朝鮮半島問題の平和的解決を! ――ティラーソン米国務長官の日・韓・中訪問に寄せて――

中西 治

朝鮮半島情勢が注目を集めています。

2017年3月1日から恒例の米国軍と韓国軍の合同軍事演習が韓国内で始まっています。朝鮮はこれに強く反対しています。

同月6日に米国軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD=サード)の発射台などが韓国慶尚北道星州郡(キョンサンプクト・ソンジュ)にある韓国ロッテグループ系列のゴルフ場に輸送機で運び込まれました。THAADは6基の発射台と48発のミサイルなどで構成され、朝鮮の短距離、中距離弾道ミサイルを迎撃する役割を担っています。これには朝鮮だけでなく、中国も高性能レーダーの範囲が自国にも及ぶとして強く反対しています。

同6日朝、朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長立会いの下、同国西部の平安北道東倉里(トンチャンリ)から弾道ミサイル4発が発射されました。そのうち3発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下しました。

7日午前、安倍晋三首相は米国のトランプ大統領と電話で協議した後、「朝鮮の脅威は新たな段階になっていることを日米で確認した」と記者団に語りました。

同日、朝鮮中央通信は、この発射は有事の際に在日米軍基地への攻撃を担う朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の訓練だったと報じました。

この間に金正恩さんの異母兄金正男(キム・ジョンナム)さんがマレーシアで死亡したことが明らかになりました。

10日、韓国の憲法裁判所は朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する韓国国会の弾劾訴追を妥当と認めました。朴槿恵さんは韓国大統領職から罷免されました。次の大統領選挙は60日以内に実施されます。

このように最近の朝鮮半島情勢は「きわめて危険」です。「一触即発」の感があります。

朝鮮半島はこれからどうなるのでしょうか。この点で大きな役割を果たすのは米国のトランプ大統領です。ところが、彼はこの問題について多くを語っていません。

そこで私はトランプ政権で国務長官になったティラーソンさんに注目しました。彼は2017年3月15日から19日まで日本、韓国、中国の3国を歴訪しました。

私はこのティラーソンさんの3国での発言を検討し、トランプ大統領の対朝鮮半島政策を考えることにしました。

第一は3月16日の日本東京での演説です。ティラーソンさんは「北朝鮮を非核化しようとする過去20年にわたる外交的及びその他の努力が失敗であった」と述べました。https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/03/268476.htm

第二は同月17日の韓国ソウルでの演説です。ティラーソンさんは「戦略的忍耐政策は終わった。外交的、安全保障的、経済的な新しい方法を検討する。すべてのオプションがテーブルの上にある」と述べました。記者団から「6者協議が実り多くないとしたら、効果的な方法は何か」とか、「軍事的オプションを含むのか」との質問が出ました。彼はこれに対して「5者か6者」、「軍事的紛争までいくことを望んでいない」と答えました。https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/03/268501.htm

第三は同月18日の中国北京での演説です。ティラーソンさんは「中国の王毅外相と私は北東アジアとアジア太平洋地域の安定と安全を守ることの重要性について話し合った。私たちは過去20年以上にわたっておこなわれた努力が北朝鮮の不法な兵器プログラムによって引き起こされた脅威を抑制できなかったことに留意した。中国の公表された政策は朝鮮半島の非核化である。私たちは私たちの決定を新しくした。私たちは一緒に北朝鮮政府にその人民のためより良い道と異なる未来を選ぶように説得する努力をする。」と述べました。

米国のABCニュースの記者がトランプ大統領の17日のツイッター「北朝鮮は悪い、中国はほんの少ししかしていない(North Korea’s bad and China has done very, very little)」を紹介したのに対して、ティラーソンさんは「半島の緊張は極めて高い、事態はずいぶん危険なレベルに達している(…that tensions on the peninsula are quite high(inaudible=聞き取れない) and that things have reached a rather dangerous level.)」と答えました。https://www.state.gov/secretary/remarks/2017/03/268518.htm

