第1回講演会 小室金之助(本研究所監事・創価大学教授・前学長)

事務局

21世紀文明の行方
2002年5月11日(土)
かながわ県民センター402号室

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21世紀文明とは、高度な科学的発達の時代であり、人類の情報・伝達・管理の時代であることから、知識・情報化の文明と定義できる。

21世紀文明の行方を知るためには、過去・現在・未来の三世を知らなくてはならない。過去を知るという歴史的考察、現在を知るという比較的考察、未来を 知るという将来への展望の三つの方法が重要である。現在を知るためには過去を知ることが必要であり、現在においても日本だけではなく世界を知りそれを比較 することが必要であり、その後に問題点を発見し、将来への展望をするのである。

そこで将来を展望するためには、過去である20世紀を知らなければならない。20世紀の特色は2つある。第1に、科学の世紀であり、さらには原子力と情報の時代であった。第2に、戦争の世紀であった。

科学の世紀として、原子物理学の発達による原子爆弾の誕生、ラジオ・テレビの登場、医学の発達、電波等による通信技術の進歩による世界の緊密性の増大、さらに文学・学術における人間性の追求に新しい局面が開かれた。

戦争の世紀は激動の時代であった。1894年の日清戦争から1945年までは、天皇主権の時代であったと言われていて、戦争が当たり前の時代であった。その後の50年は国民主権の時代であり、戦争を否定する時代であった。

第二次大戦では大量の兵士、民間人が亡くなり、まさにメガデスの世紀であった。この戦争で人類はどのような反省をしたのか。その後も様々なところで戦争 は起こった。最近でもアメリカの世界貿易センタービル破壊という9・11事件が起こった。いつ問題が解決するか解らない状況である。

それでは21世紀文明はどうなっていくのか。20世紀は科学技術の発展により人間生活の水準を確かに変革した。今までにない高度な文明の時代であった。 その反面、精神を荒廃させ、人間の社会的な結合を希薄化させた。さらにはオゾン層の破壊・酸性雨など環境問題、地球そのものを破壊しかねない核戦争の危機 など、人類は史上最大の危機に立たされている。私たちは過去を知り、そこから学び、再び過ちをくり返してはならないのである。

民族や宗教の差異による戦争が無くならない限り、地球上から戦争は無くならないであろう。このような戦争は私たちの心の内面に根ざしている。戦争をなくすために真剣に考えなくてはならない岐路に私たちは立たされている。

そのためには、自国や自己の繁栄のみに汲々としてはならない。あらゆる国との友好関係の維持と協調を促進していくべきである。地球全体の全ての国家は、 世界人類の一員として与えられた使命を自覚して、新しい文化・文明の創造に向かって邁進するべきである。その際に注意すべきことは、世界の文明を均一化す べきではないということである。日本も単に西洋文明を模倣するのではなく、日本の伝統を受け継ぎながらも、世界から尊敬される独自の文化の創造が必要であ る。

最近注目されているアラブ・イスラム社会は、初めから西欧に対して反感や憎悪を持っていたとは考えられない。今回の様々な事件を振り返っても、アメリカ の無邪気な傲慢さが指摘できる。必ずしも悪意があるのではないが、本来持っているおおらかさが裏目に出ている。これからの世界の平和を考える際に、アメリ カも無邪気な傲慢を反省する必要がある。

それでは、文明の衝突を解消するためにはどうすればよいのか。そのためには、人間の本来持っている豊かな心を大切にしていくような社会の構築を目指すべ きである。つまり、全てを単一なものにするのではなく、それぞれの国家や民族が独自固有の宗教・思想を持ちながら、しかもなお地球の危機を回避するための 一体感が必要である。そのためにはやはり対話しかない。世界の平和実現のためには対話するしかない。迂遠で困難な、場合によっては不可能に近いこともあろ うが、対話をすることによって、互いの立場や考え方の違いが明確になり、それを克服してはじめて、世界人類の協調が実現する。

21世紀の人類の最も重要な課題は、持続可能性の保障である。このまま推移していけば、地球文明は近い将来確実に滅亡する。美しき、青き地球を未来の世 代に引き継いでいくことは不可能になる。この地球滅亡の危機を救済するために今、人類は真剣に考えねばならない。そのためにはグローバルな視野において危 機意識を高め、それに対する対策を講ずるべきである。その方法としてはやはり、忍耐強い対話しかない。平和実現のために世界有識者による国際平和会議の開 催が必要である。また国連の使命と機能を高めることも重要である。世界の平和無くしては21世紀文明は存在しない。

フランスの美術史家であるルネ・ユイグは、これからのリーダーの条件として以下のように述べている。このことは平和実現を目指す私たちの生き方にも大き な示唆を与えるだろう。第1は豊潤な感受性であり、これは詩の心、詩人の魂である。第2は明晰な知性であり、第3は強靱な意志力である。このようなことを 心がけていくと戦争も低減できるのではないかと考える。

歴史の法則から見れば、精神の失われた物質文明は滅びざるを得ない。今や合理主義と精神性が結びつかなければならない。再び生命の分野から出発しなけれ ばならない。21世紀は生命という本源に光が当てられる世紀であると思っている。考古学者の説によれば、人間の歴史の400万年の中で、集団同士のぶつか り合いである戦争の歴史は1万年にも満たない。そうであるならば、戦争のない人間社会の実現は決して不可能ではない。

戦争と暴力の20世紀の中で、民衆が歴史の主役として登場し、民衆こそが新しい共生の歴史を作る主体者なのである。その民衆の国境を越えた連帯によって、不戦を実現させ、第3の千年を希望輝く時代にすることが大切である。

21世紀文明の行方は、このような考え方が実現していくかどうかにかかっている。決して絶望してはならない。信念と世界市民としての自覚を持って、対話を通して、新しい世紀の確立をしていかなければならないのである。