米英の対イラク攻撃に反対する

岩木 秀樹

米英の対イラク攻撃は、国連憲章第7章違反である。国連憲章が認める武力行使は、①武力攻撃が発生した場合、安保理が必要な措置をとるまでの間、国家に認 められる個別的または集団的な自衛権の行使と②平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為に対する集団的措置として安保理が決定する行動の二つだけであ る。①について、自衛権の発動の要件であるイラクによる武力攻撃は発生しておらず、ましてや先制的自衛権の法原則は存在しない。②についても、安保理は決 定していない。安保理決議1441は武力行使に同意を与えたものではない。だからこそ米英は武力行使の新決議を求めていたのである。また現在の主権国家体 制では、内政干渉、国家指導者のすげ替え、国家転覆は国際法上できないのである。どのような国際法的観点から見ても、今回の英米のイラク侵略は、許される ものではない。

国連決議を履行していないと言われているイラクに対して、国連決議なしの米英による攻撃は説得力がない。「まず、イラクに非がある」との説明もある一面 しか見ていないためにするための議論である。法を犯したものに対しては何をやってもよいのか。相手に非があれば脱法行為、人殺し、侵略をしてもよいのか。 イラク侵略は、人類が営々と築いてきた非戦の誓いを破る、文明から野蛮の世界への退行である。

そもそもイラクには本当に差し迫った重大な脅威が存在するのだろうか。1998年までに大量破壊兵器の90から95%は検証可能な形で廃棄されたと元国 連兵器査察官であるスコット・リッターは指摘している。さらにリッターは、炭そ菌問題について、イラクが製造した炭そ菌は貯蔵寿命3年の液体炭そであり、 ブリクス委員長はイラクの工場から出荷された最後の炭そ菌が1991年産であることに言及していないと非難する(『世界』2003年4月号76頁)。その ブリクス委員長ですらあと数ヶ月の査察延長を要求し、次第にイラクも譲歩してきた矢先のイラク攻撃であった。

非民主的で、非人道的で、大量破壊兵器をもち、国際法を遵守していないのはイラクだけではない。なぜ今イラクなのか。最も恐れることは、米国が今後、恣意的に「新しい脅威」をでっち上げ、全世界に今回の事例を適用することである。
今回のような攻撃はテロにさらなる口実や正当性を与えてしまう危険性がある。米国及びその同盟国は新たなテロの恐怖にさらされるだろう。

9・11事件以後米国はイラクに関して、アルカイーダとの関係、テロ支援国家、大量破壊兵器廃棄、国家転覆と次々に政策をずらしていった。確たる証拠がな いのでずらさざるをえなかったのである。米国の対中東政策はあまりにも場当たり的で、長期的ビジョンにかけている。敵の敵は味方とばかり、以前はアフガニ スタンやイラクを軍事的にも大きく支援していた。湾岸戦争後ですら、イラクがクルド人やシーア派に攻撃を加えているのを米国は座視していた。フセイン体制 存続によるサウジアラビアでの米軍の長期駐留が目的であったとも言われている。

そもそも現在の不安定な中東諸国体制は、第一次大戦後に欧米によって作り出されたものである。ヨーロッパにおけるユダヤ問題を、中東に転嫁してパレスチ ナ問題が発生した。冷戦崩壊後、湾岸、旧ユーゴスラヴィア、チェチェン、パレスチナ等で戦禍が続いている。イスラム教徒には、欧米を中心とした大国によっ て虐殺をされ続けているという意識がある。現在の中東諸国の権威主義体制、石油利権、米国等の大国の三者は、共犯関係にあり、当該地域の民衆を苦しめてい る。

冷戦後のアメリカは狭隘な単独主義に陥っている。コソボでもイラクでも安保理決議なしに戦争をし、包括的核実験禁止条約、弾道弾迎撃ミサイル制限条約、 生物兵器禁止条約、国際刑事裁判所設立条約、温暖化防止に関する京都議定書等の様々な機構から米国は脱退した。国際社会を無視し、圧倒的な大量破壊兵器を 有した、選挙民の多数の支持を得ていない、つまり民主的な手続きに疑問のある米国の政権こそ重大な脅威をもった国であろう。

米国内で、「新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト PNAC(Project for New American Century)」が1997年より活動を開始した。これは軍事予算を3割カットしたクリントン政権に不満を抱く、共和党タカ派、民主党ネオ・コンサバ ティブ派、軍産複合体関係者らによって作られたものである。これには、チェイニー副大統領、ラムズフェルト国防長官、ウォルフォヴィッツ国防副長官、ボル トン国務次官、アミテージ国務副長官、エイブラムス国家安全保障会議中東政策責任者らが中心人物として名を連ねている。彼らの主張は2000年9月の報告 書に集約されるが、その中身は「軍事力を背景に市場経済と人権と民主主義という価値を世界に定着させる」というアメリカ至上主義に特徴づけられる(『世 界』2003年4月号68頁)。

日本は今回、アジアで孤立した。「日本には北朝鮮問題があるから、米国に同調すべきだ」という論調もあったが、むしろ北朝鮮問題があるからこそ平和裏に 物事を解決する必要があった。このままでは逆に危険な方向にいってしまう。米国の圧力にもかかわらず、日朝交渉を進めるべきであろう。そもそも北朝鮮問題 があってもなくても、米国に同調せざるをえない日米安保体制の弊害が露呈してきたということであろう。軍事面での米国追従では日本の国益に合わない状況に なってきた。日米も含めた包括的なアジア地域での人間の安全保障が待たれる。

今回の米英によるイラク攻撃に対して、全世界で大きな反戦、反米運動が展開されている。日本をはじめ多くの国の世論調査では戦争反対が多数を占めている。このことは大きな希望であり、米英の指導者は謙虚に耳を傾けなくてはならない。

今求められるのは、米英及びイラクの犠牲者を一人でも少なくするための即時停戦であろう。その後パレスチナ問題等の中東イスラム世界の諸問題を包括的に 論じ合うための国連を中心にした「中東平和会議」の開催を呼びかけたい。さらに全世界における大量破壊兵器の削減・廃絶をめざす「世界大量破壊兵器廃絶機 構」を国連に立ち上げる必要があろう。またテロには軍主導ではなく、国際刑事裁判所による警察力で強制執行するようなことも検討されるべきであろう。

さらに、グローバル化のなかでの格差の是正、戦争システムの克服、中東における公正な安全保障体制の構築が急がれる。いずれにしてもフセインを倒しても 問題は根本的に解決しない。武力では問題は解決しないということを、人類は何度も確かめてきた。21世紀こそ人間・生命・平和の世紀にする必要がある。