二酔人四方山問答(25)
岩木 秀樹 (2006年1月12日 23時45分)
B:ムハンマドに啓示がおりたのはどのような状態だったの。
A:西暦610年のラマダーン月(第9月)に、いつものようにヒラー山の洞窟で、瞑想後に仮眠をしていると、突然大音声によって呼び覚まされたんだ。それがアッラーによる大天使ジブリール(ガブリエル)を通じてムハンマドにくだされた最初の啓示だった。
B:どんな内容だったの。
A:突然アラビア語で「詠め!」とムハンマドに叫んだ。驚いた彼はとっさに「私は詠む者ではありません」と答えた。当時のアラビア半島の人々と同じく、彼は読み書きが出来なかった。この問答が三度繰り返された後、ムハンマドはついに観念し、アッラーは詠むべき内容を以下のように彼に言ったと されている。詠め!「凝血から人間を創造し給うた汝の主の御名において」詠め!「汝の主はペンによって教えた給うた最も尊いお方」「人間に未知のことを教 え給うたお方」であると。
B:へー、でもムハンマドもびっくりしたろうな。突然そんなことがあるとは。
A:そうなんだ。彼はこれが神の言葉であることを信じることが出来なかった。恐れおののく彼を励まし、断続的にくだされる言葉は神の啓示に他ならないと信じたのは妻ハディージャだった。
B:そうか奥さんの励ましと理解がなければ、ムハンマドが神の使徒として自覚することはなかったかもしれないね。
A:洋の東西を問わず、配偶者のサポートは重要だね。このようなことからハディージャはイスラームに帰依した最初の人物とされている。
B:その後どうやってイスラームを広めていたの。
A:最初、身内やごく近しい人々に自分の思うところや体験を説いていたんだ。その後ムハンマドは614年頃から、メッカの辻々に立って大衆伝導を始めた。
B:どのような内容を説いていたの。
A:最初説いたのは、メッカ社会における貧富の格差の増大による大商人たちの拝金主義、享楽主義、利己主義、そして人々のモラルの退廃への警告だった。
B:そうするとメッカの商人たちや旧来の勢力から強い反発が予想されるね。
A:そうなんだ。メッカの人々、特に大商人たちはこのような布教に大きく反対した。
B:何でもそうだけれど、新しいことを始めるとそれに抵抗する守旧派はいるよね。
A:さらにムハンマドの運動が、彼らの政治経済的利害や部族的伝統にまで抵触するようになっていったんだ。
B:前にも聞いたけれど、イスラームは部族主義を越えて、自立した一人一人が神と直接向き合う宗教だよね。当然、部族主義とは対立するよね。
A:当時、メッカの人々は遊牧の生活をやめ、商業に従事するようになって、血縁的つながりよりも個人の経済的利害を優先させるようにはなってきつつあった。しかしまだまだ旧来の伝統は生き続けていた。
B:イスラームはその意味で時代先取りの宗教だったんだね。
A:そう。時代の転換点に人々を魅了する考え方を提示したと言える。このように時代の画期にこそ新しい思想や宗教は生まれるんだ。
(つづく)
