エッセイ 27 老兵は去るのみ

木村 英亮

老人になると口うるさくなるばかりでなく、他人の意見に注意を払わなくなりがちである。理想的な老人とは、いかなるものであろうか。

筒井康隆は、「老人は原則的にも理想的にも孤高の存在であるべきなんです。仕事仲間の若い連中だって、口うるさい老人よりは黙っている老人の方がなんとなく信用できるから、わからないことがあればあっちから訊いてきますよ」(『朝日』2000.9.18)と書いている。

老人と若者との関係は、世界政治における欧米とアジアというように置き換えてみても面白い。すなわち、欧米は、若いアジアに介入すべきではない。

アメリカは、人口では世界の5%を占めるに過ぎないが、地球上の二酸化炭素の4分の1を排出している。それにも拘らず温暖化防止のための二酸化炭素排出を規制する京都議定書を批准せず、「9.11」対策に眼を奪われ、わからずやの老人のような態度をとった。その結果、ハリケーン・カトリーナに復讐され、48万人が住み、その67%が黒人であるニューオーリーンズ市街の8割を水没させてしまった(瀬戸岡紘『アメリカ 理想と現実』、時潮社、2005、260ページ.)。アメリカの老化は、着実に進行し、傍らのラテンアメリカにおける影響力を失ない、世界でも孤立しつつある。イギリスのブレアの言動も驚くばかりであり、フランスも内部から崩れ始めている。これに対して、AALAの政治家の言動の水準には、欧米「先進国」の政治家よりはるかに高いものがある。

新しい力は着実に発展し広がり、いつの間にか古い力をしのぐ。徒然草は、それをうまく表現している。

「死は前よりしもきたらず、かねて後に迫れり。人皆死ある事を知りて、まつこと、しかも急ならざるに、覚えずして来る。沖の干潟遥かなれども、磯より潮の満つるが如し」(155段)。