朝鮮半島の非核化と米朝国交正常化を! ―ティラーソン米国務長官の訪ロに寄せて―

中西 治

1950年6月25日に朝鮮戦争が起こってから間もなく67年になります。

1953年7月27日に板門店で国連軍首席代表ハリソン陸軍中将と朝鮮軍首席代表南日中将が停戦協定に調印し、直ちに国連軍司令官クラーク大将と金日成朝鮮人民軍最高司令官および彭徳懐中国人民志願軍司令員が停戦協定文書に署名して「停戦」が実現しました。それが63年余ずっと続いています。まだ「戦争」は完全に終わっていません。

なぜこういうことになったのでしょうか。

それは当時の李承晩韓国大統領があくまでも武力統一をめざし、この機会を逃すと統一が不可能になると考えて停戦に反対していたからです。これを米国が支持しました。

停戦交渉での韓国軍代表を任命したのは韓国大統領ではなく、国連軍司令官でした。李承晩大統領は米国が韓国と相互防衛条約を締結することを条件として停戦を妨害しないことを約束しました。この米韓相互防衛条約は「停戦」実現後の同年10月に締結されました。

それ以後、韓国は米国とともに朝鮮との戦争に備えて毎年合同軍事演習をし、朝鮮も韓国および米国との戦争に備えて今日に至りました。その間に韓国に金大中大統領が登場し、韓国と朝鮮が朝鮮半島の非核化と平和・統一に向けて歩み始めましたが、これも途中で挫折しました。。

この間の経緯については、拙著『ロシア革命・中国革命・9.11――宇宙地球史の中の20-21世紀――』南窓社、2011年、に掲載されている私の論文「中国革命と朝鮮戦争」を参照ください。

このような状況が今年トランプ米国大統領の登場とともに変わり始めました。

彼はオバマ前大統領の「話し合い路線」は「六者協議」に見られるように失敗したから、今後は「力の行使=戦争」をも含む方式を検討すると言い出しました。トランプさんは最初、米国はもう「世界の警察官の役割」は果たさないと言っていましたが、最近は「世界の軍隊の役割」を果たすようになっています。

たとえば、シリア問題です。

2017年4月4日午前6時半過ぎに何者かがシリアの反政権派が拠点としているシリア北西部のイドリブ県ハーン・シェイフンを爆撃しました。

トランプさんは即座にこれをアサド政権軍が化学兵器を使用した攻撃と断定し、4月6日から7日にかけての深夜に地中海上の米国軍艦からシリア政権軍の空港(The Shayrat Air Base in Syria)に向けてミサイルを発射しました。

丁度、中国の習近平国家主席が米国を訪問し、トランプ大統領と夕食をともにしていました。習近平国家主席はこの話をトランプ大統領から直接聞き、一応納得したようです。

このシリアの空港を使っているロシアの外務省は7日に声明を発表し、「米国がこのような無分別な態度をとるのは初めてではない。そもそも米国軍隊がシリア政府の同意がなく、国連安保理事会の決議もなしに、シリア領にいること自体が国際法の乱暴な明らかな侵犯である。今日米国がとっている行動はロ米関係をより一層破壊する」と述べました。

http://www.mid.ru/web/guest/maps/us/-/asset_publisher/unV… Заявлен ие МИД России в связи с вооруженной акцие й США в Сирии 7 апреля 2017 года

朝鮮半島でも緊張が高まりました。

米国太平洋軍のハリス司令官は8日にシンガポールを出港しオーストラリアに向かっていた原子力航空母艦カールビンソンをはじめとする攻撃艦隊を9日に朝鮮半島近海の西太平洋に向かわせることにしました。

https://www.defense.gov/News/Article/Article/1146225/carl-… Carl Vinson Strike Group Departs Singapore for Western Pacific

このような状況のもとで米国のティラーソン国務長官が11日から12日にかけてロシアを訪問し、プーチン大統領、ラヴロフ外相などと会談しました。12日に行なわれたティラーソン国務長官とラヴロフ外相の共同記者会見でラヴロフ外相は次のように語りました。

