二酔人四方山問答(21)

岩木 秀樹

B:フランスの暴動はだいぶ沈静化してきたようだね。

A:フランス政府も必死で抑えた。1955年に制定された非常事態法がフランス本土で初めて発令されて、夜間外出などが禁止された。ほとんど準戦時体制の戒厳令と言ってもいい。

B:沈静化されたからといって、問題が根本的に解決されたわけではないよね。

A:そうだね。今後アフリカ系やイスラーム教徒の移民の格差是正や移民政策、さらにはEUがキリスト教共同体にとどまるのかどうかまで問われることになると思う。

B:今回何がきっかけで暴動化したの。

A:2005年10月27日に、パリ郊外でアラブ系の17歳とアフリカ系の15歳の少年2人が変電施設に入り込み感電死した。これが警官に追われた末との情報に怒った仲間たちが警官隊と衝突したことから始まった。ただこれは引き金に過ぎなく、差別や憎悪が根底にあるんだ。

B:そうそう。サルコジ内相のとんでもない発言がさらに火に油を注いだとも聞いたよ。

A:暴動の最初の段階での、「社会のクズを片づける」との発言は、若者のマグマを爆発させた。実はサルコジ内相はハンガリー移民二世なんだ。このように欧州移民二世は政治の中枢まで行けるが、アフリカ・イスラーム移民二世は社会の周辺に置かれているのが現状だ。

B:そうか、根が深い問題なんだ。単に不良少年たちが暴れているという問題ではないんだ。

A:移民の失業率は20%を越えていて、20代以下の若者に限れば4割近い。またいざ就職をしようとしても、イスラーム系の名前で住所がパリ郊外だと面接にさえ呼ばれないといった差別が横行している。

B:エー、そんなことがあるの。ひどいなー。

A:親の世代は肉体労働で生計を立てて、イスラームの伝統を維持していた。しかし二世たちは学校で西欧的価値観を教えられ、フランス語もしゃべり、西欧化しているのに差別を受ける。このことに大きな不満を持っているようだ。

B:この問題は単にフランスのみではないよね。

A:そう。ヨーロッパのイスラーム人口は約2000万人を数える。同化政策や多文化主義など多少違うが、同じような問題を抱えている。だから今回も暴動がドイツやベルギーにまで飛び火した。

B:でもイスラーム教徒全員が暴動を良しとしているわけではないよね。

A:もちろんそうだ。在仏イスラーム団体は11月7日に「無差別な攻撃はイスラームの教えに反する」とのファトワ(宗教見解)を出した。「暴力にノン、対話を」と書かれた垂れ幕を掲げて行進していたイスラーム教徒も多かった。

B:でもアフリカ系の少女がこのように言っていたらしい。「暴力は良くないけれど、こうでもしないと誰も私たちに耳を傾けないもの。」率直な発言だと思う。

A:そうかもしれないね。現代イスラーム地域研究が専門の内藤正典さんはこんなことを述べている。今回の暴動と宗教は関係ないが、イスラーム組織は不満を持つ若者を吸収する好機と捉えている。国家に憎悪を抱く若者がイスラーム過激派に参加していくことの危険性をフランス政府は熟慮すべきである、と。

B:このままでいくと、テロの危険性もあるということか。

A:そのことは多くのフランス人も理解している。11月9日付のリベラシオンには、「学校は選別の場、行政は失業問題に無策、警察による差別は日常茶飯事。この現実に失望した移民が自己主張をすれば、共和国の一体性を脅かす存在のように言われ、揚げ句はテロリスト視される。これが実態なのだ」と書かれていた。

B:フランスをはじめ、ヨーロッパは苦慮しているんだね。

A:おそらく、日本人には色々言われたくない、と思っているんじゃないかな。日本は移民問題を議論する以前の問題だ。移民はおろか、難民もなかなか受け入れない社会だし、長年日本に住む外国人から税金は取るが、選挙権などの権利行使はさせない国だ。

B:うーん。他人の悪い点はよく見えるけれど、自分のことはわからないということか。

A:そう。日本はアジア近隣ともうまくいっておらず、国内でも少数者を排除しているんだ。今回の暴動は実は自分たち日本の問題でもあるとも言えるかもしれない。