エッセイ18 目的と手段

木村 英亮

大多数の人にとって仕事は生きていくための収入をうることが第一で、当然少しでも賃金の高い仕事を求めていた。しかし、現在の日本では、賃金だけで 仕事を選ぶのでなく、仕事自体を目的として選び、それにともなって収入が得られるという生き方もできるようになったように思われる。バランスの問題かもしれないが、仕事優先の生き方がより望ましいのではなかろうか。また、仕事の内容の専門化という社会的条件の下では、好きで自分に適した仕事でないと、競争に敗れ脱落する。分業と専門化が細かく進み、その分野で相応の実力がないと、やっていけなくなったためである。

すなわち、最初に職業を選ぶときには、賃金だけでなく、仕事の内容についてよく調べることが必要である。

将棋の羽生名人が、「どの世界においても、大切なのは実力を持続することである。そのためにモチベーションを持ち続けられる。地位や肩書きは、その結果としてあとについてくるものだ。逆に考えてしまうと、どこかで行き詰ったり、いつか迷路にはまり込んでしまうのではないだろうか」(羽生善治『決断力』角川書店、195ページ)と書いているが、仕事を実力、賃金を地位と考えれば、同じような意味であろう。

ついでながら実力について、スケートの清水宏保は、次のように語っている。「将来、スケートのコーチとして、という考えは今のところな いですね。今、僕にはコーチはいないんです。・・・最後の最後にすべてを自分の間合いに引き込む力。自分の世界に引き込む磁力をもってるやつが勝つんです」(『朝日新聞』2000.8.2)。