平和構築と深層文化

宮川 真一

今日コラムを担当させていただきます、宮川真一と申します。創価大学通信教育部で非常勤講師を務めております。担当科目の一つに「平和・環境コース」の「異文化理解」があります。そこでお話していることなどを今後ご紹介させていただければと思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。

<平和構築と深層文化>

世界で起こっている紛争や対立を解決に導くには、対立しあう国や地域の文化の違いに注目することが大切だ。それぞれの国や地域は、長い歴史と風土の中で 特有の文化、ものの考え方を持っている。ふだんは表に出ないけれど、何か一大事が起きるとそれが表面化するのだ。いつもは人々の心の中に眠っている文化、 これが「深層文化」と呼ばれる。このように、ヨハン・ガルトゥング博士は平和構築における深層文化に注意を喚起する。

まず、深層文化とは何か。私たちの意識の中に潜在的に存在しているもので、すらすらと言葉で表現できるものではない。ただ、ある一定の人々が集まって物 事を決める際や行動を起こす際に、色濃く浮かび上がってくる。このことから、深層文化とは、個人個人独自のものではなく、ある集団のなかに存在する共通の 潜在意識といえる。そこで、深層文化は「集団的レベルにおける潜在意識」と定義される。

ガルトゥング博士の著作『平和を創る発想術:紛争から和解へ』< 岩波ブックレットNo.603>岩波書店、2003年、では、具体的にいくつかの国の深層文化が取り上げられている。

まずロシアをあえて3つの単語で示すと、「二元論的で、垂直的で、悲観的」であるという。二元論的とは、社会主義でなければ自由主義というふうに、物事 をAでなければBであると考える傾向があるという意味で、垂直的とは、物事の決定が上から下に下ろされるという社会構造だということを指し、悲観的とは、 将来はお先真っ暗というふうに考えがちであるということだ。

ではアメリカの深層文化を同じように3つの言葉で表すとどうなるか。著者によれば「二元論的で、水平的で、楽観的」である。ロシアと比べてみると、二元 論的であるところは同じといえる。しかし、ひとつの物事に対して、それぞれみんなで協力して結果を出そうとする傾向があり、社会の構造が水平的である点、 将来について基本的に楽観的、やればできるという考え方が強いという点において違っているわけだ。

中国の人々は「陰陽道的、垂直的、実務的」な発想をすると博士は述べる。陰陽道的とは、二元論的なものの捉え方と対比されるもので、陰の中にも陽があ り、陽の中にも陰があり、両方合わせて意味があるというふうに、物事を表面的に見て判断してしまうのではなく、もっと複雑な捉え方をするということだ。次 に、垂直的だという背景には、儒教の影響が大きく、年齢が高いもの、学識に優れているものが社会の上層部を支配する構造があることを示している。また、実 務的であるということは、物事の状況が悪化してきても、その中から良い条件を拾い、状況を改善することができると考える姿勢だ。

こうした他者の深層文化を理解するには、まず自分の深層文化を知っていないと、相手のこともわからないという落とし穴もある。私たち日本の深層文化とい うものは、陰陽道的な傾向が強く、非常に垂直的で、そして実務的という特徴があるとされる。中国に近い。日本の深層文化の特徴をより詳細にまとめると、次 の6つのものが考えられるという。(1)自然観、自然哲学(自然の移り変わりを重視し、この世の出来事のすべてには、良い状態の時も、悪い状態の時もある という見方。「成り行き任せ」ともいえる)。(2)垂直的な構造(下に向かっては横柄な態度をとるが、上に向かっては、こびへつらう。個人レベルだけでな く、国家として世界に対する態度も同様)。(3)集団性(孤立をおそれる)。(4)撤退の選択(困難に立ち向かうよりも、引き下がる、身を引く)。(5) 妥協(徹底的に自己主張するよりも、適当に手を打つ)。(6)調和主義(全体の調和を優先する。実際の問題に触れずに、態度と行動を重視する)。

21世紀における平和構築のために、これからは平和研究や地域研究でも深層文化に目を向けることが求められているであろう。私は、中国と日本の深層文化が類似したものであることに励まされる思いがした。