エッセイ 60 識字運動の意味

木村 英亮

人間は言葉で考える。そのさい書きながら考えをまとめる。無文字社会では別の手段があるかも知れないが、われわれの社会では、字を読んだり書いたりできないと思考が限定される。

ソ連の解体によって独立した中央アジアのウズベキスタンでは、ロシア革命前は大部分の人が読み書きできなかった。ソヴェト政権の下で民族調査にもとづいて境界区分がおこなわれ、初めてウズベク共和国が形成されたばかりでなく、ウズベク語の文字もつくられた。このような準備の下に、1920 年代後半、土地改革、女性解放運動と同時に識字運動が行われた。識字運動は、社会を根本的に変える力をもっている。ソヴェト時代、このようにして多くの民族や国家が形成された。

カリブ海の人口1130万人(2004)の国キューバでは、1959年1月古い独裁体制が倒され、カストロの政権が樹立され、1961 年1月社会主義が宣言された。この年は「教育の年」 と名付けられ、大規模な識字運動が行われた。4人に1人は読み書きできなかったが、年末にそれは3.9%に急減した(ヒューバーマン他『キューバの社会主 義』、岩波新書、1969,16ページ)。この運動に従事した教員は約27万人でうち12万人は本業以外に1日平均2時間づつ活動に携わった成人で、子ど もたちも訓練を受けた後、休暇に農村に送られ、農作業をてつだいながら読み書きを教えた

ソ連でもキューバでもこのように徹底的な識字運動がおこなわれたが、これは人間解放の条件であり、民族独立の出発点であった。いまパソコンがコミュニケーションの不可欠の手段となっているが、これはどのように考えればいいのであろうか。