二酔人四方山問答(10)

岩木 秀樹

A:最近、学部生からイスラーム関連の色々な質問が寄せられるんだ。こんなご時世だからイスラームを知らないと国際関係がよく理解できなくなってきているようだ。ただテロや戦争によって、イスラームが注目されるのは複雑な気分だけど。

B:そうだよね。良くも悪くも「イスラーム問題」をめぐって、国際政治は動いていると言っても過言ではないよね。

A:ちょっと待った。「イスラーム問題」って何を指すの。イスラームが問題だから現在のような状況になったの。宗教や民族の相違がただちに紛争とい う形態にはならないことは、歴史が証明してくれてるよ。過去においても現在でも中東地域は、宗教や民族がモザイク状況だったけれど、以前は紛争はそれほど 起こらず、現在は多発している。つまりモザイク状況が直接の原因ではなく、他の何らかの条件が紛争の媒介項となっているんだ。

B:わかった。わかった。「イスラーム問題」という言葉は訂正するよ。言葉の使い方には注意します。ところで、学生からの質問はどんなものがあるの。

A:一番多いのが、なぜイスラーム教徒はこんなに過激なのかということだ。

B:確かに素朴な質問としてはあり得るね。でも僕は今まで君から色々話を聞いていて、イスラームは過激どころかキリスト教徒よりも寛容な気がするよ。

A:そうだね。そのことは今まで話してきたとおりだ。そうそう、以前に日本のカトリックの相当な地位の人が、「キリスト教は今まで悪行の数々をやっ てきた」というのを聞いたことがある。その通りだと思い、それに比べればイスラームの方が比較的寛容だったと思う。それとともに、カトリックの偉い人が、 自分の宗教のことを客観的に反省し、謝罪する態度は立派だと思った。

B:自宗教や自集団、さらに自分のことを客観的に批判の俎上に載せることは、身を切られる思いをするし、その組織からは当然アウトロー扱いを受けるよね。

A:もしかしたら、キリスト教が世界宗教たりえたのは、このような批判もある程度許すような懐の深さが影響しているのかもしれない。

B:ところで、他にどんな質問があったの。

A:今の質問に関連して、なぜ一部のイスラーム教徒がこのような過激な攻撃をするのか。同じ宗教をしているのに、普通の善良な人と過激な行動を起こす人が出てくるのはなぜかという質問だ。

B:難しい質問だね。

A:そうでもないよ。当然といえば当然の問題だ。10億人を超える大教団だから、色々な人が出てくることは当たり前だ。ちなみに21世紀の中盤に は、イスラーム教徒が世界で一番多数の教団になるらしい。イスラーム地域は出生率が高い地域とかなり重なっていることも影響しているようだ。

B:へーそうなんだ。

A:様々な人が出てくる理由として、個々の人間の個性やそれぞれの民族や国家などの歴史的経験の相違も考慮に入れなくてはならない。またこれはどの 宗教にも言えるかもしれないけれど、宗教の教典にはそれほど細かいことは書かれていないので、それに対する解釈が異なってくることも考えられる。もちろん 最近の過激派の台頭要因としては、アメリカの介入問題やダブルスタンダードなどが挙げられるけれど。

B:どの宗教もそれほど一枚岩でないということなのかな。

A:イスラームもよく一枚岩のように言われるけれど、ラマダンをやらない人もいるし、酒を飲む人もかなりいるし、これがイスラームかと思うくらい世 界各地で独自なイスラームが存在する。一枚岩どころか、各地域の多様な文化、習俗を受け入れたから、イスラームが広まったと言える。これが世界宗教になる 一つの要素だと思う。

B:そうか。でもイスラームのイスラームたる由縁って何なの。多様性のみでは拡散して行くばかりだ。イスラームの最大公約数は何。

A:それは一言で言うと、「アラーの他に神なし、ムハンマドは神の使徒なり」だ。これをはずすとイスラームではなくなる。これがイスラームの共通項だ。

B:なるほど。多様性を認めながらの統一性とでも言えるのかな。