  1. 今晩は。長い一日でした。私たちはティラーソン国務長官と話し合った。いましがた2時間以上にわたったプーチン大統領との会見がおこなわれた。話し合いは詳細に、率直におこなわれ、両国関係と国際問題での相互行動にとってカギとなる諸問題全般に及んだ。
  2. 私たちの関係と国際情勢の現段階が大いに安定しているものではないことに留意した。問題がたくさんある。その中には前オバマ政権の緩慢な行動によって残された“地雷”のような問題もある。私たちは現実主義者である。このような障害を除去するのには多大の努力が必要なことを理解している。本日、プーチン大統領は私たちの一貫した路線を確認した。
  3. 私たちは私たちの協力を阻害し、紛争を先鋭化させようとする試みを見ている。これは先見性のない態度である。モスクワとワシントンが協力したとき、私たち両国民だけでなく、全世界が利益を得ていることを歴史は示している。
  4. 国際テロリズムとの妥協のない闘いをめざす私たちの共通の目標を確認した。このテーマは米ロ両国の大統領が数度の電話による会話で論議したものである。
  5. 4月4日のイドリブ事件と7日の飛行場攻撃事件を審議した。本日、私たちはこの事件を徹底的に究明しなければならないと主張した。ロシアはシリア政府が国連とハーグの「ОЗХО(化学兵器禁止機関)英語OPCW」に書簡を送り、検査官をイドリブと飛行場に派遣するよう要請したことに留意するよう主張した。私たちはアメリカの同僚がこのような調査を支持する用意のあることを知った。
  6. ロシアの空軍・宇宙軍と米国を中心とする同盟国との間にかつて存在した「シリアでの事件防止と航空安全確保についての覚え書」はロシア側の都合でその効力が停止されていた。本12日にプーチン大統領がこの覚書の効力を復活させる用意があることを明らかにした。
  7. ロシアと米国はシリアをはじめとする国々の内政に干渉する意図を有しないことをかつて公然と声明した。この声明は依然として有効である。イラク、リビアなどの例は内政干渉の試みが繰り返されることに対する良き警告となる。
  8. 「ИГИЛ(イラクとレバントのイスラム国家、レバントとはシリアとレバノンなどの複数の国・地域を含む歴史的地域名)英語ISIL」とその他のテロリストたちの完全な破壊と壊滅を達成しようとする私たちの共通の決意は有効であり、それを本日完全に確認した。
  9. アフガニスタンのようなテーマもある。4月14日にモスクワでアフガニスタンとその隣国も参加した会合『モスクワ・フォーマット』が開催される。米国の代表も招かれている。
  10. ウクライナにおける危機に触れた。私たちの共通の立場は「2015年のミンスク合意が達成されなければならない」である。
  11. 朝鮮半島情勢についても語った。両国はこの問題について採択された国連安保理決議は順守されなければならないと主張している。政治的・外交的努力によって朝鮮半島の非核化の問題を解決するための条件をつくりだす方向に向かわせなければならない。

http://www.mid.ru/ru/foreign_policy/news/-/asset_publisher/… Выступ ление и ответы на вопросы СМИ Министра ин остранных дел России С. В. Лавлова…

これに対しティラーソン国務長官は次のように語りました。

  1. 今晩は。私たちはプーチン大統領との約2時間の実り多い会見から帰ってきたばかりである。私たちは米ロ関係の現状を率直に論議した。私は米ロ関係の現状が低い点にあり、両国間の信頼が低い水準であるという見解を表明した。世界の二大核保有国がそれにふさわしい関係を持つことができていない。私たちは私たちのコミュニケーション・チャンネルを増大させる方策を論議した。
  2. ラヴロフ外相と私は即座に考えなければならない問題と長期にわたって考えなければならない問題について長い間話し合った。私たちは長期間の関係の改善が意見の異なる問題を前進させるのに役立つことを理解した。
  3.  私たちはシリアについて広範囲に話し合った。いくつかの領域では私たちは共通の考えを持っている。とくに私たちは統合した安定したシリアをともに信じている。私たちは私たちの両国を攻撃しようと望んでいるテロリストたちにとっての「安全な天国」を否定する点で一致している。
  4.  私たちはシリア問題の小さいことを処理し、関係を安定させる方向で前進させるために作業部会をつくることで一致した。ラヴロフ外相と私はシリアを前進させるための提案を検討することで一致した。
  5. 私たちは北朝鮮が非核化されるべきであるという点で一致している。私たちは私たち両国の外交レベルと軍事レベルの両方を含めて、シニア・レベルのコミュニケーションが必要なことで一致した。私たちはまた北朝鮮の体制がもたらす現実の脅威―この体制が進めている核プログラムの発展、この北朝鮮の体制に対し路線を変更するように促すうえでロシアが果たす建設的役割についても論議した。そのことによって私たちは未来について話し合う状況をつくりだすことができる。
  6. 私たちはミンスク合意の重要性を考慮した。ロシアは暴力を段階的に減らし、分離派軍隊と重兵器の撤退を進めることによって合意の履行を前進させることができる。

