はじめに ―中東イスラームの歴史と現在 (1)

岩木 秀樹

現在、中東イスラームは戦火に包まれている。

なぜこのようなことになったのか。原因はどこにあるのか。今後どうなるのか。私たちはどうすべきなのか。世界中の人々が重大な関心を持っている。

中東地域において、いつの時代でも常に戦争があったわけではない。「ユダヤ・キリスト・イスラーム数千年の対立」は虚構である。共存の歴史がなぜ、現在のような状態になったのか。歴史を考察することにより、戦争の原因を考え、また共存形態を学び、今後の平和構築に貢献していきたい。

中東概念は西欧からつけられたものであるが、あえて使うことにより、そのオリエンタリズム性と中東諸国体制の人為性を浮き彫りにしていきたい。また当該地域の人々が中東概念を受容する葛藤もより鮮明にできるだろう。

また当然のことながら、中東=イスラームではない。中東地域にはイスラーム以外にも多数の宗教教団が存在している。西欧ではるか昔に異端とされたキリスト教諸派が現在でも存続している。このことは、そのような教団をある程度認め、共存しあっていたからであろう。中東地域が宗教の博物館といわれる所以である。また国家単位でみれば世界で最も多くのムスリムが生活しているのは中東地域外のインドネシアである。このような理由から中東とイスラームを単純に結び付けるのは危険である。また中東に生じている様々の問題をすべてイスラームに還元するのも間違っている。

にもかかわらず中東イスラーム概念を使用するのは、地域概念である中東と宗教概念であるイスラームを結び付けることにより、複合的で多元的に問題に接近できるからである。また宗教と政治・経済・生活を分離して考えないイスラーム的観点から歴史と現在を明らかにし、さらには近代西欧的観点を相対化できるであろうと考えたからである。

今後は、文明の故郷・中東、第3の一神教・イスラーム、イスラームとは何か、イスラム帝国の歴史、オスマン帝国の共存形態、中東諸国体制の成立、現在の中東イスラーム、今後の課題などを論じていく。中東イスラームの歴史と現在の状況を学びながら、今後の世界の平和と私たちの未来を展望していきたい。

目次

  1. はじめに
  2. 文明の故郷・中東
  3. ユダヤ教とキリスト教の誕生
  4. 第三の一神教イスラームの誕生前史