二酔人四方山問答(4)

岩木 秀樹

B:イスラーム教徒が、アメリカの対中東政策を否定的に見る理由が少しわかったよ。それにしても「イスラエル・パレスチナ問題」がアメリカ敵視への大きな要因になっているとは。

A:実はアメリカとイスラエルは、国家の誕生に関してどちらも似通った点をもっているんだ。それはどちらも先住民を排除した移住植民国家という点だ。

B:そう言われてみればそうだ。

A:まあ多くの国で先住民を排除した例はあるし、日本だって似たり寄ったりだけど。

B:でもユダヤ人がナチスによって虐殺されるなど、多くの悲惨な歴史をもっていて、自分たちの国家を作りたかったということを歴史で習った。

A:それは一面合っているけれど、自分たちのやられたことを今度は他者に向けてやっているという人がいるのも事実だ。

B:そーか、なるほど。なんか「ユダヤ問題」って大変だなー。

A:実は、「ユダヤ問題」は「ヨーロッパ問題」なんだ。中東イスラームにおいては、過去も現在もヨーロッパほどユダヤ差別は存在しなかった。そのヨーロッパにおける「ユダヤ問題」を中東に移植したのが、現在の「イスラエル・パレスチナ問題」だ。

B:そうそう、前から気になっていたんだけど、君はマスメディアで言われている「パレスチナ問題」という言葉を使わずに、「イスラエル・パレスチナ問題」というややこしい名前を使っているけれど、何でなの。

A:簡単に言えば、パレスチナが問題ではないから。むしろイスラエルの存在やその政策の方がより問題であると考えているので、イスラエルを先におい て、「イスラエル・パレスチナ問題」としたんだ。研究する上では当該の問題をどう名付けるかって言うことは非常に重要なんだ。その問題の性格を概念規定す るのは、研究する者として死活問題だと教えられた。

B:大変だねー。そんな細かいことまで気にするんだ。僕なんかみんなが言っていることをすぐ鵜呑みにするけど。

A:やはり言葉は正確に使わなければいけないと思う。不正確さが時には差別やステレオタイプから発していることもあるよ。例えば今回の「ユダヤ問題」に限ってもいくつかある。まず「ユダヤ人」という言い方は不正確だ。「ユダヤ教徒」といった方がいい。「ユダヤ教徒」には肌の色が異なる色々な民族が 存在するし、理念的には誰もが「ユダヤ教徒」になれる。ただキリスト教やイスラームに比べれば、「民族宗教」的要素が強いのも事実だけど。他にも、ユダヤ教徒の啓典を旧い契約である「旧約聖書」、キリスト教徒のそれを新しい契約「新約聖書」とするのも、キリスト教徒からの見方で、一種のユダヤ蔑視だ。

B:でもどの宗教も他の宗教に関しては、多かれ少なかれ蔑視感情ってあると思うけど。 ただそれが大規模な抑圧や虐殺になるのは問題だと思う。

A:そうだね。さっき、「ユダヤ問題」は「ヨーロッパ問題」だと言ったけれど、それを象徴する年が1492年だ。

B:コロンブスがアメリカに到達した年でしょ。

A:そう。同時にイベリア半島からイスラーム教徒が追い出された年、つまりレコンキスタ(国土回復)が完成した年でもあるんだ。ちなみにレコンキスタという名もヨーロッパ的な言い方で、未来の歴史家によって名前が変わるかもしれないよ。

B:何でそれが重要な年なの。

A:レコンキスタによってイスラーム教徒は追い出されたけれど、ユダヤ人もヨーロッパからオスマン帝国などに逃れてきたんだ。なぜか。ヨーロッパにいると迫害を受けるから。 だからこの1492年という年は、「アメリカの発見」という外なる植民地主義の始まりを告げる年でもあり、「イスラーム教徒・ユダヤ教徒排除」という内なるヨーロッパ化の始まりを告げる年でもあったんだ。