二酔人四方山問答(1)

岩木 秀樹

学生時代同級生だったA君とB君は考え方やバックボーンもどこか違うが、何故か気が合い、今日もまた酒を飲みながら様々な四方山話で盛り上がっている。A君は国際問題やイスラーム情勢に詳しい大学院生で、B君は会社員である。

B:最近イラク情勢の記事は一時期のことを思えば、あまり目に付かなくなったね。だいぶ安定してきているのかな。

A:そんなことないよ。むしろ治安は悪化している。4月末にイラク移行政府が発足し、シーア派とクルド人が実権を握ったことから、旧政権で実力を持っていたスンニ派の中の過激なグループや外国人勢力の活動が活発化している。移行政府発足後の死者は5月末で米兵49人を含めた610人にのぼるとされているよ。

B:へーそんなに!

A:その上、イラク人の死者数はきちんとカウントされてないんだ。5月29日には移行政府は国軍4万人を動員してバグダードを包囲し、武装勢力を掃討する「バルク(稲妻)作戦」を開始した。それに対して首都周辺地域では武装勢力による自爆攻撃などが後を絶たず毎日のように多くの死者が出ているよ。

B:そういえば、ほら日本人で警備会社に勤めている人がイラクで拘束された事件はどうなったんだろう。はっきりしたことはわからないけど、絶望的だと報道されていたよ。今回は以前ボランティアで行った人たちと違って、自己責任論はあまり聞こえなかったようだけど。最初からあきらめムードだったからかなー。

A:それもあるかもしれないけれど、自衛隊出身者でアメリカ軍を支援する警備会社、いや民間軍事会社や戦争請負会社と言った方がいいかもしれないけれど、そのような背景があるからあまり政府も非難できなかったのかもしれない。

B:今回初めて知ったよ、そんな会社があるなんて。新聞には、今世紀に入って急に民間軍事会社が増え、現在100社近くあり、報酬も要人警護をすると1人1日20万円もらえると書いてあった。正規軍に所属する人がどんどんこちらに転職するわけだ。

A:しかも米軍にとっても都合がいいんだ。米軍兵士が亡くなると内外から強い反発を受けるし、大儀の無くなった戦争に米兵の士気は落ち、治安の悪化から米兵は疑心暗鬼になり全てが敵に見え、多くの民間人を殺害している。このような状況に民間軍事会社は渡りに船というわけだ。

B:正規軍の死傷者が多くなり、傭兵に頼り、さらに民間に委託する。最近、戦争の民営化とか戦争の外注化などと言われているね。民間軍事会社にとって、現在のイラクは魅力的な市場で、治安が悪化すればするほど、自社を高く売りつけられるという構図があるらしい。

A:そうだね。イラクの復興事業費は米国だけで2兆円近くで、このうちの20%前後が警備費に回されている。民間軍事会社は巨額の事業の受注を今か今かと待っている。さらに政治家もこれらの企業の顧問などをして、治安の悪化を金儲けの道具にしている。

B:それって、戦争商人じゃないの!

A:そうだよ。戦争の継続、治安の悪化を望む会社や政治家がいるのは確かだ。それが新たな戦争原因になり、戦争形態を変えているのも事実なんだ。