第四は19日の北京人民大会堂でのティラーソン国務長官と習近平国家主席との30分間の会談です。この会談で米中両国の国交樹立以来40年間の歩みについて話し合われ、両国にはより偉大な協力の機会があるという点で意見が一致しました。ティラーソンさんは近く行われるトランプ大統領の訪中について語り、そこでの論議は将来の米中関係への道を描くことになるであろう(…for discussions that will chart the course for future U.S.-China relations.)」と述べました。米国務省ホームぺジ“Secretary Tillerson’s Meeting With President Xi Jinping of the People’s Republic of China(P.R.C.)”。

私はこれら一連のティラーソンさん発言を読んでほっとしました。朝鮮半島で差しあたって「戦争はない」と思いました。

ところが、『朝日新聞』2017年3月21日朝刊によると、18日の『労働新聞』は「米国の(北朝鮮)体制転覆案は悪の帝国の終末案」と非難し、19日にトランプさんは金正恩さんについて「極めて悪い振る舞いをしている」と述べ、20日の朝鮮中央通信は「米国は最悪のならず者国家」と批判したと言われています。いずれにしても、米国はティラーソン国務長官の報告を受けた上で、新たな北朝鮮政策について詰めの協議をするとみられています。

私はトランプさんが金正恩さんと直接会って話し合えば良いと考えています。二人はともに「個性的な人間」です。年齢は相当離れていますが、案外気が合うかも知れません。トランプさんは子や孫と話し合うように、金正恩さんと語り合えば良いのです。教え、諭すのも年長者の役目です。

金正恩さんは今年(2017年)の元旦メッセージで珍しく次のように「自己批判」しました。http://kcyosaku.web.fc2.com/kju2017010100.html

「新しい一年が始まるこの場に立つと、私をかたく信じ、一心同体となって熱烈に支持してくれる、この世で一番素晴らしいわが人民を、どうすれば神聖に、より高くいただくことができるかという心配で心が重くなります。

いつも気持ちだけで、能力が追いつかないもどかしさと自責の念に駆られながら昨年を送りましたが、今年はいっそう奮発して全身全霊を打ち込み、人民のためにより多くの仕事をするつもりです。

私は、全人民が金日成(キム・イルソン)同志と金正日(キム・ジョンイル)同志を信頼し、前途を楽観して『われら幸せうたう』の歌をうたった時代を、過ぎ去った歴史のなかの瞬間ではなく、今日の現実にするために奮闘努力するつもりであり、一点のくもりもない清らかな心で人民に忠実に仕える人民の真の忠僕、忠実なしもべになることを、この元旦に厳かに盟約します。」

金正恩さんは2011年12月17日に金正日さんのあとを継いで5年余、権力を預かりました。「権力を預かる」というのは「全国民の命を預かる」ことです。その責任の重さが上記の「自己批判」を生みだしたのでしょう。

金正恩さんはまた「今年は、歴史的な7.4共同声明発表45周年と10.4宣言発表10周年に当たる年です。今年我々は、全民族が力を合わせて自主統一の大路を開かなければなりません。」と述べています。

「7.4共同声明」とは1972年7月4日に朝鮮の金日成国家主席が発表した声明です。「自主・平和・民族大団結による統一」の三原則を提起したものです。

「10.4宣言」とは2007年10月4日に韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領と朝鮮の金正日国防委員長が発表した「南北関係の発展と平和繁栄のための宣言」です。停戦状態にある朝鮮戦争を終わらせるために朝鮮・韓国・米国・中国のうちの三者または四者の最高首脳会議を朝鮮半島で開くことを決めたものです。

金正恩さんはこの機会にまず朝鮮戦争を完全に終わらせたいと考えているようです。

私はトランプさんはこれに応ずべきであると考えています。そうすればトランプさんは67年ぶりに朝鮮半島に完全に平和を回復した「偉大な大統領」として歴史に残るでしょう。

朝鮮で再び戦争を起こさせてはなりません。前回の戦争は朝鮮半島内にとどまりましたが、次に起こる戦争は半島内にとまりません。日本を含め諸外国にも及びます

現代の戦争は極めて悲惨です。朝鮮半島問題を平和的に解決しなければなりません。