栗原優『現代世界の戦争と平和』について

中西 治

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私たちの研究所の仲間である栗原優さんが新著『現代世界の戦争と平和』(ミネルヴァ書房、2007年6月20日)を上梓されました。この本は栗原さんのこれまでの膨大なドイツ現代史にかんする研究を簡潔に集大成し、かつ、戦争と平和についての新たな分野を開拓した、読みやすく、分かりやすい力作です。そこで今日はこの本を紹介します。

栗原さんのこの本は1945年の第二次大戦の終結後60年以上にわたって続いてきた日本の平和とは何だったのだろうかという問題から出発しています。このことについては二つの立場があります。一つは平和憲法の存在を重視する立場であり、もう一つはアメリカが守ってくれたからだという立場です。栗原さんは前者の立場に立ち、後者の考えを論破するために本書は書かれています。

栗原さんはまず第二次大戦後の世界の戦争と平和の実態を分析し、欧米の先進諸国がことごとく平和であったのに対して、世界の後進地域では戦争につぐ戦争であったという事実を明らかにします。そして、この第二次大戦後の「先進国の平和」のもとを辿り、1871年に行き着きます。

この年の1月28日にプロイセンがフランスを破ってパリを占領し、同じ日にヴィルヘルム1世がヴェルサイユ宮殿鏡の間で戴冠式を挙行し、ドイツ帝国が発足しました。欧米先進国の世界がほぼ完成し、本格的な植民地獲得競争が始まりました。「帝国主義時代の開幕」です。

一般にはこのときから帝国主義戦争の時代が始まり、その延長線上に20世紀の第一次世界大戦と第二次世界大戦があるとされています。栗原さんはそのようには考えません。栗原さんはこのときから「先進国の平和」の時代が始まったと主張しています。

栗原さんは、この「先進国の平和」は二度の世界戦争で中断されつつも、これを貫いて第二次世界大戦後の世界に連続していると考えるのです。なぜか。それは1871年以降、先進国間では戦争が起こる原因が消滅しつつあるからです。そこで疑問が生じます。それでは二度の世界大戦はなぜ起こり、どのような性格の戦争であったのでしょうか。

栗原さんは二つの世界大戦をドイツが意図的に引き起こしたとする通説は誤っていると主張し、二つの戦争はともにドイツが後進地域に対する「安全な戦争」として開始したが、それが計画通りに行かなくて、世界大戦に発展してしまったのであると説明しています。ついでながら、栗原さんが「管理された世界戦争」と名付けているベトナム戦争はアメリカが対象をベトナムに限定することに成功した戦争であるということになります。

そこで栗原さんは戦後日本の平和が維持されたのはなぜかという本書の出発点にもどります。栗原さんは戦後の先進世界はもはや常に食うか食われるかのホッブス的な世界ではないことを指摘し、戦後日本の平和は「先進国の平和」の一環であり、「現実主義者」が言うように、アメリカが守ってくれたからではないと主張します。平和憲法はこの事実を理想主義の言葉によって先取りしたものであるということになります。

栗原さんの新著は論争的で論理きわめて明解です。二つの大戦の起源について吟味された多くの知識を与えてくれます。私はこの本から強烈な知的刺激をうけました。二つの大戦については大いなる論議を呼ぶでしょうが、私はこのような新しい観点と問題を大胆に提起する著作こそいま求められていると考えています。本書を読んで改めて多くの外国語を習得する必要を痛感しています。

栗原優さん、新著刊行、おめでとうございます。