エッセイ 25 愛情における勇気

木村 英亮

子に対する親の愛情はとても強い。

アメリカの作家ソーントン・ワイルダーは、親子、兄弟、友人間の愛、恋愛以外の愛をテーマとした『運命の橋』(『サン・ルイス・レイの橋』)で、それを次のように描写した。

「娘に対する愛情は、あらゆる愛の調子を包括する大きなものであったけれども、それにも拘わらず、暴君のような気持ちもそこに混っていた のである。彼女は娘のために娘を愛していたのではなく、自分自身のために愛していたのだった。この恥ずかしい絆から自由になりたいと思った。しかし激情は 争うすべもなく彼女にとりついているのであった」(伊藤整訳、新潮文庫、20ページ)。彼女は、娘に手紙で自分をどのくらい愛しているかをおずおずたしか めようとしたこともあった。しかし、ある出来事がきっかけとなって、愛においても勇気が必要であることに気づき、娘に乞食のように愛情を求めることをや め、自由で毅然とした愛情をもって生きようと決意する。

ソヴェトの教育者マカレンコは、教師の生徒への愛について、似たようなことを言っている。

「教育者の自己まんぞくのための愛情は、むしろ犯罪であると思っていました。・・・愛情は、みなさんの努力とは別に、それとなくおとずれ るのがほんとです。もしだれかが、その愛情を目的としていれば、これは有害です。もし彼が被教育者の愛情を受け入れようとしないなら、彼は子どもに自分に も、非常に多くの要求ができる正義の人になれます」(マカレンコ『著作集6』、三一書房、1954、117ページ)。かれは、生徒の人気取り競争をするよ うな教師集団は、最悪であると書いている。