二酔人四方山問答(2)

岩木 秀樹

B:この前会社の飲み会で、研修に来ているイスラム教徒のムハンマド君がしきりに嘆いていたんだ。

A:何だって。

B:かなり酔っていたせいもあると思うんだけど、俺たちイスラム教徒はいじめられている、虐殺され続けているって。

A:わかるような気がするよ。

B:軍事や政治もさることながら、文化面でもイスラムへの偏見や憎悪が見られ、それが増幅されて再生産されているって言っていた。特にアメリカのハリウッド映画、イスラム教徒やアラブ人が頻繁にテロリストとして登場しているらしい。

A:そうだね。冷戦期は「ランボー」などロシア人が悪者として描かれ、日本がバブルでニューヨークの土地を買いあさっていた時代は日本人が成金的な 滑稽な存在として「ダイハード」などで描かれたりしていた。冷戦崩壊後は「トゥルーライズ」などでイスラム教徒がテロリストとして登場している。

B:僕も見たけど「トゥルーライズ」はひどかったな。核兵器をアラブ人らしきイスラム教徒が奪い、核兵器に対して宗教的な祈りの言葉を言っていた。 あれは普通のイスラム教徒が見ても激怒すると思うよ。よく外交問題に発展しなかったよな。さらに核兵器が爆発するシーンでは、その閃光をバックにロマン ティックにキスをするヒーローとヒロイン、 あれは日本人には理解できない。アメリカ人は核兵器の恐ろしさを本当は知らないんじゃないかな。

A:そうだね。アメリカ人全員がそうではないけど、敵だと思えばかなり単純化して戯画化する。アメリカ映画はアメリカ人の意識や世相をよりプリミ ティブな形で映す鏡なんだ。 自己の他者イメージをより感情に訴えるために、単純化して投影している。文化や社会の側面でもそうだから、軍事や政治ではさらに問題は深刻だ。そのアメリ カの軍事政策に反対を唱えながらも、多くの国はどこか腰が引けている。もちろんアメリカ一極集中に追随せざるを得ないという側面もあるが、それだけではな い。

B:そうそう、飲み会の席でもムハンマド君が色々な国でイスラム教徒が抑圧を受けていると言っていた。アメリカの対イスラム政策を暗黙のうちに認め、イスラムは危険だとして、自国の少数民であるイスラム教徒に対する抑圧の口実に使っているらしい。

A:ロシアにはチェチェン人らが、中国にはウィグル人が、インドにもイスラム教徒がいる。アメリカやヨーロッパにも多くのイスラム教徒の移民がい る。彼らに対して、イスラム教徒は凶暴でいつテロをするかわからないから、自由を奪え、拘束しろ、場合によっては殺してしまえということもあるらしい。

B:そうか、どの大国も「イスラム問題」を抱えていて、彼らの機会均等、自治や独立の要求を押さえつけるために、イスラム=テロというレッテルを貼っているんだ。

A:そう。そして実際は「イスラム問題」ではなく、「自国問題」なんだ。つまり、当該国の寛容性や平等性、格差是正の問題自身が問われている。問題を沈静化させるには、イスラム教徒をいなくさせたり見えなくさせるのではなく、そのような「自国問題」を解決することだ。