<https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/04/270136.htm> https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/04/270136.htm Remarks With Russian Foreign Minister Sergey Lavrov at a Press Availability

ここではプーチン大統領の考えはほとんど紹介されていません。プーチン大統領は4月11日におこなったイタリアのマッタレッラ大統領との会見後の記者会見で次のように語っています。

  1. 私は2003年の事件を思い出している。このとき米国の代表者が国連安保理においてイラクで発見された化学兵器のようなものを示した。このあとイラクでの軍事カンパニーが始まった。国が破壊され、テロリストの脅威が高まり、「イラクとレバントのイスラム国家」が国際舞台に現れた。
  2. どうしてこのようなことがいま起こっているのか。米国の前政権のおかげで多くのヨーロッパ諸国が米国大統領選挙運動中に反トランプの立場をとった。いま、すべてが西側共同体内の関係の回復を願っている。団結のための大変良いプラットフォームがある。シリア、ロシア、共通の敵である、素晴らしい。私たちはこれが相互活動を良い方向に向かわせることを望むだけである。
  3. 新しい攻撃があるのだろうか、ないのだろうか。このような挑発がダマスカスの南部近郊を含むシリアの他の地域でも準備されている。その使用の責任をシリアの正式政権に負わせようとしているとの情報がある。私たちはこのような行為を徹底的に究明し、ハーグのしかるべき国連機関に提訴するつもりである。

http://kremlin.ru/events/president/news/54267 Заявление для п рессы по итогам встречи с Президентом Ита лии Серджо Маттареллой

2017年4月11日にトランプ大統領はFOXビジネスネットワークのインタビュー収録で、朝鮮の核実験やミサイル開発を念頭に、金正恩朝鮮労働党委員長を「大きな過ちを犯している」と批判しました。

12日(日本時間13日早朝)に国連安保理事会は化学兵器問題についての米英仏の決議案をロシアの拒否権によって廃案としました。中国は棄権しました。

13日に米軍はアフガニスタンで「IS(イスラム国)」の地下施設を破壊するために大規模爆風爆弾「モアブ」を使用したと発表しました。

15日に米国のペンス副大統領がアジア太平洋地域を訪問し、韓国のソウル、日本の東京、インドネシアのジャカルタ、オーストラリアのシドニーなどを歴訪することになりました。

<https://www.defense.gov/News/Article/Article/1152026/penc> https://www.defense.gov/News/Article/Article/1152026/penc…Pence to Discuss North Korean Aggressiovn on Asia-Pacific Trip

16日午前6時過ぎに朝鮮が中距離弾道ミサイルの発射実験をおこないましたが、失敗しました。

17日午前にペンス米副大統領が朝鮮半島の非武装地帯を訪問し、午後に韓国の黄教安首相(大統領権限代行)と会談しました。会談後の共同記者会見でペンスさんは「朝鮮はトランプ大統領の決意やこの地域の米軍の力を試すようなことはしない方が良い」と述べました。

18日午後にペンス副大統領は訪日し、安倍首相、麻生副首相兼財務相などと会談しました。

19日午前にペンス副大統領は米海軍横須賀基地に停泊中の原子力空母ロナルド・レーガンを訪問した後、次の訪問地ジャカルタに向かいました。

同じ19日にティラーソン国務長官は国務省での記者会見で北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを検討していると述べました。

