「7・7」英国同時多発テロ事件

宮川 真一

7月7日、ロンドン中心部で、複数の地下鉄車両やバスでほぼ同時に爆発が起きた。警察当局は少なくとも33人が死亡、重傷45人、その他負傷者がおよそ300人と発表している。

テロリズムは、単なる暴力や殺人とは異なる。第1に、暴力の行使が社会的恐怖と結びつく点にその本質がある。暴力がメッセージ性を帯びてさらなる暴力を予期させつつ、人々を戦慄させ麻痺させて影響を及ぼそうとする。第2に、個人的で偶発的な暴力ではなく、政治的・社会的背景をもつ、組織性と計画性を伴った系統的暴力の発動となる。第3にテロリズムは暴力と恐怖という手段を発動してまで達成したい何らかの目的をもっているのである。テロリズムとは「組織的暴力による恐怖を強制の手段として用いようとする思想や行動」と定義できる。

現代世界を覆うテロリズムの根本原因として坂本義和氏は、貧困という要因をも含む社会の抑圧構造と、それに対応する被抑圧意識をあげている。今日の世界のこうした抑圧構造には、次の3つの側面があるという。第1に、米国を頂点とする超大国や大国のグローバルな政治的・軍事的優越や、グローバル・キャピタルの経済的優越に結びついたグローバルな格差・抑圧構造。第2に、それと連繋した、とくに途上国での国内的格差・抑圧構造。第3に、そうした二重の格差・抑圧から脱しようと国境をこえて相対的「先進国」に大量に移動する人々が随所に当面するトランスナショナルな格差・抑圧構造である。

マジッド・テヘラニアン氏は、多様なテロリズムを次のように分類する。第1に、多くの民族解放運動における反体制集団によって実行されるような「抵抗テロリズム」である。この例としては、アメリカの軍事プレゼンスに対するテロ、イスラエル市民に対するパレスチナの暴力行為などがあげられる。第2に、「表示テロリズム」は世界に衝撃を与えて特定の政治的不満と課題を認めさせようとするものである。「9・11」米国同時多発テロ、モスクワ劇場占拠事件はこれに含まれよう。第3に、宗教的信条に動機づけされた「救世主テロリズム」である。1993年テキサス州でのブランチ・デビディアン事件、1995年東京での地下鉄サリン事件などがこれに該当しよう。第4に、「国家テロリズム」はあるレジームによってそれ自身における無辜の市民や「敵」に対して日常的に行使される。イラクのクルド人に対する化学攻撃、イスラエルのレバノンとヨルダン川西岸地区における軍事報復などが良く知られた事例である。

今回のテロ事件は、G8サミットが開催されたその日、その国を選んで実行された。前日には、2012年のオリンピック開催都市にロンドンが選ばれ、国中が沸き立っていた。この都市は五輪招致活動に60億円を費やしたという。「7・7」は、「イラクとアフガニスタンでの虐殺に対する報復」 との犯行声明からすれば「抵抗テロリズム」であろう。しかし、そこには、国際社会の格差・抑圧構造に目を向けよ、とのメッセージも読み取ることができる。 「表示テロリズム」の側面を併せ持っている。「9・11」からはや4年の歳月が経とうとしているが、国際社会はあの惨劇の教訓から何も学んではいないのかもしれない。