていました。野菜くずや枯れ葉などを埋めて堆肥を作っている大きな畝が3列ほどありました。堆肥は少し離れたところでも作っているそうです。人参や葉物の野菜を作って、売っています。

キューバ人はもともと葉物の野菜はあまり食べなかったようです。ソヴェト崩壊後の生活難のときに生きるために菜園づくりを始めました。それがいまではキューバ人も葉物の野菜を食べるようになり、有機栽培農園が企業としてやっていけるようになりました。働いている人の賃金は月収1200ペソ(およそ60兌換ペソ、日本円で7200円くらい)です。キューバ人労働者としては高給です。

キューバ人はあまり働かず、農業のような厳しい肉体労働には従事したくないようです。多くの人は、とくに若い人は観光業や通訳のような知的労働を望み、農園は高給を出さないと労働力が確保できないのです。ここでは従業員はアジア人的に働いていると農園長は笑って話していました。農園長も収入は軍人時代よりは良いと言っていました。作物の種類は従業員と話し合って決めるのかと尋ねると、農園長は「私は会議嫌いで通っている。私が一人で決める。みんなで決めるようなやり方だと私はこの仕事を辞める。」と言っていました。なるほど、元将校です。

人気のある観光業や通訳の月給は400ペソ(およそ20兌換ペソ、日本円で2400円くらい)です。それでも生活ができるのは、パン、米、豆類、オリーブ・オイル、バター、砂糖、石けん、コーヒー、紙巻きたばこ、マッチ、練り歯磨きなどの主食と生活必需品が低価格の配給で入手できるからです。それに医療費と大学までの学費は無料です。キューバは社会主義国です。そこへグローバリゼーションの大波が押し寄せています。

一般に、先進国は物価の安い途上国で品物を買い、物価の高い先進国で売って利益を得ます。途上国の労働者は低賃金ではあるが、仕事を確保します。先進国の労働者は安い商品を買って、生活を利便にします。ついで、先進国の資本が途上国に進出し、現地で賃金の安い労働者を使って生産を始めます。先進国の労働者も途上国に行き、先進国の賃金で現地の労働者よりも豊かな生活をします。現地の労働者は新たな職を得ます。

先進国の資本や人とともに高い価格の商品が途上国に流入します。ソヴェトや中国などの社会主義国は、外貨の流出を防ぎ、かつ、外貨を増やすために、また、外国品の高い価格が自国の物価に直接影響を及ぼさないようにするため、外国人しか買えない店や外貨でしか買えない店を作ったり、兌換人民元などの制度を導入しました。外国人や外貨を持っている人だけしか外国製品や質の高い自国の製品を買えないので、現地の住民の多くはこの制度に不満を持ちました。一部の人は外貨の獲得に走りました。物価は徐々に上昇しました。

ソヴェト体制の崩壊後、ロシアのエリツィン政権は1992年に「ショック療法」を実施し、物資の流通を市場に任せました。物価は1年間に25倍にはね上がりました。物価に比例して賃金や年金も上がれば良いのですが、そうならなかったので、民衆の不満が噴出しました。エリツィンはこの不満を代弁する議会を武力で解散させました。物価が高くなったので二重価格制の意味はなくなりました。

世界経済の市場化は、発展途上国の安い物価を先進国の高い物価に合わせて上げさせます。経済のグローバリゼーションは、先進国と発展途上国で時流にうまく乗れる人を大変豊かにし、時流に乗れない人を大変貧しくして社会を二極化します。中間の多くの人々の労働条件と生活条件は悪化します。途上国の低賃金労働が先進国の労働者の足を引っ張るのです。正規労働者が減り、不正規労働者が増えます。グローバリゼーションは、途上国の物価を高いところへ、先進国の賃金を低いところへと引き寄せます。

現在のキューバでは観光業などで外国との合弁企業が活動しています。キューバの労働者の賃金は、120円=1兌換ペソ=20ペソ、1ペソ=6円、として、400ペソ(2400円)から1200ペソ(7200円)、といったところです。外国との格差が大きいので、ペソと兌換ペソの二重通貨制を採っています。ロシアと中国の経験に学びながら、これをどのようにして一本化するのか、キューバ指導者の腕の見せどころです。

(続く)