20日にペンス副大統領はインドネシアでトランプ大統領が2017年11月に日本を含めて初めてアジアを訪問する可能性のあることを明らかにしました。

同じ20日に国連安保理事会は朝鮮による16日のミサイル発射を強く非難する報道声明を発表しました。

21日午前に日本国内閣官房長官記者会見のホームページが「弾道ミサイル落下時の行動についてのホームページ」を「内閣官房国民保護ポータルサイト」に掲載すると発表しました。このサイトは「北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に落下する可能性がある場合」、「近くのできるだけ頑丈な建物や地下街などに避難する」、「できれば窓のない部屋に移動する」などの注意喚起をおこなっています。

http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201704/21_a.html

同じ21日に日本の防衛省は海上自衛隊の護衛艦2隻を海上自衛隊佐世保基地(長崎県)から出港させました。この2隻は間もなく朝鮮半島周辺に到着する米国のカールビンソンなどと合流し、共同訓練を実施する予定です。

以上の事実の多くは『朝日新聞』の報道によります。

現在の世界情勢が徐々に明らかになってきました。

第一に米ロ関係は良くありません。モスクワにある米国のカーネギセンターは現在の米ロ関係を「新しい冷戦」と特徴づけています。4月12日のプーチン・ティラーソン会見は4月21日までロシア大統領府のホームページに会見があった事実も、会見の内容も掲載されていません。余程重要な内容か、余程発表したくない内容なのか、でしょう。

第二に米中関係も必ずしも良くありません。それでも米ロ関係よりはよろしい。

第三に中ロ関係はまあまあです。

第四に日米関係では相変わらず日本が米国の目下の同盟者の役割を果たしています。その典型的な例が沖縄の普天間基地の辺野古への移転です。沖縄県民の多数が反対し、知事も移転に反対しているのに日本政府は移転を強行しています。第二次大戦中も日本は沖縄にだけ地上戦を押し付け、多大な被害と負担を強いました。

第五は朝鮮半島情勢の緊張です。朝鮮半島は「戦争の瀬戸際」にあります。米国のカールビンソンなどが朝鮮半島に近づいています。日本の自衛艦もこれに合流し、共同演習に参加すると言われています。

現在の最大の課題は朝鮮半島の緊張を緩和し、朝鮮半島問題を平和的に解決することです。こういう時にこそ「冷静に慎重に」対応し、「平和への道」を探索しなければなりません。

人間はみんな「誇り高い」です。トランプさんも金正恩さんも同じです。

朝鮮はこれまで米国から下に見られ、「停戦」後ずっと対等な話し合いを拒否されてきました。

それならばと彼らは核兵器とミサイルをつくり始めたのです。

朝鮮が現に持つている核・ミサイルはたかが知れています。

米国は1945年にすでに原子爆弾を持ち、それを運ぶ長距離爆撃機B-29を持っていました。実際に広島と長崎に原子爆弾を投下しました。

米国は戦後70年余も原子爆弾・水素爆弾・爆撃機・ミサイルをつくり続けました。米国の持つ核ミサイル兵器は膨大です。朝鮮とは比較になりません。

米国と朝鮮が戦争を始めれば、最終的には米国が勝つでしょう。

それでも戦争が始まれば、朝鮮は死に物狂いで戦うでしょう。米国は手こずるでしょう。前の戦争で米国は体験済みです。

今回の戦争に中国とロシアは参加しないでしょう。

それでも戦場は朝鮮半島に止まらず、米軍基地のある沖縄をはじめとする日本各地にも戦火が及ぶでしょう。

今回もし自衛隊が朝鮮半島で本格的に戦うとなれば、事態は一転するでしょう。

戦争の性格が変わります。

「南北朝鮮民族の内戦で米国が南を支持する戦争」に「南北朝鮮民族の反日戦争」という性格が加わります。

事態は複雑になり、収拾のつかないものになります。いずれにしても、朝鮮半島は「生き地獄」となります。

日本も「生き地獄」となります。

私たちはこの「生き地獄」を避けるために最善の努力をする必要があります。

私は「トランプさんの出番」がきたと考えています。

トランプさんが習近平さんと一緒に金正恩さんと会い、「朝鮮半島の非核化」と「米朝国交正常化」を決めれば良いのです。

米朝を含めて平和を願う世界のすべての人が安堵の胸をなでおろし、大喝采を送るでしょう。

21世紀の人間はこれくらいのことができなければなりません。