憂鬱な食生活

ねこくま

仕事の打ち合わせをしていたら、気の利いたフレンチ・レストランに行きたいねえという話になった。でも予約を入れておかないとランチにはステーキが出るよと言うと、まだ若いのに口の肥えているこの友人は「えー、ビーフですか? それはがっかりですねえ」と返してきた。フレンチで牛は憂しである。そう言えば最近こういう食に関わる機転の利いた会話ができなくなった。このレストランも昔はステーキなど出さなかったのだが、客単価が落ちて自然と「普通のメニュー」が出てくるようになった。そう言えば最近都内の研究者の集まりの後の居酒屋でも食べるものがなくなった。乾いた上に薬くさいお作り、異様に油が重い揚げ物、果ては妙に悪酔いする生ビールのジョッキ。最近は自分だけは瓶ビールをお願いしている。食生活が貧しくなった。

学生達の食生活はもっと悲惨だ。生協で買った冷凍のピラフを電子レンジで解凍して、袋のまま立ったままで食べる。食堂は高くて量が少ないと言う。パンだってプラスティックくさい大メーカーのこれまたプラスティック・バック入りのパンだ。うどんやそばは一食分ずつビニールパックしたものを茹で直して出してくる。それでもけして安くはない。

その上わが大学は最近一日に5校時を詰め込んだために昼休みの時間が足りない。ゆっくり食事をしている暇が無い。私なども何とか米だけでも弁当を持参する。味もともかく実質30分の講義の合間の昼休みに食堂に行っている暇など無い。

大学生の酒生活も酷いものだ。彼らと飲み会に行くと、まず飲み放題のプランを予約してくる。割り勘の計算が簡単だからと言うが、彼らが好むのは甘くて、冷たくて、工業アルコールいりの色水である。世間ではあれをカクテルと称しているらしいが・・・。ワインもあるがこれもワインとは名ばかりのキンキンに冷えていないと飲めない工業製品がほとんどだ。

八王子に私がワインのイロハを教えてもらった酒屋さんがある。ここの社長はよくサント・・のウィスキーは、輸入モルトを有機芳香化合物と着色用のキャラメルと工業アルコール薄めた偽物だと言っていた。彼はそれが嫌で、この大会社を辞めて、ウィスキーのモルトを初めとするお酒の輸入・販売を自分で始めてしまった。

学生達が喜んで飲む「色水」には酒と呼ぶための根拠であったモルトでさえ入っていない。

ご多分にもれず私の身の回りでも鬱病の話を良く耳にするようになった。世の中の流行通りに大学でも鬱病が増加傾向にあるのかもしれない。その原因がビタミンや稀少ミネラルの不足、不規則な食生活にあるという説がある。彼らの食生活を見ていると食生活の乱れが鬱病を生み出しているという説明は、結構正鵠を射ているのではないかと思えてくる。

何とかしなければならないとは思う。で、講義の合間に、コーラが骨を溶かすとか、ジュースは糖尿病まっしぐらとか、シャンプー・リンスは○○の陰謀とか、おもしろ可笑しく語り続けている。春合宿では有機農法の米と野菜、国産小麦と天然酵母でパンを焼くペンションを数年使い続けている。自然の本物の味は美味しいでしょう。まあこのペンションは、一日中勉強会のために食堂を開放してくれたり、無線LANの提供からプロジェクター、PCの持ち込みまで、勉強するゼミナールのわがままを聞いてくれるという理由もあるのだが。

食は重要な文化という前に、すでに自分の健康を守る前提として食の安全性、食文化の見直しが必要な段階に入っているようだ。年に数回チキンラーメンを食べたくなる発作は起こるものの、単に安全な食べ物というだけでなく、酒も含めて食の文化を大切にして行きたいものだ。