自衛隊は武器を持たないでイラクへ ―2003年11月9日の総選挙を終えて―

中西 治

2003年11月10日に小泉首相は自民・公明・保守新党の与党3党が総選挙で安定多数を確保し、国民の支持を得ることができたので、状況が許せば自衛隊を早期にイラクに派遣したいと言明した。朝日新聞が11月11日の朝刊で伝えた日本政府のイラクへの自衛隊派遣についての基本計画案によると、日本政府は陸海空3自衛隊と文民の計1200人程度を今年の12月下旬から順次イラクに派遣するようである。

ところが、同紙の同日夕刊によると、政府は当初この計画案をアメリカのラムズフェルド国防長官が来日する11月14日に閣議で決定し、11月19日に召集される見込みの特別国会に報告する予定であったが、イラク治安の悪化や総選挙での民主党の躍進を受けて国会での審議を避けるために閣議決定を特別国会後に先送りするという。

自衛隊のイラク派遣は日本が第二次大戦後はじめて本格的に自衛隊を海外に送りだすという日本のこれからの運命にとってきわめて重大な問題であり、選挙の大きな争点となった問題であるにもかかわらず、新たに選出された国会の場で審議されないようにするというのは許しがたいことである。政府の自信のなさを表わしている。

有権者の投票行動が一つの要因だけによって行われるものでないことは多言を要しないが、小泉首相の論理に従ったとしても、今度の選挙結果によって日本国民が自衛隊のイラク派遣を認めたことにはならない。今回の選挙で自衛隊のイラク派遣を推進している自民・公明・保守新党の与党3党が得た票よりもこれに反対している民主・共産・社民の野党3党が獲得した票の方が多い。

与党3党が今回の選挙で得た票は比例区においておよそ自民党が2066万、公明党が873万、合わせて2939万である。それぞれの得票率は35.0%と14.8%、計49.8%である。小選挙区においては自民党が2608万、公明党が88万、保守新党が79万、合わせて2775万である。それぞれの得票率は43.8%、1.5%、1.3%、計46.6%である。

他方、野党3党の得票は比例区において民主党が2209万、共産党が458万、社民党が302万、合わせて2969万である。得票率は民主党が37.4%、共産党が7.8%、社民党が5.1%、計50.3%である。小選挙区においては民主党が2181万、共産党が483万、社民党が170万、計2834万である。得票率はそれぞれ36.7%、8.1%、2.9%、計47.7%である。

比例区と小選挙区のいずれにおいても民主・共産・社民の野党3党が得票数と得票率の両者において自民・公明・保守新党の与党3党を上回っている。小泉首相流に言えば、日本国民は自衛隊のイラク派遣に反対している。

私は与党3党に投票した人がすべて自衛隊のイラク派遣に賛成しているとは思わないし、野党3党に投票した人がすべて自衛隊のイラク派遣に反対しているとも思わない。前者のなかに反対の人もいるだろうし、後者のなかに賛成の人もいるであろう。

重要なのは、いずれの党に投票したにしろ、自衛隊のイラク派遣に賛成する人々の多くが自衛隊のイラク派遣は戦争で困っているイラク人を助けるためのものであって、イラク人を殺すためのものではないと考えていることである。

小泉内閣も自衛隊の派遣はイラクの復興を助けるためであると言い、前記の基本計画案でも自衛隊の活動として浄水・給水、医療、生活物資の配付、輸送活動を挙げ、文民の活動として電力供給、医療、教育などを挙げている。私はこのような救援活動に賛成である。しかし、そのために自衛隊を派遣する必要はないと考えている。

国境なき医師団や海外青年協力隊などをはじめとしてそのようなことを専門とする人々や集団はたくさんあるし、今も活発に活動している。政府はこのような活動を積極的に支援するとともに、イラクの現状にそくした文民の救援活動を展開すれば良い。

自衛隊が本当にイラクの人々を助けるために行くのであるならば、自衛隊は武器を持たないで行くべきである。自衛隊は日本の災害復興支援のときには武器を持って行かないであろう。そのような物は救援活動の邪魔になるだけである。

現に戦争が続いているイラクで復興支援を行うことは危険である。それは当たり前である。だからといって、赤十字や国境なき医師団は武器を持っては行かない。どうしても現地の人々の理解が得られず命が危険にさらされるときには引き揚げれば良い。助けに行って、助けることを続けるために助けるべき人を殺してはならない。それでは何のために行ったのかわからない。人道的援助は人道的に行うべきである。

小泉内閣は自衛隊に短銃や機関銃に加えて自爆テロ対策として携帯式の対戦車弾や無反動砲を携行させるといわれている。これは復興支援の道具ではなく、人を殺し、物を破壊する道具である。このような兵器を装備した自衛隊員を見たときにイラクの人々はどのように思うであろうか。復興支援のためではなく、アメリカ軍を助けてイラク人を殺すために来たと考えて何の不思議があろうか。

自衛隊は武器を持たないでイラクに行き、復興支援に従事することによって日本国憲法の下での自衛隊が果たすべき役割を世界に示すことになる。災いを転じて福とすることができる。

今回の選挙で当選された衆議院議員が参議院議員とともに国会の場でこの問題を真剣に審議されることを皆さんを国会に送りだした主権者の一人として強く要求する。


自衛隊は武器を持たないでイラクへ ―2003年11月9日の総選挙を終えて―」への1件のフィードバック

  1. 今井 康英

    私も中西理事長の御意見に全面的に賛同致します。

    但し、私の個人的な信条として「日本国憲法の下での自衛隊」という表現については、若干のコメントを加えたいと思います。

    私の見解では、今の自衛隊は明らかに憲法第9条に規定される「陸海空軍その他の戦力」にあたるものであるから、これを保持してはならないのであって、日本国民が保持する自衛隊は武器を持たない軍隊にしなければなりません。むしろ災害救助隊や復興支援隊、あるいは緊急救援隊とでも呼ぶべき組織にどんどん改編していくべきだと考えます。

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