二酔人四方山問答(22)

岩木 秀樹

B:君から色々イスラームについて聞いてきて、もっと知りたくなったよ。イスラームはそれほど怖い宗教とは思わなくなったけれど、やっぱり砂漠の宗教というイメージがあるな。

A:それはステレオタイプだな。イスラームは都市の宗教であり、商業の宗教だ。

B:えー、どういうこと。

A:イスラームが生まれた現在の中東地域は文明の故郷であり、世界で最初に都市が発達した地域だ。また紀元前3000年頃から、この地域は商品経済の世界であった。個人の資格で他者と契約する自立した人々よりなる社会だった。

B:なるほど。個人の資格で他者との契約が、神との契約につながるんだね。

A:そう。この地域で生まれたユダヤ教・キリスト教・イスラームのセム的一神教はどれも神との契約を重視する。イスラームの創唱者ムハンマドは西暦570年頃アラビア半島のメッカで生まれた。

B:ムハンマドの誕生をキリスト暦である西暦で数えるのもおかしいよね。

A:まあそうなんだけど、わかりやすいから許して。当時のアラビア半島は部族的集団志向から個人的利益志向へと社会が変化し、遊牧から商業 へと経済基盤が大きく変わりつつある変革期だった。イスラームはユダヤ教・キリスト教よりも徹底した個人主義に立っていて、その意味では時代先取りの宗教 だった。

B:でも当然、旧来の勢力や、部族、多神教徒からは圧力を加えられるよね。

A:そうだった。旧勢力と大きく対立した。でも宗教に限らずあらゆるイデオロギーは未来志向で時代の先端を行かなくては魅力あふれるものにはならないし、多くの人を引きつけられない。

B:イスラームが急激に広がったのも、そのあたりに要因があったのかな。

A:時代先取りの個人志向、一人一人が神と直接向き合う平等性、地域の習俗や他の信仰を認める寛容性などが考えられる。

B:今でもイスラームは広がっているの。

A:広がっている。欧米でも、低所得者やいわゆる白人以外、つまりその社会で置いてきぼりをくっている人々を中心に改宗が行われている。

B:前にも聞いたけれど、あと何十年かでイスラームが世界で最大の教団になるんだよね。

A:そう。出生率も高いしね。ここまで大きくなるのも理由があると思う。短期間に多くの人を、または長期間に少ない人をマインドコントロールはできるけれど、1400年近くも10数億の人を騙すことはできない。

B:そうだと思うけど、まだイスラームに偏見を持っている人は多いと思うよ。イスラームが砂漠や戦闘の宗教だとは考えても、商業の宗教だとはなかなか思えない。

A:イスラームは商業や商人に対して肯定的で、コーランには多くの宗教用語が使われている。

B:どんな風に。

A:例えばこんなものがある。「コーランを読誦し、礼拝の務めをよく守り、神から授かった財産を惜しみなく使う人々は、絶対はずれっこない 商売を狙っているようなもの」(35章、26節)「神の御導きを売り飛ばして迷妄を買い込んだ人々、だがかれらもこの商売で損をした。目算どうりにいかな かった。」(2章、15節)

B:こんな表現があるんだ。おもしろいね。宗教というと金儲けや商業を忌み嫌うものと思っていたんだけど、そうではないんだ。

A:もちろん暴利をむさぼるとかは禁じられている。ただおもしろいのはこの商業的雰囲気と宗教の寛容性が密接に結びついているんだ。

B:どういうことなの。

A:商業は家族や身内など小さな近い集団を相手にしていたのでは、利益が上がらない。他集団や遠い地域を相手にしてこそ、大きな利益が得ら れる。つまり商業には自分とは異なる集団・組織の存在が前提となっている。他者があってこそ、自分たちが存在し繁栄できると考えるんだ。それがイスラーム にも息づいているんだ。