「戦後未処理問題」について

今井 康英

今回は、「戦後未処理問題」について述べます。

小泉首相の靖国神社参拝が違憲か合憲かは、つまるところ、裁判官に良心があるかないかによって、判断が分かれました。10月5日のコラムに、そのようなことを書いておきましたが、昨日の東京地裁での二つの判決も、このことを示しています。

ANN(朝日テレビ系、10月25日)によると、日本の植民地時代に台湾と韓国につくられたハンセン病療養所の元患者らが日本政府に補償を 求めていた裁判で、東京地裁は、台湾の元患者らには補償を命じる判決を言い渡しましたが、韓国の元患者らには認めませんでした。訴えていたのは、植民地時 代に韓国のソロクト更生園と台湾の台湾楽生院に強制的に隔離された現地のハンセン病の元患者ら合わせて142人です。2001年に施行されたハンセン病補 償法では、国内の療養所に入所した経験があるすべての人が補償を受けられるとしています。しかし、日本政府は、韓国と台湾の元患者らには「国外の療養所は 補償の対象外だ」として、支払いの申請を却下したため、元患者らが提訴していました。台湾の元患者らへの判決で、菅野博之裁判長は「補償法には、国籍や居 住地による制限はなく、戦前の台湾に設置された療養所を除くのは合理的でない」として、違法とする判決を言い渡しました。一方、韓国の元患者らへの判決 で、鶴岡稔彦裁判長は「補償法を審議する際には、国外の療養所が対象になるという前提がなかった」として、原告敗訴の判決を言い渡しました。

南日本新聞(同日)によると、韓国訴訟の原告は控訴する。鹿児島から駆けつけた40人を超す元患者や支援者らは「不当判決」に怒りをあら わにした。鹿屋市の星塚敬愛園で暮らす義久勝さん(63)は思わぬ韓国側の敗訴に声を震わせ、 「当時は民族蔑視(べっし)も重なり、人権被害は国内の療養所以上。植民地政策を謙虚に反省せぬ無責任な判決」と指摘。「本当に悔しいと思う」と原告を思 いやり、「人間回復へ一緒に闘い続けたい」と話した。名瀬市の奄美和光園で父親を亡くし、ハンセン病遺族・家族の全国組織代表を務める赤塚興一さん (67)=同市=は「両国の入所者は私たちの同胞で家族同然。この問題は2001年、勝訴した国賠訴訟の延長線上にあるはず。話にならない判決」と切り捨 てた。支援団体「ハンセン病問題市民会議かごしま」の寺本是精事務局長は、「同様の被害を受けながら、裁判長の解釈で人生が左右された。高齢の原告を思う と許せない」と声を荒らげた。

なぜ、同じ裁判所にもかかわらず、このように判断が分かれたのか。毎日新聞(同日、江刺正嘉)によると、隔離政策に基づく被害を救済する という補償法の「趣旨」をどうとらえるかで、真っ向から判断が分かれた。隔離政策に植民地政策も加わり、両施設で本土を上回る人権侵害の被害があったのは 明らかで、台湾訴訟の判決はその被害実態を直視したと言える。一方、韓国訴訟では、法の審議過程で国外施設を認識していなかったことを理由に、補償対象と なる施設の範囲を限定した。台湾訴訟の判決が、法の平等原則を重視し「厚労省告示を限定解釈するのは合理的ではない」と判断したのに対し、韓国訴訟は、厚 労省告示にない以上は補償対象とはならない、という立場を取った。そもそも二つの施設を厚労省告示に明記しなかったのは、政府が韓国や台湾だけでなく、旧 満州や東南アジアなど、戦前統治下にあった地域の施設の入所者から際限なく補償請求が出されることを恐れたためだ。第三者機関「ハンセン病問題に関する検 証会議」が今年3月にまとめた報告書によると、 戦前の韓国や台湾の施設では、職員による暴力など、本土にない人権侵害が繰り返されている。国は「法解釈が争点」として、この被害実態について最後まで認 否を避けた。韓国、台湾は60年代に強制隔離政策が廃止されたものの、戦前の日本の政策が原因で地域社会に病気への偏見が根強く残っている。国は台湾訴訟 の控訴を断念したうえで、海外の元患者の人権回復にも全力を尽くすべきだ。

私も、それが当然だと思います。それにしても、この国が持つ平和憲法は、なんと有難いことか。そして、少ないながらも良心のある裁判官が いることが、これで分かります。先の大阪高裁判決といい、この度の台湾訴訟判決といい、まさに裁判官の良心の輝きを見る思いがしました。戦後未処理問題の 早期解決に向けて、これらの判決が活かされることを期待します。